今日は半数近くの新入生が初めて魔法に触れる日。マグルにいた人達は朝から落ち着かない様子だ。
特にハーマイオニー・グレンジャーはそうだ。ハーマイオニーは誰よりも落ち着いていない。そんなハーマイオニーと違って、隣の安倍灯葉が落ち着いていた。
「授業は逃げませんからさっさと食べ終わりましょう」
「そうね。けど、どんな授業なのか楽しみで仕方ないわ!!」
そんなハーマイオニーを見て、灯葉はやれやれと言った顔でパンを小さな口で頬張る。ハーマイオニーは早く授業へと行きたいのか、灯葉と比べられないほどの速さで食べている。
灯葉はパンを一切れ食い終わる頃には、ハーマイオニーは朝食を完食して、隣で本を見ていた。
その本は次の授業で使う変身術の本。ハーマイオニーは本を見ながら、ちらちらと灯葉を見ている。
灯葉は苦笑を浮かべて言う。
「ハーマイオニー。先に行っててもいいですよ」
「まだ!時間あるしいいわ。それに移動しながら、本で載っていた日本の魔法も聞きたいし」
「本当に熱心ですね。じゃ行きましょう」
灯葉とハーマイオニーは変身術の教室へと向かう。しかし、変身術の教室に向かう途中に動く階段を使わなくてはいけない。
故に階段が来るまで、ハーマイオニーと灯葉は話をしている。
「日本の魔法とイギリスの魔法ってどう違うの?」
「そもそも意味が違います。西洋の魔法、つまり魔術は人間の意志で森羅万象に適用させて、何らかの変化を生じさせる事。逆に日本の魔法、
「つまり?」
「人と何かの物は対等であるかないかの差ですね」
「昨日の呪文も何かの物に力を借りたってこと?」
「そうです。昨日は狐から力を借りたってことです」
変身術の教室に着くまでハーマイオニーは灯葉と共に歩きつつ、灯葉に質問を投げ掛ける。
そして、質問を投げ掛けている合間に灯葉達は変身術の教室にたどり着く。しかし、部屋には変身術の先生であるマクゴガナル先生はいない。代わりにいたのは机の上にいる一匹の猫。
ハーマイオニーは猫に近づき、灯葉に同意を求めるかのように言う。
「先生のペット?」
灯葉は笑みを浮かべて言う。
「先生のペットではなく、猫が先生です」
ハーマイオニーは首を傾げる。
その瞬間、猫は机からジャンプして、地面に足をつけようとする。猫の足が地面に触れようとする瞬間に、猫は人へと変わり、マクゴガナル先生がハーマイオニーの前に現れる。マクゴガナル先生は嬉しそうな顔をして、灯葉に言う。
「一目で分かるとは、教えがいがありますね。そろそろ時間なので、席へお座りなさい」
ハーマイオニーは当然、一番前の席に座る。隣は灯葉が座る。座っているのは2人だけだ。授業が始まる1、2分前にやっと席が埋まり始めていた。皆、席に座った時、息を整えている。
マクゴナガル先生にはそれが見慣れた光景なのか、息を整えている生徒達に慣れた様子で話す。
「初日だから許しますけど、今後遅刻したら、貴方達を迷わないように地図かコンパスに変えます。こんな風に姿を変えます」
マクゴナガル先生は生徒達に見せるように机を地図へと変える。生徒達は驚きと変身術への好奇心で目を輝かせる。
その時、2人の生徒が教室へと入ってくる。その2人はハリー、ロンだ。
マクゴガナル先生は遅刻ギリギリで来た2人の前に説教する。
「ハリー・ポッター、ロン・ウィズリー。今後遅刻したら、授業を受けさせませんよ。それほど魔法は危険ですから」
説教した後、マクゴガナル先生は授業へと入る。
授業の内容は魔法の説明を黒板へと書いた後、それぞれの机にあるマッチ棒を針に変えるという内容だ。
灯葉は他の生徒よりも早く魔法に触れていたおかげか、一回杖を振るうだけで、マッチ棒を針へと変えた。
「流石。ミスアベ。しかし、それはあなたの杖ですか?変わった形ですね」
マクゴナガル先生は褒めながらも、灯葉が持っている杖に感想を述べる。
他の生徒の杖は肘から手首に収まる程度の長さだが、灯葉の杖は自分の背に収まる程度の長さだ。また先には鉄輪が連なっていて、杖が動く度、鉄と鉄がぶつかりあう音が教室に響き渡る。響き渡る音は誰も不快とは思わず、むしろ澄んで聞こえていた。
「これが私にとって一番馴染みます」
結局、マッチ棒から針へと変える事が出来たのは灯葉とハーマイオニーだけだった。
次の授業はスリザリンと合同の魔法薬学。
灯葉とハーマイオニーは魔法薬学の教室であるスリザリン寮の近くの地下牢に入る。そこで待っていたのは2極化した生徒達だ。
スリザリンはスリザリンだけで固まり、グリフィンドールはグリフィンドールだけで固まっている、固まった集団はもう一組の集団から、距離を取っていた。
「ここまで仲が悪いんですね」
「早く行きましょう」
灯葉とハーマイオニーはグリフィンドールの集団へと行く。グリフィンドールの席は教室の入り口から離れていて、スリザリンの席を横切らなくてはいけない。
