ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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最終回です!嘘です!!気づけばお気に入り数が50人を超えていました!ありがとうございます!!
それでは本編へどうぞ!


解き放たれた闇

ふと気づくと午前七時。天気は曇天で、部屋の中は少し冷えてきたこの頃。俺は昨日、謎のスキル『ネクロ』によって復活した挙句暴走し、止まったと思えば体が自壊して…そのまま寝てしまったらしい。死体処理を三人に任せてしまったことを申し訳なく思う。

カレンダーを見ると終わった日付に棒線が引いてある。そして今日の日付11月13日には…裁判と似文字の漢字が書かれそこからいつまで続くかわからない横棒が11月の最終日30日まで引かれていた。そう、今日からしばらくの間俺の罪に対しどのくらいの裁きかを決める闘いが始まるのだ。時刻はまだ6:30、いつもより一時間早く起き一度も着たことのないスーツに身を通していた。そうすると驚くように外で吹田がこちらを見ていた。

 

「あー吹田さん、おはよう。」「お、おう…今日はずいぶん早いじゃないか?」

「…緊張して眠れなかったんだよ。もしかしたらこれが外出最後になるかもだし」

「まぁ…そういうな。お前はいいやつだ。きっと元の生活…いや、お前らしい生活に戻ることができるさ」

 

自身はなかったがだまされたと思いつつその思いを信じる。スーツを着終えたところで、部屋の扉がブザー音とともに開かれる。必ず帰る、そう呟き扉の外に出た。

 

そうは言ったものの…裁判は意外と暇だった。被告人…という役の俺はずっと座っているか、机の前に立たされて本当のことを言わされるだけであった。じっとしていると眠くなりそうで、動くとブーイングが起きすごくやる気が起きない。しかもミラは会場に現れておらず、元SAOプレイヤーの家族はまんべんなく俺に罵声を浴びせる。

「…から、被告人に禁錮20年を要求します」

「被告人は、私の愛する子を無慈悲に殺しました。一体被告人には命の重みがわかっているのでしょうか?命の重みを知るため、重罪を希望します」

「今じゃあの顔ですが、VR世界で殺人を行ったということは現実でもきっと殺人を起こします。なので重い刑で罪を償ってほしいです!」

「死ね隣音哉!死んでしまえ!!お前は人間の恥だ!!」

 

信じられないと思った。こんなものドラマだけだと思っていたが、まさか本当にこんなことを言われるとは思っていなかった。検察も俺の戦闘の結果ばかりを挙げ、これだと俺が一方的に殺したみたいになり傍聴席の人にも誤解させてしまうことになってしまう。そしてまた一人、証人として台に上り話す者が一人。そいつはやはりバトラーについていた下っ端で、いつもイベントごとには乗り気にならなかった荒くれものである。

 

「彼は…行き場を失った俺たちを力でねじ伏せ…いつしか俺たちを殺すつもりでした。俺たちのリーダーもその力に怯え抵抗することがなくなっていました。二年の間俺たちは支配され、時に人を殺すよう命じられた時もありました。嫌気が刺し、ここから逃げようとするものなら彼は直接俺を殺そうとして脅してきました。そして最後には中ギルドを一つ滅ぼすといい、俺たちをそのギルドのアジトに突撃させ多くの命を奪いました。そして彼自身も敵のボスを八つ裂きにして、相手の死ぬ間際には『死ぬな、ここで死なれたら俺がお前を攻撃できなくなる。起きろよ、俺を楽しませてくれよ』と残忍な言葉をかけていました。私は彼が重罪であることを証言します。」

 

あいつ…!かなりねつ造されており、まずバラに連れられてここにきて、集団でたかっているオレンジプレイヤーを見れば当時の俺なんてまだ怖くなかっただろう。しかも嫌気がさしたエピソードは、ある日の夜寝ているときに彼が俺に奇襲をかけ逆に俺が殺されかけたのであって、まったく俺は殺す側ではなかったはず。結局返り討ちにして逃がした覚えがある。最後のギルドの件は殺せとは言っていない。襲ってきたら殺る気でやれとは言ったが、殺せとは一言も言っていない。検察も分かっているのだろう、会話のログは全く出してこないのである。ミラは最終日まで来ないといい全く顔を見せない。なりたくないが、だんだんと不安となっていく。近くのホテルに泊まりながら一人で部屋で寝る…怖い。でもこれは俺が決めた道だから、俺はどんな道でも最後まで渡り切ろう…そう祈るしかなかった。

