ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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時は止まることを知らず

目の前が真っ白になった。次第に明るさが晴れていき辺りを見渡す、小さな小屋の中にある小さな窓からは光が漏れており日中であることが分かった。そこに声の主はいなかった代わりにそこに立っていたのは、部屋着で棒立ちになっているカザネだった。体は自由に動かすことができ、突然可能となったことに戸惑う。ただ慌ててカザネにどう声をかけた方がいいかわからなかった。

 

「あんた…どうゆうこと…?」

「あ、あのさ…俺もよくわからなくて…正直何が起こっているか全くわからないんだ。どうして俺がここにいるのか……そもそもこの世界が何なのか」

「いきなりそういわれても…まぁ、そうね。とりあえずお互い落ち着いて情報を交換しますか」

 

二人で深呼吸し、俺が起きるまで何があったのか俺が何を体験したのかをお互い話し合った。俺が地下空間にずっといた事、地下に生きている人たちがまだいた事、ナディを知っている人がいた事。覚えていることをすべて話した。確かに覚えていることすべてを話した。途中から何を話しているか分からなくなっていたがただ思いつくことをただひたすら話した。カザネの顔はどうだったか全く分からなかったが誰かに伝えたかった。ふわりと香る花の匂い。

瞬きすると、視界は真っ暗になっていた。

 

「辛かったよね、全部きっとあんたが本当に経験した事なんでしょ。私は信じる」

「…俺は、救えなかった。俺が救うべきだった。救うべきなんかじゃない、俺が絶対に救わないといけないなのに…なのに俺はあいつらを見ご」

 

思いっきり殴られた。恐る恐る顔を上げるとカザネは涙を流していた。そして俺をもう一度抱きしめる。かすかに何か言っていた気がするが俺には何も聞こえなかった。

どれくらい時間が経ったか、漏れていた光が消え部屋も暗くなる。小屋の電気をつけ、机を挟みカザネと俺は椅子に座った。ギシギシと音を鳴らす木の椅子はとても懐かしくついため息が漏れてしまう。カザネに笑われた気がするが、何も聞かなかったことにし黒パンを差し出した。怪訝な顔をしながらも彼女は受け取ってくれ二人きりでの夕食を過ごした。

食事として渡せるものはあったのにどうして黒パンだったのか、後々考えてもわからない。

 

「俺が死んだ翌日、俺がここに寝ていた…ってことは本当に地価では時間が止まっていたんだな」

「えぇ、そしてあの後からアモネちゃんと連絡が取れなくなっているの。彼女、胸を押さえたまま転移結晶でそのまま消えて…」

「アモネが…!?けど、ナディの狙いは俺の俺だったはずだから……だけど、ナディのことだから何をするか分からないし…検索は」

「アモネの生存は確認できたけど、彼に関してはフレンド切られてからさっぱり。また振出しに戻っちゃったね」

 

だな、と返事し黒パンをかじる。とても苦い。ステータス画面の時間を確認すると19:00を表示し停止していた。ますますこの世界がわからなくなっていた。

止まる時間、にもかかわらず変わる天候と外の様子、そして俺がいたあの地下空間。体験したことがない事態にますます混乱している。俺はもう少し情報収集をするため今行ける層を観察することを提案した。カザネも承諾し、すぐに出発する事となったのだ。カザネはなぜか機嫌がよく見え、ドア先に向かって飛び出していく。俺も後に続こうとしたその刹那、大きな物体が俺に向かってくる。とっさに転がってよけ壁に突き刺さったその物体を見た。そこには先ほどまで嬉しそうに飛び出していったカザネがナイフで腹を貫かれぐったりしていた。声をかけるが全く反応はなく、腹からはポリゴンでなく血を流していた。HPがゼロになっているが消えることはなく手先は冷たい。瞳を開いたまま死んでいる彼女の顔を見て泣くこともできずただ言葉を失った。直後、目の前がうっすら赤くなり10秒のカウントダウンが流れる。そのカウントはまるで、まるで、

 

さっき見た

 

 

そんな気がした。俺は暗い闇の中に立っていた。そこにたくさんの人がいることはわかるが、暗すぎて見えない。そこで確かなことは一つあった。横を見覚えのある女性が通り過ぎて行ったのだ。あの日目の前で散った、女性だったような、そんな、気が、した。

