アイドルマスターシンデレラガールズ 〜自称天使の存在証明〜 作:ドラソードP
積もる話はありますがとりあえず本編見て、どうぞ
第47話
幸子会 〜森久保乃々編〜
女子会の次なる話題の標的は、机の下で目立たないようにステルスしていた乃々に向けられた。突然美嘉達に話題を振られ、挙句机の下から事実上引きずり出された乃々は、親元から離された生まれたての子猫の様に震えながらテーブルの前に座らさせられている。
「まあまあ、そんなに緊張しなくて良いって。別にアタシ達はさ、乃々ちゃんにいじわるをしたい訳じゃないんだからさ」
「そうです! 今日はカワイイボクの無礼講なんですから、机の下みたいなジメジメした場所に引きこもっていないでもっとパーっとやっちゃって下さい!」
美嘉と幸子は満更でも無い様子だが、肝心の乃々の方は幸子達二人の剣幕に押されて萎縮してしまっている。
「おいおい、あんまり乃々に無理はさせてやんなよ? 幸子、美嘉」
「大丈夫大丈夫! それに、これくらいの絡みに着いてこれる様にならないと、アイドルなんてそもそもやって行けないって」
「そうです乃々さん! 幾ら見た目はカワイイからって、そんな調子じゃもっとカワイイボクとカリスマ美嘉さんは、越せませんよ!」
完全にノリが可愛いアイドル達の女子会では無く、仕事帰りのサラリーマン達の飲み会のそれである。二人はまるで、新入社員を飲み会に誘ってダル絡みをする陽気な上司二人組みたいだ。
というか幸子も美嘉も、二人ともいつの間にか仲良くなり過ぎではないだろうか。いや、まだ出会って二日だろ? ライブの時に会ったきりだろ?
「あの……何か誤解されてるようですけど、別にもりくぼはアイドルをこれからもずっとやって行こうとは思っていないですし、そもそも幸子ちゃんを越えようなんて思ったこともないですし……」
「ん? どういうこと?」
恐らく、大きな夢を持ちアイドルという仕事を今一生懸命に楽しみながら頑張っている美嘉からしたら、乃々の言葉は全く想像できなかったセリフだったのだろう。美嘉は咄嗟に聞き返す。
「その……えーっと……それについては色々……」
「あー……美嘉、それについては俺が説明する」
乃々の担当でもないのに彼女について説明するというのもおかしな話だが、俺は美嘉や飛鳥に乃々がどうしてアイドルになったのかの経緯について説明する。
正直もう、こんな日常に慣れてきた俺からするともう驚きもしない話だが、美嘉は乃々のあまりにも常識離れしたスカウト話に一瞬思考停止した様で、再び話し始めるまでに一瞬間が空いた。
「……あーなるほどねー。なんだか色々大変そうだね、乃々ちゃん」
「わざわざ説明ありがとうございます……幸子ちゃんのプロデューサーさん」
「気弱な少女にも隠された真実……そうか、キミがいつもレッスンやアイドル活動に前向きでは無かったのは、そういった経緯があっての事だったのか」
「まあ……みなさん分かってもらえたと思いますけど、今幸子ちゃんのプロデューサーさんが説明してくれた通りです。正直今すぐにアイドルを辞めたいというか、タイミングを見て自然消滅をしたいというか……いっそ私なんて、クビにしてもらった方がお互いに嫌な思いをしなくて得だと思いますし……」
乃々の表情は話せば話す程どんどん暗くなっていく。どうやら例の如くいつものネガティブスイッチが入ってしまっている様だ。
「というかそれ、まだ言ってたんですか乃々さん!」
「まだもなにも、もりくぼの考えは最初からずっと一貫してますよ……」
乃々は幸子の絡みに嫌そうな顔をしながら小さな声で答える。
「そうです、美嘉さんや飛鳥さんも聞いてくださいよ! 乃々さんったら、この前せっかくカワイイボクが乃々さんの為に自信を付けさせてあげようと直々に色々してあげたのに、ずっとこの調子でアイドルを辞めたいって言うんですよ? まったくカワイイボクに失礼だと思いません?」
