ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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神なる捌き

これだけじゃ足りない。もっと、もっとあの様な時間が続けばいいのに。あんな程度で負けるあの人じゃない。もっともっと戦ってもらうんだ。

 

淡い水色のポリゴンが空に散っていく。クリアの文字がステージ全体に表示された途端、18人のプレイヤーは一斉に歓声を上げる。集まり体を叩き合う者、その場に倒れこみ安堵する者、反応は様々だったが、俺はまず一呼吸を入れもう一度周りの状態を確認する。今回犠牲になったプレイヤーは一人もいなかった。ただそれが嬉しく、命が飛ばなかったことがただ頭に残り達成感を満たしていく。その直後だった、背後から俺の頭に一発の拳が炸裂。敵かと思いよろけながら剣を構えるが、敵ではなくむしろ見覚えのある人だった。

 

 

 

『何しょげているんだよ!せっかくボスを倒したんだ、喜びに浸ってみたらどうだ?』

「…いや、それ以上に嬉しいことがあるんだ…俺さ、」

『何言ってるんだよ…ほら、向こうにはヒロインが待っているぜ?』

「…!!」

 

 

 

勝手に体が動く、彼女のもとへ体が動く。華奢な体、軽装のアモネに近づいていく。俺に気づいて振り向いた彼女はれの顔を見て驚きの表情を見せた。

 

「死神さん…!?」

 

メグさんの声で目が覚めた。後ろを見るとろーべが経っていた位置に不思議そうに俺を見るミラが呆然とした様子で立っていた。そうだ、ここはアインクラッド最下層。アモネやローベがいるわけがなく我に返った。そうだ…ここは死後の世界、安心も安堵も存在しない世界だったのだ。俺は戸惑う二人に無理やり口角を上げ「やったな」とだけ声をかけ次の門へと歩いて行った。

 

 

 

門の後はすぐ街になっており、広場前のベンチを見るとすぐに座り込む。街はやはりどこかで見た事のある風景だったが、クリアしたプレイヤーが少なく賑わいは全くなかった。俺は深呼吸すると状況を整理した。

 

ボスバトルが終わった後、殴られ後ろを振り向いたが姿を見ることはできなかった。その後前を向いた時メグさんがアモネに見えたのだ。重症な気がするが確かに見えた、そしてかすかに何か聞こえたのだ。それが何かはわからないが、ただ落ち着いて考えるとやっぱりここは現実ではないことは分かった。マップを確認するとB9と表示が回復していた。

 

 

 

「リンネ君、本当に大丈夫かよ…?」

「ミラ…うん、たぶん冷静になれてない…初めてボスを倒したから興奮しているのかもしれないな…俺」

「それならいいんだけどさ、メグさん怖がってたぜ?後で会ったら謝っておきなよ。次も期待しているよん」

「そうだな…うん」

 

 

何も言い返す気力はなかった。ただ一つ自分に絡みついているものが、次も被害を出さずに切り抜けられるかということであり、今回ギリギリだったことがさらに胸を締め付ける。もう俺のせいで命を飛ばしたくない、これは俺が斬ってきた人へできるただひとつのことだから、そう思い目を閉じた。

2層のボス会議は一層通過から3日後に行われた。広場にてミラを中心に円陣を組み、まずは情報交換から始まった。

 

 

 

「…このフロアボスの情報は……全くない!陣形で何とかするしかないと!!」

「いやぁでもミラさん、一層下に出てくるモンスターはそっくりそのまま上の第一層と一緒だったじゃないですか」

「馬鹿野郎、そうやって次のフロアで同じ戦法をしてみろ!そうやって油断しているやつが喰われるぞ…!」

 

 

アメリカンハットとミラと、以下多数の論争が始まったため俺はその場を離れこの層で買ったスペシャルドリンクを飲み干す。「おそらくまた俺が先陣切るんだろうな…」と呟いた直後、気配を感じ振り返るとメグさんが立っていた。メグさんは近くのベンチに座り俺に手招きする。俺はドリンクカップを処分してベンチに座った。メグさんを見るがなぜだろう、気分がよさそうだ。

 

 

 

「死神さんは…この世界、どう思います?」

「…えっ?」

「なんて、気になったから聞いてみただけです。忘れてください」

 

メグさんの言葉の意味を考えるが…NPCでありプレイヤーのメグさんにどう返答すれば正解か、すぐには出ずしゃべろうとするが言葉に詰まってしまう。こんな時『僕』ならどう返答しただろうと考えているとメグさんは会話を続ける。

