ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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覚醒する不死の神

リンネが誘拐されている間、ALOの夜の中でアモネ、ローベはカザネ達と合流するためにシルフ領へ向かっていた。ローベは相手が女性ということから胸がドキドキしていつも以上にテンションがハイになっていた。そんなローベもいることからかアモネの気分は最悪だった。

 

「なんであんな奴とクエストなんかに…!私とローベさんだけで十分だったじゃないですか!!」

「い、いやつい…目が輝いていてあんなに行きたそうに見られるとな…誘わないと泣かれるだろう…苦渋の決断だったのだ!」

「嘘つけです!私ならNoの一点張りです!!」

 

・・・・・

 

それは数日前に遡る…リンネたちがユグドラシルシティから帰り、リンネが自分の領へ帰ったのを見計らいローベとアモネはケットシー領へ集まっていた。アモネが呼び集めたその理由、それはリンネに疲労がたまっていることだという。そしてアモネは一つの意見を提案した。

 

「リンネさんにオーダーメイド品をプレゼントするんですよ!リンネさんの防具は初期装備のままで敵からの攻撃を食らえば危険です…ですから、何かレアアイテムと防具をプレゼントすればもう少し頭を使わなくてもいいじゃと思いました!」

「確かに…耐久値が増えればリンネがギリギリで戦う必要はなくなるからな!行ってみようか!!で、何か考えはあるのか?」

「はい。アイテムの方はレアなアロマが手に入ったのでこれで休んでもらい…防具はSAO時代と同じような白を基調にした…」

 

アモネが何かを話していると、シルフ領の境界あたりにある森から謎の視線が飛ぶ。その視線は何か物欲しげな子供のような弱弱しさが漏れ出る目線。アモネは先程から気づいてはいたものの、怪しいのでほおっておきローベとともに予定を立てていく。すると、一人ケットシー領へプレイヤーが降りてきた。そのプレイヤーは栗色の髪を肩まで伸ばし、頭に装備したベレー帽が白黒のワンピースと合いピアノのように見える…自分が楽器のような服装をしていた。

 

「貴方は…?」

「こんにちは~、私はプーカ族のカミュと言います~。先日はリンネさんを保護していました~勝手にしてしまったので謝罪しに来ました~」

 

アモネは腰にある短刀を手に取ろうとしたが、ローベがすかさず間に入りアモネは腰から手を離す。カミュは少し焦る様子を見せながら慌てて謝罪を続ける。

 

「ごめんなさい~リンネさんの知り合いを知らなかったですし、あの場所で倒れたままならキルされると思ったので~、復活するまで部屋で保護していました~」

「…本当に他の目的はないんですね?」

「もちろんです~意識が戻ったのか、私が今日ログインしたらいなくなっていました~。それを言いにここに来ました~。本当にすみませんでした~」

「な、なんだか…つかみどころのない相手だな…?」

 

カミュのペースに飲まれ、困惑する二人の前にもう一人客人が増えた。緑色の羽に動きやすそうなドレス、黄緑色の髪をサイドテールにまとめた女性プレイヤー、カザネが不機嫌そうな顔で着地した。カザネの顔を見た瞬間にアモネは再び担当に手をかけるがカミュとローベが二人がかりで止める。その様子を見てカザネはため息を漏らし、そんな態度にアモネの中のボルテージはどんどん上がっていく。

 

「貴方は…事情はカミュさんから聞きました。ですが、そうならもっと優しく伝えてくれてもいいじゃないですか」

「知らないわよ…私はこう話すことをならったんだから今さらあんた達に合わせるなんて…バカみたい。」

「おい今なんていいましたか…!バカって言いましたね!一泡吹かせてやりますよ…この弱虫シルフ!」

「ふん…負け犬は吠えているといいわ。いや、犬じゃなくてネコか。でもどちらにしろ迷惑だから、捨て猫は私の近くからさっさと消えてくれるとありがたいんだけど?」

「貴方が最初に来たんでしょう!?全く…こんな自己虫なんて置いて明日のクエストに備えましょう!!」

 

怒り心頭でローベを引っ張りアモネはケットシー領へ歩いていく。カザネはその二人を見ていると急に涙が流れ始め、罵倒することなく救済の目らしきものを飛ばしている。それに気付いたローベが驚いた表情でカザネを見てアモネにも見せようとする。が、アモネが見たのは鋭いいつも通りのカザネの厳しい眼光だった。先ほどより離れているが、再び火花が散りそうな雰囲気。その間をカミュは歩いていきローベの元へ行くと頭を下げる。

 

「もしよければ~素材集めを私たちにもお手伝いさせてもらえませんか~?お礼がしたいです~」

「ま、まぁ…邪魔しないならいいと思うが…」「ローベさん!カミュさんはいいですがあの虫は絶対私は反対です」

「だ、だが…流石にあんな目をされちゃ…」「自業自得ですよ!」

 

ローベには耐えられなかった。もしこれを承諾してあの二人が喧嘩してパーティが全滅したら最悪…だが意外に限界を突破し、仲良くなるのかもしれない。ショック療法だか何だかというやつになることを望み、ローベは冷や冷やしながら了承した。

