ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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決闘

集落に戻ってきた俺は疲れていた。無意味な殺しはあまりしたくもないのに…今日で45人目を記録した。ここに住む宿泊者の話によると殺しを100人すると、システム上では表記されないが、勲章として指名手配人(レッドプレイヤー)がもらえると言っていた。リーダーのバトラーは72人で準レッドプレイヤーと呼ばれている。

別に俺はそんなものを全く狙っているわけではないし、本当なら争いだって穏便に収めたいと思っている。が、俺が持っているアイテムがもしかしたらその争いの原因かもしれない。俺だってアイテムを渡したりしたことはあるが、その後襲われかけたことがありそこから一般プレイヤーが全く信じられなくなってきた。最近は俺の場所までが予測され、俺が行く先にプレイヤーが待ち受けているのだ。俺はこの世界でとりあえず生き延びる…どうしてでも。と、この目的が他のプレイヤーと利害の一致を果たすことなく戦闘に発展してしまう。これがメイカーによるシナリオなら少し怖い。

 

思い切り曲刀、「ファルシオン」を振り回しなんとかスライムを討伐。緑の液体が空気中に消えていった。いくらこれが復帰クエストとしても俺はこんなクエスト二度とやりたくないし、最近はバラの収容所に済んでもいいとまで思っているほどだ。一応今のレベルは10、曲刀のスキルレベルはもうすぐスキルマックスになるが、これにモンスター討伐が付いてくるためやりたくない。服装はいままでと変わらない白のコート。この服装、中々目立つのだが今一番防御力の高い防具がこれしかないし、囚人の一人がこの装備を手入れしてくれるので少し思い入れがある。俺の相棒と色違いのため少々ミスマッチだが仕方ない。

クエストをクリアし表記がオレンジから緑に変わったことを確認しクエストクリアを確認、隠したくても隠せない喜びがガッツポーズを通して飛び出た。収容所の生活はとても楽しかったが、久しぶりにベッドで寝れることを考えると心が躍りだすようだった。俺は収容所に荷物を取りに帰った。が、その矢先何かを感じる。

後ろを向いたまま咄嗟にファルシオンを後ろに向けそのまま停止、数秒後には何か刺さる感触。振り向くと一人のプレイヤーの鎧腹にしっかりとファルシオンが刺さっていることを確認、そのプレイヤーの手には毒の塗られたダガーナイフが握られていた。そのプレイヤーの後ろから集団で仲間が近づいてくるのと俺がプレイヤーの顔を確認するのは同時、プレイヤーの体は持たず青い粒子に、俺は通算50人目のPK、尚且つオレンジプレイヤーに返り咲いた記録的な瞬間を迎えてしまったのだった。その様子を駆け付けたプレイヤー達が見てくるが、見覚えがあった。同じ収容所で共に宿を取っている宿泊者、バトラーとその仲間たちである。どうやら、俺が殺したプレイヤーもここの宿泊者だったようで、俺に妬いてしまった挙句俺を殺す結論に至ってしまったようだ。全くオレンジプレイヤーは頭が固いからこんなことを続けるんだ。

 

「だがお前は襲われ、自分の命を守った。当たり前のことをしたお前に罪はないだろう。」

 

「そ、それをあんたが言いますか…」

 

どうも、バトラーがそんなこと言ってもしっくりこない。いったいこの人現実で何しているんだろう。考えるだけで身震いしてしまう。

 

「しっし…お前中々強いと見た。今宵、俺と決闘(デュエル)で戦ってくれ。これは死なない、いわゆる見世物(エキシビジョン)さ。今日の昼三時、バラに許可を取った上で収容所内で待っているぞ。」

 

突然の言葉に全く反応できない俺。が、そんなことを気にせずバトラーは収容所内へ歩いていった。同じバトラーに同行していた宿泊者たちも唖然としていて、俺の顔を見た途端生易しい目で見てきたのである。察するに俺はビッグスパイダーを超えるこのゲーム最大の敵に決闘を挑まれたのかもしれない。まだ考えが追いつかない俺の顔を、傍観者たちはクスクス笑い気の抜けた俺の顔を面白おかしく笑っていた。

 

