アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜 作:ドラソードP
第54話〈プロデュース14日目〉
カワイイボクと花火大会
日がそろそろ沈み始める時間帯、丁度夕方の六時くらいか。俺は都内某所の河川敷で幸子と花火を見る為、待ち合わせの場所に来た。
周りをみわたすと、浴衣を来たカップルや親子連れ、その他会社帰りの社員と思われる人達が大勢居る。
「……という訳で、これから花火大会の場所取りをしに行きますよ。プロデューサーさん」
「うい、了解」
「……で、プロデューサーさん。場所取りに行く前に、一つだけいいですか?」
「なんだ?」
「なんで飛鳥さんや乃々さんが居るんですか!!」
幸子は俺の後ろに居る、浴衣姿の飛鳥と乃々を指差し怒ってくる。
「いや、二人だけだと寂しいかなと思ってさ。みんなに話を聞いたら是非参加したいって来たから」
「別に、ボク達はプロデューサーから誘われたから来ただけだ。なんで居るとは、色々と心外だな幸子」
「ま、まあ確かに飛鳥さんも乃々さんも全然悪くないですね……すいません。悪いのは、女の子の気持ちを全く理解していないプロデューサーさんです」
「女の子の気持ちを理解していない?」
「そうですよ、カワイイボクの気持ちを理解しようとしないで……」
「なんだ、幸子。もしかして俺、なんか悪いことでもしたか?」
「別にしてませんよーだ!」
幸子はなぜだか知らないが、いきなり怒ってへそを曲げてしまった。せっかく幸子の方から花火を見に行こうと誘われたから来たのに、初っ端からこれだよ。
まあ、とか言いつつどうせこのパターンは、いつも通りしばらくすれば勝手に元に戻るんだろうけどな。まったく、お前は低反発素材でも使っているのか。
「……とりあえず、皆さんはもうここに来てしまっているので、これ以上ボクがゴネても仕方ありませんね。別にボクは寛大なので、これ以上何も言いません。プロデューサーさんの言う通り、折角なのでみんなで仲良く夏の風物詩を楽しむことにしましょう」
「へいへい了解……」
「ああ、分かった。空に光り輝く大輪の華、夏の風物詩、是非ともこの瞳と脳裏に焼き付けるとしようか」
「は、はい……」
「じゃあ、そういうことでしゅっぱーつ!!」
「本当にテンションの上がり下がり激しいなお前……」
さて、こうして出発前に色々ごたごたがあった俺達だが、花火を見るための場所取りへと出発した。待ち合わせの場所から花火を見る場所へは、多少だが距離があるので、俺達は適当に話をしながら歩いていく。
「しかし、乃々さんがこういうのに二つ返事で参加するのってのも珍しいですねぇ。乃々さんって人の多い場所とか騒がしい場所って、苦手だと思っていましたから」
「それはー……えーっと、そのー……本当だったら今日は、もりくぼのプロデューサーに初ライブ直前夏の特別合宿、ということで山に泊まり込みで色々やらされることになっていたんですけど……それから逃げる為の口実に、花火大会を……」
「……大体、どういうことか察しました。今日位はゆっくり花火を満喫していってください、乃々さん」
「……ありがとうございます、幸子さん」
と、俺はふと幸子の浴衣が目に入った。恐らく、この浴衣がこの前買った浴衣なのだろうか。白の浴衣にピンクの綺麗な花柄や可愛いハートが描かれている。
その幸子の幼くも可憐な姿に、可愛らしくも気品のある雰囲気の浴衣が絶妙にマッチし、まさに理想的な和風美人を作り出していた。
「そういや幸子、その浴衣がこの前渋谷に買いに行った浴衣なのか?」
「フフーン、その通り! どうです? 早速プロデューサーさんもカワイイボクに魅力されて、メロメロになっちゃいました?」
幸子は俺の前に出てきて、浴衣を見せ付けるかのようにその場でゆっくりと一回転する。街頭の光に照らされ、幸子の鮮やかな浴衣が、その可愛らしくも中学生らしい色気を出す。
「……本当ならいつもみたいに何かしらツッコミたいんだが、実際可愛いから何もツッコめないって感じだな。色々反応に困る」
「なんでプロデューサーさんはいつも、芸人よろしくツッコミのスタンバイをしているんですか。まったく、カワイイなら素直にカワイイって言えないんですか?」
何が困るって、この前の衣装合わせの時といい、幸子は黙っていると本当にただの美少女でしかないからだ。可愛いからこそ、普段とのギャップでなんだか他人と接しているみたいに感じてしまう。
幸子もそこまで可愛いことを強調したり自負しなくても、周りは普通に分かってくれているんじゃないのだろうか。彼女が自らの可愛いさをアピールしてくる度に、そう俺は思う。つくづく幸子は色々変わっているというか、なんというか不思議な子だよな。
