蒸気機関車は人知れずにホグワーツへと向けて平原を走っている。
その蒸気機関車の個室に安倍灯葉がいる。安倍は窓の方の壁に寄りかかり、窓の外の風景を見ていた。
外の風景は森が所々点々とある。人が住んでいるであろう所も牧場みたいな家。点々とある風車。のどかな風景を印象付ける。
しかし、その風景を見ても、安倍の表情は無表情で浮かない様子。
個室には1人しかいない。さっきまではもう一人いたのだが話しかけても灯葉の反応がなく、つまらないと思ったのか、何処かへと行ってしまった。
灯葉もいずれ帰ってくるだろうと個室から出ていく姿を一瞥しただけで、声をかけなかった。
「はぁー、つまらない。結局ハリー・ポッターには会えませんでしたし」
安倍は窓の外を見ていたが、機関車の揺れで夢に落ちるのであった。
「ねぇ、そろそろ起きたほうがいいわよ」
誰かに体を揺すれながら、声を掛けられたおかげで、灯葉は目覚める。
気づいたら辺りは森はなく、湖の橋の上を走っていた。
灯葉は目をこすり、起こした人物を見る。そこにいるのは手入れがされていないボサボサの縮れ毛の女の子がいる。
「やっと起きたもうすぐホグワーツに着くから着替えた方がいいわよそのローブマホウトコロの服?本で見たことあるわ金色の3つ下くらいの色よね貴女優秀なのね私ハーマイオニー・グレンジャー。よろしく」
余程、興奮しているのか息づきなしで早口で言う。その勢いにおされてか、灯葉は何も言えずに戸惑う。
「今トレバーというカエルを探してるのよ。知らない?」
「カエルは見てないですね。けど、私の式紙が見てるかもしれないから、連絡とってみましょう」
「シキガミ?」
灯葉はハーマイオニーの疑問に答えずに紙を取りだし、紙に向かって話しかける。
一方、灯葉の式紙であろう者は隣の車両にいた。
式紙は頭にカエルを乗せたおかっぱ姿で質素な服を着ている。式紙はその車両にあるお菓子を頬張っている。カエルはおかっぱ頭が気に入ったらしく、置物のようにじっとしている。
「旨いね!お兄ちゃん達」
「あーそれはよかった」
「ねぇ、ハリー」
「迷子?あの子何処から来たんだ?紛れてここに来たのか?」
「さぁ?さっきのおばさんに言えば良かったのかな?」
ハリー達は子供に聞こえないように席の隅に移動して会話をする。
子供はハリーが買ったお菓子に夢中らしく、頬張っている。
しかし、子供は何か見つけたのか、その何かを高々に上げてハリー達に話しかける。
「何これ?美味しそう」
それはハリーが先ほど外れをひいた百味ビーンズ。ハリー達はひきつった顔をするが、子供はビーンズを一気に頬張る。頬張った子供はリスのように頬を膨らませて、味を確かめている。
「モグモグ。んー変な味だけど、美味しい。美味しい」
「それは、よかった」
ハリー達はどんな味が出たのか、またそれが口の中でどんな風に混ざっているのか想像したくない様子で素っ気なく答えた。
子供はそんな事を気づかない様子で、一気に口の中にあるビーンズを胃の中に流し込む。
ビーンズを胃に収めた子供は独り言を呟く。
「あ、灯葉お姉ちゃん。やっと起きたんだ。ん?カエル?僕の頭にいるやつかな?何処にいるって?お兄ちゃん達の所、灯葉お姉ちゃんの隣の車両だよ。ああ、わかった」
視線をハリー達に向けて、言う。
「お兄ちゃん達、灯葉お姉ちゃんが来るってさ」
「「トウハ?」」
ドアが開く。そこには2人の女子がいた。子供は黒髪の女性に抱きつく。
「私の式紙がお世話になりました」
「へぇ!この子がトウハの式紙ね!かわいい!」
ハーマイオニーは興味津々の目で子供を見る。灯葉は子供の頭の上のカエルを両手で取り、ハーマイオニーに言う。
ハーマイオニーは弟を見るかのように子供をまだ見ている。
「これが探してるカエルですか?ならさっさと渡した方が良いと思いますよ」
「そうね。有難う。トウハ」
ハーマイオニーはカエルをもらい、部屋から出た。灯葉は部屋から出るハーマイオニーに手を振っていた。
ハリー達は目の前にいる女子に聞こえないように互いに顔を近づけて話をしている。
「ハリー。あの子供、シキガミって言ってなかった?シキガミってなんだ?」
「さぁ分からない」
「この子は式紙という一種の魔法です。そうですね・・・守護霊といった感じですね」
「!!」
「ごめんなさい。なぜ、子供がいるか疑問ですよね」
「あ・・なるほど」
灯葉は二人の会話に挟んで、2人の疑問を解消する。
「では、改めて、私はトウハ・アベ。この子は私の式神」
「よろしくねー」
「ああ、ロン。ロン・ウィーズリー」
「僕は、ハリー。ハリー・ポッター」
「「「よろしく」」」
「では、私は着替えますのでこれで失礼します」
灯葉はハリー達の客室から出た。笑みを浮かべながら。その笑みは二人には見えなかった。