ロンが吠えメールのショックから立ち直った頃、授業は午後に入り、次の授業はロックハートの闇の魔術の防衛術だ。
女子生徒達の一部はロックハートが来るのを待ち遠しくしていた。男子生徒は興味がないのか女子生徒達の様子に飽きれている。
ハーマイオニーは隣の安倍灯葉に対し、ロックハートの事について熱く語っている。灯葉は頷きながら、聞いている。しかし、周りから見れば聞き流している事が明らかだったが、ハーマイオニーはその事に気づいていないようだ。
その時、後ろの扉からギルデロイ・ロックハートが現れる。無駄にマントを靡かせながら悠々と歩いていく。そして、生徒に自己紹介する。
「私だ。ギルデロイ・ロックハート、勲三等マーリン勲章、闇の力に対する防衛術連盟名誉会員、そして『週刊魔女』5回連続『チャーミング・スマイル賞』受賞。もっとも私はそんな事を自慢するわけではありませんよ。スマイルでカーディフの狼男を大人しくさせたわけではありませんからね」
ロックハート自身は気の効いたジョークを言ったつもりのようだが、その言葉で笑っていたのは女子生徒の一部だけだった。
何やら、一気に空気が冷たくなりつつあったが、ロックハートはそんな事に気付いていないようで、偉そうな口調で話しはじめる。
「さて、このクラスには日本から留学生が来ているらしいね。君だね。名前はアベトウハでしたね」
「はい。そうです」
「一度旅へと行きましたが、日本はいい国でしたよ。今度、その時の旅を本として書く予定です。鬼と対決した時は肝を冷やしましたよ。魔法を使ったら危なかったですが、怪力だけでは私には通じませんからね」
「鬼ですか?」
ロックハートの言った言葉に安倍灯葉は疑問の声を上げる。
「ええ、鬼です」
「鬼は、イギリスで言うと闇の魔法使いの事を言います。闇に落ちると言いますが、日本では鬼と化すといわれます。先生は怪力だけの鬼に会ったのですか?」
「まぁ、そうですね。詳しい話は本で読んでください。ここで話してもいいのですが、次に出す本の興味が失われたら、台無しですからね」
ロックハートは灯葉の質問を流しつつ、咳払いし、机にある紙を生徒達に配る。
「全員、勿論私の本を揃えているね? そして勿論1、2冊くらいは読み終えている事とは思う。そこでまず、簡単なミニテストを実施したい。心配は無用、君達がどのくらい私の本を読んでいるかをチェックするだけの、満点を取れて当たり前のテストだ」
その言葉にうんざりとした顔をしなかった生徒は片手で数える程しかいない。しかし、ロックハートは気づいていない。
テストは30分間も続いていた。ハリーは一様、テストに向き合っていたが、安倍灯葉はテストに向き合わず、30分間、手を動かさずに眼を瞑っていた。
テストが終わり、灯葉の隣にいたハーマイオニーが灯葉をゆらゆらと肩を揺らし、ジト目で話しかける。
「ねぇ、テストが終わったわよ。トウハ。何やってたのよ?」
「精神統一です」
「せっかくのテストなのに・・・・」
灯葉の答えに納得いかないハーマイオニーは小言をこぼす。
そんな中、ロックハートはテストを回収し、クラス全員の前でパラパラとそれをめくった。
「どうやら、私の好きな色がライラック色をほとんど答えていないようだ。誕生日が1964年11月26日という事も誰も知らないようだ。贈り物は、魔法界と非魔法界のハーモニーですね。オグデンのオールド・ファイア・ウィスキーの大瓶でも大歓迎です!」
答え合わせしているロックハートにロンはもう溜息しか出ないようだ。また、灯葉もまた、ロックハートを無視するかのように目を瞑っていた。ハーマイオニーはもう一度、安倍灯葉を注意しようとするが、その時、ロックハートから自分の名前を呼ばれて、体を震わす
「ミス・ハーマイオニー・グレンジャー!貴方はパーフェクトです!!ミス・グレンジャーはどこにいますか?」
ハーマイオニーは体をまだ震わせて、手を挙げる。
「これだけの生徒がいながら、貴方だけが満点です!グリフィンドールに10点あげましょう!」
ハーマイオニーは嬉しそうだ。しかし、グリフィンドールの生徒達はなんとも言えない顔をしていた。
「さて、授業に入りましょう、今からもっとも穢れた生き物を皆さんに見せましょう!どうか叫ばないようにお願いしたい!こいつらを刺激してしまうといけないのでね」
ロックハートは覆いのかかった何かを机の上に出し、覆いを取り払う。
覆いが外れた何かは鳥籠だった。しかし、そこに入っていたのは無数の妖精だった。
「捕らえたばかりのコーンフォール地方のピクシー小妖精。さて君たちがどのように対処するのか。お手並み拝見!」
ロックハートは妖精を解放する。解放された妖精は自由になった事が嬉しいのか、部屋に笑い声を響かせながら、鳥籠から出る。鳥籠から出た妖精は無邪気な子供のように生徒達に襲う。
ハリー、ロンとハーマイオニーは本を武器にしながら、妖精を叩き落とす。しかし、他の生徒達はハリー達のように対処出来ないのか、妖精に耳、鼻や髪を引っ張られてしまう。特に酷かったのがネビルだった。ネビルの元には2匹の妖精がいて、両耳を引っ張っていた。
そんな中、灯葉だけは目を瞑っていた。ハリーは灯葉の元に向かい、肩を揺らす。肩を揺らされた灯葉は目を開けて、妖精を見る。
「トウハ。起きて!」
「ん・・・なんの騒ぎですか?」
灯葉は錫杖を取り出し、錫杖を鳴らす。
―敵縛れ 不動明王 羂索よ―
5色の糸の縄が灯葉の前に現れる。縄は生き物のように動き、妖精を縛る。
妖精は羽ごと体を縛られ、地に落ちる。縛られた妖精は歯を食いしばり、抜け出そうとするが、抜け出せない。
灯葉は錫杖をしまい、天井のシャンデリアにぶら下げているネビルを見上げる。
「そんな所で何やってるんですか?」
「トウハ・・・助けて」
ネビルは顔を真っ赤にしながら安倍灯葉に助けを求めた。
ネビルを助けた後、授業のベルが終わり、ロックハートの初授業が終わった。
補足説明
鬼:イギリスというと闇の魔法使いの事を指す。または吸魂鬼のように元人間だった生き物。
羂索:不動明王がその左手に持つ五色の縄。魔物を縛り、苦しむ人々を救う等の役割を持っている。