 

 

 

 

 

目覚めるとそこは気のベッドに横たわっていた。もちろんそこは現実の自分の家であるわけがなく、仮想空間の家であった。日付を確認すると、どうやら現実の時間と連動しているらしく、仮想空間で殺されてから一日が経っていた。

窓から漏れる光、この部屋の感覚。まさかと思い俺はゆっくり体を上げ正面を見る。そこにはカザネが目を丸くして棒立ちしていた。

 

「…デジャヴ、なのか」

 

流石に俺は同じ状況に驚くことはなかったが、カザネは俺を見て驚いた表情のまま固まっている。とりあえず椅子に座らせカザネに何があったか話を聞いた。が、ここで異変を感じた。

彼女はなぜここにいるのかわからないと言い出したのだ。気づいたらここにいた、そして死んだはずのあんたがそこに寝ていたことしたか知らないと言い始めたのだ。昨日刺されて死んだことを聞くと、冗談と思ったか笑って蒸せていた。冗談言うならもっとうまいこと言いなさい、と。俺は自分が昨日体験した事、地下世界で何があったかをすべて説明する。その説明に対してカザネは昨日と同じように真剣に聞いてくれた。窓の外から何かの気配を感じその方向をにらむ。

 

「4回」

 

黒い影は窓から薄くなり消える。俺は追いかけようと玄関のドアを開けた、その瞬間頭の中に昨日起こった出来事が再生される。どこからともなくナイフがカザネの左わき腹に突き刺さりゲームなのにまるで現実で死んだようなエフェクトが起こった、あの出来事が数秒で流れていく。気が付くと自分の腹部中心に機能と同じナイフが突き刺さっていた。カザネが戸の外に出ようとするが、最後の力を振り絞り

 

「動くな!!隠れろ!!」

 

と声を出し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

目覚めるとそこは気のベッドに横たわっていた。もちろんそこは現実の自分の家であるわけがなく、仮想空間の家であった。日付を確認すると、どうやら現実の時間と連動しているらしく、仮想空間で殺されてから一日が経っていた。急いで起き上がると正面には、部屋着で棒立ちになっているカザネがいた。信じられないような顔をしているが、正直に言うと俺も信じられない。お互い同じ顔をしているのだろう、やけに瞼周辺に筋肉に力が入っていた。

 

「あんた…どうゆうこと…?」

 

「あ、あのさ…俺もよくわからなくて…正直何が起こっているか全くわからないんだ。どうして俺がここにいるのか……そもそもこの世界が何なのか」

 

いきなり殴られた。訳が分からなかった。カザネが何度も俺を殴った後震えた声で俺の背中に手をまわした。服が少し濡れてきたことから泣いているんだと思う、絶対守らないといけないと俺は思った。とりあえず背中をさすってあげ椅子に座ってもらい黒パンを差し出した。泣き止んだものの、しゃっくりしておりパンを食べると同時にしゃっくりが起こり蒸せていた。普段きっちりしているカザネらしからぬ姿に少しかわいいと思ってしまった。

すると、玄関からノックが聞こえ俺は玄関に向かう。カザネがなぜか声を荒げ走ってきたが、そのまま玄関を開らかれる。小さい影が急いで戸を閉めると俺が食べようとした黒パンを奪い取り、口に含んだままむせ始まる。その影は黒フードを取ると振り返る、その顔はどこか見覚えのある顔だった。

 

「…リンネさん、これで29回目です。貴方を見るのは」

「それはどうゆう」

「貴方は…いえカザネさんも、貴方たちはもうこれで29回同じ場面を繰り返しています」

 

初めて知らされる真実、俺たちは何度も死んでいる。確かに一回ここに来る前、ナディに殺された覚えならあるが、それが20回以上も行われているなんて知ることもなかった。俺が口を開こうとすると、アモネは俺の口を黒パンを詰め込みふさいでくる。

 

「黙って聞いてください、私には時間がありません。おそらくここで一度殺されます。私たちはこの小屋で必ず殺される。私が来ていない以前は二人とも殺された時もあった。殺された後、あなたたちは記憶を失っていました。それは何度も見てきて、同じ質問に関して答えられなかったりしたから…きっとあっている。そして今回は私が貴方たちの代わりに死ぬ番です。だから一人でも残って次につなげてほしいのです」

