ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

29 / 41
M怖い…Mの記事を見てから少し恐怖に思ってしまいました…それでは本編どうぞ!


Mを探せ

新しい朝が来た、希望の朝のはずだった。今日の天気は生憎曇りであり窓から日は差さずおまけに頭が痛い。言うとガンガンした痛みであり、俺は起きるのもままならない状態になっていた。特にのどが痛かったり体がだるいわけでもなく、ただ頭が痛く手元にある朝食をゆっくりとただ食べ続ける。それを見たのか、吹田は驚いた表情を見せ俺を凝視してくる。そして飽きたのか近くの椅子に座った。

 

「お前…ゲームのやり過ぎじゃないのか?頭痛いなら偶には休むのもありだぞ?」

「あぁ…そうするよ……連日いろんなことがあったし脳みそが休まっていないのかもしれないなぁ…」

「後でホットアイマスク入れておくから…ゆっくり休むといい」

「…お前最初よりだいぶ優しくなったな」「…気のせいだ」

 

歩いて何かを取りに行く吹田。ありがたいと思いながら俺はベッドに倒れこんだ。最近は本当にいろんなことがあり過ぎる。帰還後に隔離され、もう一人の僕的な存在が俺の体を乗っ取り、挙句の果てに狂人化した母親が俺を誘拐しに来る…流石に後述二つが一週間以内に起こっているところ疲れる。運よく今日は休日のため、早めに休むことにした。

その夜、頭の痛さこそなくなったものの窓の向こうにはいつもの威圧する吹田ではなく、頭を抱え椅子に座りこむ怯えた吹田を拝むことができた。気になりアイマスクを取りに行くついでに彼に話しかけてみることにした。が、振り向いた吹田の顔は汗まみれで俺を化け物を見る目で見ていた。

 

「吹田…何があった?まさか変な人に絡まれたのか?」「……」

「そんな首を振るだけで俺が分かるわけないだろ…ちゃんと喋って」「…」

「…?菊岡さんに連絡とってみるか…」

 

部屋内の受話器を持ち、机に貼ってある菊岡の連絡先をうち応答を待つ。二階ほどコールした後、菊岡は電話に出た。久しぶりだからか意外そうに驚いた声が聞こえる。

 

「菊岡さん、吹田の様子が変なんだけど…何があったと思う?」

「そんなことで電話してきたのか…それは今日だけなのかい?」

「あぁ…俺が寝ている間に何があったかカメラとか何かで教えてくれよ」「わかった、君のパソコンに転送する」

 

そこで連絡を終了し、改めて返信が来るまで待機することにした。待って三時間、パソコンを開くと着信が一時間前に入っており、送り主は菊岡と書かれている。メールに添付されたファイルを開くとそこには一つ、今日の日付と時刻が表記されたビデオがあった。ビデオを開き映像が流れ始めるが、その映像は先ほどまでの俺の部屋の映像とはかけ離れていた。

ベッドに寝ている俺は急に立ちあがるとナーヴギアを被り、リンク・スタートと叫びそのまま意識を失う。その後昼の三時ごろまで寝たままだった。その後起き上がると、ナーヴギアを付けたまま帰ってきて俺の部屋にアイマスクを入れ終えて椅子に座る吹田に向かって大声を荒げる。そして窓を何度も叩きひたすらに発狂する。

 

「開けろ!この僕が…僕こそがァ!本物だ!母親に合わせろォ!!」

 

その姿には自分である俺ですら身震いしてしまう。これは俺じゃない、あの時生きていたもう一つの人格…僕。あの日以来前面に出ていないと思ったが…俺が意識を放棄している間にのっとっていたとは…原因が大体分かった。これはどうにかしないといけない…まず俺は俺に異常が出始めたあの死神のクエストをパソコンで検索する。ALOではクエストを生成・拡張するカーディナルシステムというものが存在するらしいが、それに加え運営はユーザーにもっと楽しんでもらえるように人間自らが考えたクエストを導入している。普通なら匿名なのだが、今の時代なんでも解析され誰がどんなクエストを作ったかなんて簡単にばれてしまう。