 

「証人は前へ。」

 

裁判最終日、その声とともに現れたのは黒いスーツをしっかり着こなしきびきびとした足並みで台へ向かうミラことMの姿だった。Mは台に乗り宣誓をすると静かに口を開いた。

 

「僕の名前は久野未来で、プレイヤーネームはミラです。彼はこの世界に来た時初めて仲間になった男です。この頃は今とは違い、もっと気弱な男でモンスターところか人ですら倒せない男でした。ある日、ギルド内でクーデターが起こり僕たちのギルドマスターが殺害されました。それを機に彼はギルドを脱退し、ギルドの全てのアイテムお金を持って逃げました。そこから彼はオレンジプレイヤーへとなっていきます。僕も自分のギルドが襲われたとき持ち逃げしたことに怒りを感じ、何度も彼を殺そうとしました。」

 

完全に彼は相手の味方をするような発言であり、これだとこの前言った事とは全く反対の結果となってしまう。俺も戻りたいが、彼もこれだと失脚して職を失うはずだ。

…もしかしたらこの前の出世は嘘で、俺を上げて落とす作戦なのかもしれない。もっとも彼らしくて最悪だ、顔を見ると吐き気がする。それに関係なく彼の発言は続く。

 

「…最後に彼は私の殺害に失敗し、怒りを覚えながら彼はSAOからログアウトしました。が、これは間違いでしょうか?彼がしていることは本当に狂気的なサイコパスがやっている行動でしょうか?違います、彼は間違いなく人間です。」

「えっ…」

「まず、SAOにログインして何もなかった世界にいきなりのデスゲーム宣告。これを聞いて落ち着いていられたプレイヤーはいったい何人いたのでしょう?冷静さを失い何をすればいいかわからなくなったプレイヤーはゼロだったでしょうか?そんな人間に襲われて黙って殺されるプレイヤーはどこにいるでしょうか?死をつきつけられたらそれを否認して抗うものがほとんどです。弁護人、資料のB-1から3を出してください。」

 

すると会場は騒めきだし、モニターに表示される資料は先程検察が出したログ資料とプレイヤーの音声資料、そして命からがら逃げてきたプレイヤーの映像資料である。確かに彼なら入手するのも簡単だろう…今こそ俺の見方をしているがなんせ表面は俺の敵をしていたのだから…元々俺を殺すための幹部からもらったデータが残っていたらそりゃこうなる。真実を知る俺はすごいとも思えないが、裁判所内はどよめきが起こる。

 

「彼は基本的に戦闘能力はありません。しかも資料から見るに自発的に殺人を行った形跡は全くありません。殺意で人を殺そうとしたのは、僕が彼に嫉妬し皮肉を言った時くらいしかありません…彼は、一人になった後自分の道を切り開き、自分の道を走り抜けたのです。その道の途中に彼は何度も敵に襲われ、そして僕も邪魔をした…それでも彼は前を見続けた。自分の力で障害を取り除き生存したのです。彼には何も罪はない、襲ってくるプレイヤーから生き延びるために殺し続けた…死神ではなく彼は…白い罪人…そうと、僕は思います。以上です」

 

振り返り彼は壇上から降りて後ろの席に座る。その顔はいつもの成功した顔ではなくミラの表情では始めて見る敗北した、暗い…落ち込んだ表情だ。本心は何を思っているのか、この場の人間は誰にも分からない。

