アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜   作:ドラソードP

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第2話 カワイイボクと不器用なプロデューサー

第2話

カワイイボクと不器用なプロデューサー

 

 

輿水幸子

年齢 14歳

身長 142cm

体重 37kg

出身地 山梨県

誕生日 11月25日

趣味 勉強ノートの清書

 

 俺は今、先日貰っていた書類を眺めながら、彼女についての事を調べている。

 書面上に書いてある内容といったら、特別変わったことなどは無い。話してみた最初の感じも、勉強が得意で、運動は人並、至って真面目な普通の中学生の少女、といった印象だ。

 どうやら、彼女の方もアイドルにはまだなったばかりの様で、俺が彼女にとって初めて着いたプロデューサーということになるらしい。そのせいか全体的に初々しいイメージを受ける。

「⋯⋯どうですか? これがボク、輿水幸子についての詳細です! もっとも、カワイイボクについて真に全て語るには、一日、一ヶ月、いや⋯⋯百万年は必要ですけどね!」

 ちなみに、そんな彼女のビジュアルといったら、全体的に小柄で可愛らしい、年相応の子、と言った感じだ。

 可愛げのある癖っ毛、上品さの漂う銀髪、そして謎の魅力があるジト目、アイドルの原石としては普通……いや、それ以上の素質がある様に感じられる。

 まあ、そもそもこの346プロに入れた事や、本人も自称・カワイイと言うだけはあり、アイドルとしての必要条件は揃っていると俺は思う。未来性が有るか無いかで聞かれたら、充分に有りだろう。

「……で、一応聞いておくが君がアイドルになった理由は……」

「そんなの決まっているじゃないですか! 世界一カワイイボクの存在を、世界中に見せつける為ですよ!」

 その応対室のソファにちょこんと座る少女は、さぞ当然とでも言いたげに即答した。その顔はまさに、言ってやったぞととても満足げなドヤ顔をしている。

 そう、こうして語る分だけには彼女は至って普通の真面目な少女だった。俗に言われる、王道を征く清純派のアイドルだ。

 ただし、彼女にはひとつ『普通の少女には無い強烈な個性』があったのだ。

「あ……ああ、そうか。なるほどな」

 彼女、輿水幸子は俺が今まで会ってきた人間の中でも群を抜いて、自己陶酔が激しいのである。つまり、世間一般的に言えば、彼女は度を越した『ナルシスト』なのだ。

 書面での優等生な印象も、出会ってすぐに彼女に抱いた清楚で可憐な印象も、彼女が自分について語り始めた瞬間全てぶち壊された。ガラス細工をハンマーで叩き割るかのように。

 まず、お互いに初対面だというのに何故か彼女はやたらと自信げで、一々名前にカワイイを付けることを要求してきたり、唐突に自分語りを始めたり、キャラがやたらと濃いのであった。そして暫く語りに語ったと思えば、今度は突然甘える様な仕草をしてきたりと、彼女の本意がまったく読めない。

 とにかく、彼女は何を話す時もとても自慢に話してくる。本当に自分が好きで好きで、たまらないのだろう。自分の事を本当に世界一可愛いと思っているらしく、そのことに対して彼女は一片も、一ミリも、疑問を持っていないことが、その話す勢いと態度からよくわかる。俺は現状、そんな彼女のあまりにもの勢いに少々押され気味だ。

 ああ、なんということだろうか。俺が先日、正式にプロデューサーになってもらうと言われた時から必死に考えていた筋書きが、全部パーである。できれば今着々と更新されていっている彼女の情報を元に、もう一度最初から作戦を練り直したい。

「な、なんですかプロデューサーさん? さっきからなんで戸惑っている様子なんですか? それになんだか、ボクに対しての反応も薄くないですか?」

「……いや、なんでもない。初めてのプロデュースなもので、色々とまだ慣れていない部分があってね」

「それならば安心してください! ボクがプロデューサーさんの担当アイドルになったということは、いきなり歴史的レベルの美少女をプロデュースした、凄腕プロデューサーとして有名になれるってことですよ!」

