チェスの間から暫く細い道を歩く。ハリーはその道を一人で歩いていく。震えた手で杖を構えながら。この道の最終地点でスネイプが待っている。
安倍灯葉はスネイプを味方と言っていたが、ハリーはそんな事を微塵も思っていなく、この先には必ずスネイプが待っていると思っていた。
もし、スネイプだったら、トウハは間違っていたと言える。しかし、スネイプ以外の人だったらどうしよう・・・トウハに謝ればいけるかな。
ハリーはスネイプがこの先に待っていると期待をして、道を歩いていく。
やがて、道が終わり、その先には円の形をした大広間があった。大広間の周りには5つの柱が建っており、広間の中心には鏡がある。そして、鏡の前には人がいる。その人は鏡をじっと見ていた。
その人はゆっくりと振り返る。ハリーはその人物に驚きながら、否定する。
「まさかあなたが?スネイプのはずだ!スネイプはいつも僕を・・・」
クィレルはハリーの言葉に侮辱の笑いを浮かべ言う。
「彼はいかにも怪しげに見える。スネイプがいれば、誰も私を怪しまずに済んだはずだった!しかし!」
クィレルは怒りを表現するかのように声を荒げる。
「アベ、スネイプのせいで全てが台無しになってしまったのだ!!トロールの時も!クィディッチの時も!スネイプは反対呪文で邪魔され、アベにはクィディッチの時、私の顔に使い魔の糞をやりやがって!」
「トウハは貴方が犯人である事を知っていた?それにスネイプは僕を救ってくれた?」
「そうだ。お前は知らず知らずのうちに助けてもらっていたんだ。まるで赤ん坊のようにな。スネイプは私から決して目を離さずに一人きりにはしなかった。それにアベも常にポッターを見ていた。手が出せなかった。しかし、今は誰もいない!今夜の赤ん坊のお世話は、私達がする!!」
クィレルは鏡に振り返り、鏡に対して、怒鳴り始める。
「さぁ、鏡よ。ああ。そうだ。見えるぞ。賢者の石を持つ私が」
クィレルは恍惚とした表情では鏡を見つめる。
「さぁどうやって手に入れる?鏡よ」
その時、何処からかかすれた声がする。その声はかすれてていたが、どの声よりも聞こえやすく、体の芯から震える程の怖さを纏っている。
「その子を使え」
声に導かれたクィレルはハリーに対し、怒鳴る。
「こい!ポッター!早く」
ハリーは言われた通り、鏡の前に立つ。クィレルはハリーの横にたち、耳元で囁く。
「答えろ・・・何が見える?どうした!早く言え!」
ハリーには見えていた。
鏡が映る自分がポケットに賢者の石を入れる姿を。
ポケットを探ると、そこには今まで探していた賢者の石が入っている。しかし、正直に答えたら、クィレルは賢者の石を手に入れる。もしクィレルの手に渡ったら、おそらくこの世は終わるだろう。
ハリーは咄嗟に噓をつく。
「ぼ、僕がダンブルドアと握手してる。グリフィンドールが優勝して…それにトウハとロン達で仲良くパーティーを」
「嘘だ。もういい。わしが話す」
またしても何処からかすれた声が聞こえる。
クィレルは声に反応して、頭に巻いているターバンを外していく。ターバンの下にはもう一つ顔がある。その顔はハリーを見つめて、再会を喜ぶかのように笑う。
「ハリー・ポッター。また会ったな」
クィレルのもう一つの顔は傷だらけで、以下にも凶悪そうな顔をしている。ハリーはその顔を見て、恐怖を感じたのか、絞り出す声で言う。
「ヴォルデモート…」
「そうだ。見ろ、この姿。こうして人の体を借りねば生きられぬ、寄生虫のような様を。ユニコーンの血でかろうじて生きているが体はとどめられなかった。だからあるものさえ手に入れれば、自分の体を取り戻す。そのポケットにある石だ」
ハリーは震える体を鞭を打ち、大広間から逃げ出そうとする。しかし、クィレルが指で音を鳴らすと、大広間の周りに火が付く。
ヴォルデモートは優しい口調でハリーに説く。
「馬鹿な真似はよせ。死の苦しみを味わうことはない。わしと手を組んで生きればよいのだ」
ハリ―は強い口調でヴォルデモートを否定する。ヴォルデモートはその否定を喜ぶかのように笑いながら、ハリーに説く。
「嫌だ!」
「ははっ、愉快だなぁ。親に良く似ておる。どうだ、ハリー?父と母にもう一度会いたくはないか?2人でなら呼び戻せる。ハリー。この世に善と悪などないのだ。力を求める強き者と求めぬ弱き者がいるだけだ。わしとおまえなら全て思いのままにできる。さぁ、その石をよこせ!」
「やるもんか!」
ヴォルデモートは笑うの止めて、一言。
