アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜 作:ドラソードP
まあそんなに内容に大きな影響はないと思いますが、幸子の通勤、通学事情がデレステ基準になってます。
第60話 新たなる旅路へと……
第60話
新たなる旅路へと……
アイドルとは、何だろうか。
日常で見かけない日はおそらく無い。テレビを付ければバラエティ番組なり、歌番組なり、旅番組からドラマやCMまで、とにかく様々なものに彼女達や彼らは居る。
歌を歌うということは、アイドルは歌手の一部なのだろうか、いや違う。
では女優や俳優か? それも違うだろう。
じゃあまさか芸人? それに関しては、一部否定出来ないが、しかし違う。
アイドルとは何なのか。歌手でも無ければ、役者でもない。ましてや芸人でもない。それだったら、アイドルの存在意義や立ち位置は、一体どこになるのだろうか。
答えは単純、それら『全て』だ。
すなわちアイドルとは歌を歌い、時には踊り、役者にも、コメンテーターにも、挙句芸人にすらもなりうる。
彼女達は望まれれば、モデルやグラビアもやろう。彼らは望まれば、農業や開拓もやろう。彼女、そして彼らは人々に望まれるなら、何にだってなるだろう。
では、そんな多種多様に何でもこなすアイドル達の、目的とは一体何だろうか。
その答えはたった一つ、星の数程いるアイドル達の『心』の中に秘められている。
ある者は、自らの存在を証明するため。ある者は、まだ見ぬ未知の世界を探求するため。そして、またある者は、不本意ながら、自らを信頼してくれる人や家族のため。
果たして、そんな彼女達の、長い旅の果てに行き着く先には、一体何があるのだろうか。
彼女達は光り輝く舞台の上から何を見て、何を得るのだろうか。
今、十二時を指したその時計の針は、再び零時へ向け動き始める。
魔法の始まりから、終焉へと。
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九月上旬、夕方の四時頃。346プロダクションのとある一室にて。
俺は今日もまたいつもと変わらず、黙々とパソコンに文字を打ち込んでいた。
九月に入ってからは陽気も安定してきて、エアコンをつけなくても良い様な涼しい日が、少しずつだが増えてきている。お陰で、こういった作業にはもってこいだ。
涼しい日と言えば最近は、あれだけ幾千、幾万とあった蝉の声も、ある日を境にほとんど聞こえなくなり、街の方では早くも、秋に向けた展示に切り替わり始めている。
テレビ番組なんかも徐々に、海やプールなどといった夏の話題はやらなくなり、気が付けばあっという間に、紅葉や今年の冬に向けた話が主流になっていた。
あれだけ暑苦しく鬱陶しかった夏も、こうして呆気なく終わってしまうと、寂しさすら感じてくる。なんだか、どこかに色々と忘れ物をしてきた様な気分だ。
しかし、そんなこちらの事などお構い無しに変わりゆく、日本の季節ではあったが、代わりに肝心の俺たちのプロデュースの方は、あれからそこまで大きな動きや変化はあまり無かった。
あのライブの直後こそ、会社の宣伝絡みでバラエティ番組への出演の様な仕事は、何回かあった。だがそれ以降というものの、来る仕事は二日か三日に一件、それも何かのイベントの手伝いや、テレビ番組のちょっとした役等の、本当に小さな仕事ばかりだ。
あれだけ盛大に、新人ライブなどといったものをやっておいて、会社もその後はほとんど仕事周りのサポートをしない辺り、流石は実力主義の業界世界だよな、と現実を思い知らされる。
俺もこのまま、彼女共々闇に消えないように、毎日頑張らなければな。