 

「えっと…『死神の再来 作者』で検索っと…作成者M?」

 

M…ニックネームなのだろうか、本名は全く分かっておらずこの英語一文字な部分がまた怪しさをにじませる。他にもMが作ったクエストはないのかを検索すると、意外にも10件ほどヒットしそのうち5件は最近出たばかりで残りの五件は他のプレイヤーによくプレイされ人気を集めている。その中に目を引くものがあった。

 

「妖精王との邂逅…アインクラッド4層にて妖精王が待っている。そこへ向かい妖精王の命令を聞こう…なるほど。誘えそうなやつ連れていってみるか」

 

頭痛は治ったのでとりあえずナーヴギアを被り妖精世界へ飛びログイン状況を確認してみた。流石に休日ともあれ度深夜前の23時…アモネとローベはログインしていない…が、カザネはログインしているようなのでとりあえず誘ってみることにした。すると数分で返事が帰ってきた。

 

『カザネ、もしよければ少しクエスト手伝ってほしいんだけどいいかな?報酬はカザネ7:3俺でいいからお願いします!』

『大丈夫よ、けど今私も取り込み中だから10分後に104号室で待ってる。』

 

あっさり乗ってくれて少し安心したところで三十分かけてシルフ領へと飛んで行った。

空を飛行し、空に浮かぶアインクラッドを目指す俺とカザネ。時折カザネの方を向くと驚いた表情で俺を見る。その後飛行のバランスが少し崩れるのでその後から見るのをやめた。彼女は俺のことをどう思っているのだろう、まだ殺人鬼として俺のことを恨んでいるのだろうか。それでも仕方ないし、過去は消すことは出来ない。俺は永遠に死神の名前を背負わないといけないのだから。そんなことを思っているとアインクラッドにたどり着く。今更とカザネは俺に話しかけてくる。

 

「でも…あんた、どうしていきなりクエストなんかに?あんた確かモンスター嫌いなはずじゃないの」

「嫌いだからカザネに手伝ってもらっているんだよ。クエストの名前見て興味湧いたから」

「なるほど…そんなことなら手伝ってあげなくもないわ」

 

そんなことを話しながら、アインクラッドの街へと入っていく。第一層はリメイクされているものの初期と同じ、始まりの街が再現されていた。ベンチや噴水、いろんな店が並び本当にあの世界に帰ってきてしまった気分で懐かしい。二人で休憩としてベンチに座る。カザネはずっと下を向いたままこちらに顔を向けてくれない。嫌だったのだろうか、険しい顔をしてうつむいている。

 

「あの…カザネ、嫌なら…」

「あっ!?いや、その…カミュ以外と話すのが苦手で…」

「わかる、俺もSAOの頃の知り合い以外とはあまり話せなくてさ…よくわかる」

「い、いや…そういうことじゃなくて…その」

 

もじもじするカザネ。考えてみると彼女の年はどのくらいなのだろうか?見た目からして大学生のように見えるが…こう見えて俺より年下かもしれない…ゲームの世界だろうが、目の前に女性がいると流石に照れてしまう。目の前を通り過ぎていくプレイヤーが冷ややかな目線をぶつける中、お互い顔を真っ赤にしてうつむいていた。

十分休憩した後、俺たちは第四層へと足を進め、目的の場所に到着する。レンガの建物の前には緑のフードを被った怪しいプレイヤーが壁にすがっていた。まるで俺たちを待ち受けていたかのように俺たちを見て話しかけてくる。

 

「君たちが僕の言うことを聞いてくれる者か…待っていたぞ」

「あぁ…で、何をすればいいんだ?」

「実は…私に足りないものを探して欲しいのだ。私には…Mが足りない。」

「M…?このクエストの製作者……?」

「M…ゲームとかのMといえばあれしかないでしょう…!」

 

