満月の夜、冷たい風の中暗い草原の中で赤い火花が飛び交う。片方は、威嚇するように大型の鎌を振り回し、相手に攻撃をさせない反面、もう一方は当たりそうにない鎌の攻撃を銀の片手剣で何とか防いでいる。が、片手剣はオレンジの火花を散らし、鎌が当たる度破片が飛んでいる。
その時、片手剣は鎌の薙ぎ払いを防いだ途端、真っ二つに砕け散り、青色の光となり消えていった。共に、片方のプレイヤーは武器をなくし、恐ろしさのあまり地面にへたり込んでしまった。鎌のプレイヤーは紫に光る鎌を大きく振り上げへたり込むプレイヤーへと振り下ろした。斬られたプレイヤーの顔にはもう生きる希望などなかった。
SAO…VRMMOで最も期待の高い…いや、高かったゲーム。このゲームの主軸となる世界、浮遊城アインクラッドは数百万人を幽閉する牢獄と化してしまった。HPは自分の命、尽きれば死ぬ単純なルール。この単純なルールの前に半年たったこの時点で死亡者は1万人を超えた。その中でも、死亡例にはいろいろあるが、その中でも「PK」すなわち「プレイヤーキル」での死亡者は1000人を超える数値となっていた。
「これで…36人目……懲りないな…」
相手が倒れていた場所からドロップアイテムを回収し、武器の耐久度をすぐに確認する。俺の相棒、「ギルティサクリファイス」はあまり消耗もせず相変わらず怪しく黒光りしている。少し寒くなった草原の中、俺は白いコートを深く着込み寝床を探した。
また、PKをしてしまったために俺は「
俺はあの日以来、不良二人をPKした。そしてギルドも脱退し、ソロプレイヤーとしてフィールドをかけることとなった。誰か密告をしたのか分からないが、日が経つにつれ俺にPKを仕掛けることも増えてきた。そのたび、俺は戦闘をするようになった。相手は人間、ここにポップする化け物ではなく自分と同じ人間なのだ。人を殺したことはないが襲ってくる相手の攻撃を避け、避け続け、殺す。誰も俺を見逃してくれなかった。俺が人を殺す度、襲ってくる人も増えた。何が目的かは全く分からないが、俺はその度相手が諦めるまで攻撃を避け結局殺害してしまう。この行為に特に思い入れもなく、罪悪感もなく、仲間も全くいなかった。
夜の間草原のフィールドを歩き続けたが、ここの層には収容所はなく、俺はモンスターのでなさそうなエリアを探し続けた。が、時は突然やってくる。
俺が歩く先には大きな木があり、流石に歩き続け疲れたのでその木に体を預けたが、その木は急に動き出し、俺はバランスを崩し後ろに大転倒してしまう。あまりの疲れに体をすぐ起こすことができず、寝ながらまわりの状況を確認した。まさか、他のプレイヤーの罠か…そう思った矢先、俺の目線にはさっきの木が写っていた。が、その木は先程とは違い、鋭い黄色い眼光を飛ばし枝を腕のように振り回す化け物と化としていた。俺は心の中から思い切り絶叫した。そして、転がりながら起き上がると行く当てもなく全力で逃げた。後ろを見ると、先ほどの木が全力で追ってきており時々、ツタをこちらに打ちのめしてくる。辛うじて避けることは出来ているが、追いつくのは時間の問題だった。どうしても、モンスターと闘うのがやっぱり無理だ。口のある巨大花、襲ってくる狼、群れてくるトカゲ兵、そして中でも…糸を出してくる巨大蜘蛛。俺は絶対あんな奴らと戦闘したくもないし、奴らに最期を決めてほしくない。ただひたすら全力で逃げた。
すると、横から声が聞こえてくる。その声の方向を向くと半袖の防弾チョッキに、ショートパンツの女性が手を振ってこちらに何かを呼び掛けている。声は聞こえなかったが、見る限りこっちに逃げてこいと言っているようだ。俺は最後の力を振り絞りその女性の元へと全力で走った。止まらないようにただひたすら走った。ツタが後ろをかすめ始めているがなんとか女性の元へたどり着いた。女性は短剣を片手に、木を何度も斬りつけた。あっという間に木のHPはゼロになり蒼い破片となり空気になっていった。女性は短剣をしまうと、俺の方へ近づいてきた。よく見ると、このプレイヤーもオレンジプレイヤーだった。
「大丈夫だったかい?あたいはバラだ。あんたはなんていうんだい?」
「俺は…リンネっていいます。さっきはありがとうございました。」
「リンネかい…同じオレンジプレイヤー同士、仲良くしようや。」
