ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

37 / 41
地下の世界

「この度はSAOをプレイしてすれて感謝する。だが、君たちはHPが0になり消滅してしまった。君たちは一度死んだのだ」

「一度どころか死んだら終わりなんだろ!!だったら何の…!」

「このままいけば、100層までに皆息絶えSAOは前人未到のゲームとして完結するだろう。これだと私の世界は完成しない、そこでだ…君たちにはもう一度この世界を生きてもらいたい」

 

 

 

突然のことにどよめきが走り、辺りのプレイヤーは自分の身体をペタペタと触る。自分の身体を見ると、以前の防具を装備した自分がいた。

 

 

 

「ここはアインクラッドとはまた違うSAOの世界。この世界の最上層にはアインクラッドに戻れる道がある。参加は自由だ、だがここでHPが0になれば…」

 

 

 

その直後、赤ローブは消えてしまった。分かっていた、その言葉の最後が。俺は立ち上がり周りの様子を確認した。ステータス画面はバグを起こしており文字が化けている、位置情報もアインクラッドにあるものではなかった。あの赤ローブの言葉から考えるに本当に別世界に飛ばされてしまっていることを受け入れざるを得なかった。ただですら現代にいるわけでもないことで妙に納得しており、少し落ち着いている。ふと思いつき人込みをかき分ける。もしかしてと思った事はやはり起こっていた。

 

 

 

「リンネ…君…?」

「…やっぱり……」

 

 

 

ため息をつきながら彼を見る。そう、かつて俺を全力で始末しようとした男ミラが驚いた顔で広場に立っていた。彼は俺を見るに顔色を変え後ずさる。なんとかなだめようにも周りの人間に助けを求めようとする。俺は一つ実験がてらポシェットに入っていた石ころを軽く投擲する。投擲スキルの低い威力の石ころはミラにあたるとHPを2削り硬直を与える。その間にミラに接近し口をふさぐことで黙らせることに成功した。俺は静かにするようナイフで脅し壁によりかかり質問した。

 

 

 

「ミラはここがどこかわかるか?」

「そ、そんなわけないだろ…ここまで来て僕を殺そうとしているのかい!?」

「そんなつもりじゃないけどさ…俺、殺されたんだ」

「…リンネが…殺された…?」

 

 

 

唖然とするミラ。その反応を見て自信が強く見られていたことを実感しさらに落ち着くが、ミラはどうやらそれどころではなさそうだ。壁に向かって何かを発している。以前のような覇気は全くみられず、完全に戦意喪失しているそうだ。俺はミラの耳元に「一緒に来ないか」と呟く、頷いてくれたものの顔色は悪く額には汗をかいていた。こうして二人のパーティメンバーが完成したのだった。

 

 

 

どよめく人の中、広場を出ていくとどこかで見たことのある光景が広がっていた。人はいないが店が立ち並ぶ商店街、町の中心にそびえる宮殿、死者が書かれた生命の礎。

 

 

 

「リンネ君…これまさか…」

「これは…はじまりの街……なのか……一体俺たちは今どこにいるんだ…?」

「人は僕らしかいないな…そっか…」

「…ミラ、まさかお前が作った世界じゃないだろうな?」

 

 

 

へ?と声を上げるミラの胸ぐらを掴み問いただす。ミラは顔を白くし何かを唱えて十字架を切り始めた。現実の俺は死んでいない、こいつの何かだと思っていた…が、一つ疑問がわいた。胸ぐらをつかんだままミラに質問する。

 

 

 

「…俺の裁判の時、どうして俺に協力した?」

「は?裁判???リンネ君がどうして裁判に参加しているのさ…ここで出会ったのが初めてだろう?」

「なら…正直に答えてくれ、今は何年?」

「2024年の…11月7日だろう…君に殺られた日じゃないのかい!?」

 

 

 

何かが引っ掛かり周りのプレイヤーにも話を聞いていく。あるものは今年の10月や4月、あるものは開始直後の10月31日などバラバラだった。中には収容所のプレイヤーだったものもおり、生命の碑で確認したころその日付はアインクラッドから消滅した日時だった。空はずっと赤黒く雷でも落ちてきそうな雲行き、ミラも白い真実の元部下メンバーから情報を得たところやはり誰も現実の時間を述べる者はいなかった。ミラはゲーム会社に勤めているが、ここまで正確に人の消滅日時と時刻を鮮明に書き起こすことは難しいだろうしあの反応から暫定現実にいるミラはここには関わっていないと仮定することにし、隣にいるミラは恐らくこの世界のミラということしておいた。と、俺が推理しているとミラが走って俺のもとへきた。

 

 

 

「リンネ君ここやっぱりおかしいよ!一緒に来てくれ!」

 

 

思いっきり手を引っ張られバランスを崩しながら、黒鉄宮の中心部に向かう。そこには先の見えないくらいながい階段がそびえていた。

 