その途中でスリザリン達の生徒は灯葉とハーマイオニーを睨む、もしくは見下した目で見ている。特に青白い顔の少年はハーマイオニーを見下した目、灯葉に対しては価値を計るような眼をする。
灯葉は立ち止まって、そんな青白い顔の少年に話しかける。
「何か御用ですか?」
「君も純潔らしいがグリフィンドールに入ったのが運の尽き。せいぜい純潔の価値を落とさないでくれよ」
「助言感謝します」
灯葉は青白い顔の少年に向かって、感謝の意を込めて、笑顔でお辞儀をする。青白い顔の少年は顔を背け、虫を払うかのように手を振る。
灯葉はグリフィンドールの集団の中へと入る。
青白い顔の少年に話しかけられたのが気になったロンは灯葉に話しかける。
「アベ、あいつに何かされたか?」
「いいえ。何も」
「あいつには気をつけろよ」
「はい。それにしても、ここまで仲が悪いなんて。何でしょうね。気になります」
灯葉は興味を持ったのか、スリザリンの集団を見て獲物を見つけたかのように口角をあげて笑う。
その時、教室のドアが音を立てて開く。魔法薬学の先生、スネイプは教室を一瞥し、口を開く。開いた瞬間、スリザリンの生徒は乾いた笑みがあがる。
「ああ、我らが新しいスター。ハリー・ポッター・・・」
スネイプは足音を立てながら、ハリーの目の前に立ち、ハリーを見る。
「スターならば、今までの生徒よりも誰よりも優秀なはずだ。この授業では名声を瓶詰めし、死すら蓋をする学問だ。ポッターならばそれが出来るはずだ。そう思わんか」
「いいえ」
ハリーはスネイプから視線を外さずに否定する。スネイプはハリーポッターを見る目を細める。その目は恨みを持ったような眼をしている。しかし、それに気づいているのは灯葉のみだった。
スネイプはハリーに向かって、問題を出す。
「アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」
「分かりません」
ハリーは首を振り、答える。ハーマイオニー以外の生徒達は答えが分からないのか、2人の会話をじっと聞いている。逆にハーマイオニーは真っすぐ手を挙げて、指されるのを待っている。
「ベゾアール石はどこを探せば見つかる?」
「わかりません」
「モンクスフードとウルフスベーンの違いは何だね?」
「わかりません」
スネイプは質問を続けていく。スネイプはハリーの回答に対し、溜息を吐く。
「なんとも情けない。そう思わんか」
スリザリンからは侮蔑の笑いが響き渡る。ハリーはそのことにイラついたのかスネイプに言う。
「答えがわかっているハーマイオニーに聞いてみたらどうですか?」
「・・・・・手を下げたまえ」
スネイプは冷めた表情でハーマイオニーを言う。ハーマイオニーは消沈した事を表現するかのように手をゆっくりと下げていく。
「さて、話題の留学生。ミスアベは分かるかね?貴様もポッターと同じく話題だけかね?」
スリザリンはスネイプの発言に同調するかのように笑いをあげる。
「1つ目は『生ける屍の水薬』、2つ目山羊の胃から取り出す物で石と言いつつ見た目は萎びた内臓のようであり、大抵の解毒剤の主成分。3つ目は2つとも同じ植物の名前、天雄、またトリカブトという植物。答えは違いはありません」
「まぁ答えは知ってて当然だろうな。予習は当然の行動だ。ポッターはそれをしていなかった。グリフィンドールは1点減点だ。で、諸君は何故、ノートに答えを写さない?」
スネイプの言葉で一斉に羽ペンと羊皮紙を取り出す音が響く。
その後の授業は生徒を二人一組にして、おできを治す簡単な薬を調合させていくことになった。
灯葉はハーマイオニーと組み、薬を調合させている。ハリーはロンと組み、調合させている。スネイプは生徒の様子を見ながら、徘徊していく。スリザリンの生徒に助言らしい事を述べて注意していく。もしくはお気に入りらしい青白い顔の少年は笑みを浮かべている。それに対し、グリフィンドールは注意だけを述べて、離れていく。
グリフィンドールはスネイプに期待できない事を知ったのか、教科書を見ながら薬を調合していく。また、調合が誰よりも進んでいる灯葉とハーマイオニーは他の人達に助言をしていく。
「ロン、ハリー。蛇の牙は砕いてからです」
「そうか。ありがとう」
灯葉はハリーの隣にいるオドオドしている少年に話しかける。
「ネビルでしたよね?」
「うん。僕はネビル・ロングボトム。言いそびれたけどカエル探してくれてありがとう」
「感謝は私の式紙にお願いします。それと火からおろしてから、ヤマアラシの針を入れてください」
「あ。なるほど・・・ありがとう」
ちょうど灯葉の後ろを徘徊していたスネイプはハリーに言いがかりをつけて、さらにグリフィンドールの生徒に言いがかりをつける。
「ポッター。何故、隣にいる貴様が注意しない?それにグリフィンドールの生徒達は何故、自分の力で調合しない?自分達の力で調合するように。グリフィンドール 1点減点」
スネイプは最後までグリフィンドールを攻撃していく。
こうして、新入生達は授業を受けていった。