 

 

「死神さんにあの子…ナディが憧れる理由も何となくわかったようなそんな気がします」

「あいつは…いや、憧れてなんてないですよ。あいつは…俺を見てはいないです」

 

 

 

軽くため息をつき俯く。本当はこんなことを言いたくないし、彼の大切な人の前はなおさらである。こういう時どうすればいいのか…いつもはアモネが人と話していたから俺にはあまり経験のないことをしている。ふと、背中が柔らかい感触で包まれる。それはとても暖かくついため息が出てしまった。息を吐き切った時我に返り後ろを振り向くとメグさんが両手で背中をさすってくれていた。

 

 

 

「たくさん考えているんですね、死神さんも…でも…今だけでも休んでください」

「…今だけでも…ですか」

「はい。こうすることが貴方の不信感を高めるのかもしれませんが…」

「…すみません」

 

 

一応ここは圏内でありキルは起きない、特殊な方法を使えば別だが。仕方なく俺はメグさんのリラクゼーションに甘えることにした。今まで感じた事のない安心感、剣を離さないようにするものの全身の力が抜け突然襲う眠気。ステータスは全く状態異常を示さない。そのまま俺は眠っていく……結局一日眠ってしまった。

そして翌日第二層攻略が決行された。第一層よりは敵が少なく感じ、その代わりなのか一撃が重く受け止めるたびに腕がしびれる。なんとか誰も欠けることなく第二層ボス前までたどり着いた。

 

 

 

「皆、気を引き締めて行けよ!相手は何が来るかわからないからな!」

「そんなこと言って…今回のLAは俺がもらいま」

 

 

 

アメリカンハットが何者かに襲われた。すぐ助けに行くがアメリカンハットの前にはどす黒いオオカミのようなエネミーが居座っていた。そのエネミーは口を大きく開くと彼を食い荒らし始めた。口に付いた無数の牙は彼の体を貫き、エネミーはその動きを止めない。「痛い!助けてくれ!!」と叫び最終的に彼は青いポリゴンとなりはじけて消えていった。その後エネミーはこちらを向き咆哮を放つと俺たちに襲い掛かってきた。全員初撃は何とか回避したものの不意な出来事だったため、10と7のグループに分かれてしまった。俺は自信のいる7のグループを散開させ距離を取る。同時に鞄から爆竹を取り出し炸裂させる。エネミーはすかさず俺に攻撃を仕掛けてきた。

 

相手の名前はシャドウファンタズム、オオカミのような姿をした影のような姿だ。ゲージは三本、身体の至る所に楔のようなものが打ちこまれている。きっと相手はまだ本気でないことが予想できる。が、不意にステップを踏まれその突進に巻き込まれてしまった。その突進は10人のグループにそのまま向かいプレイヤーを散らして停止した。なんとかまだ皆耐えているが、やはり一撃が重い。戦闘時間がまだ3分経たないのに息が上がりつつある。誰かが閃光玉を投げ一面は白世界に包まれる、視界が晴れた時にはエネミーは消えてしまった。エネミーを探すプライヤーたち、刹那俺の足元から大きな地響きと共にエネミーが飛び出てきたのだ。反応しきれず上空に吹き飛ばされ、エネミーの爪が迫る。右手の曲刀を爪にぶつけ気道を変えることによって直撃は避けることができたが、勢いよく俺の体は壁に激突した。肺がつぶれたような感覚、焼けるようにいたい背中、何とか立ち上がるも視界は薄々砂嵐がチラつき体力はイエローゲージまで減っていた。

 

 

 

「リンネ君を守るんだ!彼がいなきゃここは持たない!!」

「そんなこと言われても…俺たちだって死にたくない!うわぁぁぁ!!」

 

 

 

エネミーは標的を変え他のプレイヤーを攻撃する。影の柱を立て自信を防御、プレイヤーの移動範囲を減らし突進攻撃をかます。相手ゲージも減りつつあったがまだ2.5本と少ししか減っていなかった。慌てる指揮官のミラ、状況は一向に改善はされそうになかった。このままでは犠牲者が出る、俺は剣を杖にし立ち上がる。貴重な回復結晶を使用し体力を回復すると攻撃している二人のプレイヤーのもとへ走っていく。

 

 

 

