骨舞う旅路   作:ウキヨライフ

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第11話:王国戦士長

 最初に気が付いたのは見張りに就いていた小鬼(ゴブリン)だった。

 復興作業を通して村人が小鬼(ゴブリン)やハムスケに慣れてきたころ、丘向こうから荷馬車が現れた。何事も無ければペテルが乗った荷馬車だと推察されるところだが、荷馬車の他に6騎ほど兵士らしき姿が確認されたのだ。

 

 炊き出し作業は中断され、村人たちは念のために村で一番大きな建物の中へと避難する。兵士の正体が不明のため小鬼(ゴブリン)達も手近な家に身を隠すと、広場には村長とンフィーレア、そして漆黒の剣とモモンガ達を含めた冒険者のみとなる。ちなみにハムスケは巨体で家に入れないので、広場から死角になる民家の影に潜んでいる。

 

「御者台に居るのは間違いなくペテルさんですね。兵士に囲まれてますが表情は柔らかく友好的に見えます」

 

 モモンガは〈遠隔視(リモート・ビューイング)〉で得た情報を皆に伝えると、ンフィーレアが答える。

 

「たぶん王国の兵士でしょうけど、念のために村人の皆さんには隠れていてもらいましょう」

 

 緊迫した空気の中、兵士を伴い広場に入ってきた荷馬車が皆の前で止まると、御者台からペテルが下りてくる。それに合わせて兵士たちも馬から降り、薄暗いながらも村の惨状を目にすると一瞬表情が険しくなる。

 

「ンフィーレアさん。お待たせしました」

「お帰りなさい、ペテルさん。随分時間が掛かりましたね。……後ろの方々は?」

 

 ンフィーレアの質問にペテルが答えようとするのを、兵士のリーダーらしい男が「それには及ばない」と歩み出る。

 

「自己紹介させて頂く。私は、リ・エスティーゼ王国、王国戦士長ガゼフ・ストロノーフ。近隣の村々を襲っていた野盗を討伐してくれたと聞き、一言礼をしたく参った」

 

 ガゼフは広場を見渡しモモンガを認めると、目の前まで近づき深々と頭を下げる。

 

「モモン殿とお見受けする。この村を救って頂き、感謝の言葉も無い。チームの皆さんも、よくぞ無辜の民を暴虐の魔手から守ってくれた!」

 

 王国戦士長ほどの身分の者が、見ず知らずの冒険者、それも新米の(カッパー)相手に迷うことなく頭を下げる姿は、この男の人柄を雄弁に語っていた。

 

(なるほど。ペテルの言う通りの人柄だな)

 

 モモンガがペテルにチラリと視線を送ると、親指をグッと立て「やったぜ!」と合図を送っている。恐らく事情聴取を受ける傍ら、モモンガ達の働きを精一杯宣伝してくれたのだろう。

 

「礼には及びません。我々は依頼の途中で居合わせただけですから。それに村からは報酬も頂きましたし」

「その報酬の件で一つ相談したい事があるのだが」

「なんでしょう?」

「村からの報酬を彼らに返す代わりに、我々の方で報酬を立て替えさせて頂きたい」

「……訳を聞いても?」

「う、うむ。実は――」

 

 ガゼフが語るには、元々彼ら王国戦士団は国王の命を受け、近隣を襲う帝国騎士団を討伐する為に王都からエ・ランテルまで遠征してきたとの事だった。しかし行く先々で後手に回り、訪れた村々は壊滅していたという。更に悪い事に2週間ほど前から突如として帝国兵の足取りを掴めなくなったらしい。

 困り果てたガゼフ達が帝国に一番近い王国領のエ・ランテルで情報収集をしていると、ペテルがカルネ村を襲った野盗を護送してきたという知らせを受け、事情聴取に同席したという。そして一連の襲撃事件は帝国兵を装った八本指の息が掛かった野盗の犯行なのではと思い至ったらしい。

 