 

・・・・・

 

そして今、シルフ領に入りとある宿屋の104号室の前に二人は立っていた。アモネがノックをして部屋に入る。そこには半袖半ズボンのカミュと緑のジャージを着たカザネがベッドの上に座っていた。カミュは相変わらずにこにこと笑い手を振っているが、カザネも相変わらずきつい目線を二人に浴びせている。そんな態度にアモネは気分が悪くなる。最悪だ。ふと自然に呟いてしまった。

四人は新生アインクラッドに足を運び、上階層ではなくアインクラッド地下に足を進めた。ここは元々牢獄や隠しダンジョンだった場所だったが、今この場所は地下の公式ダンジョンとして解放されていた。そこにリンネの新装備を作るための素材が眠っているといわれている。地下一階へ進む階段を前にして、カミュが一つ提案を上げた。

 

「今回の作戦…申し訳ありませんが、私に指揮を執らせてもらえませんか~?」

「えっ…それはどうしてですか…?」

「私はプーカなので魔法系統は得意です~、ですが近接戦はできなくてどちらかといえば支援中心になります~。常に全体を見ているので三人は近接攻撃に専念してもらいたいのですが…どうでしょうか~?」

「わかりました…ですが少々不安です…」

「なら、今目の前にいる蝙蝠たち相手に私たちを指揮してみなさいよ?」「わかったわ~」

 

地下一階、暗闇の中の赤い目は羽を鳴らしながら4人へ近づいていく。どこかで聞いた蛇のような鳴き声を鳴らしながら徐々に距離を詰めるモンスターたち。洞窟は四人が横並びになるのが精一杯な狭さであり月光がないため飛行することもできない厳しいコースとなっていた。

 

「一度円陣を組んでください~。私は背後から支援魔法をかけます~。カザネはあたりを照らした後に風属性魔法で攻撃、うち漏らした敵をローベさんが引き寄せて最後にアモネさんが仕留めてください~…できますね~?」

『…了解!』

 

カミュの指令を聞き三人は円陣をときそれぞれの持ち場につく。この狭い中での風属性魔法は蝙蝠を次々に仕留め、ローベとアモネは捕らえ損ねた余りを残さずに倒す。戦闘が終了した後は全員が満足した様子でお互いを見ていた。カザネとアモネのみやり取りはなかったが。

その後も順調に歩を進めていき目的の階まで後二階層となった。が、敵も強くなり蝙蝠の他に蛇らしきモンスターも出るようになった。その度カミュは作戦を変えるが敵の高度な動きに、通用しなくなっていた。

 

「どうしましょうか~ここで強魔法は打つことは出来ません~…」

「とりあえず私が引き寄せます!皆さんは先に行ってください!!」「っ…!」

 

カザネは納得いかないのか、その場に立ち尽くすもカミュに連れられローベとともにその場を後にする。アモネは短刀を握りしめるが、焦りを感じていた。

 

「リンネさんは…SAOで死と隣り合わせでやっていた。しかも対多数の(こんな)環境で…」

 

ここでは…この世界では死ぬわけではないのに…この緊張は何だろう。感じることのないはずの汗が手に滲み、うっかり武器を落としそうになってしまうアモネ。それを合図に蝙蝠が襲い掛かる。いつものように交わしながら襲ってくる3匹の敵を同時に倒す。が、後六匹ほど残っておりうち一匹は巨大蛇、アモネはデスペナを受ける覚悟でいた。

 

「リンネさんのためにも…死ねない!私は勝ってみせる!!」

 

まず大蛇を攻撃しスタン状態にすることができ、その後残る蝙蝠をSSを使いながら綺麗に片づける。が、蝙蝠は死に際に超音波を出してくる。先ほどまでは遠くに飛んでいたため超音波を食らうことはなかったが、足元に倒れた蝙蝠はアモネの顔めがけて超音波を浴びせ、怯んだアモネに大蛇は赤い光線を浴びせた。

いきなりの攻撃にたじろぐアモネ。気づけば体に力が入らなくなっておりすHPバーを見るとバーの上にドクロマークが表示され、その横にPOISONの文字が表記されていた。その後、襲い掛かってきた大蛇を何とか撃退しなんとか被害を抑えることができた。

が、アモネの体力はみるみるうちに黄色から赤になっていく。うつろうつろと自らの鞄を探るアモネだが解毒アイテムを一つも持っていない上に解毒魔法も覚えていなかったのだ。ただこの現実に絶望するしかなかった。が、その時だった、アモネの体力が赤ゲージで止まっているのだ。その横にドクロマークもなく全身に力を入れアモネは立ちあがった。が、目の前にはあのにっくきカザネが腕を組みながら立っていたのである。

 

「まさか…貴方が助けたのですか…?」

「…そりゃ、さ。パーティメンバーが死にそうになっていたら助けるのが基本でしょ?何言ってんのよ」

「…すごく嫌な気分です。それなら死んでもよかった…」

「『一度かかわってしまったら事が終わるまで関わらないと無責任』でしょう?嫌でもパーティメンバーは殺したくない。これが私のやり方よ。つっ立ってないで早く追いつきなさいよ」