「スイッチしろ!交代だ!!」「お、おう!」

「無茶だ!一人で勝てるわけがない!!」

 

 

 

しかしこいつらに猛攻撃を任せるわけにはいかなかった。俺だけでも確かにジリ貧だがまだ死なない。あと数回攻撃を捌けばこいつを攻略することができる。他の人に任せた時間違いなく犠牲者が現れる、ただでさえ一人がすでに犠牲になり敵の情報がわかっていない中で皆を守るにはこうするしかないんだ。突進を避けつつ俺はエネミーのボディーにダメージを与えていく。一見変わっていないように見えるが、確実にボスの体力は減少し、ついに15分かけて一ゲージを削りきることができた。

ボスは怯み後退する、周りのプレーヤーからはどよめきが上がる。その直後だった、ボスは再び咆哮を放った後楔が解かれ鎖を引きちぎり全身をさらに黒い影で覆い始めたのだ。驚き立ち尽くす俺たち。影は急に消えると再び俺のもとへ現れ足で踏みつける。その後牙が迫るのを避け何とかレッドゲージで収まることができた。攻撃を終えたオオカミに先ほどの攻撃プレイヤーが再び攻撃を始めた。何とかしてもう一度攻撃に参加しなければ、回復結晶はもう一つしかないが出し惜しみをしている場合ではなく、決勝を見た時には使用していた。俺たちのレベルはここにいる限り均等に50、相手もレベルは50で五分五分のはずだ。マージンはとれていないが、勝てない敵ではない。俺は再びスイッチしボスへの攻撃を続行した。ただひたすら突進を避け、攻撃を確実に当てていく。攻撃を避け当てる、この流れが体に身に付けば確実に倒せるが、俺のゲージはイエローゲージになり半分になっていた。

 

 

 

「スイッチしろ死神!少し休むんだ!」

「さっきより攻撃の手が遅くなっている!俺たちで何とか耐えるから代われ!!」

「……!!」

「そんなにLAが欲しいか死神!」

 

 

 

言葉に出している暇なんてなかった。最悪俺の命と引き換えにこいつが倒せればよかった。自分の曲刀が突如空を切った、ボスが陰に隠れたのだ。もうパターンは覚えカウンターを決め込もうと構えていたところ、音が鳴り飛び出たのはメグさんの足元だった。メグさんはきれいに身をかわし、影の追撃をひらりと避けていた。俺の攻撃を見ていたと言え、やはり早すぎる…加勢しようと走ろうとしたときミラが羽交い絞めにし壁まで引きずってきた。

 

 

 

「もうやめてくれよ!君は死ぬ気か!?」

「…こうでもしないとみんな死んでしまう。いくらNPCだからって…」

「?」

「絶対に誰も失っちゃいけない…俺がやらないといけない……俺が…!」

 

 

 

突如甲高い悲鳴、聞き覚えのある声はやはりメグさんだった。メグさんが奴の攻撃に巻き込まれたのだ。なんとかもういちどたとうとするメグさんだったが、彼女の右足は膝より下が切断されておりバランスを崩し倒れてしまう。もう誰も失うわけにはいかない、そう思った時には体が動いていた。

 

制限時間残り4分、総戦闘時間2時間56分を記録しタイマーは止まっている。フロア内はクリアの文字が一面に表示されていた。だが、一部の人しか喜んでおらず大半はフロアに残り俺を見ていた。その目線はまるで軽蔑するような、侮辱するような俺を批判しているであろう目線だった。

 

 

 

「そこまでしてLAが欲しかったのか?」「何なら俺たちと交代して順番に攻撃すればあんただけ苦しまなくてよかっただろうに」

「…LABならいらない。お前たちが前に出ると無駄に犠牲者が出る。もう出なくていい、俺がやる」

「出なくていいって…馬鹿にするなよ、お前ひとりでやれるからとかそういう問題じゃなくてな!!」

「待って!リンネ君は君たちを……守りたかったはずなんだ。けどあいつは……」

 

 

しかし、今回は最初に奇襲でやられた一人が犠牲になってしまった。本望ではなかったが、最小限に収めることができた。もう周りの目線なんてどうでもよくミラが一人のプレイヤーを押さえているのを横目にLaでドロップしたアイテムを捨て門を開き、次のフロアへ向かった。

 