「我々も違和感は覚えていたのだ。帝国兵が襲ってきたという情報は得ていたが、襲われた村々の位置がエ・ランテルより西側、王国領の深い地域でな。しかし、八本指の息が掛かった野盗が犯人なら合点がいく。尋問で得た麻薬畑の話と合わせれば、壊滅した村々はカルネ村と同じように断わったのだろう」

 

 そして犯罪に染まらなかった王国民を守ることが出来なかった償いに、せめて解決の立役者になった冒険者への報酬を村人に代わり支払いたいという事であった。

 

「本来は遠征の為に国王陛下からお預かりした支度金だが、我々には活かす事が出来なかった金だ。それと個人的な気持ちも乗せてある。金貨600枚、どうか受け取って欲しい」

 

 金貨600枚という金額に広場が小さく騒めく。物価を把握しきれていないモモンガが迷う素振りを見せると、何かを勘違いしたガゼフが声を落として畳掛ける。

 

「国の恥を口にするのは憚られるが、王国の領主が襲われた村々の為に物資的な援助をする事は無いだろう。村々の生き残りをカルネ村に集めて“村”としての体裁を整えるくらいだ。それも元をただせば税を徴収するためで、村人の為ではない……。

 今後、カルネ村は必ず先立つものが必要になる。私の立場上、王族や貴族の目があって陛下からお預かりしている金を直接国民に渡すことが出来ぬ。そこでモモン殿なのだ。もしこの報酬を受け取れないと言うのであれば、モモン殿を通して村人に渡してもらいたい。冒険者への報酬という形であるならば私の裁量でなんとかなる。この通りだ」

 

 ガゼフが再び深く頭を下げようとするのをモモンガは止める。モモンガは正直なところ、感心を通り越して呆れていた。この男は第三者から聞いた見知らぬ人間の評価を鵜呑みにして、なんの保証もないモモンガに大金を預けようとしているのだ。

 

(この男が愚かなのか、こうまでしないと王国では国民を救えないのか)

 

 王国の腐敗を聞く限り恐らく後者なのだろう。一人の戦士が、忠を捧げる国王に迷惑が掛からぬよう、そして自分の責任で対処できるギリギリのところを突いているのだろう。民を助けたいという純粋な気持ちを邪魔しているのが王族なのか貴族なのかは分からないが、目の前の真剣な眼差しは信じても良い気がした。

 

(ンフィーレアといい、このガゼフといい……。敵わんな)

 

「分かりました。ただ受け取るのは私ではなく雇用主のンフィーレア・バレアレさんが適任でしょう。彼なら適正金額を分配してくれるでしょうし、村に思い入れのある彼ならば残ったお金も村の為に役立ててくれるはずです」

「承知した。ではバレアレ殿、受け取ってくれ」

「は、はい!」

 

 突然話を振られたンフィーレアは100枚ずつに小分けされた、しかし一つ一つがずっしりと重い皮袋を受け取る。

 

「白金貨で用意するべきなんだろうが急いで用立てた故、かさ張ってしまうが許して欲しい」

「め、滅相もありません! 有難く頂戴します!」

 

 その後、炊き出し作業が再開されると、小鬼(ゴブリン)森の賢王(ハムスケ)を見たガゼフ達が驚く一幕があったが、いつもより明るく、賑やかな夕食になったのだった。

 

 

* * *

 

 

 翌日早朝、一行はカルネ村からエ・ランテルへ戻るべく出発する。

 冒険者組はガゼフ達の馬に一人ずつ相乗りさせてもらい、ハムスケにはクレマンティーヌが乗り、荷馬車の御者台にンフィーレアとエンリ、そしてハムスケに薬草の瓶をいくつか運ばせる事で無理やり荷台に作った空間に小鬼の指揮官(ゴブリン・リーダー)が窮屈そうに乗っていた。

 行きと違い帰りは全員が騎乗している為、半日もあればエ・ランテルに着く計算だ。

 

「ンフィー……。本当に冒険者にならなきゃダメ?」

「うん、諦めて。代わってあげたいのはやまやまだけど、ストロノーフさんに言われた通り、エンリたちが国に徴用されないようにする為なんだから」

 