「う、うむ……?」

 では、そんな彼女の印象が悪かったのか、と聞かれたら別にそういうことではない。彼女の発言や行動にはどこか憎めない感じがあり、視点を変えればまたそれも素直なのだとは言えないかと。むしろこれが彼女のこれからの魅力になりはしないだろうかと。そんな風に考えていた。それに、この勢いを生かせるのならば、逆にデビューまではなんら心配する事は無いのかな、と少し安心する自分が存在するのもまた、事実である。

 だが同時に、その姿を見る限りはまだ、彼女は年相応のあどけない中学生の少女であり、プロデューサーとしてちゃんとサポートしてあげなければな、と思わされる面もある。彼女の溢れんばかりの自信に任せるのもそうだが、彼女の力のセーブもかなり重要になってきそうだ。少なくとも今の状況からして、彼女は色々と暴走しやすい傾向が有りそうだからな。

 なんというか、こう細かく紐解いていくと、彼女の取り扱いは非常に難しそうである。彼女の良さを活かしつつ、上手く舵取りをしてあげられれば、それこそアイドルとして無限の可能性があるかもしれない。だが、新人プロデューサーの俺には少々、手が余りそうだといった感じだ。

「プ、プロデューサーさん? もう少し肩の力を抜いても構いませんよ? ボクの事をプロデュースしてくれるんですから、それくらい許可します」

「……フフッ、なるほど。そうか、俺が肩の力を抜くのには君の許可が必要だったのか」

 と、不意に少しだけ笑みがこぼれる。これではまるで、彼女の方が先輩みたいじゃないか。

「ま、まあそれくらい当然のことですよねえ? ねっ! プロデューサーさん」

「ああ、そうなのかもな」

 と、俺はこのままではやりづらいな、と思う。彼女のことは普通に名前で呼べば良いのだろうか。それとも苗字? 別に、苗字にさん付けなりで呼べば無難な所ではあるのかもしれないが、ここは彼女との距離を縮める、良い機会でもあるのかもしれない。

 とりあえず、俺は彼女の事をどう言えば良いのか、聞いてみることにした。

「なあ、とりあえず俺は、これから君のプロデューサーになるんだ。君、とかだとなんだか言いづらいし……何と呼んだらいいかな」

「それならボクのことは、最高にカワイイ幸子ちゃんって呼んでください! あ、でもプロデューサーさんには、特別に幸子って呼ばせてあげないこともないですよ?」

「あ……ああ、わかった。じゃあ……これからよろしくな、幸子」

 彼女は幸子と呼ばれると、顔を少しだけ赤らめた。

 なんだかんだ言って、真面目に名前を呼ばたりすると恥ずかしがる様な辺り、本質はやっぱり普通の少女なんだな、と再確認させられる。

「……やっぱり、呼び捨てはやめた方が良いか?」

「い、いいえ! 別に大丈夫ですよ! むしろ、その方がアイドルとプロデューサーという、雰囲気が出ますし!」

 彼女に必死にそのままで良いと念を押す。

 別に、俺はもとより彼女の意思に合わせるつもりであったし、どちらでも構わないんだけどな。

「そ、その代わりにと言ってはなんですが……プロデューサーさんはボクのことを絶対に、日本一……いや、世界一のトップアイドルであることを、証明してくださいね!」

「ああ、わかった。なるべくそうなる様に努力はするよ」

「なるべく……? そこはボクがなんですから、当然ですよねぇ?」

「……当然、か。すまない、そこまでの保証はまだできない。だけどなるべく早く、君がトップアイドルになれるように、俺も頑張るよ」

 先程から彼女は自信げに話してくるが、その彼女の自身故に少しだけ、俺にはプレッシャーに近い何かが生まれてきた。

 本当にそこまでのプロデュースを俺にできるのか、彼女の期待に応えてあげられるのか、時間が経つごとに、そんな不安が少しずつ蓄積していく。

「プロデューサーさん……?」

 と、幸子は不意に表情を変えた。なんというか、彼女の方もまた、どこか不安げな様子だ。

「ちゃ……ちゃんと世界一のアイドルにしてくれますよね?」

 その不安げな表情を見て自分の職業、そしてやるべき事を思い出す。

 