第三層は今までと街の様子が違い、白黒で支配されており町は一層より小さく見える。崩れかけたベンチに座り自分のやったことを振り返り後悔する。自分がしたことは間違ってはいないはずなのだ、自分の守りたいものを守れたため満足してもよい気がするのだ。鎌を使うまでは。鎌を使ってから明らかに空気が変わった。だから俺は使いたくなかった、皆、俺じゃなく死神の鎌を頼っている。そして俺も鎌に頼ったことがただ悔しいが、鎌が手放せないことも事実だった。他の人にこれが渡った時また他の人が傷ついてしまうことが怖い、本当は自分が新しい死神に殺されることを一番恐れているのかもしれない。今は手放すわけにはいかないのだ。俺は今後の行き先をしなっていた。

 

 

 

「…さん。死神さん」

「…メグさんですか」

「少し話がしたくなって、落ち着くためにもいいでしょう?」

「…」

「どうして周りがNPCなのに守ろうとするのですか?彼らは亡くなっても現実への影響は全くないのに」

「それは…きっと自分の心を落ち着けるため」

「いえ、貴方は…本当にみんなを守りたかった。必死に動こうとした結果貴方は鎌を出したのでしょう。でも…貴方は一人で戦いすぎた。きっと」

「わかってる、俺はやっぱり死神でいないといけないんだ。そうすればあいつらを守ることができる。無駄にあいつらに消えてほしくないんだ。たとえそれがコンピューターだとしても……失いたくないんだ」

「…少しは周りの方を信じてみては良いじゃないですか、きっとミラさんたちも優しく迎え入れてくれるはずですよ?」

「あんたはなんなんだ…俺の母親のつもりか……どうして母っていうのはいつもこうやって!」

 

 

 

メグさんの顔を見た途端、右頬に刺激が走った。時間が経つごとにジーンと痛みが広がっていく。頬を押さえながらメグさんの方を向くと顔所の顔は赤く目つきは鋭くなっていた。

 

 

 

「どうして母親を悪く言うの!この世にあなたの母親がいなかったら貴方は生まれてなかったのよ!?」

「俺なんて生まれなければよかったんだ!愛していると言われるけど殴られて、邪魔と言われて階段から突き落とされて、外は危険と言われて部屋に監禁されて…学校でも、塾でもこの世界でも…俺の居場所はどこにもなかった!俺は異端児なんだ、母が俺にそうするんならきっとそうなんだ!それともこれが俺の役割か!?どうなんだよ!!」

「…!」

「俺が生まれていなければナディもあんなふうになっていなかった!ここにいる大半の奴も俺が殺した!全部俺が悪いんだよ!!」

 

 

彼女が何か話そうとしたが、無視して立ち上がり遠くの空き家に入った。もう何も聞きたくなかった。どこにも居場所がないならせめて自分の空間だけは作りたかった。これが何も強みのない本当の俺、母親に従っていたころの本当の俺なのだ。もうここですべてを終わらせよう、ベッドに腰かけた後目を閉じた。ずん、と体が沈んでいくような感覚が俺の意識を奪っていった。

第2層以降の攻略はあっさり進んでいった。3~5層は敵が一層に比べると明らかに弱体化しており、後衛にいた俺は全くボスに手を出していない。6~8面も同中に敵が設置されておらずボスも一層に出た中ボスがボスに格上げされているだけだった。そして今俺たちが攻略している9層も10分と経たずボスが倒されフロアにクリアの文字が浮かんだ。

 

 

「今回のLAは俺だー!」「くっそ…俺が先だったと思っていたのにな…」

「死神がいなくても俺たちは戦えるんだ…!ですよねミラさん!」「あ、あぁ、そうだねぇ」

「ミラさんも大袈裟すぎますって!今回はやばいどころか、今回もぬるいが正解でしたね!」

「そうだね…いや、層が上になるほど強くなることが普通だと思ってたけど…そんなまさかね…」

 

 

俺は足早にこの場所を抜け第10層の広場へと歩いていく。黒ずんでいる空は最初より薄くえんじ色になっており、雲の間からは日光が漏れている。2層以来、集団にいるのが気まずくなり先にフロアを出るが、俺の行く場所にはいつもメグさんが先回りしていた。あんなに喧嘩したばかりなのにメグさんは微笑んで話題を振ってくる。しあkし俺はそんな余裕はなく今自分はどうすればいいのか考えていた。だが自分もこのままではだめだと思っていた。仮にこの状態で現実に戻れたとしても俺は結局死神になることを恐れながらも、鎌に頼ってしまうだろう。自分のシコウデハ既に限界を迎えていた。今日もし会えたら話そう。そう思い広場の階段に座ると、数分した後やはり彼女がやってきた。