「ま、ともかく冗談は抜きにして、かなり似合ってるんじゃないか? 実際可愛いってことについては嘘偽り無しだ」
「当然です! ボクはカワイイんですから!」
「わかった訂正する。『浴衣は』可愛いな」
「『浴衣は』じゃなくて、ボクがカワイイから『浴衣も』相対的にカワイくなるんですー!!」
「それじゃあわざわざ渋谷に浴衣を買いに行かなくても、そこら辺の店で買った浴衣で良かったんじゃ……」
「ダメです!! 最高にカワイイ存在には、他のカワイイ人達の為に常に、最高基準のカワイイ存在でいなければいけないという責任があるんです!!」
「……疲れた、もう帰りたい」
とは言いつつ、浴衣はあれだけ苦労して探しただけあり、俺も本当に可愛いと思っていた。幸子があれだけ必死にこだわろうとしていたのも、確かに分からなくもない。
「……まったく、さっきからキミたちは人の脇目も気にせず大声で会話をしているが、恥ずかしいとは思わないのかい? まるで迷惑なカップルか何かみたいだ」
「か、カップル!?」
幸子はカップルという言葉を聞いて顔を真っ赤にし黙り込む。
「かっ……かかか……カップル……」
「サンキューアスカ」
「なんだ、ボクの言葉が意図せず役にたった感じなのか?」
「そんな感じだ」
幸子が黙り込んだので俺は丁度良いと思い、先程から後ろに黙って着いてきていた飛鳥達に話しかける。
「そう言えば飛鳥も乃々も、その浴衣は自前なのか?」
「もりくぼは……そんな感じです」
「ボクの方は一応、と言ったところか。生憎小学校の頃着ていた浴衣が着れたのでね。貯金を使わず得をしたが、ボクはもっと大切な何かに負けた気がするよ」
「……まあ、人間の第二次成長は遅い人も居るから、あんまり気にするな飛鳥」
「無理な同情はやめてくれ、余計悲しくなる」
そんなこんな言っている飛鳥だが、幸子よりは幾分マシだろうな、と俺は思った。
まだ飛鳥は中学生と言ったら普通に分かってもらえるだろうが、幸子に関しては見た目だけなら本当に小学生にしか見えない。だって142cmなんてほぼ小学生五、六年生の平均身長だぞ? 実際俺も一番初回に出会った時、プロフィールを見て実年齢との差に色々驚かされた。
「……別に良いじゃないですか飛鳥さん。世の中には、ボクのプロデューサーさんみたいな、小さい子しか愛せない人も居るんですから」
「そうなのか? プロデューサー」
「幸子、次に余分なことを言ったら花火と一緒に上空に打ち上げんぞ」
「すいませんでした」
何故か幸子にはよく勘違いされているが、俺は年下はあまり好みじゃない。かと言って年上が好きなのかと言われても微妙、と言った感じか。というか生憎、俺は昔から異性と関わる機会みたいのがほとんど無かったからな。だから歳上が好き、とか歳下が好き、というよりあまり興味が無かった、というのが正しいか。そのせいで最近は親に会う度に、早く結婚しろと急かされる始末だがな。
「そういえばそんなプロデューサーさんは、結局この前の渋谷の時と同じ普段着なんですね」
「ああ。俺は浴衣なんて洒落たものは一着も持ってないし、そもそも持っていたとしてもそういうのを着て、一緒に出かけられる様な友人も居なかったからな」
今日の俺の格好は花火大会には不釣り合いなこの前と同じあの格好だ。とは言っても周りの全ての人間が浴衣って訳でもないし、普通の私服だから別にそこまで問題は無いのだろうがな。むしろ、日本人はその辺に縛られ過ぎな気もする。
「だったらこの機会に買っておけばよかったじゃないですか。これからボク達と出かける機会とかも増えるかもしれないんですし」
「あのなぁ、俺にはそんな金は余っていません。ただでさえ一人暮らしで予算がカッツカツなのに、一年に数回しか着ない浴衣なんかに金は出せないって」
「プロデューサーさんって、意外とそういう所はケチですよね……」
「そこは無駄使いをしない、貯金できる人間と呼んでくれ」
と、実際貯金をしてあるとは言っても、その微かな貯金に使い道があるのかと言われると実は使い道が全く無い。別に世界旅行に行きたいわけでもなく、高級車が欲しいわけでもなく、とにかく特に意味も無く貯金しているのだ。
それじゃあ着物ぐらい買っても問題ないんじゃないのか? 実を言うと俺は貯めたら貯めたで、逆に今度はその貯金を勿体なくなって使えなくなる性格なのだ。RPGゲーム等で貴重なアイテムを結局最後まで使わない、そんなことしょっちゅうあります。
まあ幸子が言う通り、最近は幸子と出かけることも多くなってきたし、丁度良い機会だから何かそっち方面で有意義な使い方でもするか。例えば、仕事や移動で使うことも視野に入れて、軽自動車っかでも買うとかな。
