アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜   作:ドラソードP

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第61話 シンデレラプロジェクト

第61話

シンデレラプロジェクト

 

 

「……このデータにも示される通り、二年前の発足当時から比べ、346プロの世間的認知度は緩やかにですが上昇線に入ってきており……」

 

 会議室の真っ白な壁にはプロジェクターで、様々な統計データやグラフなどの画像が映し出されている。

 そして社員の一人が、その映し出された物を用いて解説をしていく。

 

「しかし、依然として他大手の有名プロダクションには追いつけていないのが現状です。その原因としてはやはり、アイドル事務所としての経歴の長さやネームバリュー、その他、決め手となる何かがまだ足りていないからでは無いでしょうか」

 

 ここは346プロの会議室。今は毎月の定例会議の最中だ。

 まあ会議とは言っても、うちら新米プロデューサーや下の人間にとっては、話を聞く側に回ることが殆どだがな。

 

 で、その肝心な会議の内容としては、所属アイドルの仕事量や番組出演本数、売り上げなどの基本的な話から今後の方針、他連絡事項などだ。

 別に、これといった特別なことをやっている訳でもなく、どこの会社でもやっているであろう至って普通の会議だと、俺は思う。

 

「そこで提案するのが、今回の本題であり、私が企画したこのプロジェクトです」

 

 と、プロジェクターの画像が切り替わる。

 

「私たちは先月、この346プロに所属する新人アイドル達のデビューライブを全国中継することにより、346プロという存在の世間的認知度を、一段階先に進める事に成功しました」

 

 しかし普通の、とは言ったが今日の会議に限っては何やらいつもと様子が違う。いつもなら遅くても二時間程で終わるものなのだが、既に今日はその時間を超えつつある。

 それもそうか。今日の会議はこれからの346プロの運命を恐らく左右することになる、一大プロジェクトとやらについての話がある、ということを事前に聞かされていたからな。

 

「そのような認知度の高まってきた今だからこそ、その流れを絶やさずに、かつ一人でも多くの少女の夢を叶えてあげられる。そんな、この346プロにしかできない様な試みが必要なのではないでしょうか」

 

 それにしても一大プロジェクトとは言っているが、俺的に紙面で内容を見た限りでは別に、一大というには少々大袈裟過ぎる気がしなくもない。

 確かに、仮にこのプロジェクトが始動となった場合にかけられる広告等の予算は、普通の企画よりかはそこそこ多めだ。だが、別にそれ以外は、いつものアイドルプロデュースと何ら変わりは無いように見える。

 そんなに大金を使って新規プロジェクトとやらを立ちあげるなら、俺たち新人の予算や広告を増やした方が良い気がするんだがな、とついつい考えてしまうのは親バカならぬ、プロデューサーバカなのだろうか。

 まあ別に、予算を増やしてもらったからといって特別何かが大きく変わる訳ではない、というのもまた事実だが。

 

「この346プロは、他の事務所より規模が大きいのが強みです。その規模の大きさを生かし、日本中から沢山のアイドルの原石達を集めることができればきっと、他には無い新しい『可能性』を見いだせるのでは、そう私は思います」

 

 そう言うと、再びスライドが切り替わる。そして画面には、クライマックスとばかりに大きく映し出される企画名と内容のまとめ。

 

「……以上のことから、私はこのプロジェクトをこう名付けました」

 

 そう、その企画名は

 

 

 

 

 

 

『シンデレラプロジェクト』

 

 

 

 

 

 

 幸子達346ブランドのアイドルが世間的に知られてきた中、更にその波に乗るために企画された新たなアイドルプロジェクトだ。

 その内容は主に、346プロ史上かつて無い大規模のオーディションを行い、全国から数十人のアイドルの原石を探し当て、そしてその集まった少女達を346プロの新たなる広告塔として売り出す、というものである。

