ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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暴走する欲

某会社に連絡をしとある人物を呼び出す。が、そいつは電話口に出ることなく俺をALOを経営する本社に呼び出し、話をしたいと言い始める。これを菊岡に相談したところ、警備員二人を連れた上、拘束した状態なら外出しても良いという許可が下りた。決してこれは菊岡の令でなく、上司の決断らしい。

 

「すごいです!これって、最初で最後のゲーム会社見学ですよ!しかもそれがALOを管理する会社だなんて…!」

「それはよかった…俺のストッパー役として来てもらったけど、楽しめそうならそれはそれでな。」

「記念に何かもらって来ましょうか…二人お揃いの何か」

「あいあい。そんな話をしているなら根下もリンネも緊張感を持ってみてはどうだ?」

「こうしないと緊張して話せなくなるんだよ」

 

まさか捕まってから初めての外出がお出かけではなく、よく知らない人との面談、しかもALOの会社でなんて一生味わうことはないだろう。外の空気もあまり吸えず気が重かった。

会社の中は、会社で匂う独特のにおいが俺の鼻を刺激しさらに気分を悪くする。特にオフィスも見せてもらえず俺たちは警備員に連れられ、とある部屋の前に連れてこられた。俺の代わりに吹田がノックすると入れとの声が聞こえる。ドアを開けてもらい椅子に向かうが、その椅子の真正面にはSAOで対立し、お互い命を削り合う関係だったミラこと『M』が座っていた。

 

「今日はわざわざここまで来てくれてありがとう。私の名前はMこと…『ミラ』だ。君たちならわかると思うがね…リンネとアモネちゃん。」

「お前…やっぱり生きていたのか…」「リンネさん…一瞬で気分悪くなりました」「あぁ、俺もだ」

 

相変わらず彼はにやにやと笑い、立場が違うせいか俺たちを見下すように椅子にふんぞり返って向き合う。あの世界で見なかったのがよかっただろう、もしあの世界だったら間違いなく鎌を振り上げキルしていたが。

改めて目の前のMことミラはSAOのころに俺をギルドに誘った一人であり、俺のSAOどころか俺の人生に大きな影響を与え、俺に怒りを残したまま自分は戦わずログアウトしていった男。全てが悪かったというわけではなく、言ってしまえば今の人格『俺』がいるのはギルドの件があったからで、それがなければずっと『僕』のままだった。全てが悪いというわけではないが俺とアモネの評価は基本的に悪く、基本的に10/0の判定が満場一致で出せるほどである。

ミラは座りなおすと、俺の目を正面からじっと見つめてくる。その目つきは何かよからぬことを考えている目であり嫌な予感しかしない。

 

「さて…君は僕のクエストをプレイしてくれた結果ここにいるはずだ。クエストの感想は?」

「最悪だよ。特に最初のクエストなんてVR世界がトラウマになりかけたんだぞ…皮肉ってんのか知らねえけど俺と同じステータスで容姿も似せた挙句、俺は死に際に人を呪うこと言わねえよ。何が…お前は自分で自分を殺すだ。これを報告したらお前はどうなることかな。」

「まぁ落ち着いたまえよ。これがなければ君は僕と会うことは出来なかった。こうやってゆっくり話すのもあの日以来じゃないか。」

「この人…何も反省してないです…!リンネさんが死神って呼ばれてどれだけ苦しんでいたのかも知らないのに、なぜあなたはそこに塩を塗るような行動をするのですか!貴方は全く苦しんでいない、周りの人が苦しんでばかりいるのに!!」

「僕だってな!…と、怒鳴りたいところだがこんな争いはやめよう。当時の僕も生きるために精一杯だった。君があの世界で生き続ける理由と同じなんだ…それであいこにはならないが…悪いと思っている。この通り」

 

ミラが急に立ちあがり自分の頭を下げたのだ。それも地面に頭をこすりつけるほど。彼に何があったかは全く分からないが、あのミラが頭を下げるのだきっと今までのことを相当反省しているのだろう。顔上げろよ、と言おうとすると彼は下から俺の顔を覗き込むように見ており少しにやけている。ダメだこいつ、早く何とかしてやらないと今後も大変なことになる。全く反省している様子などなかった。