さて、大きな変化はあまり無かったとは言ったが唯一、今までと明確に違う点がある。それは、いつもそこに居たはずの『彼女』が居ないことだろうか。
「もう四時も回るか……」
俺は作業の手を一旦止めると、パソコンの画面を閉じた。そして、飲みかけの缶コーヒーを一気に飲み干し、伸びをすると、部屋の入り口の方を向く。
「……それにしても遅いな。そろそろ来ても良い時間なんじゃないか?」
するとそう思ったのも束の間、それから数分も置かない間にノックの音が部屋に響き渡り、扉が開く。
「おはようございまーす、プロデューサーさん!」
彼女、輿水幸子は相も変わらずな様子で部屋に入って来た。しかし、その格好はいつもの私服では無く、あまり見慣れていない学校の制服姿だ。
「おいおいどうした、もう今は夕方だぞ。おはようにしては、少々遅すぎるんじゃないか?」
「フフーン! プロデューサーさんはもしかして、業界のこんな簡単な常識も知らないんですか?」
「業界の常識?」
そう聞くと幸子は、待ってましたとばかりに自慢げに答える。
「はい! 常に色々な人が働いているこの業界などでは、労いの意味も兼ねて、どんな時でも必ず挨拶はおはようから始まるんですよ。つまりこれは、いつもお仕事を頑張っているプロデューサーさんへの、カワイイボクからの労いなんです! 感謝してくださいね!」
「いや、それは分かってんだけどさ。お前、今まで業界の挨拶とか作法って、そんなに意識していたか?」
「フフーン! ボクはもう駆け出しとはいえ、表舞台にデビューした身なんです! つまり、挨拶とかもちゃんと、業界人らしくしなければいけないじゃないですか」
「本当、デビューしてからというものの、無駄にプロ意識だけは高くなったよな……」
「無駄にってどういうことですか! 洗練されたカワイさを持つボクに、無駄な箇所なんて一つもないんです!」
「まるで、どこかの有名企業の商品説明みたいなことを言うな、お前……」
とか言っておきつつ、その相も変わらずな幸子の様子に、俺は安心して胸をなで下ろす。
折角初ライブも無事に終わり、幸先の良いスタートを切れていたというのに、彼女のモチベーションが下がっていたらどうしようかと、内心心配だったのだ。
「……まあいいや。いつも通り元気なみたいで、俺としたらなによりだ」
「別に、今までから特別何かが変わったって訳じゃないですし、特に問題はありませんよ。むしろボク的には、朝からの長時間のレッスンが無くて、少しだけ楽です!」
「フハハハハァ! 残念だったな、幸子ォ! ちゃんとこの後五時過ぎから、レッスンが入ってるぜ!」
「はいはい、分かってますよプロデューサー……さん……えっ……えええっ!?」
幸子はその俺の言葉に驚愕し、形相を一瞬で変えた。そしてこちらに走り、詰め寄ってくる。
「あるんですか!? レッスン!? こんな時間から!?」
「いや、何言ってんだ当たり前だろ。お前はアイドルなんだから」
「でっ、ででっでもいつもは五時くらいと言ったら、もう帰りの支度をし始める様な時間帯で……昨日や一昨日だって!」
「それは、お前が夏休み中だったからに決まってんだろ。大体、その理論でいったら、まともにレッスンをできる日が、学校の無い土日しか無いじゃないか」
「そ……それはー……」
幸子は何も言い返せなくなったのか、黙り込んでしまう。
「一応念のために言っておくと、表舞台にデビューしたからと言って、もうレッスンをしなくて良いって訳じゃないからな。アイドルってのはただ仕事をして、歌っていれば良いってもんじゃない。アイドルたるもの、常に鍛錬あり。レッスンは命だ」