時は経ちやがて判決の日がやってきた。場内はがやがやし、裁判長の声があるまでざわざわが静まらなかった。俺も吹田も相手の顔も…緊張をしているが、相手の顔は勝ちを確信したような顔だ。恐らく、『いくらあんなことを言われても殺人をしていることには変わりはないから処刑されて当然、さもなければ私たちが殺す…』といった顔をしている。被告人の俺が言うのも何だが…襲ってきた方が悪いと思う。幼稚園で習ったことがあるが先に手を出した方の負けと聞いたことがある。俺は相手の攻撃を防いだうえで命の危険を感じ殺している。今でも他の方法なんてすぐ考えることが出来ないのに、当時の俺が殺さずに何とかするなんてできるわけがない。つい自然に机を殴ってしまい隣の吹田が俺の背中をつねった。

 

「判決を下す…被告人は無罪。被告人隣音弥を…保護観察とする。検察側の証拠不十分、また被告人側の証拠が被告人の行動と一致し、事件性はないとし無罪!」

 

勝った、本当に勝ったのだ。SAOの忌々しい死神の呪縛から解き放たれ、俺はやっとあの世界から解放されたのだった。裁判所を出た後俺は車に乗り足早にその場を後にした。マスコミは車にたかりフラッシュをはなってくるが、それは前にいた車を追いかけていき俺たちはゆっくり学校に戻っていった。だが、俺は勝利をしたとは言えその余韻に浸ることが出来ない…あいつの力を狩りっているせいか…喜べない。彼への感謝の言葉も…喉が手でふさがれているように出ない。

 

「今日は…あ…りが…と」

「まぁそんなことを言わずに。僕だって悪いと思っている。あの時、君がギルドマスターに選ばれたことは知っていたんだ。何故僕じゃないんだって嫉妬して、君が羨ましくなって…そんなことを思って君を殺そうとした。」

「…本当にさっき言ったことを思っているんだろうな?」

「あぁ。君は自分の力でこのゲームを生き抜こうと努力した。だが、僕は自分の力ではなく他人の力ばかりで…僕は全く成長しなかった。本当ならあの場で僕は死ぬべきだったんだ。だから…僕はこの世界に帰ってきた時、二度とゲームで人を悲しませたくないと思い、ALOのクエスト管理をする部署にSAO帰還者というツテで入った。僕のクエストで君を傷つけたのは悪いと思っている…これくらいしなければ君は気づいてくれる気がしなかったから…本当に…本当に……」

 

彼は泣き始めた。正直慰めると彼は簡単に裏切ってくる気がするのであえて慰めてやらなかった。黙ってただ見守ると五分くらいないた後、何かに気付いたように目を見開く。

 

「そういえば君が持っている『セイグリット・デスライサー』は特殊なスキルがあってな…それはプレイヤーの心理状態で、この武器の固有スキルが決まる。つまりこの武器を持った時に君が何を思ったかで武器のスキルが決定するのだ。」

「武器のスキル…?最近忙しくてな、よく見れていなんだ…明日は引っ越しの準備で忙しいし、またよく見ておくよ。」

「うんうん、君の道の可能性がとても楽しみだ。もしよければ、また僕のクエストをプレイしてくれ。」

 

その言葉を聞き自然と苦笑してしまう俺。車のドアを開け吹田とともに学校へと帰っていった。これから、部屋の私物を片づけ、二日後にはこの牢屋を出るのだ。だが、俺の指名はあと一つ残っている。そう、あの木の下で彼女が待っている。ナーヴギアを持ち今までを思い返すといろんなことがあった。いろんな人と出会い、笑い泣き、怒り楽しんだ。現実では見られないものがたくさん見れた…時に事が荒立ち、時に何かを失う時だってあった。それが全てこのナーヴギアに詰まっている。

現実で感じられなかったのが少し悔やまれるが、その分を取り返すため俺は現実で生きることを決めた。何があっても、何が起ころうとも、自分の力で切り開く。限界が来れば仲間と協力し、共に喜びを分かち合うと。新たなスタートを沈みかける夕日が照らしてくれた。




「日記。俺は今日、鎖から解き放たれました。今片づけの途中なのでこれが終わり次第彼女に会おうと思っています。ミラのことはまだ許せないとは思うけれど『悪いことを許すこと』は大事なことと思うので、少しだけ許そうと思います。改めてALOを楽しみたいと思います…殺す殺される恐怖を忘れずに。」

次回:『さよならはまた明日』
白い死神に、明日はあるか

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