ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

7 / 41
死神

真夜中、冬の寒さが体に刺さるこの頃。俺らは狙っている。石の上に座る残像、そこから漏れ出る感情、その背景に移る極上の獲物を俺たちは群れで狙っている。しかもその相手は俺ら(ハイエナ)50人に対し、たった、一人(オオカミ)だ。あんな狼一匹に何を苦戦したのかわからないが、この群狼戦術で絶対殺して見せる。仲間の一人がサインし、俺らは一斉に突撃した。月の光に映える狼に向かって。

 

 

俺は殺す。ただ切って斬って斬り殺した。慈悲も何もなくひたすらに切り捨てた。襲ってくる剣を避け鎌を振り、突いてくる槍は仲間同士撃ち合わせ、なんどもやめろと言った。だが、やめてくれなかった。気づけば、俺の周りには遺品を意味するアイテムが散らばっていた。

収容所を出てから一週間、俺は『アイングラッド連合軍』から狙われ、解放された階層を飛び回っていた。お金にはまだ余裕があるものの実を言うと移動するための回路結晶が切れそうなのだ。アイテムを回収しながらため息を漏らしてしまう。ここ最近、毎日pkプレイヤーの対処に追われキル数は250人を達成、指名手配される理由が完全なものとなってしまい、正直メンタルが持たない。今収容所に戻ってもバラたちを巻き込んでしまう心配があった為に、やはり戻ることができない。アイテムを拾い終えた俺、リンネはまた、元の月の当たる石の上に座った。このまま、石の上で三年暮らしたい…意味が何だったか忘れたが。

 

石に座り相棒、ギルティサクリファイスを手入れしていると何か気配を感じた。ここはモンスターが偶々ポップしないレアな休息地であるので、気配がするといえば人間なのだがよく見ると驚きの物だった。

なんとそれは…中々遭遇しないレアな食材モンスターラグーラビットだったのだ。暗闇に一筋の光が灯った瞬間だった。俺は腰からピックを取り狙いを定めてサイドスローからラグーラビットに向けて投射。が、惜しくも外れてしまいウサギは離脱してしまった。がっくり落ち込む俺にまた違う気配を感じた。が、何も見えない。気のせいと思ったその時、俺は最後のピックを先ほどウサギがいた場所に投げる。すると刺さったモーションが起こり、よく見るとピックが宙に浮いていた。

 

「…そろそろかくれんぼは終わりにして正々堂々出てきなよ。」

 

「…ばれたか…」

 

姿が現れ、森の中からプレイヤーが続々と出てきてその数は先程のギルドより少し多い80人ほどの人が俺を囲んだ。俺の後ろは崖でここから落ちれば命はない。

 

「また百万円で釣られたプレイヤーか…もうやめようよ、俺は殺したくて殺しているわけじゃないんだ。」

 

「嘘つけ…サブマスが言ってた。人の心が分からない殺人鬼だと。」

 

「なんだと…!?」

 

そいつの顔をしっかり拝んで、殺すならこのデマを吐いたクソサブマスをめった刺しにして殺してやりたい…湧き上がる殺意を胸で押さえつける。

 

「お金が欲しいならいくらでもやるから帰ってくれ。」

 

「お金なんてなくても…全プレイヤーの敵なら関係ない。お前を殺す!」

 

すっごく意味がわからないが群れ(ハイエナ)達は、俺に向かって一直線。が、いつものように、俺は剣を避け槍を避け時に人質を取り、時に鎌で斬りつけた。こんなことしか出来ないのかと、自分にも相手にも思ってしまう。俺はただ、静かにプレイヤーを狩っていく。四方八方から襲い掛かる武器を受け止め跳ね上げた上に薙ぎ払い全員の囲んできた10人のライフを一気にゼロにした。残ったプレイヤーは一斉に動きを止め、おびえた猫のようにこちらを見ている。

 

「お…お前…モンスターと闘えないのに…どうしてそんなに強いんだよ…!!化け物か!」

 

「よく言われるよ。俺はなーんにもないただのオレンジプレイヤーだし。俺は人間だ。ベータテスターでも何でもないよ。」

 

「こいつはビーターなんかじゃ…し、死神だ…!この死神め…この世界から出ていけ!!」

 

上ずった声で男性プレイヤーが俺に叫ぶ、中にはアイテムを地面に置いて逃げようとする者もいる。

 

「死神…こっちの方がビーターよりも響きがいいかもな。」

 

つい笑いが込み上げてしまいその場で空を仰ぎ笑った。そうだ、ただゲームを始めただけなのに、人からものを受け継いだだけなのに、ただ楽しんでゲームやろうとしただけなのに、自分を変えたくてゲームを始めたのに、一体何が何だっていうんだ。俺はただ笑い続けた。その間に他のプレイヤーが俺に襲ってくることはなかった。

 

「一度言っておく、武器を下して俺の前から退け。残った者は俺が抹殺する。それぐらいの覚悟があるなら残れ。」

 

全員に聞こえるように言った結果、全力で来た道を引き返していくプレイヤーの姿を拝むことになった。こんなこと言って次はどうしようと思ったその時、プレイヤーが巻き上げた埃の中から一人プレイヤーが飛び出してきた。そのプレイヤーは短剣を俺に突いてきたのだが、隙があり過ぎた。使いなれない武器なのか、短剣なのに上から振り降ろしてきた。俺はそれを曲刀で弾き飛ばしそのプレイヤーを抱きとめた。面を確認しようと顔を覗き込むと、まだ幼い少女だったのである。身長から見て小学6年生か、髪はショートカットでこちらをまだ睨んでいる。

「おい…お前じゃ俺を殺せないぜ。俺がその恐怖を味合わせてやるよ。」

その少女はひっ声を上げそのまま気絶してしまった。年齢差別とかそんなんじゃないが、流石にこの子を殺すことは出来ない。殺したら…何か殺人以外で罪が着せられる気がする。一度ぐらい、過ちを赦してやろう。大人かもしれないけど、子供なら教育しなきゃいけない。俺は気絶した少女を抱き上げ、第一層はじまりの街まで飛び正門前に降ろしてやった。ここだとモンスターも弱いし、この子のレベルからして二晩ぐらいなら耐えれるだろう。念のため残り少ない回路結晶を彼女のポーチに入れてやることにした。ちゃんと、仲間のところ戻れるといいな。俺ははじまりの街を後にした。

 

死神になってから一週間が過ぎ、俺の移動手段は徒歩しかなくなっていた。襲ってくるプレイヤーこそ減ったものの、実のところまともな食事がとれていない。毎日、調理スキルのない俺が作るスカペンジトードの生肉塩味を俺が食べる。とってもまずい。現実でこんな生活してたら、下痢が止まらず死んでいるであろう…

そんな昼、俺に一通のメールが届いた。その送り主は…かつて共に戦っていた仲間のミラだった…


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。