 

 

 

「気分はどう、リンネさん」

「…俺は今後も何もできないのかな」

「そうやってすぐ不貞腐れないでください、あなたの大切な人も悲しみますよ?」

「……俺にそんな人はい」「わかりました、ならとっておきの情報と交換しましょう。きっとあなたの助けになります。話してみてください、スッキリすることもありますよ?」

「…僕は……母さんが怖いんです。兄貴や父さんを傷つけたから……俺も今同じように力で皆を支配しているような気がする。母さんは僕に優しくしてくれた後、見返りを求めるように僕を傷つける。殴って蹴って罵倒して…最初メグさんもそう見えてしまって…ごめんなさい」

「いえ…私こそ。きっと私が年上なのに…あんなこと言ってごめんなさい」

「…メグさんは本当に母親だった…?」

 

 

 

ふふ、と笑い手を横に振る。俺のことが年下の弟のように見えたらしくいつもの癖で言ってしまったらしい。メグさんの家は普段母親がおらず父もあまり話を聞いてくれない家だそうで、弟や妹の世話をしていたのはいつも自分だと言っていた。きっと本当なのだろう、そう考えると俺は自己中すぎた。自分がそうなってほしくないだけでできもしないことをすべて背負い込もうとしていた。皆と同じ能力で協力して強敵を倒す、一人でできないところは補い合って突破していく事が大事なんだとうすうす気づいていた。集団でいることは弱いことじゃない、ミラのギルドのようにねじ伏せるためでもない、遠慮もし合わない皆が空間のこと。俺たちの一つの帰る場所なんだと、そう思った。

 

 

 

「俺は、少しレベルが上がって変に自信をつけていました。そしてここの人を馬鹿にしていました。群れることは弱いと思っていました…」

「うんうん…」

「けど、それは間違いだったと思います。ここの人たちは弱さを補い合っている、自分のできることを精いっぱいやっている。戦ったり支援したり…だからここにいる人たちは仲間を拒むことはない…」

「私も頑張ってレベル上げしたんですよ?もう少し頼ってほしいです。でも…よかった、さっきより顔がイキイキしている感じですよ!なら一つ情報を教えるわ…よく聞いてね。実は…」

 

俺は息を飲んだ。その事実は今後俺の人生、いや俺以外にいる周りの人の人生に大きく影響する事となったのだから。

 

 

 

その日の夜、反省会と共に最終層のミーティングが行われた。久しぶりに参加させてもらうが、特に反対もされず、多数の黄色い声に支持され歓迎された。俺はみんなの前で一礼するが直後、「頭なんて下げるな!」「ぜったい上の世界に戻ろうぜ!」とヤジられ皆の輪に入った。しかし、いつも通りミラが仕切っていたが、今回ミラもいつもにない緊張感を持っているのか表情が硬く、メンバーの発言に対し聞き逃すことが多かった。その場は笑って流されるが、表情もを曇らせるメンバーもいたことからメンタル面への影響がありそうだった。その後、陣形を確認しミーティングは終了した。

ミラが就寝した後、ミラ以外のメンバーで集まり円を組み、話し合いが始まった。

 

 

 

「リンネさん、私たちは…この中に嘘をついているプレイヤーがいない限り、私たちは全員人間です。NPCではありません」

「…えっ!?」

「今ここにいた私たちや、ここの始まりの街にいたプレイヤーは全員生きています。ただ…現実世界に帰ることができないのです」

「どうしてそれがわかるんだ…?そもそもこの世界は何なんですか」

「俺達、この世界を見るのは二度目なんだ」「そうそう、こうやって10層のボス部屋まで来ることができたんだよな。ボスは多少変わっていたけどここにいる奴らはだれ一人変わることなく来たんだ」

「皆いつから…」

「全て仮定になりますが、死神さんはゲームがクリアされたと言っていた、私たちはクリアされたと予想される日B1フロアについて戦おうとしていた。目を覚ましたらまた地下10階にいた。どこかでSAOが起動していて現実で生きている死神さんがここにいるということは私たちはまだ生かされているのかもしれないということです」

 

 

 