カザネが少し興奮気味に息を荒げ俺の肩を叩く。NPCは全く反応を返さないが、これがプレイヤーなら確実に惹かれるレベルだろう。それくらい普段とのキャラが崩れていた。

 

「M…といえば無敵の存在、メアリー・シー!きっとこれはこのゲームを危機に追い込むほど重要なクエストなのよ!」

「メアリーシー…か、わかった。それらしきものを倒したらいいんだな。」

「あぁ、それを見つけることで僕が完成する。健闘を祈ろう。」

 

初めて聞くことなのだが後に彼女に聞こう。謎に思いながら第四層迷宮区に足を進めた。

フィールドを歩くもののあまりモンスターがポップせず、ただ時間が経って行く。天気は晴れで、秋なのにもかかわらず日差しはぽかぽかと俺たちを包む。メアリーシーとはなんなのか気になりカザネに聞こうとするが、同時に何か話そうとしまたお互い顔を赤らめて別の方向を見る。が、やっぱり気になるので俺から話しかけてみた。

 

「あ、あのさ…メアリーシーについて詳しく教えてくれないか?」

「なら、私も好きなこと一つあんたに質問してもいいという条件付きでならいいわ。」「よ、よかろう」

「私は本やネットで小説読むのが好きなんだけど、その時にあまり作品に登場してはいけない存在や設定というものがあるのよ。主に二次創作に多いのだけど原作の世界をぶち壊したり、その世界で神のように強くなり無敵の強さを誇ってしまったり…いろいろ種類はあるけど、人によって賛否両論の存在よ。」

「なるほど…カザネは妖精王にはその力が足りないと考えたんだな?」

「えぇ…まぁ、言ってしまうとあんたも十分そんな部類にいそうだけどね…ゾンビになる所とか」

「ゾンビ?というか俺は」

「冗談よ、まぁあってもおかしくないから、あまり気にしなくてもいいわ」

 

くすくす笑いながら答えてくるカザネ。からかわれた感じで少し悔しいが、なおさらこの世界にメアリーシーなんて存在するのかが疑問になってきた。俺がMは存在しないのではないかと言おうとすると怪しげな笑みを浮かべ、カザネがこちらを見ている。嫌な予感しかせず背筋に悪寒が走る。

 

「さて…私は、あんたの過去の話をきかせてもらうわよ」

 

十分ほどMを捜索しながら話をしたが、カザネの反応は意外にもアモネよりオーバーで、最初のギルドを脱退した話から『なんでそんなことに…』と驚き、ミラがアモネを人質に取った話では、手を握りしめ怒りを感じている。そんなカザネの反応を見ていると何故か知らないが俺も楽しくなる。現実でも会いたい…そんなことを思った矢先、その話の中に出てきそうな野蛮なサラマンダープレイヤーが三人俺たちの前に立ちはだかった。俺に向けてくるその目は明らかになめきっている目をしている。

 

「おいそこのインプ…お前どこかで見たことあるな。」「こいつ…死神だ…あの世界で虐殺を繰り返した…!」

「あのな、すごく誤解されるからやめてほしいんだけどさ…何か用?」

「へへ…実はその鎌に新しいスキルが導入されているって聞いてな。もらいに来たんだよ」

「生憎これはわらしべ用ではなくてね」「なら、奪うまでだ」

 

知ってるならこのくだりは要らないだろと心で突っ込みながら戦闘態勢をとる。この世界の対多数戦闘は久しぶりで、相手は地上に二人と空に一人ずつ。二人が襲い掛かってきたので背中の鎌を取り出し受け止めるが、二人分の力が感じられず受け止めながら後ろを確認すると、一人はカザネの元へ全力疾走し大剣を振り降ろす。が、カザネには全く当たっておらず、むしろやる気だ。槍を構え直し攻撃を避け続ける。

俺も受け止めた大剣を受け流し、重攻撃『クレセント・アバランシュ』をお見舞いした。相手は三発食らった後に炎と化し、リメインライトとしてその場に残る。

 

「避けて!魔法よ!!」

 