 この前の幸子達が、346プロという存在を日本中に売り込む為の起爆剤だったのだとしたら、このプロジェクトはその346プロのアイドルを世間に強く根付かせるための言わば、延焼剤としての立ち位置に当たるのだろう。

 確かに、幸子達のデビューライブで、346プロという存在について注目はかなり集められたからな。このタイミングで全国規模の大きなオーディションを行えば、間違いなく人はいつも以上に集まる。

 

 なお仮に、この大規模プロジェクトが始動したとして、俺たちへの影響などは一切無いそうだ。

 むしろ既存のアイドルやユニット達と上手く連携を取っていき、お互いに相乗効果が現れることを望んでいるらしい。

 俺も最初、大規模プロジェクトが企画されていると聞いた時は内心、かなり不安だったが、会社側からそう言ってもらえるなら、少しは安心して良さそうだ。

 

「私はこのプロジェクトに346プロの、いやアイドル業界の未来がかかっている、そう考えています」

 

 それにしてもシンデレラプロジェクト、か。美しき城にシンデレラ、確かに聞こえはその名の通り、夢物語の様な話だ。

 日本中から大規模オーディションでアイドルを目指したい少女を集め、その中から激選された少女数人を、これからの346プロダクションの顔として売り込んでいく。ある意味、アイドルを夢見る少女達にとってはこれ程までに美味しい話は無いだろう。

 何せ、受かった途端にそこそこ大規模の事務所に、いきなり看板として使ってもらえるのだからな。

 実際、こうしてプロデューサーと言う立場に着いたからこそ、その意味がどれ程美味しいものなのか良くわかる。

 

 なお、手元の資料によると、最初のこれを発端としてオーディションや募集、スカウトなども今後今まで以上に行っていくとのことだ。

 様々な場所から多くのアイドル達を集め、かつプロダクションの規模により数と質をも両立する。

 それに加え、他のプロダクションに回ってしまうかもしれない、隠れたアイドルの原石達を独り占めすることもできる。

 なるほどな。確かにこれは、あの発案者の社員が言う通り、規模が元からある程度大きい、この346プロだからこそできる芸当なかもしれない。こう一つ一つ内容を読み解いていくと、まったく筋が通っていないという訳でもないか。

 ここまですべて計算してこのプロジェクトを発案したというのならば、このプロジェクトの発案者はなかなかのやり手なのだろう。

 

「では次に、このプロジェクトの始動が決定した場合の流れについて、細かく説明していきたいと思います……」

 

 そのやたらと身長が高く、目つきが鋭い社員は淡々とプレゼンテーションを進めていく。

 

 

 

 

 

 さて、それから一時間程で会議は終わった。

 いつもより長時間の会議に少々疲れ気味で部屋に帰ると、そこには丁度同じく、学校帰りと思われる幸子の姿があった。鞄をまだ手に持っていた所から、帰ってきたのはほぼほぼ数分の違いだろう。

 

「よっ、おかえり幸子……いや、この場合はただいまか?」

 

「そうですね、先に帰ってきていたのはボクなので。それじゃあ……おかえりなさい、プロデューサーさん!」

 

 なんだか珍しい構図だ。こうして彼女に出迎えてもらったことは、意外と今まで無かった気がする。

 いや、そもそも誰かにおかえりなさいと言ってもらったこと自体が、割と数年ぶり位かもしれない。

 

「なんかこう、面と向かって誰かにかえりなさいと言ってもらえるのって、当たり前のことかもしれないが凄く嬉しいな」

 

「フフーン! ボクがおかえりなさいを言う人なんて、恐らくボクの家族や将来の旦那さんと、そしてプロデューサーさん位でしょうねぇ。光栄なことなんですから、喜んでください!」

 

「おう? なんだ、そんな貴重な枠の中に俺を入れてもらっちゃって良いのか?」

 

「うーん……やっぱりよく考えてみるとダメですね」

 

「いや、どっちやねん」

 

