ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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生贄の罪

この世界に幽閉されて早三か月、僕の体もこの世界に慣れつつあるのかもしれない。ギルドメンバーと行ったことのないカフェに行き、仮想世界のご飯を食べ、フワフワのベッドで寝る…時間になればギルドメンバーとともにモンスターを狩りに行き、皆で報酬を分け合い…歓喜する…非常に充実してい…

 

「おい、何妄想にふけっているんだよ…」

 

机で日記を書き連ねる僕に声をかけてきたのはギルドメンバーのミラ。あの時、隣で眠りメンバーに誘ってきた男だ。彼は初心者だがサブリーダーでリーダーの忙しい時にまとめてくれるムードメーカー。ベータテストもやっていないが、リアルでやっている剣道で動体視力と攻撃を鍛え上げ、中堅プレイヤーにも引けを取らない。僕は慌てて日記を隠し、ミラと向き合う。相変わらず、女子みたいな名前だが顔がまだ若く大学生くらいに見える。装備もほかのメンバーに優先してお金を使っている。俺もその一人なのだが、まだ彼には何も返せていない。

 

「いつも日記を付けていないと毎日が過ぎた感覚がしないんだよ。日課ってやつ…君の毎朝行うメンバーへの強制ハグと同じだよ。」

 

ぐっ…とうめき声を漏らし、苦笑しながら目を逸らすミラ。中々される側からしたら毎日いい迷惑である。初めてハグの被害にあった日に聞いたのだが、「ハグしないと体がおかしくなりそうなんだ…」ととんでもないことを言われたが、これもギルド内で受け入れられている要因の一つなのかもしれない。

 

ここは僕らのギルド。そのギルドハウスは小さいログハウスの形をし、中には僕らのギルド「サクセス」のメンバーが三人で一つの部屋二つとちょっとしたリビングがある。リビングには丸机が一つ置いてあるだけで、特にそういったものはない。今ここにいるメンバーは僕とミラの他に二人いる。今日攻略するエリアを決めている最中だ。というのも、最近身を隠しているリーダーが出す場所を探索しているらしいが、もうそこのコースを何度も攻略し、手詰まりの状態になっていた。と、その時戸をたたく音が。それと同時にドアを突き破り、柄の悪い二人が家の中に入ってきた。その男は、ミラの前に立ちミラの肩を掴み脅し始める。

 

「なぁ、ミラさんよぉ…今日も同じところに回るんですかぁ?いい加減飽きたんですぉ…」

 

「これは…リーダーから命令されていることで…」

 

「はぁ…何が副リーダーだよ、たかがゲームなのにさ…マジになっちゃってさ…そろそろギルドやめてやろうか…」

 

「それは…」

 

ミラが困り果てていると、また後ろのドアが思い切り開いた。そこにいたのは、見たことのない大柄の男の姿。こいつらの仲間なのか。無言で入ってきて歩いて三人の近くに寄ってきた。その男は三人を抱きしめ始める。

 

「よー!ブラザー!!やっと帰ってきたぜぇ…元気してたかぁ…?」

 

返事をさせず、仲間を撫で続ける謎の男。その行動には柄の悪い二人も何も言い返せなかった。ただ、撫でられるままで、呆然と後ろの大男を見るしかなかった。部屋にいる全員が呆然とする中、大男は三人を解放し自分の名前を名乗った。

 

「あぁ、俺の名前はメイカーだ。ここのギルドマスターをしている。レベルは一応50だ。よろしくな!」

 

メイカーと名乗るこの男。いきなりの真実に誰もが驚愕していた。ミラですらも驚いている。この様子から姿は初めて見たと思われる。僕も驚きが止まらない。レベルは高いが、これほどおおらかな性格、初心者でも入れてくれる優しさがあるから人が信じることができる。こんなギルドが完成したんだ…つい、涙が流れてしまった。

 

「ところで…どうしてリーダーはしばらく留守にしてたのでしょうか…」

 

「ふ・ふ・ふ…よく聞いてくれたな!実はな…鍛冶レベルを極めたんだよ!!これで俺たちの武器を作ることができるのさ!!」

 

おぉ!!と歓声が上がる。どういうことかと困惑し、呆然とし続ける僕の元に解放されたミラが耳打ちする。

 