「……べ、別にボクは、レッスンをしたくないとは言ってませんよ……ちょっとだけ驚きましたが。ま、まあ確かに、レッスンはボクの溢れるカワイさを維持し、更に魅力を高める為に重要なことですからね。とりあえず、プロデューサーさんの言い分はわかります」
「よろしい、良い子だ幸子」
「フフーン! もっと良い子って褒めてくれてもいいんですからね!」
そう、つまりはどういうことなのか。九月に入ったことにより夏休みが終わり、幸子は今日から学校が始まったのだ。
そして、その関係上、彼女のプロデュースは丁度今位の時間からの開始となった。
その為、予定が今までより詰め詰めで、時間も限られてくるので、必然的に少しだけ帰りが遅くなるというわけだ。
「でも実際、俺も簡単にレッスンとは言うが、確かに学生でもあるお前には時間や、体力的にも辛いかもしれない。だからその分俺も、なるべくレッスンの配分とかスケジュールが、お前の負担にならない様に努力するからさ」
「そうやってカワイイボクのことを気遣ってくれているなら、別にこれ以上何も望みません。それにボクは、プロデューサーさんと一緒にお仕事ができれば、それだけで良いんです」
「本当は俺なんかと仕事をするのを楽しむのより、ファンと仕事をすることを、楽しんでもらいたい所なんだけどな。でも、そう幸子に言ってもらえるとすごく嬉しいよ。ありがとう」
「別に、ボク達の仲なんですし、お礼なんていりません! その代わり、いつも通り死にものぐるいでボクの為に働いてくださいね!」
「ああ、分かってる。お前が一日も早く、トップアイドルになれるように頑るよ」
こうして幸子が学校から帰ってきた途端、それまでパソコンの無機質なタイピング音だけが、淡々と響き渡っていたこの部屋に、あのいつもの明るい雰囲気が戻ってきた。
俺にとって一日で一番楽しみな瞬間、そして一番安心できる瞬間か。
「それにしても、随分と帰りが遅かったな。今日はまだ、始業式だけだったんじゃないのか?」
「はい。そうですよ?」
「そうですよって……それなら、もう少し早く来れたんじゃないのか? 今の学校のことはよく分からんが、始業式と言ったら少なくとも、俺の学生時代は昼前か、遅くても昼過ぎには帰れていたものだったが」
確かに、俺の学生時代なんかは始業式の日と言ったら、大体昼の前後には家に帰れていたものだ。
恐らく、その辺りの話は時代が変わってもそうそう変わることでも無いだろうし、だとするともう少しだけ早く来れたんじゃないのか、と思ってしまう。
「仕方無いじゃないですか、プロデューサーさん。ボクだって色々忙しいんですから」
「色々忙しいって……なんだ、部活でもやっているのか?」
「別に、そういう訳じゃないです。ただ、ここに来るのにちょっと時間がかかるんですよ」
その幸子の言葉に疑問が浮かぶ。
「時間がかかる? もしかして自宅や学校が都内から遠いのか」
「あれ? プロデューサーさん、ボクが山梨の方から来てるってこと、まだ言ってませんでしたっけ?」
「山梨からって……山梨から!?」
幸子の口からさらっと飛び出してきた、その衝撃的な発言に、俺は即座に聞き返す。コーヒーを飲んでいたら、またむせかえって吹き出す所だった。
「おいおい待て待て待てお前、プロフィールに山梨出身って書いてあったが、まさか今日の今までずっと、山梨からわざわざここに来ていたのか!?」
「はい! 山梨県の方から、特急電車で毎日来ています。朝早くから健気に事務所に通うボク、努力家でカワイ過ぎです!」
幸子は平然と電車通いのことについて話すが、俺の頭の中はもはや平然と居られる状況では無く、むしろ騒然としていた。
中学生の少女が、特急電車で、山梨県からわざわざ東京まで通勤、それも毎日?