 俺は盛大にずっこける。コントかこのやり取りは。

  

「だってプロデューサーさん、最近調子に乗ってきたのか、ボクでイジって遊ぶ様になってきたじゃないですか。ここでプロデューサーさんを甘やかしてしまったら、更に調子に乗るに決まっています!」

 

「そ、そりゃあお前がイジり甲斐があるのが悪いわけで……」

 

「イジり甲斐って、ボクはリアクション芸人じゃないですから!!」

 

「違うのか?」

 

「違います!! あなたは今まで、なんのプロデューサーをしていたんですか!!」

 

「……歌って踊れる、芸人アイドル?」

 

「一言余分ですから!! それに歌って踊れるって、まるで肝心な部分がおまけみたいに言うのやめてください!!」

 

 この打っては打ち返す、そんな会話のキャッチボールというよりバレーボールがまさに、彼女自身が否定する、芸人のそれだという事にそろそろ気が付くべきだ。自覚は無いのだろうが、彼女は間違いなく『そちら側』の路線の素質を持っている。前までそれは可能性の域に過ぎなかったが、こう一ヶ月経った今でも変わらないのを見ると、もう確定だ。

 

「……でもさ、実際真面目に考えてみると、将来幸子を嫁さんに貰える人は羨ましいよな。カワイくて、料理もできて、しかも極めつけはアイドルでさ。こんなカワイイ嫁さんにおかえりなさいを言ってもらえるとか、将来の幸子の旦那さんは本当に幸せ者だよ……正直、一人暮らしの俺からすると本当に羨ましい」

 

「……羨ましい?」

 

「ああ……ん、どうした?」

 

「ま、ままっまあボクならそれくらい当然ですね! う、羨ましい……ですか……」

 

 と、幸子は突然挙動不審になる。

 最初はその意味がわからなかったが、自分の今の発言を思い出してみて、俺もそこそこマズい発言をしていた事に気がついた。

 

「あっいやっ、ち、違う幸子。今のは深い意味とかは抜きにしてその……あー、純粋な意味での言葉だ」

 

 すると幸子はチラっとこちらを向きながら、小声でブツブツと何かを言ってきた。

 

「……ぼ、ボクはお嫁さんに貰われるんじゃないです。お婿さんに貰うんですよ……カワイイボクの為の……世界に一人だけの……」

 

「……な、なんだ?」

 

「……な、何も言ってないです!」

 

 再び幸子は慌てるようにして顔を背ける。

 その耳は、こちらからでも分かるほどに真っ赤になっている。

 

「……あー……コホン。で、プロデューサーさん。とりあえず、今日は会議だったんですよね? どうだったんですか?」

 

「……プロ野球の変化球も真っ青なくらい露骨に話を逸らしたな、お前」

 

「う、うるさいです……」

 

 幸子は恥ずかしそうに顔を背けている。その声はまるで乃々の声みたいに小さい。

 

「別にどうもこうも、いつも通りの普通の会議だったよ。ただ、なんか新しい大規模プロジェクトを立ちあげるとかで、その話がちらっと出たくらいかな」

 

「新しい大規模プロジェクト?」

 

 と、幸子はその言葉に強く反応を示す。その顔色は話が気になるといった感じもそうだが、少し不安そうにも見える。

 

「もしかしてそれって、ボク達のことですか?」

 

「いや、それがどうも違うらしいんだ。なんでもまた、うちら以外にオーディションを開いて新規に人を取るんだとよ。こんな短期間に新人アイドルを集めるってのも、中々珍しいよな」

 

 その言葉を聞いた幸子は顔を俯け、悲しそうな表情をする。

 

「……それってどういう意味が……?」

 

「ん? どうもこうも、その言葉のままだろう」

 

「……つまり、ボク達は既にもう用済みということですか?」

 

「……いや、待て待て待て待て、違う。そういう意味じゃないよ」

 