俺に初めてここまで突っかかってきてくれたが、俺は正直なところ嫌だった。今までも、こんな風に構ってきて結局俺のもつアイテムが目当てだったことがほとんどだ。同じオレンジプレイヤーでもやはり同じプレイヤー同士で絡むのは嫌だった。
「あんた…あたいのとこに泊まっていくかい?見たところ身寄りはなさそうだし、あたいの所は安心安全の収容所。命と寝床は保証するぜ?」
一晩だけなら…疲労が自然と俺をその気にさせてしまった。と、歩いていくとテントがいくつも重ねられ、集落に見える場所があった。そこには、たくさんのオレンジプレイヤーが騒いでいた。ある者は武器の素振り、ある者は、お酒を飲み、ある者は武器の手入れ。若者から、中年の男女がこの草原一帯に広がりそれぞれが何かをしていたが今までの宿と違うのは一つ、争い事が全くない。見る限り、刃物で語り合う者は一人も見当たらず、またどちらかというと運動部の匂いがぷんぷんするのは気のせいではないだろう。俺はバラに突き出され、少しバランスを崩しつんのめって転倒してしまう。それに気づいた
「お前たち!こいつは新入りのリンネだ。レベルが低いひよっ子だが、仲良くしてやりな!!因みにこの子、モンスターがとっても苦手らしいから、いじめるなよ!いいかい!!」
おう!と野太い声が上がったと思うと、プレイヤーたちはそれぞれ持ち場に戻った。俺は弱点を公開されたことにより羞恥でいっぱいだったがとりあえず寝たかったので、空いている場所に身を預けた。テントも何もない場所だったが、モンスターが出ないだけで安心感があった。数秒経つまでは。
本当に数秒後すると、大柄の男が近づいてくる。メイカーほどではないが、タンクトップから浮き出るシックスパックが強さを物語っていた。そのほかにも部下と思われる人が三、四人近づいてきた。もちろんこの男たち、
「おい、新入り。俺たちのところに来いよ。」
と、俺の許可を取らずに俺の体を抱き上げ、男たちが集まる焚火の前に座らされた。見る限り、どのプレイヤーもオレンジのタグが付いており完全に俺を歓迎している目をしていない。いくらオレンジプレイヤーと言えどこれだけ集まれば壮観だ…とっても怖い。例えるものはないが、強いて例えるならギルドにいた時にビッグスパイダー10頭に囲まれたときぐらい怖かった。一人の男が俺の肩を叩く。かなり痛かったが、どうやら彼らは俺に敵意はなさそうだ。と考えると…
「俺ン名はバトラー、こいつらは俺の仲間だ宿主は
「お頭…もうイイっすか?」
「…後は好きにしろ。あぁ、今日は眠れないと思ってろ新入り。」
最後の言葉が全く意味が分からなかったが、バトラーは立って集落外に出ていった。嫌われたかと思ったが、そんなことを思わせるより先にプレイヤー達は俺に酒を渡したり、話を聞きに来たり、関係なく奇妙な踊りを始めるものもいた。まるで何かの儀式だ…が、俺は一つ疑問に思う。
ここは本当にオレンジプレイヤーの溜まり場なのか。
疑ってしまうほど、ここの雰囲気は今までの収容所と違ったのだ。宣言された通りこの日は寝ることが出来ずに一日中他のプレイヤーと話した。
いつの間にか俺は眠りにつき、気づいたときにはもう朝になっていた。朝になれば、プレイヤーの数は当初の半分以下になっており荷物が置かれている場所もあった。俺は体を起こすと、意味もない準備体操を始め今日の戦闘に備えた。
ここのルールは争いなし、ギルド解放軍への密告なし、ギルドへの加入なし、宿泊費は0、窃盗禁止、さらにいつでもグリーンになって町に戻ってもよい、その他もろもろ…と、ギルドではない分拘束感がなくもはやこれはルールというか、ゲームをする上での当たり前なマナーだった。俺はここで仲間ができたわけではないと思う。外に出れば殺されてもおかしくないところにいる、そう考えると少し寂しさを感じた。どうやらまだ自分らしさを見つけていないようで、ついため息が出てしまう。
バラもおらず一人になったこのフィールドで俺は眠った。目的が見つかるまでは…信用してみてもいいかな。俺は今まで持っていた荷物を全部地面に下し、久しぶりに欠伸をし伸びてみた。そこには仮想空間とは思えないほどの太陽が俺を思い切り照らしていた。届くはずもないが手を伸ばしてみる。が、もちろん届くはずもなく俺は思い切り地面に寝ころび眠りに落ちた。
修正しました…当初は三千人死んでたのですが、半年で多すぎました…すごいね…