 出発してから同じ質問を何度もするエンリにンフィーレアは答える。エンリと小鬼の指揮官(ゴブリン・リーダー)が同行している理由。それは昨晩の夕食の席で、もし徴税官に小鬼(ゴブリン)たちが見つかった場合、面倒なことになるとガゼフに忠告されたからだ。

 平時ならば問題は無いが、戦争の時期になれば一度表ざたになったビーストテイマーを国は必ず徴用しようとするだろうと。それを回避するにはエンリが冒険者となり、小鬼の指揮官(ゴブリン・リーダー)を魔獣登録してしまう事で「冒険者は国家間の争いに加担しない」という決まり事を盾にする作戦だった。

 緊張を隠せないエンリをガゼフが励ますように、努めて明るく声をかける。

 

「エモット殿、そう心配なされるな。冒険者になっても劇的に何かが変わるわけではない。今まで通り生活できるさ」

「登録する時は僕も一緒に居るし、薬草採取の専属契約書も同時に提出するから」

「う、うん」

 

 それにしても、とガゼフは後ろを付いて来るハムスケに視線を送る。

 

「まさかあれ程の魔獣を従えているとは恐れ入った。叶うならば森の賢王を打ち負かしたマイ殿と一度手合わせしてみたいものだ」

 

 流石に戦闘も無く「〈絶望のオーラ〉で支配下に置きました」とは言えなかったので、やまいこが力尽くでハムスケを服従させた事になっていた。

 

「ご遠慮します。流石に王国戦士長さんに勝てる気がしませんから」

 

 ガゼフの言葉にやまいこはつれない態度で返事をする。

 ガゼフは「果たしてそうだろうか?」と自問する。

 森の賢王(ハムスケ)からは強大な力を感じる。王国の五宝物を装備している時なら勝算はあるだろうが、今の装備で勝てるか正直分からなかった。それはつまり、やまいこの強さが五宝物を装備したガゼフに匹敵する可能性を示唆していた。またクレマンティーヌに関しても、目のやり場に困る衣装を差し引いても自分と同等の強さを感じる。

 ペテルの話が真実ならば彼女らは一撃で人食い大鬼(オーガ)を倒したとの事で、それだけで驚嘆せざるを得ないのにさらにもう一人、未知数なのがモモンと名乗る魔法詠唱者(マジックキャスター)であった。

 

(〈飛行(フライ)〉を使った事から彼は少なくとも第三位階クラスの魔法詠唱者(マジックキャスター)なのは間違いが無い。しかし、小鬼(ゴブリン)を複数召喚するアイテムをポンと村娘に渡すような事が、第三位階クラスの魔法詠唱者(マジックキャスター)に可能だろうか。昨晩話してみた感じだと人柄は温厚で礼儀正しい。民を救ってくれた御仁をコソコソと調べるのは気が引けるが、イビルアイ殿に相談すべきか)

 

 ガゼフは王都を拠点にしているアダマンタイト級冒険者“蒼の薔薇”の一人を思い浮かべる。普段から仮面を被り取っ付き難い印象がある小柄な女性だが、話してみるとガゼフも知らない知識を多く蓄えた博識な人物だ。

 

(同じ魔法詠唱者(マジックキャスター)なら何か参考になる意見を貰えるかもしれない)

 

 ガゼフは蒼の薔薇を通して冒険者の有用性を理解している。その強さ、知識、経験の有用性を理解しているからこそ、多少無理をしてでも強者と思われるモモンガ達と繋がりを作ろうと思っていた。その無理が昨晩の金貨600枚に繋がるのだが、見る者が見れば何とも不器用なやり方である。

 

「ストロノーフさん」

「!? ぉおう。何かな? バレアレ殿」

「いえ、エ・ランテルの北門が見えてきたので」

「これは申し訳ない。考え事をしていて気づかなかった。では予定通り私が先導しますので、皆さんは離れないように付いてきて下さい」

 

 

* * *

 

 

