ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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決別

SAOサービスが始まって早半年、ギルドの様子も変わらず平凡な日々が続いていた。正直僕はだれかがクリアするまで何もしなくてもいいのではないかと思った。自分はレベル5。今前線で戦っている攻略組と知り合っているわけではなく、僕にはそんな実力もなく到底及びそうでもなかった。

脳内でモンスターを切り倒す妄想を繰り広げている中、今後のレベリングのことを考えていた。自分の装備は初期の装備のままだし、お金はギルドの運営費に回していてすっからかん。挙句の果てに戦闘下手で経験値をあまりもらえず、Expポーションも後回しにされることばかり。結局ギルド内最弱…というか、アイングラッド内で最弱とも自分で思ってしまうほどステータスが低かった。現実でもけんかが弱い僕にはこのVR世界の先頭なんて到底慣れやしなかった。

 

ある日、僕はは団長「メイカー」に呼び出され誰も来ないような屋敷に足を運んでいた。戦闘禁止区域と表示されているもののどこからでも出てきそうな雰囲気を醸し出していた。もしかしたらここで僕を葬る戦略かもしれない。油断して武器も全く装備しておらず、いつもの普段着しか着ていなく、もってきたのは申し訳程度のポーションだけだった。メイカーは僕のレベルを軽々超えてきているはず…恐怖で今すぐ逃げ出したかった。その時メイカーが暗闇の中から現れた。その様子はいつもの陽気そうな雰囲気で踊りながらの登場だった。

 

「メイカーさん…今日はいったいどうしたんですか?」

 

「いやいや!そんな険しい顔をしなくてもいいじゃないか!キルなんてしないさ!!」

 

恐怖交じりに声が出てしまう僕に対し特にメイカーさんは手を加えようとはしなかった。大きな手で撫でてくるが確かにその手からは殺意は全く感じられなかった。僕はおびえて声が出そうになかった。

 

「実はな…話というのは、お前にこのギルドを継いでほしいんだ。」

 

突然の告白とともに冷たい風が流れてきた、そんな気がした。半年たったアイングラッドには秋が訪れていた。

 

 

「秋、といえば狩りの秋だな!俺たち攻略組を目指してレベリングだ!」

 

所変わり何時ものギルドハウス。メイカーがギルメンに向かって叫ぶ。メイカーは乗り気だが、ギルメンは全くやる気の一文字も感じられなかった。半年でこの世界に慣れてもいい時期だが、慣れるのではなく慣れずに拒絶反応を起こしていたのである。一体あの三か月前の気合はどうなったのだろうか…

ギルメンは返事すら返せなかった。ミラも少し疲労がたまっていて返事を返せそうになさそうだ。が、その沈黙を破ったのはまさかの人たちだった。

 

「そうだな…攻略組を一泡吹かせてやろうぜ!!」

 

「よっ!ナイス兄貴!!」

 

不良の二人は珍しくメイカーをおだてあげ、しまいには紙吹雪をまき散らし始めた。何か裏がありそうだが、その勢いに飲まれ僕たちはモンスター狩りに同行することになってしまった。

 

どれほど時間がたったのだろう…モンスター狩りをしギルメンは凄まじい成長を遂げ、レベル20を超え立派にスキルを得ていった…もちろん僕以外なのだが。安定で僕はモンスターが狩れずに、ギルメンにモンスターを横取りされ全くレベルが上がらない始末であった。が、このイベントを通してメンバーの士気が上がっていたような気がする。戦闘を通してこの世界の現実を知り、さらに戦闘の楽しさを知る機会になりある意味よかった…いや、もしくはこれが狙いだったのかもしれない。それには自分の実力が低く、もし低ければこうなってしまう、こいつよりましか、と思われたから僕のおかげでみんながやる気になっているのかもしれない。この士気高揚には自分も一役買っているのではないかと思ったり、思わなかったり。ため息をつきながら成長を嬉しく思っていた。が、次の瞬間だった。

 

メイカーが倒れた。真っ先に気付いたものは恐らく僕で、後ろを振り返ったときには剣が突き刺さっていたのが見え、メイカーの体は青く光り粒子となり消滅してしまった。

唐突で…衝撃だった。いったい誰が…メイカーの周囲を探し、ギルドメンバーにも伝えた。が、犯人はすぐわかった。特徴的な蒼い曲刀。いつもこれを振り回しているのは、ギルドの先陣をいつも切り、やたら人を馬鹿にする…

 

「やったなぁ…これで俺らが今日からギルマスだな。」

 

「流石っす!こんなあっさり倒せるなんて流石っす!!」

 