その単語の組み合わせは、パワーワードとなるには容易なものだった。
「……いや、でもそうなのか? 言われてみると確かに……」
俺は幸子の山梨発言を聞き、彼女とのこれまでについて思い出してみる。すると確かに、なんというか東京住みとは思えない反応が数点あった。
特に、あの浴衣を買いに行った日の渋谷の街に対しての反応は、今考えてみるとまさに初めて大都会を見た子供のそれだったか。お世辞でも、都会慣れしているとは思えない様子だった。
そう考えてみると、幸子はこの東京に来て様々な初めてを楽しんでいたのかな、とかそれとも不安を感じていたのかな、などと今までの何気ない出来事も違った側面から色々考えてしまう。
「しかし、てっきりアイドルになるために都内に引っ越して住んでいるのか、あるいは寮ぐらしなものかとばかりずっと思っていたよ……まさか、実家が本当にプロフィールに書いてある通りとはな」
「まあ別に、寮に入っても良かったんですけどね。でも、それだとカワイイボクが居なくなって、パパやママが寂しくなると思って。それで、自宅から事務所に行きたいって相談したら、案外普通に了承してもらえたので」
「それで二つ返事で了承してもらえるってのも、なかなかのことだぞ……」
彼女はこれまで、何気無くプロダクションに来ていたが、その裏でわざわざ、何時間も電車に揺られてここまで来ていたというのか。それも、家族が寂しがるという理由だけで?
というか、普通に疑問なのだが、毎日山梨からって費用とかはどうなんだ? 時間だって場所にもよるが、ヘタしたら二時間所か、それ以上かかるぞ。いやまさか、まさかお前は本当に、冗談抜きにお嬢様か何かなのか?
俺は、また新たに追加された幸子の属性に頭が混乱し、幸子の顔をじっと見つめたまま固まってしまう。
「……うーむ、ますますお前という存在が分からなくなってきた」
「確かに、ボクもボク自身がカワイ過ぎて、何者なのか分からなくなることがありますねぇ。そう考えれば、プロデューサーさんがボクを何者なのか分からなくなるのは、当然と言えば当然のことかもしれないです!」
俺はなんだか頭が痛くなってくる。あと一週間程で幸子とは出会って一ヶ月にもなるというのに、事あるごとに次から次へと新たな情報が出てくるからだ。
もしかしてお前、本当に天使か何かなんじゃないのか?
「……まあそれはそれとして、そう言えばプロデューサーさん、さっきから気になっていたんですけど、今日は何かいつもと雰囲気変わりました?」
「あ……ああ……ん? ふ、雰囲気?」
と、幸子は何かに気がついたのか、不思議な顔をしながら俺の顔をじっと見てくる。そんな幸子の様子に、自分の世界に入り込んでいた俺はようやく我に返った。
「雰囲気? 雰囲気……ああ、もしかしたらこれのせいかもな」
そう言って俺は手を顔の方に伸ばすと『それ』をとった。
「メガネ……?」
「ご明答。なんだ、似合ってなかったのか?」
「いや別に、似合っていないとかそういう訳では無いです。ただ、プロデューサーさんってそんなにメガネをかけるほど視力悪かったんですか?」
「ああ、それについては……」
「言わないでください! ボクが見事に当ててみせますから……」
そう言うと幸子は、オーバーリアクションで考える素振りを始めた。その顎に手を当ててじっとこちらを見てくる姿は、丸で小さな名探偵か。
「……分かりました! いきなりメガネなんかを着けた理由はズバリ、カワイイボクの顔をもっとしっかりと見るためで……いや、もしかしたらカワイイボクがカワイ過ぎたせいで、プロデューサーさんの目を晦ましてしまったのかも……」
「おめーは太陽神か何かか。まあ残念、答えを言うとこれは伊達メガネ、つまりただのファッションだな」
そう言うと幸子は盛大にずっこける。
「がくっ、なんでそんな紛らわしいことを!!」
「いやさ、メガネをかけていた方が人って理知的に見えるだろ? 幸子もまだ駆け出しとはいえ、表舞台にデビューした訳だしな。だから、プロデューサーである俺も、少しはイメージをよく見られる様に工夫しないとと思ってさ」