彼が席に座り直したところで今回、何故俺たちをここまで導いたかを聞いてみることにする。が、それ読んだのかミラは先に口を開く。

 

「さて…君たち、というかリンネ君を呼び出したのは理由がある。あのMの意味、君にはどう見えた?」

「最初は全く分からなくて、同行した一人の女性プレイヤー…」「んんんんんんぅ…!」

「…が考えた、『メアリー・シー』という無敵の設定が足りないと考えた。」

「その娘に称賛を送りたいなぁ、僕の考えを読み取ってくれたことに。確かに間違ってはいない。僕はメアリー・シーの設定は大好きだ、自分がそうなれればよいと何度思ったことか。だから僕は今なろうとしている。」

「…は?」

「僕に足りないもの…それは『マスター・アカウント』だ!」

 

もう、しょうもなさ過ぎてある意味ぐうの音も出ない。それを手に入れるために俺はわざわざここまで来たのか…時間の無駄だと思い、黙って荷物の整理を始めてもらう。アモネを見ると、やはりクズでも見るような目でミラを見ていた。しかも口からは、『あー』と、規制音のようなものまで漏れてしまっている。が、そんなことではミラは動じておらず次の話題に入る。

 

「君はまだ捕まった身だと聞いた。そしてもうじき裁判があるとかないとか。」

「何故それを…」「それは…旧友がどうなっているか気になるじゃないか。当たり前だろう」

「人間観察とは、趣味が気持ち悪いな。」

「そこでだ…僕は君の裁判を手助けしたいと思っている。このままだと本当の刑務所行きになりそうだからね」

 

なんだと?今までの話と彼の話すことが矛盾しさらに頭が混乱する。クリスさんの話だと、勝ちは確実だって聞いていたのに一体何故…と思うとアモネが気づいたように携帯をいじり始め何かを調べると俺とミラに見せてきた。

 

「これです!『旧SAOプレイヤーの元オレンジプレイヤーが証言!ログとも一致しR氏は敗北確実か!?複数の男が警察に自首をし、今までの経緯を提供した。これは過去に旧SAOで行動を共にし、寝泊りも一緒に…』収容所のプレイヤーに違いありません!ネットニュースでも話題になっています!!」

「まさかそんな近くに刺客がいたとはな…」「どうだ、状況が分かっただろう?」「まぁ…で、何がしたい?」

「僕も証人として呼ばれている。名前は僕の本名を明かし、この会社のMとは別人という扱いで出るからあまり心配しなくてもいい。僕は君に対してかなりの憎悪を持っていると見られ、この裁判を決定的にする力がある。」

「また権力か…」

 

パワー厨は全部これだ。自分の力を誇示して自分のおかげで何とかなったと自慢する。決してすべての人間がそうではないだろうが、こういう人間は集団に属した時一人はいる。呆れて言葉も出ない。

 

「で…マスターなんとかと裁判の何が関係あるんだ?」

「この裁判でお前が勝訴すれば…僕はクエストを管理する課の部長になれるというわけだ。」「…?」

「つまりこの人を通してクエストが配信されていくということです。」「ふーん…」

 

複雑な心境だ。こいつがいなければ裁判に負け刑務所行きだ。しかもよくは分からないが恐らくただ刑務所に入るだけでは済まないだろう。死んでいったプレイヤー達と同じように脳を焼き切られたり…斬られたり…それを考えると胸が何かに押される恐怖感覚が襲い掛かる。汗が垂れ周りが見えなくなる。死んでいくプレイヤー達の顔が思い浮かび、俺のまわりを飛び回りあざ笑うようににやける。それだと選択は一つに絞られるが、決断ができない。こいつの出世を手助けして自分は普通の生活に戻るか…自分の人生を捨てるか。目の前は暗闇だった。

 

「音弥さん!私が付いてます。力にはなれないけれど…貴方がどの選択をしても私は貴方を信じます。こいつに魂を売ってしまっても、親どもに負けても…私は貴方の味方です。貴方が決めてください」「こいつって…」

「っ…ありがとうアモネ。俺は…」

 