 

 

「本当ならここは地下迷宮になっているはずなんだ…」

「どうしてそんなこと…」

「俺が一時いたアインクラッド解放軍は、ここの地下にダンジョンを発見した。アインクラッドが攻略されるたび地下の迷宮区が解放されていたんだ…でもこれは…」

「下じゃなく、上に向かってるな…」

 

 

 

これが赤ローブの言っていた戻れる道かもしれない。俺は階段を駆け上がった。ミラも何かごねながら走ってついてくる。白い光景は薄くなり目の前に広がったのは…やはり迷宮区につながる森の道だった…

俺、あの時から成長できているか。どこかで見守ってくれているか。またこんなところに来ちまって人間以外と戦っているけど、強くなってんだろうかな。俺がしたことは取り返しのつかないことであるのはわかってる。だから今、俺ができることをしてお前と戦う。絶対に。

 

 

赤黒い空の下、風でざわめく森の葉。土埃を上げて走る巨大な蜘蛛。俺は糸と溶解液を吐き出す奴から全力で逃げていた。ミラは木陰に隠れ戦力にならず俺はただ虫が嫌いなことから走って逃げてばかりいた。が、途中つまずき蜘蛛に追いつかれてしまう。蜘蛛は俺を糸で捕縛し木に吊り下げた。体はしびれてはいないがスタンの表示がステータスに表示され身動きが取れない。蜘蛛は俺を足から丸のみにした。ここで終わってしまった…と思った矢先、まだ意識は残っており体力ゲージを確認した。体力は50ほど削られているもののイエローゲージになっておらず、さらに蜘蛛も俺を吐き出しひっくり返りもがき始めた。反対側の木陰からミラがガッツポーズをしすぐに木に登っていた。粘液を取り払い黒の大鎌で蜘蛛を一刀両断、蜘蛛は青い結晶となって散っていった。

 

 

 

「ひっどい目にあった…蝶の気持ちが少しわかったかもしれない……」

「た、頼むぞ…リンネ君がやられたら僕も道ずれだからな、司令塔はしっかり守れよ!!」

「俺よりレベル低いくせに…」

「今回だって僕が投げたピックがなければ君は死んでいたぞ!」

 

 

 

どうもと適当に彼の話を流した。森の道は一向に迷宮区への道へ開かずずっとモンスターに追い回されて早2日。かばんの文字化けは解除されたもののマップ状況は相変わらず不明瞭、さらにはフレンドはみなオフラインになっていた。

 

前回黒鉄宮の階段を上がり森の道が現れた時、なぜかは知らないがここにつながっている気がしたのだ。もしかすると第一層と同じものが隠しダンジョンにも設定されていたのかもしれないが、階段を昇り始めた直後から頭に入ってきたのだ。一体俺は何を思っているのだろう。そう思っていた矢先、甲高い悲鳴が聞こえた。高い声だったが隣にいるミラも戸惑っていたことから彼ではないと確認した。

 

悲鳴の先へ走って向かうとリザードマンが女性を襲っている場面に遭遇した。すぐさま曲刀をリザードマンに突き刺す、そのまま刺さっている曲刀を掴み蹴りをかました。吹き飛んだリザードマンは雄たけびを上げ仲間を呼び寄せる。ミラに女性を任せると先に曲刀のリザードマンを短剣で斬り倒し、曲刀を取り戻した後一匹を三枚におろし倒した。残る一匹は臨戦態勢だったが、俺が曲刀をしまうと森の奥へ消えていった。安全を確認し二人を呼んだ。ミラは涙目、小柄な女性は頭を下げたままミラとこちらに来た。

 

 

 

「本当リンネ君すごいよ…完全に動きを読んでたでしょ…」

「まぁ…人型だったから戦えただけ…相手はパターン的な攻撃しかしないし、覚えれば倒せる!」

「できるかァ!?」

「ところで貴方は…」

「リンネ…あなたがリンネさんですね…!?あの死神の!」

 

 

 

地雷を踏んだ気がした。エフェクトはないが脳裏では爆発したような感覚が下り体中が熱くなる。逃げ出そうとはしたが、ミラは間髪入れず質問した。

 

 

 

「リンネ君と知り合い?それとも殺られた?」「おいそれは…」

「いえ…私の友達が憧れてて……本当に死神さんですか…!」

「いや、もうそんなやつは」「そうそう!リンネ君は死神!!」

 

 

 

ミラの首を絞めて地に臥せる、女性は目を丸くして俺たちの様子を見ていた。早く追い払おうと考えていたその時、とある言葉が蘇った。

 

 

 

『…あの日俺は一つの命を守れなかった…』

 

 

 

まさか…

 

 

 

『俺を初めて正面から見てくれた人…俺が初めて惹かれたもの誰も好きになれなかった俺が好きになったもの…けどそれは!俺の目の前で砕け散った!!』

 