「このゲームでは様々な武器のスキル以外にも生活するためにスキルがあるんだけど、リーダーは僕たちに絆を繋げるために一つの武器を作り上げようとしていた。そのスキルを取得するために俺に素材集めを任せて、鍛冶スキルをあげていたんだよ!鍛冶スキルがあると…ゲーム内の武器を素材を集めると作ることができるのさ!」

 

うなづきながら、話を聞く。レベルを見るからにゲームのスキルを限界まで上げるのは至難の業だ。何故このようなことができるか…気にはなったが突っ込むことをやめ、僕はこのギルドの雰囲気に交じっていった。

 

「だが…倉庫を見る限り…まだたまってないんだな…じゃあ、行くか…」

 

 

 

「ぐええ…助けて……死ぬ…」

 

柄の悪い二人がケラケラ笑う中、僕はスライムに押しつぶられそうになっていて、命の危機となっていた。HPバーも黄色から赤に変わろうとしており、明らかに死にそうな危機というのに、二人は全く助けようともしてくれなかった。突如、腹に謎の衝撃。ミラがスライムを真っ二つに切り裂いて倒していた。ミラの持つ斧の刃は腹に当たる寸前で止められていた。これもミラの強い証拠だろう。

 

「お前ら…ちょっとは助けてやれよ…」

 

「この世界はサバイバルだぜサブリーダー…襲われたこいつが悪いんだよ…」

 

「そうそう…襲われたときは自分で身を守れよ…これだから、初心者はだめなんだよ…」

 

ミラの説教なんぞ無視し、柄の悪い二人は僕を見ながらケラケラ笑い続けた。メイカーを達はため息をつくミラを傍らに僕は、バッグに入っていたポーションを飲み体力を回復し、ギルドメンバーたちと狩りを続けた。

スライムも狩れるようになり、狼を倒すサポートをし…動く植物に追いかけまわされ…僕たちは不眠不休で一週間狩りを続けた。

 

そして、僕たちのギルドの部屋の中心の丸机には、リーダーを除くメンバー6人が集まっていた。リーダーによると狩りが終わったあの後から作業に入りさらに2日、ついに完成したという。そして、僕たちはその武器披露会に集められたのだ。まだかまだかと待ちきれなさそうなギルドメンバーたち。それは僕も同じだった。

ギルドの扉が開き、目線の先にはメイカーがいた。メイカーは鼻息荒く部屋に走ってくると、丸机の前に立ち、アイテムパネルを触っていた。そして、一つのアイテム名を触ると丸机の上に窯が現れ、ゆっくりと机に着地した。

 

「これが俺たちの武器、『ギルティ・サクリファイス』だ!!」

 

「ギルティ・サクリファイス?」

 

明らかに厨二病まっしぐらな名前だが、確かに名前の雰囲気と武器の雰囲気はマッチしていて、黒く禍々しいその鎌は手に取った者の命をも刈り取ってしまいそうな、まるで神話に現れる死の神ハデスの持ちそうな鎌だった。武器の所持者はまだ決まっておらず、さらに武器のステータスから特殊効果も見られない。どうしてこんな武器が生まれてしまったのか。もしかしたらメイカーの趣味なのか、はたまた気持ちが出てしまったのか。その真相はまだわかりそうになかった。

 

と、皆が見とれているうちに柄の悪い二人が鎌を触ろうとしたが、システムメッセージとともに二人の手が赤い電撃によって阻まれた。二人のHPバーには変化がないが、二人の指先からは煙が出ていた。いきなりのことに二人も騒然としている。

 

「どうして使えないんだよ…このギルドの物だろう…」

 

「そうそう…これは話が違うんじゃねえのかぁ?」

 

「これは、このギルドがこのギルドであるためのものだ。俺はこの武器を戦闘用として作ったつもりはないからな!まぁ、これはギルドで管理するから、誰もかまうなよ?外でかまったらダメージが入るからな!」

 

皆が、目を伏せ返事をした。触りたいのはみんな同じだったようだ。もちろん…僕も触りたいが…禍々しいデザイン、そしてこの武器の名前、『ギルティ・サクリファイス』。意味は、生贄の罪。どうしてこんな名前になったのか…今の僕には考えられなかった。今は黙ってこの雰囲気に紛れるしかなかった。




どうも、作者のえさかです。またしばらく書けなくなります…くうぅ…

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