さて、こんな感じで俺達は話しながら十分ほど歩いた。そんな中俺は、丁度場所取りに良さそうなスペースが目にとまる。ブルーシートも敷かれていないし、場所取りの目印の様な物も無い。かと言って、景色が悪そうということも無さそうだ。今日場所取りをしようとしていた目的地はここから更に数分の所なのだが、ここも良さそうな場所だし、とりあえず三人に聞いてみるか。
「なあ幸子。ここ結構花火も良く見えそうだし、丁度まだ誰も場所取りをしていないみたいだからこの辺で場所取りにするか?」
「あれ、目的の場所はもう少し先じゃなかったですか?」
「そうなんだけどな。場所は近いに越したことはないし、それに少し場所を変えたぐらいでそこまで支障は無いだろう」
「まあ、別にプロデューサーさんが言うなら構いませんよ?」
「わかった。じゃあ飛鳥も乃々も、それで良いか?」
「ああ、ボクはキミに従うだけだ」
「はい」
ということで俺は持ってきた荷物を下ろし、場所取りの準備を始める。とは言え四人分のスペースしかないし、そんな大掛かりな作業にはならない。とりあえず持ってきた小さめのブルーシートを広げ、その上に携帯式テーブル等を置いていく。後は風でシートが飛ばないように少し工夫をすれば、そこにはあっという間に花火を見るためのスペースが確保されていた。俺はその敷いたばかりのブルーシートの上に座る。
「よしっと、ざっくりこんな感じで準備完了だ。で、これから花火大会の開始までは少し時間があるが、三人はどうする?」
「それならプロデューサーさん、ボク達は飲み物とかを買ってくるのでここの見張り、お願いしますね」
「ほう、意外だな。俺に買いに行かせるんじゃないのか」
「だってプロデューサーさん、お使いに行かせると色々寄り道して時間がかかるじゃないですか。それなら、自分達で行ったほうが早いと思って」
「はい、すいませんでした」
どうやら幸子は、一昨日俺がお使いに行かされた時に、川島さんと話して帰るのが遅れたことを根に持っているようだ。普段なら、幸子が自分から買い物に行くなんてことは、到底ありえないことだからな。
「とりあえず、そういうわけでプロデューサーさんはここで番犬をしていてください。あとボクが居ないからって、また美女と話したりなんてしていたらボク、今度こそ本気で怒りますからね?」
「分かったよ」
「それじゃあ、行ってきます!」
「あ、ちょっと待ってくれ幸子」
「なんです?」
俺はさっさと飲み物を買いに行こうとしている幸子達を呼び止め、財布を取り出す。そして俺は財布の中から千円札を取り出すと、幸子に渡した。
「ほらよ、ケチなプロデューサーの使い道もない貯金だ。三人で仲良く分けて使ってくれ」
「良いんですか? 貰っちゃって」
「ああ。日ごろ頑張ってる三人への、ちょっとしたお小遣いだ」
どうせ使い道の無い貯金なんだ。これで幸子達の笑顔が見れるなら、安すぎるくらいさ。
「礼を言うよ、プロデューサー。この借りは何時か、必ず返す」
「そんな大したもんじゃ無いって。飛鳥達にはいつも幸子が世話になってるから、それで帳消しだ」
「フッ、なるほどそういうことか。了解、わかったよ」
「それじゃあそういうことで、ボク達は行ってきますね」
「ああ、行ってらっしゃい。変な奴には気を付けろよ~」
こうして俺は場所取りしたブルーシートの上に一人残され、黙々と幸子達が帰ってくるのを待つことになった。
しかし、こうして買い物に行く三人の後ろ姿を見ると、やっぱりどこにでもいるような仲の良い、普通の中学生の少女にしか見えないよな。
彼女達はアイドルであっても本質は一人の女の子。ある意味プロデューサーである俺しか知り得ない、彼女達の素の姿だった。
皆さんお久しぶりです。
免許の本試験にも受かって少々浮かれ気味の作者です。
さて、ということで久しぶりの更新なのですが遂に念願の花火大会編です(これやるのに何ヶ月かかってんだ)
作者は文中に結構伏線(とは言っても大したものではない)を良く入れてます。花火大会もそうですが、今回なんかだと車の話をしていましたが、こういった感じで多分そのうちやります。
それにしても幸子の浴衣姿って公式で無いんですよね(記憶違いじゃなきゃ)
水着は公式様からありがたい姿があるので良いんですけど、和風美人な幸子も見たい!公式さんオナシャス!
次回、結局いつものメンバーじゃねえか!
あと全国の美玲ちゃんP、おめでとうございます(作者はもう死ぬ程喜んだ)(インディヴィジュアルズ流行れ)
文章の改行や空白
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前の方が良い
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今の新しい方が良い