 ガゼフの計らいもあり、魔獣を連れた一行は難なくエ・ランテルに入ることができた。城門をくぐると誰からともなく息が漏れる。都合三泊四日ほどの旅路ではあったが、漆黒の剣やンフィーレア達にとっては濃厚な数日間であった。慣れ親しんだ街に帰ってきて安堵したのだろう。ガゼフの部下たちも「ここでお別れです」と言って兵舎へと帰っていく。

 エ・ランテルの市街区まで来ると、一行は薬草をンフィーレアの祖母の店に運ぶ漆黒の剣組と、ハムスケを魔獣登録するモモンガ組の二手に分かれる。

 

「では皆さん。また後程。薬草を運び終わったら我々もすぐに冒険者組合に行きますので。依頼の報酬はその時に」

「はい。一足先に魔獣登録を済ませて待っていますよ」

 

 軽い挨拶を交わし、モモンガ一行とガゼフは冒険者組合に足を運ぶ。

 街中に至ってもクレマンティーヌはハムスケの背中から降りようとはしなかった。どうやら周囲の畏怖と羨望が入り混じった視線が気に入ったらしい。ハムスケも自分を恐れる視線が心地良いのかドヤ顔で歩いている。

 

≪やまいこさん。これはこれで宣伝効果が高くて良いですね≫

≪うん。彼女が率先して乗ってくれる分には好い感じだね≫

≪確かに、ちょっと恥ずかしいですよね≫

 

 観衆を引き連れながら進むさまはまるで凱旋のようでもあった。見物人の多さからエ・ランテルの行政が麻痺して迷惑をかけないか心配だったが、ガゼフが同行してくれたおかげで大きな混乱も無く冒険者組合にたどり着くことができた。

 

 ハムスケを見せられた受付嬢が目を白黒させながら規定書を読み上げると、魔獣登録は意外なほど簡単に終わる。姿を登録する必要もあったが、この世界には魔法で姿を写し取る事が出来るらしく追加費用を支払う事でこれも問題無く終わった。

 手続きを終えたモモンガをガゼフが迎える。

 

「おめでとう。これで名実ともに伝説の森の賢王はモモン殿たちの使役する魔獣となったわけだ」

 

 森の賢王という言葉に周りでモモンガたちの様子を窺っていた冒険者たちが驚いたような表情を見せる。ペテルが野盗を護送した時から「40名もの野盗を3人で討伐した」と噂が広まっており、そこへ「伝説の森の賢王まで従えた」という新情報が冒険者たちの間に衝撃を与える。

 

(ペテルは思いのほか良い仕事をしてくれたようだな)

 

 モモンガは漏れ聞こえてくる冒険者たちの囁きが心地よかった。無名から少し名が売れた程度ではあったが、名声を得るという目的が早くも叶ったのだ。

 

「ありがとうございます。ただ今のところ連れて歩く予定は無いんですけどね」

「確か、カルネ村の守りに使うとか」

「はい。あの図体ですから街の宿に置くわけにもいきませんし、餌の用意もままなりませんから。ならばいっそ森に近い所で面倒を見て貰おうと」

「なるほど。村にとっては心強い用心棒ですな」

 

「あの、お話の途中すみません」

 モモンガとガゼフが談笑していると受付嬢が話しかけてきた。

「モモンさん、組合長がお会いしたいと。ご足労願えますか?」

「組合長が? 何の用か聞いてますか?」

「申し訳ありません、4階会議室まで通すようにとしか」

 

「私に心当たりがある。モモン殿、組合長に会おうではないか。なに、悪い話ではないさ」

 意外にもガゼフが受付嬢の話を引き継ぐとモモンガを誘う。

 やまいことクレマンティーヌにはハムスケと一緒に留守番してもらい、促されるまま受付嬢の案内に従い4階会議室に通されると、そこそこ広さのある部屋に歴戦の戦士を思わせる男が一人佇んでいた。

 