いやいやそのお前の理論はおかしいだろ、と俺は心の中で思う。むしろ乃々からしたらただの迷惑の押し売りにしかなっていないだろそれ。
「……そうだ! とりあえず、丁度美嘉さんや飛鳥さんも居る良い機会ですし、乃々さんに自信をつけてもらう良い考えとかはありませんか? 皆さん」
「うーん……急に自信を付ける良い考えが無いかって言われてもね〜。アタシもここにはスカウトで入った人間だし、アタシも最初は……まあ辞めたくなるほどじゃなかったけど、今から比べると全然自信とか無かったからな〜。アタシから言える事はせいぜい、辞めない程度に頑張って、くらいかな」
「ああ、ボクも美嘉の意見に同意だ。彼女が言う通り、むしろボク達はまだこれからデビューする身分の存在に過ぎない。自信が無いのも、必然的では無いのではないか? アイドルになった以上、ここから先は彼女の意思次第だと思うのだが」
「ま、まあ皆さんにそう言われてみると、確かにそうかもしれないとは思いますけど……」
「言いくるめられるの早すぎだろお前……」
幸子は美嘉と飛鳥に諭され何か悩んだ表情のまま黙り込んでしまった。それに続くように他の三人も黙り込んでしまい部屋には女子会にも関わらず、少女達と一人の男の悩む声だけが漏れていた。
「……それにしても、話はちょっと変わるけどなんで幸子ちゃんは乃々ちゃんの為にそこまでしてあげるの? 別にそれが悪いって訳じゃないんだけど、ちょっと気になったかなーって」
「確かに、それについては俺も前の時から疑問に思っていたな。どうなんだ? 本心の所は」
「べ、別に本心も何も深い意味はありませんよ! 本来ならライバルが消えてくれた方がボクとしても嬉しいんですけど、それだとせこいやり方をして勝ったみたいで、カワイイボクのプライドが許せないから仕方なく、仕方なーく自信を付けさせてあげているだけなんです!」
幸子は急に早口になり、必死に自分は心配なんてしてあげてないですからねアピールをしている。だが既に、俺も含め皆幸子の本心には気が付いており、必死に喋る幸子を暖かい目で見守っていた。
「本当に〜?」
「な、何ですかプロデューサーさん。ほ、本当ですよ! 別に、乃々さんはボクの数少ない友達だからこれからも一緒にアイドルをやっていきたいとか、自信を持ってもらいたい、とか思って良心でやってあげているわけじゃ無いんですからね!」
「もう本音全部言ってるじゃねえか……」
幸子は苦し紛れに言い訳をするが、本音が口から水漏れしている蛇口の水の如く全部ダダ漏れである。とりあえず俺達の視線が気になり色々やりずらくなったのか、幸子は突然立ち上がると足早に冷蔵庫の方に向かった。
「わ、わかりました。ま、まあと、とりあえず乃々さん一杯飲んでください!」
そう言うと幸子は冷蔵庫からお茶を取り出してきて、戻ってくると空になっていた乃々のコップに注いだ。
「あ……別に、もりくぼの分のお茶なら要らないですよ。いっそ居ない存在として見てもらっても……」
「つべこべうるさいです! なんですか? ボクの注いだお茶が飲めないって言うんですか!」
幸子は机を叩き立ち上がる。まさに、部下に飲めない酒を無理やり飲ます悪質な上司その物だ。
ああ、間違っても幸子の部下にはなりたくないな。二十四時間四六時中ブラック企業も真っ青なレベルでこき使われた挙句、仕事終わりに関わらず飲み会やカラオケに無理やり連れていかれて、ドヤ顔でやりたい放題されそうだ。
良かった、幸子じゃなくて俺の方がプロデューサーで。俺の方がアイドルだったら耐えられなくて、間違いなくすぐにアイドルを辞めるだろう。
「はい、とにかく飲んでください!」