 

 

この子が…

 

 

 

「ナディの失った…大切な」

「えっ!?ナディを知っているんですか!?」

 

 

 

彼女は実際に飛び跳ね驚いた様子を見せた。その顔は驚きから不安そうな顔に変わり、頭を下げる。状況がわからない俺たち二人は彼女から状況を聞くことにした。

 

彼女の名前はメグ、アインクラッドでナディと行動を共にしていたらしい。身長から中学生くらいに見え、現実でも知り合いと言っていたことから同級生であろう。その見た目に反して包容力があるような、包んできそうなそんな雰囲気があふれている。戸惑いながらも丁寧に話してくれるメグさん、俺たちも今置かれている状況を話しアインクラッドへ復帰しようという旨を述べた。そのことを話し終えた直後、メグから連れて行ってほしいとの発言があり、驚いた俺は首を横に振る。

 

 

 

「さすがに危ない…気持ちはとても分かりますが……」

「わかっています!でも…もう一度ナディに会わないと…」

「でも…」

「大丈夫、リンネ君はレベルがあの時より上がっていてとても強くなっているので!」「お、おい」

「本当ですか!?わ、私もモンスターは倒せないけど特技が…」

 

 

 

というと、ミラに石を投げるようジェスチャー。メグさんは少し距離を取りたくさんの石をミラの周りに放った。石はただ転がり、ミラはその石を拾うとメグさんに向かって投げた。石は直線状に飛んでいくが、そこにメグさんはいなかった。彼女は逃げるところか石を回避しミラに迫っていた。焦る彼は大量に石を投げるが、一つも当たることなくメグさんはミラに襲い掛かる。驚いた俺は曲刀を持ちメグさんの前に立ち刀を振るうがメグさんは武器を持っていない。振り下ろされた刀は空を切りメグさんを捕らえられない。すました顔で息を切らせウインクをするメグさん。これを見せられたら流石に連れて行かざるを得ない。

 

 

 

「これで…連れて行ってくれますか?」

 

 

 

俺の頷いた後飛びはねて喜ぶメグさん。実際武器による攻撃を避けるのは容易ではないし、当たるギリギリで避けているあたりか有の動体視力を持っていることをただただ尊敬する。自分も攻撃パターンを何度か見ることでようやくできるようになるが、彼女は一発で成功させたのだ。ちょっと悔しい。

 

 

 

「不合格!」

「ええっどうしてですか!?」

「メグさんが入ると僕の出番がなくなるでしょう!?そりゃあだめですよねリンネさん…!」

「いや…一発合格ですよ……絶対あの城に戻りましょうね!」「はい!!」「そんなぁ~!!」

 

 

 

二人から三人になり、別世界のアインクラッド攻略が始まったのであった。

 

しばらくし森を抜けると洞窟まで到達した。洞窟には門が設置してありそこには15人ほどプレイヤーが座っていた。俺たちはそこにたどり着きなぜここにいるのかをプレイヤーたちに尋ねた。

 

 

 

「ここ、ボスにつながるはずだけどどうして休んでるんだ?」

「いけるわけないだろ…俺たちのレベルと合っちゃねーよここ…しかもあんなもの見せられたらやる気もなくなるぜ…」

 

 

 

「上の世界と何か違うことはのかい?」

「ここに入った瞬間レベルがみんな同じ50になってしまうんだ…でも相手はレベル70…同じモンスターだからって出来るわけがない…できる時間が決まっている以上出来る奴が来るまでここにいるんだ…」

「どんなボスだったんですか?」

「前の第一層と同じコボルドのボスだったよ。先に倒していった奴がいるらしいけど、いったいどうやって…」

 

 

 

皆が集めた情報によると、

 

・敵は以前と変わらないがこちらはレベル50固定、相手はレベル70。

 

・制限時間があり超えると次の時間が来るまで門が開かない。

 

・死ななければ何度でも挑戦できる。死んだプレイヤーはその後姿を見ていない。

 

・すでにクリアしたプレイヤーがいるらしい。

 

とのことだった。ミラが『死神が一緒なんだ!だから俺たちは勝てる!!俺たちはただレベルを上げてきたわけじゃないだろう!死神を全力で支援するんだ!!』と謎にプレイヤー――を煽り第一層ボス部屋に18人で挑んでいる。きっとこいつ会社でも人任せだったのだろうと、溜息を吐きながら彼の首を思い切り絞めている。ミラが腕をタップしたと同時にアラートが鳴り響く。初めてのボス戦、現れたのは巨大な豚のような生き物、イルファルグ・ザ・コボルド・ロードが空から登場、雄たけびを上げて襲い掛かってきた。俺は思わず声を上げた。

 

 

 

「…こいつ、どんな動きするんだ?」

 

 

 

17人のプレイヤーは一斉に悲鳴を上げフロア中を駆け始め、バトルは始まったのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。