この人たちが本当にAIでないかを見極めたい。SAO事件後に調べた時、アインクラッドとSAOはカーディナルシステムによって管理されており、NPCの行動もすべてこのAIが管理している。前に話した時もかなり正確な会話が可能であり、だからこいつらの会話も俺と辻褄を合わせるよう動いてくるはずだ。本当に人間なら何か証明できる何かを見出したいが…俺には思いつかなかった。もしこれが本当なら…俺が倒したことに変わりはないが…みんな生きている未来が生まれる。

 

 

 

「なら…ナディも…?」

「確信は持てませんが、きっとあの子も意思があるはずです。現実でもきっと生きているはず…けど、なんでここに彼がいないのか、それが不思議でならないんです」

「…死んだプレイヤーがここにいるはずなのになぜ彼が上にいるんだ…?しかも俺はこのSAOにどうやってログインしたんだろう」

 

 

会場にどよめきが走る。本来ならSAOは100層のボスが倒されることによってクリアされるはずのゲーム、しかし一層時点で全くと言っていいほど情報が回ってこなかった。そう考えればこの反応は当たり前で俺の言っていることは突飛すぎる。だが誰も疑うことなく真剣に俺に目を向ける。

 

 

「仮の話、75層に攻略組が行った際俺がミラを倒した…けどミラは現実では意識はあって、元気に過ごしている…でもどうして…」

「俺たちは75層以前にやられている…お前さんがいう、75層の世界で生き残れなかったやつらは…まだ現実世界にはいっていない、ずっとここなんだ…」

「なら…本当にお前たちは生きているんだ……でも現実世界に帰っていないってことは…病院のベッドの上か…」

「そう考えると…上で生き残った人はほとんどNPCって考えても、いいのかな?」

 

 

それで合っていると思う、メグさんの質問に答えようとした直後、視界がゆがむ。眼は冴えているのに体が急に重くなり、受け身を取らず地面に倒れる。ステータス画面を確認するも視界がぼやけており、バッドステータスになったかどうかも確認できない。3、4人くらいの声が聞こえてくるが、全く何を言っているか聞こえない…

 

俺は病室の前にいた、誰かもわからない病室の前にアモネと1人で立っていた。ドアをノックした後病室から返事が返ってくる。引き戸を開けゆっくり入ると、ベッド上に1人の少年とベッド際に一人の中年男性が立っていた。俺に座るよう手招きする、俺とアモネはそれぞれ準備されていたパイプ椅子に座った。中年の男性と並ぶ形がで座った俺たちはベッド上の男性の顔を見た。顔はやせこけ、酸素マスクが取り付けられている。起きる様子はなく機械のように呼吸が続けられていた。

 

 

 

「この度は大変ご迷惑をおかけして心から申し訳なく、深くお詫び申し上げます。今回、私が___さんに影響を与えこのような事態にしてしまった事…」

 

「そんなに硬くならないでくれ、楽にして過ごしてほしい」

 

 

 

中年男性は、俺の謝罪に驚き慌てた様子で謝罪を制止した。アモネも相手の様子に驚いており座りなおした。男性は少年の頭をなで語り始めた。

 

 

 

「この度は、わざわざここに来てくれてありがとうございます。私は___の父です」

『…えっ……?』

「貴方達を呼んだのは謝罪させに来たわけではないのです。少し話がしたかった」

 

 

 

名前が聞き取れない、突然視界が揺らいだ。男性が何かを話しているのに全く耳に入らず、俺の体がだんだん離れていくような感覚、まるでお化けになった気分だ。ついに俺の体まで視界に入り部屋全体の様子が見えてきた。瞬きをした途端、光が差し込み目覚めた時は小屋の中だった。

 

 

 

「よく寝られたかな、リンネ君」

「いや…ここは…?」

「何言ってんの、第10層だよ?」「まだ寝ぼけてるみたいだな、死神を先頭にレベル上げでも行きますか!」

「ちょ…えっ……」

 

 

 

無理やり立たされ外に連れていかれる、ミラはきょとんとした表情で後からついてきた。段々と状況を把握し、まだアインクラッド地下にいることを理解する。胴上げのような状態で迷宮区に連れて行かされる、その中にはメグさんも入っていた。

 

 

 

「昨日急に寝てしまうから、部屋まで運ぶのが大変だったんですよ?」

「そうだったんですか…?」

「外で会議したんですよ…覚えてないんですか?」

 

 

 

