ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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儚い夢

アモネと別れ三か月、季節は冬を越そうとしており、徐々に穏やかな気候になってきた。俺はグリーンプレイヤーを維持しいろんな街を行き来し何とか身を隠していた。その間には特に変化もなく、風の噂も俺のことは忘れていた。

ガムかよく分からない粘着質の物を噛み続けながら雪原を歩いていた。今は特に目標もないのでここ最近、雪原のフィールドを歩きまわっている。未だフィールドのプレイヤーは俺を見ると足早にその場を離れていくのでいまだ俺のフレンドには知り合いはゼロ。お金はあるのに誰も近づいてこない…となると少し寂しい。雪原を歩き、草原を歩き、湿地を歩きまた草原、目的のない俺はまるで廃人のような行動をしていた。

 

 

と歩き続けることに疲れを感じず早三時間、運よくモンスターとの遭遇はなく俺はある所にたどり着いた。

それは俺が今まで何度も世話になったところ。俺が初めて気楽に思えた場所。時に罠にはめられ、いたずらをされた場所。

 

バラの収容所だった。

 

何故来たのかわからない。分からないが自然と俺の足はここを示していた。もしかしたら死に場所を求めてきたのかもしれない。暫く立ち尽くしていると、後ろから足音が聞こえた。それは俺も聞き覚えがある…地面にめり込む多数の足、不気味に笑う筋…恐る恐る後ろを見てみると…そこには収容所に入るきっかけとなった木型モンスタートレントが俺に向かって口を開いていた。俺は全力で駆けだす。そして間合いをとった。

 

「やはりどの季節でもお前は苦手だよ馬鹿野郎!」

 

と、逃げながら叫んでみるが、トレントは耳も貸さずに両枝のツタを俺に向けて叩きつけてくる。俺を掠めつい俺の口からは悲鳴が上がってしまう。が、このままだと死んでしまう。いくらリジェネが入ってもこのモンスターに捕食されてしまい結局HPはゼロになってしまう。俺はどうしようもないこの状況で全力でどうにもならない子の状況を叫んだ。

 

「俺はまだ…死にたくない!!!」

 

それと同時にどこかから大声をあげこちらに向かってくる何かを確認した。誰かは全く分からなかったが…俺は覚悟した…モンスターよりプレイヤーに殺されるならもう悔いはない…と思った刹那、その群れはトレントに直撃し、攻撃を開始した。地面にへたり込んだ俺はその姿をみて呆然とする。集団で一体の敵を襲うその姿はまるでどこかのカードで見たような傭兵部隊のようだった。

トレントの抵抗むなしく空気になっていったところでその集団は俺のところに歩いてきた。が、俺は相手をする力も気力も何一つ残っておらず、気づけば見覚えのあるベースキャンプに運ばれていた。

 

「ここは…夢か…?」

 

「お頭!新米が目覚めましたぜ!!」

 

「なんだと!?そいつを逃がすな!!最悪の場合麻痺毒でも塗っとけ!!」

 

「なんでそうなるんだよ!逃げねえよ!!」

 

二十秒でわかった、これは夢じゃない。夢じゃなかったこの瞬間…俺は跳ね起き突っ込みができるほどに体力が回復した。が、叫んだ直後、俺に向かって何かの大群が土埃を上げ俺に近づきやむなく俺は逃げることとなってしまった。わき目も振らず逃げ続け撒いたと思ったら俺は何かと衝突してしまった。それは絶妙に柔らかく、顔と左手に触れるそれを右手で握った…柔らかい…

 

 

「私の手が後数センチ動くだけであんたは刑務所行きだよ。」

 

「もふ…ふぁっ!?ごめんさない!!」

 

いきなりの冷たい声にちゃんと謝ることもできず思い切り顔を上げる。その声の主はバラだった。いつもの軽装備なのだが…武器と上着が地面にドロップしており、下着だけというセクシーな状態になっていた。そのバラの顔はあまりにも恥ずかしかったのか頬を赤らめている。普段息でもするように下品な言葉を使うバラが恥ずかし狩っている光景はあまりにも新鮮だった。バラを起こして新しくできたと思われる宿長室の小屋に二人だけで入った。その中には非常にシンプルに、木製の机といすがあるだけだった。

 

「あんた…あの子はどうしたの?」

 

「置いてきた。俺といても危険が及ぶだけだし、俺と一緒にいたら損しかないだろう。死神の近くにいても何もいいことないさ。」

 

「…あんた馬鹿だね。」

 

「…は?」

 

バラは席を立つと小屋を飛び出し収容所外に飛び出していった。俺はバラの言った言葉の意味が全く分からず、ただその場に立つ尽くしていた。

 

 

目覚めると、昨日の小屋の中…そのまま寝てしまったらしく机によだれが垂れている…だらしない。立ち上がり小屋の外に出てみる。そこには…囚人が群れており…その先頭には、俺が置いて行ったはずのアモネが立っていた。俺は絶句した…何故彼女がいるのか俺にはわからない…何故ここがばれたのかもわからない…俺が戸惑っていると、アモネは一歩足を踏み出すと俺に向かってナイフを突きつける。

 

「リンネさん…何故置いて行ったんですか。」

 

「それは…お前を……」

 

「私は傷つきました…死神とか関係ないです。私は……貴方を許しません。」

 

その直後目の前にはデュエルの申し込み画面が表示される。相手はアモネで、一撃決着モードでの対戦内容になっていた。

 

「もしこれで私が一撃でも攻撃を当てれたら…私とパーティー組んでください。貴方の特技の戦いで…私が勝ちます。」

 

「…やれるもんならやってみろ、クソガキが…!」

 