そして時は経ち、午後三時、収容所中心にある広場には呆れ顔のバラと個々の宿泊者100人、その中心には両手斧「ジャイアントアックス」を装備し上半身裸体、下半身をステンレスレッグに包んだバトラーと曲刀ファルシオンを持ち皮の胸当ての上に白いコート、まるでぼろきれ同然のズボンを装備した俺がいた。死なないのは知っているのだが、何かの間違いでHPがゼロにならないかとっても不安である。バトラーは相変わらず無表情でこちらを見つつ、時折大きなため息をはいている。俺はその気迫に押されつつも曲刀を真正面に構える。おそらくこの構図、クマと人間の喧嘩にも見えているのではないか…思うだけだが。

やがて、10カウントが進み始まりの時は刻一刻と過ぎる。一秒ごとに広がる緊張、バトラーも緊張しているのだろうか。が、バトルアックスを引きずる彼の姿からは緊張を何も見えなかった。

3…2…1…

『DUEL Start!』

 

ブザーが鳴り戦いは始まるはずだった…が、俺もバトラーも全く動く様子がなく、数秒前の盛り上がりは一気にダウン。が、彼からの気迫は全く収まっていない。俺は気づいてしまった。運が悪いことに、お互いプレイヤー狩りを好んでやっていない殺人者らしく、どちらも被害者だったのだ。その事実を知り俺は肩の力が抜け、つい曲刀を落としそうになってしまった。

相手も待つ、さらに72人を殺害したプレイヤーと考えてみると、手を出せば一瞬で勝負がついてしまう実力があるのだろう。が、俺は攻めることを決意した。まだどのプレイヤーにも全く見せていない特技で何とかするしかない。

俺はファルシオンを手に全力で駆けだした。バトラーを狙い降り降ろされたファルシオンは二秒後には弧を描き、俺が倒れた2mほど先に深々と突き刺さった。起き上がりつつバトラーを見ると、さっきまで地面に張り付いていたバトルアックスが片手で振り抜かれていたのである。この攻撃を一撃でも喰らえば負けることは間違いない。その矢先、顔色を変えずバトラーのバトルアックスが振り上げられる。バトラーが何か言った気がするが俺には聞こえず、俺は次の行動に出ていた。

 

倒れた状態から、腕で地面を思い切り押し上げバトラーの胸骨あたりに蹴りを決め付けた。蹴られたバトラーは顔を歪め一度バランスを崩してしまう。その様子に野次馬からどよめきが起こる。そう、まだ誰にも見せていないスキル…体術スキルである。体術スキルは取得が以上に面倒くさい代わりに武器以外の攻撃の攻撃を上げたり、身体的に能力を上げてくれるパッシブスキルである。まぁ見つけたのはたまたまで、取得に二か月はかかった。その頃の格好といえば…相手がNPCで本当にラッキーだった。誰にも晒したくはない。

俺は手慣れた手つきでアイテムポーチを操作、バトラーの怯む間に素早く武器を持ち替えた。その武器は、今までプレイヤーを50人葬ってきた大鎌、ギルティサクリファイスを取り出した。その後すぐソードスキルの動作に入った。バトラーもそれと同時にソードスキル「スマッシュ」の挙動に入った。俺は飛び上がりながら三連続攻撃「クリムゾンブラッド」を使用、その攻撃は相手の攻撃を斧を弾き二撃目でバトルアックスを後ろに弾いた。そして、三撃目をバトラーの胴体に直撃させた。その威力はバトラーの体力をグリーンからイエローに持って行った。

その時、終了のブザーが鳴り勝敗が決する。俺の体力もイエロー直前だが、なんとか止まり俺の目の前には勝ちを意味する『winner!』の文字が浮かび上がっていた。

 

俺は全く状況を分かっておらず、息を切らしながら呆然としていた。周りの人が何か言っているが俺には全く声が聞こえず、足は全く機能しておらず立ち尽くしている。気づかないうちに俺は胴上げされていて、ふと我に返った時には真上に放り投げられておりその第一声が絶叫だったのは言うまでもない。

騒ぎが収まったころ、過去最高の疲労により広場の隅で寝ころんでいる俺の元に傷の癒えたバトラーが歩いてくる。まさか…これが狙いだったか、すぐに腕が動かず寝ころんだままその不愛想な顔を見ることしか出来なかった。

 

「俺の負けだ。お前、虫が嫌いなのに人は好きなのか。ずいぶん変な奴だ。」

 

「よく言われるよ。で、何しに来た?この状態から俺をキルしに?」

 

「それもありだな。いや別の話でな、俺みたいになってほしくなくてな。」

 

「俺はあんたみたいにガタイよくなりたいけどね?」

 

