日本の魔法界は排他的だ。
昔から築きあげた魔法の一部を歴史から抹消する為、あらゆる方法も取った。
1つ目は人の排斥。
日本の魔法使いはマホウトコロで学ぶ。抹消対象である魔法を使うと在学中に渡されたローブの色が変わり、『鬼』といわれ、処罰の対象となる。抵抗しようにも、専門の部隊である討鬼隊が鬼を捕まえ、投獄される。例え、捕まえる事が出来ず、殺す事になっても、不運の事故として処理される。
ローブを脱いで、その魔法を使っても、ローブを着た瞬間、色が変わる。またローブを着ないとしても、日本の魔法界の町を出かけるときは、必ずそのローブを羽織る事になっている。羽織らなかった場合、処罰の対象となる。
2つ目は歴史による排斥。
1593年、豊臣秀吉が声聞師狩りを行った。公には無事と言われているが、実際には、魔法界はわざと抹消対象である魔法が書かれている文献を流出させ、魔法を抹消させた。この事で、一部の魔法は無くなってしまった。
当然ながら、この流れに逆らう人達もいた。
日本の魔法使い、『陰陽師』は森羅万象を解き明かす事を目的としているのに、魔法を抹消するのはどうなのかと。
その人達の中には、安倍晴明の子孫である家もいた。
しかし、その家は魔法界に多大なる影響を持っており、魔法界も手が出せなかった。また、その家も主張を公にすることは出来なかった。
そこでその家はある方法を取った。
「お姉様。今、水を飲ませますね」
安倍灯葉はお姉様と呼ばれた白い髪の少女の顎を片手で上げさせて、水を飲ませる。姉は静かに喉を動かし、水を飲み続ける。水を飲んだのが久しいのか、咽てしまい、水を吐き出してしまう。
吐き出した水は灯葉の服に濡らす。濡れた所から、酸っぱい臭いが漂う。しかし、灯葉は気にしていないようで、姉に笑いかける。
「お姉様が抹消される魔法、陰の魔法を知り、私が陽の魔法を知り、姉妹2人合わせて、森羅万象を解き明かす。だから力を合わせましょう。お姉様」
灯葉は正面にいる瓜二つの少女の頬に触れて、笑いかける。しかし、姉は顔を背け、唇をしっかりと一文字に結んでいる。
灯葉は慈愛のこもった優しい顔で、姉を縛っている鎖を断ち切る。
姉は座ったまま、安倍灯葉を睨みつける。水を飲んだのか、悠長とは言えないが、はっきりと言葉を発する。
「何・・の・つもり・・だ」
「私はイギリスに行きます。お姉様も行きましょう」
返事は姉の口から飛び出す蟲。蟲は灯葉の手に噛みつこうとする。しかし、飛び掛かる虫を手で払いのけ、地面に落とされる。落とされた蟲はピクリと動かない。
「コロ・・・す」
「お姉様。素直になってください」
灯葉は姉の両頬に触れ、目を合わせる。濁りのない純粋な眼で。
「愛されたいんでしょう」
姉は灯葉から眼をそらす。
「私は愛しています。だから私はお姉様を殺さない。殺されても私は愛しています」
「・・・・いつか、コロす・・・・今はお前についていく」
姉は立ち上がろうとするが、長年、体を動かしてないのか、倒れようとするが、灯葉は姉の手を取り、体を支える。
「行きましょう。お姉様」
瓜二つの少女は灰が雪のように降り続ける屋敷から出ていった。