「殺せ!」
ヴォルデモートの一言でクィレルは跳躍して、一瞬にして、ハリーとの距離を縮ませる。跳躍した勢いでハリーの首に手を当て、持ち上げて、首を絞める。
首を絞められたハリーは苦しい表情を浮かべて、唸り声をあげる。
その声を聴いたクィレルは笑いを浮かべる。ヴォルデモートはその声をまるで好きな音楽を聴いているかのように目を細めている。
・・・死にたくない。スネイプは犯人じゃなかった。トウハに僕の方が勘違いだったと謝らなくては。
ハリーは諦めておらず、この先の事を考えていた。
ハリーは無意識に自分の首を絞めているクィレルの腕に触る。クィレルはその手を無視して、さらに手に力を入れる。
しかし、その時、ハリーに触れた所からクィレルの腕が火傷を受け始める。
クィレルは火傷の痛みでハリーの首から手を離す。クィレルは驚きと痛みの表情を混ぜて、腕を抑える。ハリーはやっと吸い込めた空気だったが、急に吸い込んだおかげでむせていた。
「あっ、あぁぁぁぁ!!なんだ、この魔法は!?」
「馬鹿者!早く石を奪え!」
クィレルはまだ腕を抑えて、痛みを和らげるかのように大声で叫ぶ。ヴォルデモートはそのクィレルに叱咤する。しかし、ハリーの方が復活が早く、ハリーはクィレルの顔に触れる。
触れた瞬間、クィレルの顔は罅が入る。クィレル、ヴォルデモートは苦しみの声を上げる。
「わあぁぁぁ」
「ぅおおぉぉ」
クィレルは罅がやがて体中に走る。やがて、クィレルは砂と化して消えていく。残ったのはクィレルの服だけだった。
ハリーはその服を見て、倒したと安堵して、ゆっくりと地面に落ちていた賢者の石を拾う。クィレルの服の上に靄が出てくるの気づかずに。
やっと気づいた時、ハリーの目の前に靄がいた。靄はハリーの体を叫びながら通り抜ける。ハリーは襲われた衝撃で気絶をした。
―誤算だった。また再びあの森へ帰り、時を来るのを待たなくては―
靄と化しているヴォルデモートは気絶したハリーを見下ろしながら、考える。ハリーの手には賢者の石が握られている。
賢者の石にはワシの情けない姿が映る。
―なんとも情けない姿よ。しかし、いずれこの世を征服するまでは我慢するまでだ―
ヴォルデモートは森へ帰るべく、大広間を囲っている火を抜けて、出口へと向かう。しかし、ヴォルデモートの誤算はまだあった。
―なんだ!この火は抜けれない。逃げれないじゃないか―
その時、火を避けるように一人分の道が出来る。そこを通ってくる一人の人物。
その人物は安倍灯葉だ。
灯葉はマホウトコロの服を着ていて、手には錫杖をもっていて、歩きながら、錫杖を鳴らす。
「さて、ヴォルデモート卿。初めまして。安倍灯葉と申します」
―東洋の魔女がワシに何の用だ―
「貴方に会えたのは嬉しいですが早速、浄霊を始めます」
灯葉が持つ錫杖を鳴らすと柱から火が走る。火は別の柱に向かう。柱に着いたら、また火は別の柱に向かう。最終的には最初に着いた柱に着く。
―なんだ!これは?―
「五芒星です」
灯葉は錫杖を鳴らし、呪文を唱える。
―
それを合図に五芒星は火の光、赤い色ではなく、白い光となる。その光は徐々に靄となっているヴォルデモートに近づいていく。
―なんだ!?これは?―
「浄霊です。消えなさい。怨霊よ」
光はヴォルデモートを包む。やがて光は球体となる。
灯葉は錫杖を鳴らす。球体は小さくなり、やがて、光は米粒くらいの大きさとなり消えていく。灯葉は消えていった光の球体の所を見て、錫杖をしまう。
「さて、終わりましたか」
灯葉はまだ倒れているハリーの手から賢者の石を拾う。倒れているハリーに対し、一言放つ。
「行動は立派でしたが、まだ赤ん坊のままですね。ヴォルデモートは消えたし、後は賢者の石を渡すだけ」
―いや、ワシは不死身だ。しくじったな。東洋の魔女よ―
灯葉は驚き、振り返る。そこには靄のヴォルデモートがいた。靄となっている顔は表情が見えずらいが、笑っているようだ。
「まさか?貴方まだ死んでいない」
―ワシは不死身だ。覚えたぞ。貴様の名を。アベトウハ 待っていろ いつか必ず―
そう言い残すと出口の方に向かっていき、消えていく。灯葉はそれをただ見るだけだった。灯葉は驚いて何にも行動に移せなかった。しかし、その表情は笑っていた。
補足
御霊会
霊魂、怨霊の祟りを鎮め慰めることを行う祭りの事。
本稿では御霊会は浄霊の一種の儀式という事にしました。ちなみに祇園祭は御霊会が起源となっているそうです。