ふふっとお互い鼻で笑うが、すぐにバトラーの顔が険しくなった。どうやらふざけた話ではなさそうだ。何とか体を起こし、壁に体を預ける。あたりを見るとテントに灯が灯っており、空は紫色に覆われていた。

 

「俺は仲間を守れなかったんだ。とあるギルドに一度経験値を泥棒されて…気が立って報復した。その結果、奇襲を受けて俺のギルドは大半が死んでいった。俺はそのギルドを一人で片づけた。ただ怒りしかなく、PKも何も考えていなかった…人質も取られた。俺には関係なく、命も投げ一般市民のプライドも捨てきり、ギルドを一つ壊滅させた。残ったギルドメンバーは雲隠れ、俺の手元に残ったのはかつてギルドがあった土地と殺人者というレッテルだったのさ。俺は仲間も何も守れなかった。」

 

言葉が返せなかった。悪くいってしまえば俺よりも酷かった。小規模だがギルドを捨てが、もしかしたら罪の重さだと俺と同等なのかもしれない。彼は信頼を殺した、俺はギルドを殺した。そう話すバトラーの顔はいつもと変りなく見えるが、声のトーンから明らかに心が動いていることが分かる。今までこんな話をしてくれることもなかった。

俺たちはデュエルを通して心を通い合わせることができたのかもしれない。今まで人から嫌われることでしかなかったPKがこの時からコミュニケーションの一つとして考えれるようになった。俺はバトラーに向き合い握手を求めた。バトラーが手を差し出す瞬間、宿泊者が慌てて走ってきたのはほぼ同時で準レッドプレイヤーとの歴史的握手はお預けになってしまった。

 

「お頭!大変だ!!ギルド解放軍が新米を公開指名手配しました!!」

 

「何…!?解放軍はまずいな…」

 

「解放軍…」

 

ギルド『アイングラッド解放軍』はこのゲームをクリアするために設立されたギルドだったが、噂によるとアイテムの横行、プレイヤーの酷使、さらにはプレイヤーの粛清を行っているとのこと。そのギルドについに目を付けられてしまった…

 

話によると、俺の抹殺で賞金100万コルが出されるらしいが、ギルド解放軍のことなのでいったい真実かどうかは全く分からない。が、オレンジの偵察組によると、俺の目撃情報が知れ渡っているせいか各層には、プレイヤーが危険を冒して野宿しているらしい。この件に関しては俺一人なら別に日常茶飯事で少し人が多くなるだけだが、今回は収容所の場所がバレてしまうかもしれない。それは収容所側も大問題だろう。

考え込む俺を二人が心配そうに見てくる。俺は決断した。

 

収容所を守る。

 

ここにいる人が全員悪者とは限らない。反対に普通のプレイヤーの中に悪者が潜んでいてもおかしくないこの環境。ここにいる全員が守られるなら…俺が悪になる。皆を本当の悪者と同じにしてほしくないのだ。

 

「と、いうわけで今までお世話になりました。俺をかくまってくれたり、仲良くしてくれてありがとう。この思い出…というか記憶は忘れません。」

 

収容所の宿泊者が集まり、ある者は涙目、ある者は拍手、ある者はいくつかアイテムをくれるものもいた。もちろん、その場にいないものもいたが。宿泊者の中にはバラもいて、少しうつむいた表情で俺を見ていた。そして、我慢できなくなったのだろうか歩み寄ってきた。

 

「リンネ…お前は面白かったよ。ここからいなくなるのがとっても残念だ。」

 

「バラ…あんたがいなかったら俺は虫に捕食されていたよ…感謝はしている。」

 

「虫やトカゲに怖がったり、身ぐるみはがされて帰ってきたり、ドッキリや色々…見てて楽しかったよ。」

 

 

俺は思った。こいつは悪者だ。俺は苦笑いを浮かべながら彼女を憎んだ。わかってて止めなかったのは確実に罪だと思う。俺の中に怒りではなくイラつきがわいた瞬間だった。俺は歩いて収容所を後にした。デュエル直前にもう一度グリーンに戻った甲斐があり、とりあえず解放軍の拠点第一層を外し俺は十層辺りを拠点とすることにした。もうあいつらとは関係ない。これは俺の戦いだ。

 

俺は刀で語り合った相手と握手をし損ねた手をただじっと見た。現実で残るはずのその傷は、開いてみると傷跡は全く残っていなかった。


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