「よく来てくれた。さぁ、モモン君、適当な席に座ってくれ。ストロノーフ殿もどうぞ」

 モモンガとガゼフが席に着くのを確認すると男は名乗る。

「まずは自己紹介をさせてもらう。私がこのエ・ランテルの冒険者組合の組合長を務めているプルトン・アインザックだ。宜しく頼む」

 

 モモンガは「モモンです」と軽く会釈をする。

 

「緊張しなくていい。今回来てもらったのはモモン君たちの昇格について話をしようと思ってね」

 

 その言葉を受けガゼフが「な? 悪い話じゃないだろ?」と視線をモモンガに送る。

 

「まぁ、ある意味ストロノーフ殿も当事者なのだが……」とアインザックは渋い顔をする。その表情にガゼフは肩を竦めるだけで何も言わない。

 アインザックは続ける。

 

「今回、漆黒の剣のペテルと王国戦士長のストロノーフ殿から、モモン君たちの功績を認め、君たちがエ・ランテルに戻り次第、昇格させるようにと打診を受けたのだ」

 

 アインザックは一旦言葉を切り溜を作る。

 

「40名もの野盗をたった3名で討伐。……俄かには信じられない話だが、(シルバー)級冒険者が目撃した人食い大鬼(オーガ)を一撃で倒す実力と村を助けたという証言、野盗の生き残りから得たモモン君たちとの戦闘内容から真実と判断する。また野盗が三つの村を壊滅させ、カルネ村の住民も約半数を虐殺した残虐性を顧みると、討伐されていなかった場合さらに多くの村々が犠牲になった可能性があったことと、黒粉の蔓延を未然に防いだ功績は、リ・エスティーゼ王国の平和に大きく貢献したと判断できる。よって冒険者組合は、モモン君たちを特例として(カッパー)から(ゴールド)へ昇格する事を認めるものとする」

 

(カッパー)から2個飛ばしで(ゴールド)。雑魚相手ではこんなものか)

 とモモンガが思っているとガゼフが食い下がる。

 

「いやいや組合長殿。いくらなんでも(ゴールド)は無いだろう。いきなりアダマンタイトをやれとは言わんが、せめてミスリルにならんかね」

「ストロノーフ殿、分かってくれ。こういった昇格試験無しの飛び級は組合としても扱いが難しいのだ。ただでさえ国家に属するストロノーフ殿の口添えで、組合としてもギリギリなのは理解してもらいたい」

 

「戦士長。私は(ゴールド)でも構いませんよ。組合長さんの仰られる事も理解できます」

「しかしだな……。そうだ。森の賢王! 先程の話には森の賢王の事が触れられていなかった。先刻モモン殿は伝説に謳われた森の賢王を魔獣登録したのだ。あの魔獣はどんなに低く見積もっても難度90。元オリハルコン冒険者の組合長殿なら理解して頂けるはずだ。(ゴールド)に難度90の魔獣を従える事が出来ると思うか? 多くの冒険者たちがそれを目にするのだぞ?」

 

「むぅ……」痛い所を突かれたとアインザックは唸る。暫し思案し小さく息を吐くと、諦めたとばかりに手を上げ口を開く。

 

白金(プラチナ)だ。これ以上は無理だ。次の昇格試験を出来るだけ早めるからそれで勘弁してくれ」

「良し。乗った!」

 

 モモンガは競にかけられている魚になった気分だった。自分のあずかり知らぬところで自分の価値が決まっていくのを不思議な気持ちで眺めていた。

 とにもかくにも、ガゼフの御かげで白金(プラチナ)に成れたのはやはり感謝せねばなるまい。

 

「戦士長、ありがとうございます。組合長も御厚意感謝いたします。今回の件は働きで以って応えてみせましょう。決して後悔はさせません」

「あぁ、期待しているとも。プレートはこれから用意するから明日受付で受け取ってくれ」

「はい」

 

 

 

 

 

 モモンガとガゼフが一階のラウンジに戻ると、周囲の冒険者たちの視線が自然と集まる。噂の(カッパー)級冒険者が王国戦士長を伴い冒険者組合の最高責任者と会っていたのだから当然とも言えた。

 