「うぅ……それじゃあ……すいません、頂きます……」
乃々は紙コップに注がれたお茶を幸子に言われ渋々一口飲む。それを見て幸子はよろしい! とばかりにフフーンと鼻を鳴らす。
「……確かに、乃々さんの言い分も確かによーくわかります! それはボクみたいな真にカワイイ存在がここに居る建前、自分から自分のことをカワイイ、だとか凄い、とは言えないですもんねえはいはいわかりますわかります」
「まーたなんか言ってるよこの子」
「またって何ですか! 何か変なこと言っていましたかボク?」
「あー……いや、すまない。そうだな、何もおかしくない、おかしいことなんて全く言っていないぞ。確かにいつも通りの平常運転だな」
「……ま、まあプロデューサーさんのガヤが入りましたが、ともかくですよ乃々さん。乃々さんももうアイドルなんですから、その自覚はしっかり持ってください。自信が無いとか、自分なんかがアイドルに、とか長々と御託を並べて言っている前に、乃々さんはもう既にアイドルになりたいという夢を持っている人を、数人諦めさせている身分なんですからね?」
「もりくぼが……アイドルになりたかった人の夢を……数人諦めさせている身分……?」
幸子は珍しく真面目にアイドルについて乃々に語る。乃々に語りかける幸子に、先程までのカワイイボク、と言った姿は無かった。
「だって乃々さん、良く考えてみてください。今や世界は一世のアイドルブームなんですよ? 色んな人がアイドルを目指しているわけで、なろうとして簡単になれる物では無いんです。まあそんな世界でもカワイイボクは軽々となれたんですけどね。やっぱりボクって天才……」
一つの文章の中でおっ、たまには良い事言うじゃないか、と思わせておきながら即座に潰していくその話術には心底驚かされる。毎回毎回一言二言無ければ本当にいい事を言っているはずなのにな。
まさに天は二物を与えず、天は幸子に謙虚さを与えず、か。
「要するに、ボクは何が言いたいのかと言うと、乃々さんが悲観する程乃々さん自身はダメな人じゃないってことです。こんなアイドル戦国時代の中、乃々さんのプロデューサーさんという一人の人間を一目惚れさせ、色々な段階をすっ飛ばしてアイドルになれたんですよ? だからせめて、もう少しだけカワイイボク達とアイドルをやってみませんか?」
幸子の幸子らしくない真面目な熱弁に、美嘉達と乃々は驚いたのか黙って聞き入っていた。実際俺も、いつも自分の事についてしか語らない幸子が、それだけアイドルという仕事に深い思いを抱いていたということに驚かされ、珍しくツッコミを入れるタイミングも失い黙っていた。
乃々は幸子の言葉を聞き何か思うことがあったのか、俯いた状態で何かを考える様に手のひらを見つめている。そしてしばらくすると乃々は顔を上げ、辺りをしばらく見渡した後俺の顔を見てきた。
「なーに、心配するな。俺達はまだまだこれからなんだから」
俺は心配そうな乃々にほほ笑みかける。すると先程から黙り込んでいた乃々がようやく口を開いた。
「……皆さんがそこまで言うなら、別にもう少しだけやってみても良いですけど。でも、もりくぼはもうこれから先何が起きても知りませんよ? そこまで言った以上、私が自信を付けられるように、皆さん責任を取って下さいね……」
「いいってことよ。やっぱりアイドルやプロデューサーは助け合いでしょ。あ、ただ細かい仕事とかの話や提案は乃々のプロデューサーの方に直接言ってくれよ? 俺はうちの幸子とかいうののプロデュースで手一杯だから」
「ちょっと! 幸子とかいうのってそれどういう意味ですか! そんなにボクが嫌なら、別に乃々さんのプロデューサーになっても良いんですよーだ!」
「じゃ、そうするか」
「えっ……! あ……ちょっとプロデューサーさん!」