そうだ、こいつが出世しても俺の生活には…関わってしまうかもしれないが、俺にはあの時と同じ仲間が待ってくれているはず。自分が絶対必要…ではないと思うけれど、かかわった思い出に穴を開けて自分だけいなくなるなんて…無責任にもほどがある。クエストが悪ければ周りの人がこいつを倒すだろう。ならば…

 

「…証人として一緒に戦ってくれ」「ふむ…懸命な判断だよ。なら当日に会おう。」

 

俺は自分が生きるという選択をした。これでよかったのかなんて俺には全く分からない。分かるのは天の上にいる神だけで、俺たちは運命に従って歩くしかない。会社を出てため息を吐きながら道を歩く。

 

「ため息…ですか」「…ごめんな、幸せが逃げてしまうっていうからな」

「いや…ため息は体を調節するための自然な行動なんですよ。ため息をつくと何か抜けていくでしょ?」

「あぁ…確かにな」「…吹田さん、ちょっとそこのカフェに私と音弥さんだけにしてくれませんか?」

「まぁ信用したいが…危ないだろ」「…お願い」

 

アモネが吹田さんに抱き着き下から覗き込むように吹田を見ている。吹田は顔を真っ赤にし、数秒でデレデレになり菊岡さんに報告することを条件に俺とアモネはカフェに入ることができた。二人のテーブル席に座らせてもらい、それぞれの目の前には水が置かれる。目の前に座るアモネを見ていると不意に涙が流れだす。俺が年上なのに…俺が守らないといけないのに…嗚咽が漏れテーブルに涙が落ちる。気づけばアモネが抱きしめてくれていた。

 

「俺は…人を殺して……人を裏切って……今回も俺はお前たちを一瞬でも信じない時があった…ミラ頼りたくないって思って俺は……自分を殺すことですら…」

「…いいんです。音弥さんが今回決めた選択は…きっと正解です。きっと私たちのことを考えての結果…プライドを捨ててこの先のことを取ったんです。リンネさんは悪くないです。泣いてください…全部ここで出してしまってください…人間は誰だって人間を傷つけるんです」

「…今俺は……自分自身と戦っているんだ。本当に…自分自身に、俺の母親に負けてしまいそうで怖い。」

「そんなことが…」

「でもあの時、アモネが助けてくれたから俺は今ここにいる。こんなこと…気持ち悪いのかもしれないけど、お前に助けてもらった時嬉しかった。待っている人がいるんだって思った。特にアモネは一緒にいたいって…俺が絶対守るって…そう思ったんだ」

「音弥さん…」

「だから…もし俺があの部屋から出たら……世界樹の根元で待っていてくれ…絶対迎えに行く」

 

抱かれた俺の頭に何か落ちる。そして俺の声でない嗚咽。上を見るとアモネも泣いていたのである。今度は俺が立ち上がりアモネを抱きしめた。アモネは俺の胸に顔を押し当て10分ほど泣き続けた。ただただ泣き続けた。

 

「こんな弱い俺で…ごめんな」

 

人を殺したのに自信が持てず、昔のことをずっと引きずって、自分の意見を考えられなくて、人の人生を狂わしてしまって…ごめんなさい。この日はただ心の中で誰と指名することのない謝罪をただただ繰り返す…それしか俺にはできなかった。

 

・・・・・・

 

「あんたいつまで落ち込んでんのよ…こっちまで気が重くなるでしょ?」

「…あ、あぁ、悪い。」

「誰かさんは言ったわよね…ゲームの世界くらい楽にしろ、現実でないんだからってさ。本当その通りよ…」

 

ローベを抜いた四人で今日も小遣い稼ぎに向かう。そう、巨大モンスター狩りだ。ドラゴンの希少部位などは大きく希少なことから高価に取引されるらしく、ローベが掴んだ情報『近日、第22層にログハウスを作るたちができるとの事なのでそこを俺たちのホームタウンにしよう!』とのこと。確かに毎回シルフ領に侵入していればいつか彼女もレネゲイド扱いとして追い出されるかもしれない。それを警戒し、家を建てる算段となった。そして俺たちは今小銭稼ぎをしている。俺も今日は乗り気じゃなかったが、アモネに気分転換と言われ参加している。