「モモン殿。陛下に報告せねばならぬので私はここで失礼させてもらう。もし王都に来る事があれば私の館に寄ってくれ。歓迎させてもらう」

「はい。その時は宜しくお願いします」

 

 ガゼフが冒険者組合を後にすると、入れ替わる様に近づいてきたやまいこに声を掛けられる。

 

「で、組合長の話は何だったの?」

「明日から白金(プラチナ)だとさ」

「ふーん。……ん? それってどれくらいだっけ?」

「全8階級の上から4番目。真ん中ってところです」

 

 やまいこはふむふむと頷いてみせる。そして不意に思い出したかのように「そういえば来てるよ」と受付カウンターを指さす。言葉少なげだが何を指したのかは察しが付く。

 受付に目をやると小鬼の指揮官(ゴブリン・リーダー)を連れたエンリにンフィーレアが付き添っていた。よく見るとンフィーレアが代筆しているようだ。それにやまいこも気付いたのか周りに聞こえないようにモモンガへそっと囁く。

 

「ボクたちも文字勉強しないとね……」

「そ、そうですね……」

 

 クレマンティーヌなら喜んで代筆してくれそうだが、今後彼女が居ない状況も想定して読み書きの勉強が必要なのは明白だ。

 

「そういえばクレマンティーヌは?」

「ハムスケが予想外に人を集めちゃったから、組合に併設されている訓練所の方に移ってもらった。漆黒の剣も一緒」

「ハムスケは期待以上だな」

「だね。ただ、連れて歩けば名声は高まるだろうけど、逆に目立ち過ぎて自由に活動し難くなると思う」

「まぁ、予定通りカルネ村に置いて必要な時だけ呼べば良いんじゃないかな」

 

「モモンさん。お待たせしました!」

 

 その声に振り向くと魔獣登録を終えたンフィーレアたちが近寄ってくる。エンリは周りの冒険者たちの視線が気になるのか居心地悪そうにずっと下を向いていた。

 

「いえいえ。私も今空いたところですから。エンリも冒険者登録おめでとう」

「あ、ありがとうございます」

「ははははっ。そんな顔をしないで明るく! これで()()()()ンフィーレアとパートナーになれたんだ」

 

 その言葉にエンリの顔が赤くなる。ンフィーレアに至っては頭から湯気が出る勢いだ。ンフィーレアが慌てて話題を変える。

 

「で、では、今回の報酬をお渡ししたいと思いますので、訓練所にいる皆と合流しましょう!」

 

 訓練所に移ると早速報酬の受け渡しが始まる。

 報酬の内訳は、まず初日に討伐したモンスターで得た金貨6枚を漆黒の剣とモモンガ一行で等分、そしてガゼフから受け取った金貨600枚を、モモンガ一行が金貨300枚、漆黒の剣は金貨40枚、残った260枚はンフィーレアが村の復興資金にする。これがンフィーレアが考え、ペテルの修正が入った分配結果であった。

 漆黒の剣への報酬が少なすぎではと心配したが「大金を受け取るほど活躍していない」とキッパリ断ってきた。本人たちは金貨40枚でも多いと感じているようだ。

 

「私達としては村人の治療に使った回復ポーション代を回収できれば十分です。何よりもモモンさん達と出会えた事が最高の報酬ですよ」

 

 ペテルのその言葉にモモンガたちは破顔する。

 

(やはり良いチームだ)

 

「こちらこそ。初めて声を掛けてくれたのが漆黒の剣の皆さんで本当に良かった。また機会がありましたら宜しくお願いします」

 

「わ、私からも改めてお礼を! 本当に、村を助けて頂いてありがとうございます! 村の近くに来たら是非寄って下さい。いつでも歓迎します! きっと村のみんなも喜びますので!!」

 

 泣き出しそうなエンリをなだめるとンフィーレアが最後を締めくくる。

 

「では皆さん。今回の依頼はこれにて終了となります。お疲れさまでした」

『お疲れさまでした!』

 

 こうして転移世界の初依頼は無事に終了したのだった。


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