 

俺は黙って頷いた。アモネは咳き込みながら過去に何があったか時系列順に詳しく教えてくれた。俺が死んだあと、一晩経つとベッドに眠っていた話、その間に俺が地下空間で戦った話、二人が涙を流して抱き合った話の時は少し不機嫌そうに話しており、カザネを睨んでいた。そして誰が殺しに来るのか、それは家の中からドアを開けた途端、ナイフとプレイヤーがポップアップするという話だったのだ。つまり、ここを開けなければ俺たちは殺されることはないのだ。が、誰か殺さると時間が巻き戻り、死ななかった人間が記憶を保持したまま蘇る。どんな原理か全くわからない。だがこの機能の中に絶対何か答えがあるはず、そう思った瞬間玄関のドアが開く。するとナイフを持ったナディがアモネを突き刺し、壁に押し付けた。アモネは声も上げずに血を吐き散らし四肢が脱力していった。

俺は窓ガラスを突き破りカザネを連れて逃げた。目の前がだんだん赤く染まっていき、10秒のカウントダウンが発生する。段々体が重くなっていく、振り向くことはできない。前を向き歩を進める。ふと気づいたときには、カザネの手はそこになく、後ろから甲高い悲鳴が聞こえた。

 

生き残らなきゃいけない。 

俺が生き残らなきゃ、絶対あいつらは救えるんだ。後ろを振り向かずまっすぐ歩いた。

 

生きなければ。

 

 

 

やるべきことはわかっていた。これで30度目の目覚め、目の前には呆然としているカザネ。彼女の反応を見る前にステータス画面を開く。すぐフレンド画面を選択し、とある名前を探していく。どのような順番になっているのか、そんなもの分からない。その連絡先を見つけると、すぐさまメールを送った。

 

「おっ…嘘だろ本当にリンネじゃねえか」

「まぁ、いろいろあってな…来てくれてありがとうローベ。でも時間がないんだ。とりあえず武装してほしい」

「はぁ???」

 

首を傾げるカザネとローベ。怪訝な顔をしつつローベは自信の体を重装備で固める。普段軽装備で近接戦闘をしている彼に見合っていなかったが、意外と防具でいえーじが変わることに衝撃を受けていた。軽い攻撃なら通さなさそうな鎧と兜、両手大の盾、完璧だ。後ろを振り向かせたところで玄関に向かってローベを突き飛ばした。

 

 

扉が開いた。ナイフは金属音を鳴らし刺さる音がした。日中のはずなのに部屋は暗い、でも誰かを殺すことでまたあの日が戻ってくる。そうしてまた一人、一人と殺すんだ。きっとこれが終わることはない、進むこともない。殺しても殺しても満足しない。どうしてだろう。

どうしてだろう

どうして

 

どうして

どして

 

 

 

 

 

 

たすけて

ほしい

 

気が付くと外にいた。空は夕暮れ、少し寒い風が身をなでていく。眠っていたのだろうか、目元が痒く手でこする。きっと現実でやったら目やにでもついていただろう、少し恋しくなる。瞬きするとステータス画面が広がる。そこでわかった。

急いで起き上がると同じタイミングで立ち上がったのだろう、相手…つまりナディが立膝をついてこちらを睨んでいる。そうだ、ようやくここで気づいた。同じループから離脱することができた、そして今この状況はこの世界を終わりにするチャンスなんだと。

 

「…何をしに来たんだ、死神。どうして君は僕を捕まえた」

「もちろん、わかったからなんだ。やっとわかったんだこれが続いていた理由が」

 

そう、わかったんだ。どうしてこの世界が作られたのかが何となく。俺はただ自分が、アモネやカザネ、ローベと脱出するためにこうしてルートを変えたんじゃない。もう俺以外の誰かを失うわけにいかなかった、失いたくなかった。地下のあいつらは死んでいない、そしてナディも…まだ死んじゃいない。

お互い武器を構える、ナディはナイフ俺は鎌。武騎種は違うがおそらく思いは一緒であろう。つい頬が緩む。俺は目の前の、もう一人の死神に向かって飛び出していった。


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