デュエルメッセージを受理し、カウントダウンが始まる。

 

3…2…1…

 

「DUELSTART!」

 

このルールでは相手の体力を黄色まで持っていけば勝ちだ。俺は両手斧の最大威力を誇る「ダイナミックバイオレンス」のモーションに入る。それに対し彼女は正面からソードスキルのモーションなしに突進してくる。このままだとソードスキルをぶつけて俺の勝ちだ…が、俺は抑えきれない、黄色ゲージを越えた後も戦わなければ俺はどうにかなってしまう……彼女の地点に俺は鎌を振り下ろした。が、そこに彼女はおらず釜は地面に炸裂、ソードスキルは空振りし、代わりに左腹にダガーナイフが刺さっていた。俺はとっさにナイフを引き抜こうとするが体全体が痺れ、手先から針に刺されるような痛みに襲われる。目の前を見れば俺のHPバーの下にはパラライズとポイズンの文字が表示されて…俺のHPバーを徐々に蝕んでいた。

 

アモネは俺に歩いて踏みよると、俺の腰から曲刀を奪い突きつける…後15秒もすれば…俺の麻痺は解け再び攻撃に入れる。だが俺はもう死んでもいい。彼女の攻撃を受けて負けても…もういい……全て俺が奪うんだ………

 

と、いきなり音が鳴りデュエルが終了する。結果を見ると俺の勝利になっている。俺は麻痺の体のままウィナー表示を見たがその先にあったのは、曲刀を片手に膝末いているアモネの姿だった。アモネの体力は黄色ゲージギリギリで止まっており、胸にはアーマーを貫通した傷跡が痛々しく残る。アモネは自分を刺して敗北したのである。

 

「俺…を……あの場で刺せばお前の勝ちなのに………」

 

「…出来るわけ…………ないじゃないですか…」

 

「死神の俺が嫌なんだろう…俺は無防備なのに…」

 

「刺せるわけないじゃないですか!!何故貴方を刺さないといけないんですか!!」

 

アモネは涙と共に曲刀を放り投げ俺から距離をとる。俺は麻痺と毒が治り、フラフラ立ち上がるとアモネをじっと見返す。アモネにはまだ涙が流れていた。野次馬も黙って見守る。

 

「私は…死神やオレンジの貴方じゃない、リンネというプレイヤーが純粋に好きになった…!あの夜、貴方は私を見逃した…自暴自棄になっていた私をもう一度見つめ直させてくれた……そんな人を殺す理由なんて…私にはありません。」

 

アモネは笑顔で俺を見つめて来た。あの出会いの時のような殺意は一切なく、純粋に試合に満ちた目で俺を見ていた。その瞳を見てから俺の中からだんだん殺意が抜けて行く気がし、この戦いの意味が分からなくなり、そのまま地面にへたり込んだまま時間が経って行った。完全に俺の負けだった。

アモネに手を取られ立ち上がると、そのまま握手に変わって行く。お互い正面から顔を見るが何故か恥ずかしい。顔が熱く感じるが、恐らく彼女もそうなのだろう。頬が少し赤くなっている。周りから冷やかしが飛んで来るがこの後どうすりゃいいか俺は全く分からない。とりあえず、今後のことを提案してみる。

 

「アモネ…お前はどうするんだ?俺はここにいるつもりだけど。」

 

「リンネさんのそばにいさせてください…一応、自殺しないのとモンスターから守る用心棒として。」

 

「だがお前はグリーンだから…俺はここには入れなくなるな。」

 

「その心配は必要ありません!」

 

と、アモネはその笑顔のままナイフで俺の肩を斬りつけた。加減はしていると思うが、カッターナイフで指を切ってしまった感覚に似た痛みが肩に走る。血こそ出てないが、切られた部分が赤く残っている。周りがざわめく中アモネを見ると、アモネのステータスがオレンジ色になっていた。そう、アモネも…

 

犯罪者になってしまったのだ。

 

「これでリンネさん…いや、皆さんと一緒ですからこれからも宜しくお願いしますね?」

 

彼女はナイフをしまいあどけない笑顔のまま頭を下げた。ざわめきが止まり、代わりに恐怖という戦慄が走る。バトラーやその手下たちもいつもとなく顔色が悪くなっていた。バラを見ると笑いをこらえながらこちらを見ている。あぁ、殴りたいあの笑顔。アモネは俺の腕に抱きつき上目遣いで俺を見ている。バラを殴りに行くことはできず、俺は周りの冷ややかな視線を受けることとなった。

 

やがて集団は解散し、無事収容所への復帰を果たしたところで、ベースキャンプのシートに横たわる。懐かしい草の香り、夜風の冷たさ、燃える焚き火…最高だ。ただ一つ違うのは背中にアモネがひっついていることだ。嫌ではないのだが、今まで一人っ子だった俺は慣れず、何度も体を揺すり引き離すがその度アモネもくっ付いてくる。何か視線を感じるのだが恐らく他の人から見られているのだろう。とても恥ずかしく、嫌だ。そして…寝にくい。

 

「なぁアモネ…バラがいるんだろう。同じ女性だし、あっちの方がいいだろう?」

 

「私、人と一緒に寝たことがないしいいじゃないですか。これだったらリンネさんが襲われないし、索敵スキルを持つ私が先に気付けます。」

 

「流石にそれはな…」

 

「どうしても嫌って言うなら仕方ないです…離れて寝ますから……」

 

厄介なことを回避したいのでとりあえず一緒に寝ることにした。丁度アモネがいる背中に風が当たらないのでそれでよしにしておこう。いつもより安心して寝る子ことが…できたのかもしれない。気づけば朝になっていた


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