 何をやっていたんだ俺は。

 

 彼女は何よりも、誰よりも、トップアイドルになる事に対して夢を見ている、一人の少女じゃないか。不安を抱いているのは俺だけでなく、きっと彼女も同じことだ。俺が独りで考え込んでいてどうする。

 それに、俺のさっきからの塩対応は何なんだ。ここで彼女の期待に応えてあげること、できる限り不安を取り除いてあげること、それこそがまさに、彼女のプロデューサーとなった俺のまず、最初の役目ではなかったのだろうか。

「……まったく、何言ってたんだか俺は」

 我に返った俺は、一度大きく深呼吸をする。そして覚悟を決めると、気持ちを引き締め直し、彼女の瞳を強く覗き込んだ。

「……わかった、幸子」

「プロデューサーさん?」

「俺は君を世界一……いや、宇宙一のゴッドアイドルにしてやる。先はまだ、何一つ見えない。俺も不安だらけで、正直君に何をしてあげられるかも具体的には言えない。だけど、俺は君というアイドルと頂点を目指したい、その気持ちだけは、誰にも負けるつもりはないし、本物だ。だから幸子、無茶を承知で言わせて欲しい」

 

『俺を信じて……ついてきてくれ』

 

「……プロデューサーさん!!」

 と、彼女の眼光に覇気が戻る。その表情はまた先程までのドヤ顔というか、なんというか自身げな表情になっており、声にもハリが戻っていた。

「フフーン! 残念ながら、ボクはゴッドじゃありません、神様よりも断然カワイイ、エンジェル輿水幸子です!」

 そう言い、幸子は言葉を続ける。

「それと、着いてきてくれだなんて、そんなこと当たり前じゃないですか」

 彼女は椅子から立ち上がると、腰に手を当て、これでもかという程のドヤ顔を浮かべた。

「そもそもボクは、最初からそのつもりでしたから!」

 そこに、先程彼女が浮かべた不安そうな表情は、微塵も感じられなかった。あるのはただ、真っ直ぐな思いと強い意思だけだ。

「そうか、なら良かった。その意気込みは、絶対に何があっても忘れるなよ!」

 彼女は調子に乗せられやすいのか、それともこれは彼女なりの強がりなのか、それは彼女だけにわかる本心であり、俺には絶対に確かめようがない。しかし、少なくとも彼女のこのドヤ顔は、決して失わせてはいけない『彼女だけの魅力』だと、そう理解するのに秒は要らなかった。

「これからよろしくな、あー……なんだっけか。最高にカワイイ、幸子ちゃん?」

「んー……とりあえず、プロデューサーさんには、女の子の扱い方から学んでもらわないといけませんねぇ……それに、あれも……これも……」

「……まったく、それにしても、色々大変なプロデュースになりそうだな……」

 どうやら、彼女と意思の歯車が噛み合うのはまた、しばらくあとになりそうだ。だけど、それは決して遠い未来ではない気がする。根拠はないが、なんとなく、そんな気がする。

 とりあえず今は、一人で深く考え込むよりも、彼女と解け合うことから始めていこう。多分、それが俺の、最初のプロデュースなんだ。

 俺はそんなことを考えながら彼女、輿水幸子との初めての時間を過ごしていった。




なんか夢小説になっていきそうで怖いですがねぇ……皆さんにも本当にカワイイ幸子の可能性を感じてもらいたいのですよ……(悲しみ)

実は本当は蘭子の話を書きたかったんですがいかんせん蘭子Pのクセして熊本弁検定三級だからなぁ……

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