プロローグ
ハリーは憤慨していた。
ダーズリー家に意地悪なマージおばさんがやって来て、ハリーの両親に対し、悪口を吐いたり、ハリーに嫌がらせしたりと色々行った。ハリーはそれに耐え切れなくなり、マージに魔法を使って、ダーズリー家を飛び出した。
そして、ハリーにはどこかに行く当てもないので、街灯で照らされた道を歩いていた。
道を歩くにつれて、ハリーの感情は憤慨から不安に変わりつつあった。
何処にいけばいいのだろうか‥‥
歩き疲れたハリーは道端に座る。
少しでも、不安を取り戻そうとして、考えを巡らす。
ヘドウィグで手紙を送って、ロン、ハーマイオニー、トウハに助けを求めようか・・・
そんな考えを巡らす中、道路の向こう側の茂みが音を立てる。
茂みの先は闇を纏い、何が出てもおかしくはない。鬼が出るか、蛇が出るか。
ハリーは何がでても対処できるように杖を構える。
「・・・誰?」
声が震える。しかし、今頼れるのは自分だけ。自分で対処しなければならない。
大丈夫だ。僕は。秘密の部屋を思い出せ。あの時の恐怖よりもましじゃないか・・・・
ハリーの考えに刺激されたのか、茂みが先ほどよりも音を立てて、現れる。
そこにいたのは一匹の犬。
犬は周りの暗闇より真っ黒な毛、口を開けば、骨さえも砕きそうな鋭い牙。そして、ハリーを決して逃せないと決意しているのか、灰色の眼はハリーから逸らそうとしない。
ハリーはその眼から逃れようと、後ろに下がるが石ころに躓き、地面に転ぶ。
しまった。襲われる。
ハリーは慌てて、立ち上がり、杖を構えた。しかし、目の前に犬はいなかった。
犬はいない代わりに何者かががこちらを見ていた。
その者は白い色の髪。白いロープ。白い仮面。
仮面の口は笑って、先ほどの犬のように鋭い歯をを見せている。暗闇に反していて、その白が一層際立たせる。
「ハリー・ポッター」
ハリーは白い者の一声で心臓が掴まれた感覚に陥る。
先ほどの犬の方がずっとましだ。秘密の部屋で受けた恐怖と何ら変わらない。あの時の恐怖と同じくらいに目の前にいる人物は得体が知れない。さっさと逃げないと。
「愛されてるな・・・」
白い物はその言葉だけ言い残し、白はゆっくりと黒に変わり、ハリーの目の前から消えていく。
ハリーはやっと消えた恐怖から安堵して、その場に座り込んだ。
その時、ハリーの前にバスが現れる。
「ようこそ。夜の騎士バスへ」
渡りに船。というのはこの事だ。
ハリーは自分の運に感謝して、バスへと乗り込み、この場を後にした。
バスが走り去り、姿が見えなくなった頃、茂みから白い者は現れる。一人の少女と共に。
「どうです?お姉様。ハリーは?」
「愛されてるな。お前と同じだな。なんで会わせた?」
白い物は一人の少女を恨みを込めた言葉を投げかける。しかし、その恨みを軽く流すように少女は話す。
「いいえ、偶然ですよ。あの犬を追いかけていたら、ハリーに会ったものですから。お姉様とハリーの反応が気になって、会わせただけです」
「そのせいで、あの犬と鬼は何処かに行ってしまったけどな」
「まぁ次があるでしょ」
少女は手に持っている新聞紙を広げて、呟く。
「待っててください。吸魂鬼。シリウス・ブラック」
少女の呟きに反応したのか、新聞紙のシリウス・ブラックは叫ぶ。まるで、鬼に追い詰められるのを嘆くかのように。
その嘆きは決してマグルには聞こえないが、今日の眠りはとても浅くなりそうだ。