「嘘だよ、本当に単純だな幸子は」
「あー!! もう許しません!! プロデューサーさん!!」
幸子が俺に突撃してきたのを皮切りに部屋は再び女子会の明るさを取り戻していった。
美嘉が俺達のやり取りを見て笑い始め、飛鳥も笑みを浮かべていた。そして気が付くと幸子は、俺に飛びかかってきており俺はソファに押し倒される。そして乃々はテーブルの前でそんな様子を眺めていた。
「私がアイドルになっても……良いんだ……」
皆は幸子と俺のやり取りを見ていて気がついていないようだが、ソファの上の俺からは乃々は何かが吹っ切れたのか一瞬だけ、初めて笑みを浮かべて何かを言っていたのが見えた。
「ん、何か言ったか? 乃々」
「いえ、何も言って……ないです」
「プロデューサーさん! カワイイボクから目を離している暇はありませんよ!」
「うおおっと!?」
外が台風で雨風のお祭り騒ぎの中、部屋の中も一人のプロデューサーと四人のアイドルによりお祭り騒ぎとなっていた。ある意味、これだけ騒げるのもこの346プロが大きな建物だからこそなのかもしれないな。
と、しばらく騒いだ後、幸子はいきなり何かを閃いたかのように話し始めた。
「……そうだ! じゃあ乃々さんは、自信が無いからアイドルを辞めたいんですよね?」
「まあ、そうですけど……」
「フフーン、わかりました! だったらボク達が乃々さんを沢山褒めてあげれば……」
「なるほど幸子ちゃん、それ名案かも!」
「つまり……裏の裏をかくということか」
「いや、そういう事なのか……?」
「とりあえず、やってみましょう! 物は試しです、行きますよ? 乃々さんカワイイ!」
「フフッ、そうだね。乃々ちゃんの巻髪可愛い!」
「そのか弱くも芯のあるその瞳、ボクは嫌いじゃない」
「ひいっ!? どうして皆さんそういう流れに……」
乃々は部屋の皆からいきなり褒められ始め、再び机の下に流れる様な動作で戻ってしまった。乃々の瞳の奥では渦が巻いており、今にも泡を吹いて倒れてしまいそうだ。
「や、やっぱり……まだもりくぼはまだ無理くぼ乃々です……うぅ……帰りたい……」
まあ、どうやらこの調子だと、乃々が心の底から自分とアイドルという仕事を好きになるにはもう少し時間がかかりそうだな。でも、それもそう遠くない話だろう。
皆さん、お久しぶりです。
あとあけましておめでとうございます(遅い)
前回の投稿から早1ヶ月と少し、作者は時間があるのにも関わらずやる気の無い生活を送っていました。
そしてトドメを刺すようにデレステでSSR幸子と運命的な出会いをしてしまいまさに、作者書く気あんのか状態が続いていて……
と、そんなこんなはありましたが実際はじゃあ何をしていたのか? というとネタ補給と小説の書き方を本を読んだりして勉強していました。
今までの書いた作品や幸子の最初の方の話を見ていたら恥ずかしくなったと言うか……
まあそうして色々やっていて今日に至りました。
文章書きの勉強ばかりやっていて溜まってきていた幸子書きたい、幸子とイチャイチャしたい心が限界を超えてしまい再びこうして書き始めることに。
とりあえず今回も皆さん読んでいただきありがとうございます。
ちなみに実を言うと幸子の話はあと少しで一旦完結する予定なので、それに向けて作者も本気で頑張っております。
今年中には完結する予定なので皆さん、どうか今年もよろしくお願いします。
それでは皆さん、また次回お会いできたら嬉しいです。
文章の改行や空白
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前の方が良い
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今の新しい方が良い