 幸子はどうやら、俺の言葉を悪い方向に考えてしまった様だ。その表情にはいつもの彼女らしい喜怒哀楽では無く、心の底からの悲しみに近い、落胆の表情が滲み出ている。

 俺はそんな幸子の表情を見て、慌ててフォローを入れる。

 

「俺たちについては、ちゃんと言及があったから大丈夫。これまで346プロに所属していたアイドル達やその部署に、今回のプロジェクトによる影響は一切無いってさ。これからのCDデビューや、346プロ主催のライブへの参加とかも、別に今まで通りだとよ」

 

「良かった……まったく、驚かせないでくださいよプロデューサーさん! 今の言い方ですと、本当にビックリしますって!」

 

「なんだ、いつもポジティブシンキングカワイイボクなお前にしては、随分と考えが短確的だったな」

 

「それは驚くに決まっているじゃないですか! 折角こうして幸先よくスタートを切れたというのに、このタイミングでいきなりボク達とは別に、大規模プロジェクトが始動なんて言われたら!」

 

「……悪い、タイミング的に考えて確かにそうだよな。変に不安を煽る様なことを軽率に言っちまったか」

 

 とは言いつつ、最初に聞いてきたのはお前の方だろうと心の中でツッコミを入れる。

 だがそれと同時に、勘違いだったとはいえ、その一瞬だけ見せた幸子の悲しむ顔は、できればもう二度と見たくない物だった。

 

「まあでも、言ってしまえばその一大プロジェクトとやらは、新しくアイドルグループを作るだけの話らしいしな。別に特別何かが変わるとか、新しいことをやり始めるって訳ではないらしい」

 

「なんだかおかしな話ですねぇ……そんなことなら、会社ももっと別の事に予算を使った方が良くないですか?」

 

「俺もそう最初は思っていた。だが、俺は恐らく本質は違うところにあると見た」

 

「違うところにある?」

 

「ああ、そうだ。つまりこれは、会社全体を使った宣伝なんだよ。大規模オーディションをやると言って、日本中に346プロの存在をアピールするのさ」

 

 俺は幸子に説明を続けていく。

 別に俺が発案者という訳でもないし、本当の所詳しい意図等も推測の域を出ていない。その為、そんなに熱く語る必要は無いのだろうが、プロデューサーである以前に一、アイドルファンとしてでもある俺は、この手の話になるとどうしても熱くなってしまう。

 

「アイドルという存在が何より注目されている今、下手な宣伝をするより、大規模オーディションを開くと言った方が、一般人からは注目されるだろう。多分、それを狙ったんじゃないのか?」

 

「確かに……できたばかりとはいえ、そこそこ大手のプロダクションが、それも全国規模でオーディションをするとなったら、少なくともアイドルに憧れている人達は確実に注目する筈ですね。それに、オーディションとなれば、一般の人達にも関係がある話になってくる訳ですし」

 

 と、幸子は話を続けていく。珍しくその表情は真剣だ。

 

「でも、そうなってくるとやっぱり今後が少しだけ心配ですねぇ。それだけ大規模な宣伝をして人が集められたとなれば、注目は確実にそっちの方に行く筈です。そうなると、ボク達に入る仕事等は少なからず……」

 

「これは俺の考えや推測も入ってしまうが、その大規模オーディションはこれから開かれるんだ。大規模となれば準備や選考、オーディション後の内部処理にもそこそこ時間がかかる。つまり、早急に急いで何かをする必要までは無いんじゃないかと俺は踏んでいる」

 

 そう、恐らく俺の予想が当たれば、少なくともまだ一ヶ月から二ヶ月は猶予があるだろう。だから実際、それだけの期間があれば、知名度を上げるには充分だと考えていた。

 さらにこれからの季節、秋口から冬に向けて特番やらなんやらで、テレビ業界も忙しくなる。そうなってくれば幸子達新人の様な出番も、必然的に伸びてくるだろう。

 今後何事もなく順調に事が進めば、割と先は真っ暗というわけでもなさそうだ。

 