しっかりとは思い出せないが、うっすらとプレイヤーかNPCか言い合っていたことは覚えている。彼らが言うにミラ以外AIではないプレイヤーらしい。疑念が浮かぶが今はそう信じるしかなかった。本来なら俺たちは死んでいるはずであって脳を焼き切られているはずだ。しかし俺はさっき夢のようなものを見た、それはまるで起こったことを思い返すように。夢の内容は思い出せるが、その夢が何なのか関連付けることが難しい。ボーっと考えているとダンジョンのボスまでたどり着いた。いったん考えることをやめ俺達は巨大な蜘蛛にい向かっていった。

 

蜘蛛の糸まみれになりながらもなんとかダンジョン内のモンスター討伐は成功した。ハイタッチしながら俺たちは10層へと戻っていった。俺は体力ゲージの回復を確認すると小屋に戻ってここまでの状況を整理した。仮に上の世界に戻れたとしても、この世界になぜ俺たちがいるか原因があるはずなのである。

 

 

 

まず、ここまでの出来事を整理する。目覚めるとミラ襲撃前まで時間が戻っていた。そこから俺はゴルドレムを避けミラを倒すことで、ミラのギルドを壊滅させた。その後は俺、アモネ、カザネ、ローベで行動を共にしていたところにナディが混ざり、何日かたったある日ナディに俺が殺された。そこから下の世界で生活が始まった。一応カウントしたところ、ここの生活は今日時点で30日。1日がこの世界では大体8時間で回っており、仮想空間で3日過ぎると丁度1日過ぎる計算となる。そう考えると単純に30×8=240時間。現実世界は10日間経っているということになる。

 

次に気になったのが、俺の夢の内容だ。おそらくあれは俺が現実で体験した出来事らしいが、いつ起こったか分からない。ベッドに寝ていた少年の顔、あのイントネーション、確実に近日に聞いていることはわかっているが、それがいつだったか全く思い出せなかった。

 

 

ログインした原因を考えているうちに一夜が明けついに十層攻略日となった。

朝、洞窟の前には俺とメグさんを30名ほどのプレイヤーが集まり剣を一つに重ね誓いを立てた。

絶対に現実世界に復帰してゲームから生還する。

お互い顔を見合わせて洞窟に入っていった。

洞窟は10mほどあるだろうか、縦横どちらにも広く壁と床は岩屋小石だらけで非常に足場は悪い。ランタンがなければ先は見えず暗い道が続く。普段より一回り大きい洞窟だがボスが出るまでの時間は変わりなく、ただ沈黙が続く。まわりを見ると他のメンバーも辺りを見渡しながらゆっくり前に進んでいく。しばらくしてもう一回り部屋が広くなった。その瞬間、ボスアラートが鳴り響き、目の前の画面にボス出現の赤いポップアップが出現する。奥の扉から現れたのは一度地下フロアで出現したボス、コボルトロードだった。さらに横の壁や床を突き破りかつて出現したボスが続々出現しその数は増え、10体のボスがポップアップした。だが直後、ボスたちは行動を止め、アナウンスが流れる。その声はSAO開始時に語り掛けてきた、赤ローブの男だった。

 

『君たちはよくここまでたどり着いた、この階層を超えることができればアインクラッド地上層へたどり着くことができる』

「こいつら全員倒すのかよ…冗談やめてくれよ…!!」

『では健闘を祈っているよ』

 

俺の待て!!という声は洞窟に消えていき、再びサイレンが鳴り響く。ボスたちはそれぞれ動き出し各自プレイヤーに向かって襲い掛かる。プレイヤーたちはたちまちパニックとなり、組んでいたグループもバラバラに散ったいく。俺はメグさんを連れボスの攻撃を避けていく。ボスの攻撃は特に連携を含んだ攻撃をするのではなくただ個別に攻撃をしてくるだけ、さらにはボスの攻撃が別のボスへ当たりダメージが入っていくのだ。正直このままボスの自滅を待っているのもありかもしれない、しかし体力ゲージはさほど減っている様子はなく既にプレイヤーは3人力尽き、洞窟から消えていった。

 

「リンネさん!このままだと私たちは…」

「わかっている!!けどこいつら全員相手するのは無茶だ!!」

 

確かに最後の試練だからだろうか、簡単に突破できるようには見えない。ただひたすら攻撃を避け続けることに終わりが見えない。一度間合いを取り状況を分析した。

当たりには20人のプレイヤーが部屋に散って行動している。俺の近くには3体のボスと、攻撃を見切ることができるメグさん。そしておそらくこのグループ1であろう攻撃担当の俺。明らかに戦闘で勝つのは難しい、こんな時アモネならどうするのだろう。