「なんだ、そういうことだったんですか。まあ、カワイイボクの為を思ってのことだったというのならば、ボクはこれ以上別に何も言いませんけど……」
相変わらず話に納得するのが、最新型のパソコン並に早いな本当に。
確かにメガネをかけ始めた理由に関しては嘘ではないが、その幸子の納得や理解の速さに、将来詐欺や悪質なセールスマンに引っかからないか少し心配になってくる。本当に何に関しても危なっかしいな、お前は。
「で、話は少し戻るが、幸子の方は久々の学校生活はどうだったんだ? あと、学校とアイドルの両立で変に疲れが溜まっていたりはしないか? 山梨からわざわざ来ていただなんて聞かされたら、その辺りが益々心配になってきたよ」
「今の所は、特に変わったことはありませんね。学校生活の方も特に今まで通りですし、通学や移動の疲れとかも、なんだかんだ言ってこの程度ならまだ平気です。むしろ、そんなプロデューサーさんの方こそ、カワイイボクと会える時間が少なくなって、寂しくなったりはしてませんか?」
「ああ。お陰様で今までより部屋が静かで、幾分快適に作業ができているよ」
「それってどういう意味ですか!?」
「悪い悪い、冗談だ。本当はちょっと部屋が静か過ぎて、何だか違和感を感じていた所だよ」
実際、八月の間あれだけ毎日四六時中一緒に居たせいか、幸子が居ないこの部屋に違和感を感じてしまう。
確かに、仕事には幾分集中できるかもしれない。だが本音を言うと、そのいつもより果てしなく長い沈黙が俺は嫌いだった。
「……ふんっ! まあいいです! 別に、プロデューサーさんがいなくたって、今のボクにはクラスの皆さんがいますから!」
「ほう。じゃあなんだ、もう学校の方では幸子は人気者なのか?」
「はい! 今やボクの通ってる学校でも、カワイイボクは人気者なんです! この前テレビに出てたカワイイアイドルがって、それはもうサインを求める列が……」
「どれ位話を盛った?」
「……サインはまだ、パパとママと、あと近所のおばさんにしか……」
「……はぁ……」
俺はため息を漏らす。
「も、もしかしたら、ボクの纏うカワイイオーラが凄すぎるせいで、一般の人達からするとサインとかを求めにくいのかもしれませんね! ねっ!」
「……そうだな。そういうことにしておいてやるよ」
日頃のレッスンで磨かれたアイドルとしての資質以外、半月前の出会った時から何一つ変わらない幸子の様子。だが、それが逆に心地よかった。
別に、彼女とはたかが半日会えなかっただけに過ぎないのだが、それでも彼女の居ないこの部屋に、妙な空白を感じて寂しさが拭えなかったのだ。
なんだか、あの幸子と出会うまでの無色で無個性な日々を思い出してしまってな。
つまりなるほど、これが一度知ってしまったら抜け出せない沼、つまりは担当アイドルを持つということなのか。
「と、とりあえずプロデューサーさん! 仮にもし、これから仕事が忙しくなってきたとしても、学校の方は心配しなくて大丈夫です! いざとなったら、ボクはアイドル活動に専念できますから!」
「いいや、それはダメだ。幸子のその意気込みや気持ちは十分有難いけど、学校にはちゃんと行け。学生の本業はアイドル活動じゃなくて、学舎での勉強と、仲間達との青春なんだから」
「プロデューサーさん、やっぱり考え方や言い回しがジジ臭いですね……」
「ジ、ジジ臭いってなんだお前!?」
「いや、プロデューサーさんって前から、一々言葉が説教臭いというか……どこか古臭いというか……」
「……確かに、それについてはあまり否定はできないな」
実際、うちの親は周りからすると少し世代が上だった。そのせいか親の教育方針がなんというか昔的で、今からすると少し堅苦しい物だったのかもしれない。
そんな教育を受けて育ったせいか、現代に住む俺まで親の影響を受けて、この通り考え方や発言が少しだけ古臭くなってしまった。とは言え、決してその教えの数々は間違った物ではないとは思うのだが。
「ともかく、そんなことはいいんです。プロデューサーさん、今の言葉に一言だけボクの反論を、ちょっとしたワガママを言わせてください」
「おっ、反論とは珍しいな。なんだ?」
