アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜   作:ドラソードP

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※7月23日追記
エピローグ、あります。


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 こうして時間になった俺達は、舞台裏とステージとの出入口付近へと移動した。こうなってくると話の流れもあっという間なもので、あれだけ待たされていたというのに数分もしないでもう出番だということだ。

 先ほどの飛鳥達との楽しげな雰囲気は一変、辺りには張り詰める様な緊張が広がっていた。

 

 そんな中、幸子は少しだけ浮かない顔をして俺に話しかけてくる。

 

「プロデューサーさん……」

 

「なんだ?」

 

「手、繋いでください」

 

 そう言うと幸子は俺の顔をじっと見つめながら、こちらに手を差し出してきた。その幸子の瞳は一切ぶれること無く、こちらの視線をしっかりと覗き込んでいる。

 

「ぷ、プロデューサーさんがなんだかまだ緊張している様に見えたので、仕方ないから始まるまでボクが手を繋いであげようとしているんです」

 

「……とか言って、どうせ本当に緊張してんのはそっちだろ」

 

「なっ……このボクに限ってきき、き緊張なんてそんなこと!! そ、そんなにプロデューサーさんはカワイイボクと手を繋ぎたくないんですか?」

 

「いや、俺は別に繋いであげても良いんだが?」

 

 俺は幸子の本心は勿論分かっていたのだが、そんな必死な幸子がなんだか可愛らしくて仕方がないので、あえて知らないふりをしていた。

 こんな重要な場面でまで担当アイドルをイジるとは、まったく俺も性格が悪いな。

 

「……なんです? そのやたら上から目線な返しは。いつからプロデューサーさんは、ボクより偉くなったというんですか」

 

「元からだよ」

 

「……なんなんですか、本当に」

 

 と、会話が途切れてしまう。だが幸子は俺から望んでいなかった反応が返ってきた為か、なんだか落ち着きが無く、モジモジとしている。

 

「……あーもうわかりました!! 手を繋いでください!! 手を!! やっぱり緊張してきて、なんだか手とか足とか、とにかく身体の色々な箇所が落ち着かないんですよ!!」

 

「……まったく、そうなら最初からそう言えば良いのに。本当に素直じゃないお姫様だこと。結局、お前はまだまだ俺が居ないとダメじゃないか」

 

 俺は幸子の手を取る。すると彼女は俺と手が触れた瞬間深く、そして強く、その小さな手で握り返してきた。まるで離れるのが嫌とでも言うかのように、ただ強く。

 

「……いいえ、それはちょっとだけ違います」

 

「違う?」

 

 そう言うと不機嫌そうな顔から一変、一呼吸入れると満面の笑みを浮かべて彼女は答えた。

 

「プロデューサーさんと一緒だったから、掴めた今日なんです」

 

 その狂いや迷いが一片もない純粋な瞳、それが彼女の本心の全てを表していた。それは偽りでも、建前でもなく、紛れもない彼女の心からの言葉だった。

 

「……ふっ、そうか。一緒だったから……か」

 

 どうやら俺は、また彼女に一本取られてしまったようだな。ああそうだ。今日までの道は決して幸子一人で切り開いたものでも、俺一人で切り開いた道でもない。

 

 

 

 

 

 

 そう、つまりは『俺達二人で作ってきた道』なんだ。

 

 

 

 

 

 

 アイドルとプロデューサー、そのどちらかが欠けても絶対に成り立たない関係、その先にあったのが『今日』という日だったんだ。

 

「……やれやれ。俺もお前に、それくらい気を効かせた言葉を言ってやりたかったよ」

 

「大丈夫です。そんなセリフ、最初からプロデューサーさんには期待していませんから」

 

「う、うるせえ!」

 

 とか言っておいて、実際俺はそんなカッコつけたセリフを言うようなキャラじゃないけどな。それに、言ってしまえば俺も本当は彼女と同じで、本心を伝えるのはあまり得意じゃない。

 まったく、変に器用なんだか不器用なんだか、自分の事ながら面倒臭い人間だと思うよ本当に。

 

「……まっ、でもなんだ? そんなこと言ったって今日、お前はもうドレスを着たシンデレラなんだ。俺は確かに気の利いたセリフは言ってやれないかもしれない。だったらせめて、そんなシンデレラを舞台までエスコートするくらいのことはさせてくれ」

 

「シ、シンデレラ……?」

 

「ああ。それがプロデューサーとして、姫を城に送る魔法使いとして、いや一人の俺として、今出来る精一杯の役目だからな」

 

「……はい!」

 

 幸子はそう返事をすると一度だけ、小さく頷いた。

 

「だからさ、もう何も心配するな。この手が離れたって、俺はいつでもお前の傍に着いている。胸張って、お前が見せられる最大の輿水幸子を思う存分みせてこい」

 

「……フフーン! そんなこと、言われなくても勿論です!」

 

 この先、俺達を何が待ち受けているかは分からない。だが未来を信じて、前に進むくらいなら誰にだってできる。

 

「さあ、とっととこのデビューライブを成功させて、346プロ(ウチ)に帰るぞ。ライブが無事に終わったら食いたいもの、なんでもたんまりと食わせてやるからよ」

 

「それなら、原宿に新しくできたクレープ屋さんでいいですか?」

 

「おうよ。ご注文(オーダー)承りました、幸子お嬢様」

 

「待機中のアイドルの皆さん!! カウントダウン、入ります!!」

 

「……さて、魔法使いのエスコートも、とりあえずここまでか」

 

 スタッフさんの掛け声が響き、ついにカウントダウンが始まる。舞台への門出と、彼女達の新たなる始まりへのカウントダウンが。

 

「それじゃ、また後でな」

 

「はい、行ってきます。プロデューサーさん」

 

「ああ、存分に楽しんでこい」

 

 

 

 

 

 

 ああ、きっと行けるさ。俺達ならあのかつての伝説へ。

 たどり着いてみせるさ。あのかつての『輝きの向こう側』へ。

 

 

 

 

 

 

 それから数秒置いた次の瞬間、スタッフのGOサインが出る。そしてそれを合図に幸子の細いその指がゆっくりと俺の手を離れていき、彼女はステージの方へと足を進めていく。その足取りはどこか軽いようで、何かが重かった様にも見えた。

 

 彼女達の未来への希望や不安、そして覚悟を背負った足音が一歩、また一歩と離れて行く。『今日』から『明日』へと。

 

 

 

 

 

 

 そしてその足音は突然消える。

 途端に辺りに広がる静寂。

 

 そのしばらくの静寂の後、司会による紹介が終わると共に、スポットライトの点灯音が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 刹那、舞台の幕は開かれた__

 

 

 

 

 

 

 

 

『初めまして、そしてこんにちは!! 会場の皆さん!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 会場から溢れる歓声、そして舞台裏までをも照らす眩い光。しかし今、舞台裏に居る俺からは彼女達の姿は一切見えない。

 

 だがそれでもたった一つだけ、確実に分かることがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 きっと、ステージに立った彼女達は、最高の笑顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




……ありがとな、幸子。

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