「それに、もしかしたらその子達がアイドルとして活動をし始める頃には、運がよけりゃ先に人気アイドルになれてる可能性だってある。先にこっちが人気アイドルになってしまえば、何も心配は要らない。なぁに、俺たちなら余裕だろ?」

 

「も、勿論! そんなの当然ですよ! 運が良かったらとか、そういうことは関係ありません! ボクはカワイイので、絶対にトップアイドルになるんですから!」

 

「フッ、お前のその意気込みが、俺の一番の救いだ」

 

 これまでだってそうだった。彼女の強気で前向きなこの姿勢、それが俺の背を押してくれる。

 

「とりあえず、どちらにしろしばらくの間はまだ俺たちの方が仕事は多いだろうなって感じだ。その間に、如何にして知名度や仕事数を伸ばすかだな」

 

「しばらくは、ということはやっぱり、将来的には分からないんですか?」

 

「これは当たり前っちゃ当たり前のことだが、幾ら今後の活動は保証されてるとはいえ、向こうが俺たち以上にアイドル活動を頑張ったとしたらそりゃどうなるかは分からない。それに、アイドルが増えるってことは同じ事務所とはいえ、今まで以上にライバルが増えるんだ。もしかしたら、ずば抜けた才能を持ったヤベー奴とかが居る可能性だってありうるしな」

 

 現時点でさえ、このプロダクションには美嘉の様な、実力や才能を持ったアイドルが居る。それに、同期の飛鳥や乃々だって、話によると着々と仕事の数などを増やしていると聞いた。

 生半な考えや心意気ではこれから先、彼女たちに追いつくことすらできなくなってくるだろう。そうなれば単純明快、全ては『終わり』だ。

 

「まっ、わかりやすく結論を言ってしまえば、今までみたいに呑気にはやっていられないってだけの話だ。冗談を抜きに、本気でトップアイドルを目指さなければ俺たちに未来は無いかもな」

 

「なんだか、思ったより大変なことになってきましたねぇ……」

 

 幸子は不安にその顔を曇らせる。珍しく、彼女は危機感を感じているようだ。

 

「……大丈夫だ、幸子」

 

「はい?」

 

「デビューライブだって成功させた。そんな俺達ならなんでもできる、そうだろ?」

 

 俺はそんな不安そうにする彼女に、苦手ながらも笑顔を向ける。多分、相当顔は引き攣っていただろう。誰かを安心させるための作り笑いなんて、あまりした事が無い。

 だが、彼女はそんな俺の顔を見るとすぐに笑顔になった。

 

「……そんなの、勿論に決まっているじゃないですか! あ、でも、頑張るのはプロデューサーさんだけですからね。ボクはプロデューサーさんに用意してもらった舞台で、思う存分に自分のカワイさを発揮するだけなんですから!」

 

「……お前らしい答えだ。分かった、了解」

 

「いつでも、頼りにしてますよ!」

 

「ああ! そうだ……な……」

 

 だが幸子の言葉に返事をした次の瞬間、俺の体に何か嫌な感じが走った。

 物理的な物じゃない。それはなんだか、最悪なものを見てしまった、あるいは想像してしまった時に感じる悪寒や、嫌悪感に近い様な何かだ。

 

 

 

 俺は今、何を想像した?

 

 

 

 なぜ俺は今恐怖を感じている?

 

 

 

 なぜその表情が思い出したかの様に頭の中に浮かぶ?