曲刀を拾い高らかに笑う二人、そう、不良の二人組である。非常にベタな作戦だが、あの鈍感なメイカーにとってはしっかりとこの作戦は刺さった。ギルメンたちはリーダーを失い混乱に陥った。中には自決しようとする者もいた。この世界はHPが自分の命、もはや自分の命なんて考えることができない。僕も、どうすればいいか全くわからず、自分の中に謎の感情が芽生えていた。さらに、そこにモンスターが現れる。Lv30のダイアウルフ。さらに群れでの戦闘だった。そんな中、不良の二人は歩いてその場を逃げようとする。

 

「またな、クズども。俺たちはギルドのアイテムでも引き取っても来るさ…」

 

「また会えたらいいな…クズども!アバよ!!」

 

衝動的に俺は走り出していた。不良たちへの怒りが隠しきれなかった。何故善人のメイカーが死ななければいけなかったのか、全くわからない。自分がなぜ怒っているのかも分からない。モンスター一匹も倒せないのに、剣を構え飛びかかった。が、二人は転移結晶で転移してしまう。俺の手元に残ったのはダイアウルフと混乱したギルメンだった。その中ミラはたちあがる。彼はまだあきらめておらず味方を庇いつつ、敵を倒していた。が、俺はもうその姿見ることはなかった。俺はその戦闘を放棄した。また、それはギルドを捨てたことでもあった。その行動にミラは叫んでくる。

 

「お前も戦えよ!俺も一緒に戦う!!もう一度…!」

 

「…俺はもう道具じゃないんだよ…俺は一人のプレイヤーとして戦う。」

 

そう返し、俺は一歩を歩みだした。ミラは何か言っていた気がするが全く聞こえなかった。俺は歩きながら武器「ギルティ・サクリファイス」を手に取り、月の光に照らす。改めてみてもやはり禍々しい。一人岸壁に座り、この大鎌を眺めていた。

 

 

「実はな…話というのは、お前にこのギルドを継いでほしいんだ。」

 

この一言を聞いたが、もちろん俺の口からはNoの一点張りである。戦闘能力が低い俺にさせるということは、子のギルドを捨てるつもりかと思った。が、メイカーからまた話される。

 

「謝らなければなければならない…お前のことを全く考えれてなかった…俺らはお前を囮として扱っていたんだ。最初はちゃんとした、団結するギルドを作りたかったが…命の保証がなかった。だから、一人囮がいるという口実でギルドを作ってしまった。」

深々と頭を下げるメイカー。ショックだった。単純に仲間として扱ってもらっていないことにショックだった。僕の頬からは涙がこぼれ落ちた。なら、ミラのあの言葉も全部嘘になるのか。そう思った。

 

「俺だけ逃げるわけではないが…俺はもうすぐ誰かに殺されるだろう。誰かは分からない…お前かもしれない。が、俺は逃げない。無抵抗で殺されるつもりだ。だが…信じられないかもしれないが…お前のことを、俺は助けたかった…だから、このギルドの核…金とアイテムを全てもっていってほしい。」

 

信じられなかった。この後絶対僕が殺されるんだ。汚い人間にしか見えなかった。これで僕に対しての罪滅ぼしになんてなるわけがなかった。その言葉に信ぴょう性なんて一つも感じられなかった。なら、もういっそのこと今目の前のこいつと心中してやろうか。そう思う。

 

「後…困ったときに使ってくれ。」

 

手渡されたものは例の武器、ギルティサクリファイスと古ぼけた箱だった。その箱を開くととても暖かい光が僕を包んだ。

 

「その箱はスキルボックスだ。スキルを継承させるためのもの。その鎌が使えるように鎌のスキルを上げておいた。好きに使ってくれ…」

 

頭に何か入ってくる。身に何か染み渡る感覚。そして、手の鎌を振ってみるが、先ほどよりも軽い。今まで使っていた短剣より軽く驚きの連続。ワクワクした。が、精神的に完全に立ち直ることは無理だった。僕はこの人たちに裏切られているんだ。その事実が喜びの感情に鍵をかけている。これが現実だ。

 

「僕は…どうしてもこのギルドにいなきゃいけませんか…」

 

「いや、嫌なら脱退してもいいんだ。どうせ俺は死ぬんだからな。ここに縛られず、お前らしい生き方をしてくれ。こんなギルマスでごめんな。リンネ。」

 

 

思い出すとまたイラつきが止まらなかった。そう、俺の名前はリンネ。もちろんハンドルネームである。この名前には嫌な思い出しかなく、断ち切るために俺はこのゲームを始めた。が、やはり同じだった。現実での弱い自分を今回も変えることはできなかった。いや変えなかったのは自分だ。

 

「自分らしい生き方か…探してみるか。」

 

ふと呟き俺は立ち上がった。自分らしさなんてまだ模索する時期だろう…誰にも縛られない自分らしさ。俺は駆け出した。行き先はまだ決めていない。目的地なんてわからない、だから行き着いた場所で自分を見つけ出す!走り出した両足は止まらない。この高ぶる感情はなんだろう、怒りではない。この飛び跳ねたくなる感情は、俺が数年間忘れていた感情、喜びだった。


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