後ろからカザネの声。カザネと戦うサラマンダーが背後から魔法を唱え、炎の塊がこちらに飛んでくる。大きさは小さいが恐らく追尾魔法だろう。火炎は野球の球のようにまっすぐ俺に向かってくる。俺は鎌を構え、大きく切り上げた。二つに分裂した魔法は行き場を失い近くの地面へと墜落、大爆発した。これには相手のサラマンダーも驚きが隠せていない様子で、少し俺も決まってから誇りたい気分になった。

 

「結構練習したから最高だよ…!魔法を斬るなんて誰にも」

「それが…あんたが探している黒の剣士も魔法を斬ることができるそうよ。それもあんたより先に。」

「エッ…マジか…なんで先にそんなことをするんだ…!!」

 

せっかくの個人的な技術だったのに、一気に気分が堕落した。もう正直Mなんてどうでもよく、この気持ちを一刻も早く消化したくなり、空から奇襲を仕掛けるサラマンダーの魔法を全て斬りふせ一刀両断、腹から切り裂いた。すぐに燃え尽きカザネが対決しているサラマンダーはカザネから離れ俺に向かって土下座をし始めた。

 

「襲い掛かったことは謝罪するからどうか命だけは!お許しください!!」

「わかった。俺の噂を、虐殺する死神から関わると危険なプレイヤーに変えてほしい。それなら今回は見逃す」

「わ、わかった!いや、ありがとうございました!!」

 

サラマンダーは羽を広げ、大急ぎで飛んで行った。その様子を見ていたカザネが驚いた表情で見てきて、俺の元へ駆けてくる。だが、さっきより距離をとって俺に話しかける。

 

「…まさかあんたが死神だったとはね。だから死神を倒しに来てたのね」

「…お前の兄を殺したのは…俺かもしれない。もっと、戦闘以外になんとかする方法があったかもしれない。こんなことしか出来なかったことは…たとえ相手が襲い掛かってきても俺が悪い。」

「…本当にそう思ってる?」「本当だよ。何をしたら信用して…」

「さっきの戦い見たらわかるわ。私もいきなりきつく言ってしまったから悪いと思っている…その、ごめんなさい」

 

二人頭を下げるタイミングが合い、顔を持ちあげた時お互いが同じ行動をしていることが少しおかしくなってあははと笑った。もし俺はあの世界に行っていなければ…俺はカザネやアモネ、ローベやカミュさんのような人と出会えていたのだろうか。もしかしたらまた別の世界が俺を待っていたのかもしれない。あの世界であの時こうできれば…考えると限りないのだが、そんな世界もまた見てみたい。そしてきっとこう思うのだろう、今の世界が一番よかったと。いつかカザネともあってみたいと思い連絡先を交換しようとしたが…ふと気づく。クエスト一覧に先ほどのクエストがないのだ。しかも前の世界のことを考えると、一つの名が引っかかる。やはり彼女も気づいたらしく、顔を見合わせる。

 

「このクエストのMってメアリーシーじゃなく……」「俺も思った、これはまさか…」

 

そう、名前の頭文字M。俺を死神に仕立て上げ、自分で決着を付けず合法的に始末して闇に葬り去ろうとした卑怯でもう○ズ同然の男…ミラの名前が浮上したのだった。




「日記。今日、あのバカと二人きりだった。あいつはいきなりクエストを頼んできて少し驚いた。今までひどいことしかしていないのに、私でいいんだろうかなんて思った。けどあいつは、自分のことを全てさらけ出してくれて私の概念を変えてくれた。本当はあいつが死神なんかじゃないとまで思うようになっていた。最近疲れているみたいだから、次は温泉に誘って…一緒に食事を食べて、一緒にいたい。そんな私になれるように私は頑張る。また明日も会えると嬉しい。」

次回『  』白い死神に、明日はあるか。

補足:メアリー・シーは…そう、あまり好きではないあの設定のことです。そのまま載せるとダメかと思い、少し名前を変更しました。何かあれば連絡をください。それでは!!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。