ケットシー領の近くの山、ここにはドラゴン種が多く潜んでおりケットシー達もタイム差に来る場所だそう。ケットシーには悪いが、渋々ドラゴンを狩らせてもらうことにした。

出現ポイント付近に立つとドラゴンが二匹ポップする。中型だがレアドロップを狙い俺たちは何匹も狩り続けた。アモネの短剣が敵を斬り、カミュの魔法が焼き、カザネの槍が敵を刺し、俺の攻撃で一気に刈り取る。普通なら惨殺だがゲームはゲームだ、仕方がない。俺達は何匹も数え切れないほどドラゴンを狩り続けた。その時一つの悲鳴が聞こえ、その方向を見るとケットシーの女性プレイヤーが怯えた表情でドラゴンを見る。そのドラゴンは今にも女性を食べそうだ。俺は止めるべく彼女の元へ向かったが…その直後ドラゴンは俺に攻撃を始め、ケットシーは醜い笑顔を見せるとドラゴンは命令をかけ飛び去って行った。そしてドラゴンは巨大化し俺に襲いかかる。人型モンスターでもないモンスターなんて一人で狩れるはずもなく、俺はまた鋭い牙の餌食となってしまう。尖った歯が俺の腹を貫通し、微量の痛みが全身を襲う。三人が気づいたのは俺の体力が半分に持っていかれた後のドラゴンの咆哮、すぐさま攻撃を仕掛けようとしたが、時すでに遅し俺の体力はゼロになった。目の前には赤い画面にYou are dead の文字が浮かんだが、その文字はすぐ消え再び体に力が戻る。画面の隅を見ると俺のHPは半分回復し状態異常を見ると、そこには『necro』と表示されていた。ネクロの文字に気付いた時、俺の体は勝手に動き出しなぜだかよくわからない怒りに襲われる。この感覚は…そう、俺の意識はまた心の底に押しのけられ今は『僕』が体を支配していた。

『僕』はドラゴンを完膚なきまでに叩きのめし、抹殺した。それだけでは済まず、三人の方向を見るとそれぞれにも攻撃を仕掛け始めた。もちろん受け止めることはなくそれぞれ撤退したが、『僕』の目線に入ったのは…アモネだった。闇属性魔法を連発し、アモネの戦闘体型を悪くした後、暴君な俺は鎌を振り回す。心から俺は制御することを試みるが全く止まらない。転がり避けるアモネの足に鎌の斬撃がヒット、彼女は右足を手で押さえダメージがHPの半分をえぐる。『僕』は鎌を振り上げた。最悪な場面を俺は阻止しようと抑えようとするが止まらず鎌が振り下ろされる。が、カミュの魔法がアモネを守る。その横からカザネが俺めがけて飛んできた。『僕』はニヤリと笑うとカザネの体を一斬りし蹴り飛ばす。苦痛の表情で俺を見るカザネ。また鎌を振り上げる俺に思い切り叫ぶ。

 

「あんたは!あんたはその子を守るんでしょ!私たちよりももっと大事な存在なんでしょ!!あんたが守らないといけない者を…あんたが傷つけてどうすんのよ!あんたが一度守るって言ってここまで来たのなら…最愛の人を守れよこのバカ死神!」

 

その言葉を聞き、ふと我に帰ると俺の体は重くなり目の前には怯えるアモネ。俺の両手には俺の愛用する鎌が握られていた。その鎌を放り投げ、俺はアモネを抱きしめる。無事でよかった…俺のせいで……彼女はそんなことを責めずにボロボロ崩れていく俺の体をただひたすらに抱きしめていた。




「私は…なんで……あんなことを言っちゃったんだろ。あいつのことが…私だって大好きなのに。なんで敵のあの子のことを庇ってしまったんだろ。これじゃあ…私……」
「…カザネはいいことをしたと思うわ〜。貴方は彼女と彼をどっちも救ったの〜、貴方の気持ちを捨てて助ける道を選んだの〜。だから、決してカザネは意味ない行動をしたわけじゃない〜二人のヒーローよ〜。」
「…カミュ………ありがとうね」

次回:『解き放たれた闇』白い死神に、明日はあるか。

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