ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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夢を見続けて

宙に浮く三本のナイフをさばく。ナイフはいくらさばいてもまるで蜂のように振り払ってもついてくる。ナイフをさばくとわずかな隙間を縫うようにナディの手とナイフが飛んでくる。ただですら大ぶりの鎌でナイフをさばくことに難儀している最中、手も混ざって攻撃してくることからかなりの精神力を失う作業だ。

不意に消えたナディは後ろから現れ、俺の背中に乗るとナイフを首元に立てる、とっさに鎌を間に滑り込ませ跳ね飛ばされるのを防いだ。ナディが後ろから呟く。

 

「あんたが死ねば、俺はもっと強くなって…あいつを守ることができる…彼女を二度と死なせないことができるんだ」

「本当にそう思っているのか?強かったらお前は彼女を守れたのか?」

「そうだよ!!あんたみたいに最初から強くってたくさんの人を倒せる力があれば彼女を守ることができる、ようやく彼女を救い出せる!!なのにお前は僕の世界を壊した…!守れるはずだったのに!!」

 

ナディを肘打ちし背中から追い払った後、一旦後退し体制を整える。胸元を押さえながらも再び立ち上がったナディは叫びながら再びナイフを振りかざす。俺は鎌を投げ捨てナイフを振る手を取り、体術スキルの一つである一本背負いをかます。手首をひねることでナディはナイフを手から離し苦しそうに唸り声を上げる。グアァとうなる姿はまるで猛獣であり手を離すと拘束していない足で立ち上がり今にも暴れだしそうだ。ふと思い出したように小屋にいる三人を呼び出し残りの三肢を押さえてもらった。

 

「そうだナディ、俺実はメグさんと出会ったんだ。おそらくお前が一度行ったことがあるあの場所でな」

「!!」

「お前のことものすごく心配していた、お前がアインクラッド…いやそれだけじゃない現実でも無事に過ごせるかとても不安そうに話していた!お前にもう暴れてほしくない、罪を被せたくないって!!」

「嘘だ!!彼女が僕にそんなこと…そんなこと言うわけない!そんなこと一度も言っていなかった!絶対彼女はあの地下で俺を呪っているだろう!!弱い俺を呪って強いお前に優しくしているんだ!!そんなことなら…!」

 

「全員この場で死ね!!」

 

アモネが抑えるナディの左手が衝撃波を放ちアモネは吹き飛ばされた。胸を押さえながら強くせき込むアモネ、さらには頭も押さえだし口から吐血もする。そんな事お構いなしにナディはアイテムリストを開き、一つのアイテムを召還した。俺が左手を押さえた時にはアイテムが出現しており、そのアイテムが一体何かを理解した瞬間強い衝撃と熱風が俺たちを襲った。

吹き飛ばされた先は崖であり、落ちる手前で曲刀を突き刺し何とか落下してしまう事態は何とか避けた。だが、崖に目をやると今にも崖底に消えそうなナディがいた。すんでのところで左腕を掴み引き上げようとする。ナディは諦めていたのか目を閉じたまま動かない。曲刀を握りながらナディを引き上げようとするが体にうまく力が入らず手を離してしまいそうだった。また命を奪ってしまうかと思うと、俺の心は限界だった。

グッと後ろに引き上げられる感覚に驚き、手を離してしまいそうになる。後ろを見ると、カザネ、アモネ、ローベが俺の足を引っ張ってくれていた。その衝撃でかは分からないが、ナディも意識を取り戻し腕を掴まれていることがわかると再び俺を睨みつける。

 

「もう殺してくれ!!弱い俺なんか!!こんな無様な俺なんかもういらない!!彼女にも合わないし一生俺は地獄の底でずっと罪を背負うんだ!!みんな俺のことなんて…俺も俺のことなんて」

「だったら好きなお前になるんだよ!俺だって最初から強かったわけじゃないし、俺は自分が大嫌いだ!!殺されたくなくて人の命を奪った挙句その人間たちに俺は謝ることだってできなかったし、人の人生すら背負えていない!!」

 

そうだ、責任を取らなくてはと思う度殺した人間たちの声や姿が浮かんでくる。それは無機質であるはずのモンスターに乗り移っているようで、現実世界で話している人たちに殺した人たちが乗り移って俺を殺そうとしているのではないかと考えたことだってある。一度死ぬまで声さえ止まらなかった。けど俺は確信した、地下世界があるなら殺した人間たちは絶対生きている。高圧電流で殺されてなんかおらず、世界のどこかで必ず生きている。だからこそ絶対にここを脱出して、全員現実世界に戻さなきゃいけないんだ。

 

「俺の都合で殺してしまった人たちを、俺が救わなきゃいけない!たとえ俺が倒れても絶対救わなきゃいけないから…ナディもメグさんもメイカーさんも…だから、お前を絶対殺させない!!俺はあの世界であいつらのすべてを託された!!もう逃げない!生きればメグさんに会える!生きるんだ!!」

 

掴んだまま思い切り叫び腕を持ち上げる。が、その感触は軽く崖下を覗くとナディが俺の右手首を左手に持ちながら落下していったのだ。すぐ左手を伸ばしたが、もう既に掴める距離を越しており背中を下にし落下していく。落ちていく最中、ナディの表情に先ほどの殺意は一切なく微かに笑っているように見えた。

 

 

 

落下していき数十分が過ぎた。辺りは暗くなり、小屋で四人だんまりを決め込む。アモネはせき込みながら床に寝て、他三人は椅子に座って俯いていた。以前起こっていた再起動エフェクトが起こっていないことからこれが正解だったということは何となくわかっていたが、ナディを最後まで守れなかったことが俺たち四人の罪悪感に積もっていた。特に会話を交わすことなく意識が遠のいていく、これで明日が来たらどうしようかと一瞬考えたが、眠気のない意識のフェードアウトに耐えることができず考えることをやめた。

これで正解だといいんだが。

 


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