ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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エピローグ

俺はどうしたかったのだろう、いったい誰を救いたかったのだろう。何を救いたかったのだろう。戦場での判断は正しかったのだろうか、誰に問いかけることもできない。自分に問いかけても答えが返ってくるわけではない。

ただわかるのは、奪った命をもう一度俺が奪ってしまったというこの事実だけだった。これは夢なのだろうか。瞬きするとそこは病室だった。部屋には俺とアモネがベッドを囲んで立っており、ベッドには少年が寝ていた。泣いているのだろうか。俺は布団に頭を押し付け頭を抱えたまま起き上がらない。アモネはそれを何とか起き上がらせようと背中をさすっている。すると病室に一人だれか入ってきた。体格がしっかりしており40くらいだろうか、顔に少し年季が入っているような気がした。その男は二人を近くにあったパイプ椅子に座らせ話を始めた。

 

「この度はここに来てくれてありがとうございます。貴方たちの話は聞いています」

「…はい。お…いえ、僕がこの子に影響を与えてしまったんです」

「いえいえ、議事録や記録映像を見たがそうでもない。これはこの子の弱さから始まってしまった事です。あの子が言っていたことはすべて理由付けです。あなた方は悪くない」

 

そういいながらおじさんはお茶を飲む。アモネが飲むタイミングでせき込んでしまうがおじさんはすぐティッシュを取り出しアモネに手渡した。そして再び話に戻る。

おじさんの話によると、彼はナディという少年でSAOにログインしてからアインクラッドで殺害されてしまう、意識不明のままだそう。その原因として、彼が途中で合った少女メグを殺され、その敵討ちとして向かったが返り討ちにされてしまいその後復活することがなかった。SAO終了2週間前の出来事だったらしい。彼は死神の強いところが好きだったらしく、いつも自分の身に合わない鎌を片手で振り回しメグと平和に暮らしていたそうだ。

その少年は俺も知っていた、俺が隔離されていたころ俺が殺した、俺が原因で殺された人の議事録や映像を何度も見せられていた中で指折りの俺が直接関与していないプレイヤーだった。関係ない少年の心ですら俺が変えてしまったと病室でも俺は涙が止まらなかった。俺は神ではない、現実では死神でもないのだ。ただ、ベッド上に寝ている少年に謝り続けることしかできなかった。俺は殺してほしかった。終われるなら終わらせて欲しかったんだ。

 

 

どれくらい寝たのだろう。辺りは真っ白な空間で起き上がった。床があるわけではなかったが、地面を宇hんでいる感触があった。隣を見るとアモネが息苦しそうに胸を押さえていた。近づき背中をさすってやると、アモネの息遣いは落ち着き、小さな声でありがとうと呟く声が聞こえた。思わず頬が緩んでしまう。だんだん恥ずかしくなり彼女の頭をなでながら顔を逸らした。

空間は突如ぐにゃりとゆがみ、やがて砂嵐となりねじれが戻っていく。完全にねじれが戻ると、そこは噴水の前だった。どこの階層か忘れてしまったが、どこかで見たことあるようなそんな気がした。辺りは俺たち以外プレイヤーの気配がなく、二人だけの空間のような気がした。せき込むアモネをベンチに誘導し、一緒に座った。アモネは今まで見たことないくらい、顔が青ざめていた。あの空間を見たからだろうか。しかし、ナディに殺される前から体調がすぐれなく見えたのは気のせいなのだろうか。

 

「なぁ、アモネ…無理していないか?」

「えっ…やだなぁリンネさん、私は大丈夫です…ケホッ……ッ」

「アモネ……頼む、俺はお前に助けられたから…俺もお前の力になりたい。大半俺のせいな気がするけど、協力できるなら手伝わせてほしい」

 

アモネは、顔を赤くして顔を逸らす。何か良くない事でも言ったのだろうか、考えるが悪い言葉は使っていないはずだし少なくとも傷つけたことでは…いやもしかするといらない事でも言ったのかもしれない。しばらく沈黙が続いた後頭を下げる。アモネは目を丸くして頭を上げるよう慌てて話す。その顔は先ほどのように苦しそうではなく何となく気の抜けたような落ち着いた様子だった。俺はアモネに向き直った。アモネは顔を赤らめたままゆっくり口を開ける。

 

「実は…私リンネさんに隠していたことがあるんです」

「どうして隠す必要が……」

「それは…リンネさんが気にして戦えなくなったらって思って…」

 

大きく息を吸い、ゆっくり話し始める。

 

「実は私……もう長くないんです」

 

 

 

 

信じられなかった。聞きたくなかったのかもしれない、今思い出そうとしても勝手に忘れようとする俺がいた。

俺は一人の人間を本当に殺してしまうことになってしまった。取り返しもない大事なものを奪ってしまった。あの後俺はどう返答したんだろう、今俺は何をすべきなんだろう。暗闇の中に浮かんでいるような感覚に身を任せ考えるのを放棄した。いつからか一緒にいたいと思っていた。

役に立ちたいと思っていた。特別頭がいいわけではない、かといって何かできるわけではない。目の前にすると不思議と変な感覚に陥る。好きなんだろうか、わからない。

 

あの人になりたいわけではなく、一緒にいたんだろう。

 

どうなってもそうであることにかわりはない。

駅から鳴る発車ベル、自動ドアの上に流れる電光表示板は俺が乗った電車の反対列車となっていた。駅表札を見ると既に俺が下りるべき駅名が表示されている。無我夢中で電車から降り、何とか自動ドアに挟まれることを防いだ。何か荷物を置いてきた気がするがきっと相当なものなら何か連絡があるだろう。そう思い俺はアモネの家に帰った。

結局あの世界は何だったのだろう、まだあの世界で退官した感覚は残っているし記憶も鮮明に残っている。そしてあの少年がナディだということにたどり着いた。だが、そう焦ることはなくむしろ罪悪感が高まった。あんなに幼い少年も自分の存在によって巻き込んでしまったという事実は帰ることができない、しかもまだメグさんたちはどこかで目覚めるのを待っているのかもしれない。

 

本当にあれは夢だったのか、俺には知る由はない。

止めた時はもう戻ってこない。

 

そうであるならもう奪わない、取り上げない。

俺の手で時を進める。

 

絶対に俺は

彼女たちを救って見せる。

命に代えても。


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