 

『リンネさん頭硬いですねぇ、誰も倒せなんて言ってないんですよ』

(どうゆうことだ?倒さなきゃ先に進めないんじゃ)

『だからぁ、倒さなくても突破してしまえばいいんですよ?きっとリンネさんならできるはずです』

 

光が見えた。メグさんに待機するよう伝えると俺はボスへ向かって走り出し、切りつける。その後爆薬でボスの注意を惹き振り下ろされる攻撃をただひたすらにさばいた。完全にさばききることができなくても当たらなければいいんだ。ここを抜けてしまえばいいんだから。メグさんへ目線を向け、アイコンタクトで行けとサインを送る。最初は目を丸くしていたが、何となく理解したのかこちらに走ってくる。そして繰り出されるボスの攻撃をすんでのところでかわし、隙間を縫うように奥の門まで走っていく。ボスの攻撃をかいくぐり門までたどり着くメグさん。たどり着いたことを確認すると、ボスの攻撃を振り払い門へ向かった。しかし、門へ向かったからだろうか門付近にボスがたまり始め、さらに難易度が上がる。先ほどさばいていたボスたちも門前に集まり雄たけびを上げた。ボスの隙間からメグさんの様子を確認したところ、何かこちらへ叫んでいる。即座にメッセージで要件を確認した。返信はすぐだったが、その内容に目を疑った。

 

『門に制限時間が発生して、残り3分でこのフロアから全員退出させられるみたいです。クリアできなかった人は洞窟前に戻されるらしいです』

 

タイムリミットは残り3分、無理にもほどがあった。今回一人でも上に上がれるのなら俺は良いと思った。彼女だけでも帰ることができればきっと彼を止めることができるのだから。突如、背中に衝撃が加わる。

気づけば壁に体は張り付き5秒ほど遅れて全身にビリビリと痛みが広がってきた。何か悲鳴のようなものが聞こえた気がするが、誰の声かもわからなかった。一人でも増やさなきゃと呟き、再びボスに立ち向かう。足と視界が揺らぐが、胸を貫かれるよりは痛みは浅く体も楽であった。振り下ろされた棍棒を受け止めるだけで全身に痺れが襲い掛かるが、まだ立っていられた。が、数秒し棍棒の重みは軽くなる。上を見上げるとコボルトロードと他のボスは別の方向へ向かっていく、タイムアップかと門を見るとメグさんの姿がない。まさかと思いボスの方向を見るとメグさんが攻撃を避けているではないか。急いで加勢しようとしたところ、再び体に衝撃が走り大きく突き飛ばされた。俺が転がりついた場所は門であり、門上に表記された時間は残り1分を指していた。体を上げると真っ先に目線に入ってきたのはミラだった。ミラが俺を突き飛ばしたのだ。再びメグさんに加勢しようと足を踏み出すとミラは石を投擲し、俺をけん制した。

 

「どうしてこんなことをするミラ!!」

「お前が必要と判断したからだ。お…君が必要な人が待っているはずだ。理由は理解できないが、僕はどうやらそう思っていいたらしい」

「…君???」

「さァ、早く生きたまえ!君はヤラナキャイケな、な」

 

一瞬思考が停止する。やはりミラは…と、思ったがメグを救うわなければ復帰する意味がないことに気づく。時刻を確認するが、残り30秒を示す。今更気づいたが、門周囲2mくらいは敵判定がなくたどり着けば安全に時間がたつことを待っていられそうだ。しかし秒は刻刻と秒を刻んでいく。門が開き始め、奥から掃除機のように周辺のアイテムやステージを吸い込んでいく。俺の体も例外でなく門に吸い込まれる、だがほかのプレイヤーはその場に取り残されたままであり白空間の中にプレイヤーが残されたまま、俺の視界はプレイヤーーもろとも白く消えていく。まだ、離れたくない。離れたらここで終わりのような、もう二度度会えないような気がした。こいつらは死んでいる、もう死んでいるんだ。何かを掴もうと伸ばした手の先には、メグさんが安堵した表情でこちらを見ていた。そして大きく口パクをして白に染められていった。

 

あなたに たくします

 

門は閉じられ、白い空間はシャットアウトされた。正直これ以降の記憶は残っていない。


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