「確かに、勉強は学校でしかできません。ですが、それと同じ様に、アイドルの仕事をすることもここでしかできないんです! プロデューサーさんとアイドルの仕事をすることだって、ボクの大切な青春の一つなんですからね。それだけは、頭の片隅にでも入れておいてください!」
「……参った、こりゃ一本取られたな。それを言われたら何も言い返せないよ」
俺と働くことも青春の一つ、か。彼女の言い放ったその言葉に、ドヤ顔で大人ぶった発言をした俺は、少しだけ反省させられる。そしてそれと同時に、彼女のアイドルに対する並々ならぬ強い思いが伝わってきた。
「分かった。そこまで言うなら、アイドル活動と学業の配分はお前に任せるよ。ただ、学校の先生や親御さんに怒られない程度にな。最近は教育委員会やら、児童保護団体やら、色々怖い人達が多いから」
「フフーン! ありがとうございます!」
やっぱりダメだな。幸子のこの時折見せる天使じみた笑顔の前には、俺の岩石の様に堅物な頭も少し緩んでしまう。
まったく、また今日も彼女のある種のワガママを聞き入れてしまった。彼女には本当、適わないな。
「ただし、これだけは言わせてくれ」
「はい? なんです?」
「無理と無茶だけは、絶対にするなよ? レッスンとかスケジュールとか、辛くなったらとにかくなんでも俺に言ってくれ」
そう言うと、彼女は笑みを浮かべる。
「フフーン! 無茶をするのは、プロデューサーさん一人で十分です! でも、プロデューサーさんも同じく無理だけはしないでくださいね? その~……プロデューサーさんが倒れると、ボクが困るので!」
「……まったく、お前は本当に無茶を言うな」
ああ、まったくだ。
「さあ、今の話がわかったなら、早く仕事を探してきてください! まだまだカワイイボクがトップアイドルを名乗るには、仕事の数が少な過ぎですよ!」
「へいへい、それじゃあ今日もお仕事頑張りますよ、お嬢様」
「お嬢様扱いじゃ足りません! お姫様、いや女神様扱い位にはしてください!」
「……それにしても、本当に何一つブレないな、お前は」
「だって、それがボクですから!」
こうして月も変わり、気持ちを新たに始まった俺達の日々。その数は決して多いとは言えないが、それでも少しずつ部屋のホワイトボードに仕事の文字が増えてきており、俺達のプロデュースには順調に良い追い風が吹いてきていた。
肝心の幸子の方も調子は上々の様で、アイドル活動への体勢も非常に前向きで良い兆候だ。できればこのまま二人で波に乗っていきたい。
まあ、そんな彼女を活かすも殺すも、全てはプロデューサーである俺の手にかかっているのだがな。
自称世界一カワイイアイドル、輿水幸子。そしてそのプロデューサーである俺。そんな二人による新たなる旅が今、ここから始まろうとしていた……
どうも久しぶりです。5thライブを見てきてから涙腺と語彙力がガバガバになった作者ことドラソードPです。
決してオリジナル小説から逃げてきたわけではありません。決して。幸子達がカワイイからいけないんです。
本当です。カワイ過ぎてついつい幸子達の話が書きたくなってしまうのです。
というわけでシーズン2開始です。
ここからが本当の幸子攻略ルート、もとい幸子が主役のアイドルマスターです。
正直失踪すると思った? 残念、そもそもこの話を書くこと以外に作者は本気でやれることがありません。
ぶっちゃけゲームは暇つぶしとモチベ回復剤です(ただしアイマスに限ってはもはや命そのもの)
まあこれからもいつも通りぼちぼちと書いていきます。
それでは早速次回、と行きたいのですが書きたい話が多過ぎるのでどこから消化するか現在考え中です。
というか今度こそオリジナル小説の方を書くから……多分次回更新は遅いかと。
とりあえず作者をお気に入り登録ポチーして、そのうちひょっこり現れる新着小説から見てね!(YouTuber並の露骨な宣伝)
文章の改行や空白
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前の方が良い
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今の新しい方が良い