 

 

 

 瞬間的になぜだかは分からなかった。だが、数秒もするとすぐにその恐怖の根源を理解した。

 

 

 

 

 

『先程見せた幸子の落胆した表情』

 

 

 

 

 

 先程幸子が一瞬だけ見せた、本気で落胆した表情。それが突然脳裏に蘇り、俺は恐怖に震えたのだ。

 

 そう、先程の話自体は別になんの問題も無かったわけだ。だが、仮にももし、これから先本当に幸子のプロデュースが続けられなくなったとしたら、彼女が夢を諦めざるを得ない状況になってしまったとしたら、一体彼女はどうなってしまうのだろうか。

 この明るくて、純粋で、ちょっと自信家で、でも少しだけ自分に素直になれない、そんな今ここに居る一人の少女はどうなってしまうのだろうか。

 

 今まで気にしたことも無かった。いや、目の前のことに必死で、気にするような暇も無かった。

 デビューライブ等を乗り越え、精神的に余裕が出てきたいまだからこそ、彼女との当たり前が壊れて無くなってしまうことや、自分のプロデューサーとしての責任に意思が揺らぐ。

 そして、彼女の俺に対する期待の大きさ故に、不安が蓄積されていく。

 

 

 

『俺はこれからもずっと、彼女の期待に応え続けられるのか?』

 

 

 

『本当に、そんな強気な言葉を軽々と言ってしまって良いのか?』

 

 

 

『作り笑いをしてまで彼女を安心させて、それで結果失敗したらどうするんだ?』

 

 

 

『本当は会社からの安心して良いという言葉を盾にして、責任から逃げてるだけなんじゃないのか?』

 

 

 

 頭の中には声が響く。それは自分の声だ。

 紛れもなく、自分に向けられた、自分自身の言葉だ。

 

「チッ、まったく、嫌な想像をしちまったよ……」

 

「ん? 何ですか」

 

「……いや、何でもない」

 

 こんな感情は、今まで感じたことが無かった。恐らく、今までなら別になんら気にすることも無かったやりとりだろう。だが、俺はそんな何気ないやりとりから想像したくない幸子の姿を、信じたくはない未来を見てしまった。

 

 

 

 

 

『彼女がアイドルでいることを諦めてしまう未来』

 

 

 

 

 

 今はありえない未来。だが、少しの狂いや間違いでありえてしまう未来。

 笑顔で幸子と接する俺だったが、その心は確実に揺れていた。




プロデューサー実は豆腐メンタルか?

いや、多分自分も実際にプロデューサーだったら胃に穴あきますね。
自分がミスをしたり、プロデュースが下手なせいで担当アイドルがアイドルを辞めざるをえなくなるとか、自殺物です。常にそんなプレッシャーに襲われながら仕事するとか、やっぱりプロデューサーは辛いよ。

さて、という訳でなんだか不穏な空気が立ち込めてきましたところで今回はおしまいです。そして次回、とある人物と会うことにより、プロデューサーはこの葛藤から一つの答えを得ます。
やがてその答えがプロデューサーに力をくれたりくれなかったり。
そして何気に登場したシンデレラプロジェクトの名前と、目つきの鋭い社員。おわかりですね?つまりそういうことです。

では次回『邂逅〜とある日の噴水広場にて〜』
なんだか話が複雑化してきそうな雰囲気ですが、基本は彼女達の日常や仕事を書いていくつもりです。ただ、アイマス作品ならやっぱり2期でちょっとしたシリアスを入れるのが王道かなと(それでも初見デレマスのアニメでのCP解散にはビックリさせられたが)
作者的にもやっぱり二次創作で自己満足の物語とはいえ、物語であら始まりと終わりがある以上、話にはある程度の流れとメリハリが必要だと思いました。幸子達みんなが心の底から大好きだからこそ、ただのよくある量産型ハーレム俺TUEEEEイチャイチャ二次創作では終わらせたくないのです。自分はこの作品で彼女達の担当Pを増やして、シンデレラガールの人気投票にひと風吹かせる気でいますから。

では、長々とあとがきを見てくださってありがとうございました。次回投稿は未定(予定調和)
AnswerのCD発売までには投稿したいかな?(仕事つらい)

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