 

一瞬リンネの声が耳に聞こえアモネは動揺したが、そんなことを知らずにカザネは回復魔法をかけその場を去り先へ向かう。リンネのおかげでこのメンバーができたことに少し笑いがこぼれてしまう。このご縁を大切にしようと思いながら、アモネは洞窟の奥へと足を進めた。

その後アモネがパーティーに合流し順調に攻略していき四人はついに目的の部屋の扉目の前にまで来た。そこは他の階層ボス部屋と変わらない大きな扉、だがその奥から感じるオーラは一段と重い。カミュはパーティの動きを変え、カザネを回復に回し自分は遠距離から砲台となり敵を狙撃する戦法を説明した。パーティはこれを承諾しボス部屋へと進んだ。ボスは体中が鉱石でできている『ジュエル・ゴーレム』という名前のボスで4mほどある体は暗闇を体の鉱石で照らしている。先陣のローベ、アモネは真正面から立ち向かっていき斬りこむが肌が硬く攻撃が全く通らない。ローベは素手という打撃系の攻撃をするのでダメージが入るが、アモネの斬撃とカミュの魔法攻撃は全身宝玉の肌に弾かれ全く攻略の穴が見えてこない。するとカミュは杖をマイクのように持ちローベの方向へと向く。

 

「今から『唄』でローベさんのステータスアップを図ります~アモネさんは巨人の動きを止めてください~」

「了解しました!」「おう!!助かるな!!」

「行きます~」

 

と、カミュの口から歌われる曲はローベの耳に届きステータスがアップするが、ローベは目を見開き耳を塞ぎながら前線を撤退する。そして、カザネのいるところへ全力疾走で戻っていった。

 

「どうゆうことだよ!なんか頭がガンガンしたが…本当に唄をうたったのか!?」

「ま、まぁ…確かに彼女はプーカで唄を扱えるけれど…音痴なのよ。ステータスはアップするから作戦通り行きなさいよ」

「な、なんでそうなるんだ…うおっ!?」

 

ゴーレムが二人を襲うが何とかローベとカザネは回避し、ローベはそのまま足元を攻撃していく。巨人のHPが4分の1を切ったところで左足が決壊し、地面に倒れる。それを好機にローベはラッシュをするがその数秒後にゴーレムは全身を光らせ、メンバー全員に自らの鉱石を飛ばし攻撃する。その攻撃を予測できずカミュの張る防御魔法が送れ軽減できず4人は吹き飛んだ。

 

「これは~…かなりまずいかもしれないかもしれません~…」

「そんな…でも私は諦めません…!!」「行くわよアモネ…体を分断して攻撃力を下げるわ」「俺も行くぜ!」

 

4人は再び立ち上がるがゴーレムはカミュを吹き飛ばす。壁に打ち付けられた彼女は体が少しずつ薄くなっていく。HPは風前の灯火同然赤ゲージ。ローベが庇いに行く中、二人は体を張り巨人に体当たりする。が、それで怯むはずもなくゴーレムは右腕を振り回す。その攻撃をアモネが庇いスタン状態になってしまい、地面に倒れる。もう一撃がアモネに振り落とされる時今度はカザネが受け止め攻撃を遮断するが、馬力は明らかにゴーレムの方が強く、押されるカザネ。私にもっと戦える力があれば…カザネが上を見ればゴーレムのもう片方の腕が飛んできたのだった。が、その腕は二人を攻撃せず地面に墜落し、ゴーレムは怯んで後ろに下がる。そして、二人の目の前には見慣れた姿があった。

 

「リンネ…さん…!?」「あんたが…どうしてここに……?」

「二人の場所がここを示していたからな…しかも体力が残り少ないからおかしいと思って来てみたら…俺も誘ってくれよ…!」

 

ニヤリと笑った後に飛んで行きゴーレムのもう片方の腕を切り裂く。すると亀裂が入り、ゴーレムは後ろへ下がる。するとアモネは閃いたように目を見開き、カミュに叫ぶ。

 

「カミュさん、リンネさんに属性魔法をお願いします!!」「了解しました!!」

 

カミュの魔法がリンネの鎌に宿り虹色に輝く。その鎌は巨人の胴体を半分に切り裂きその後のの爆発からの沈黙が、4人を安心させる。巨人は倒されたのだ。4人が最も予想しなかった最悪の状況で。カミュは何とか起き上がりリンネの元へ向かうがリンネは戦いが終わっていないことに気づき、近寄ってきたカミュを突き飛ばす。その後、後ろから牙のようなものがリンネを貫いた。そして、リンネの体が紫の炎に包まれ地面に墜落する。その牙の主は先ほど飛んだ腕が変異した、『ジュエル・ビースト』が天を仰ぎ吠える。カザネが蘇生しようとするがある変化に気づく。

 

「あのバカ…生きてるわ…!?」

「ウォォォォォォォ!!ガァァ、ウォァァァァァァァ!!」

リンネのHPバーが赤ゲージのまま半分回復していたのだ。が、様子は先ほどまでとは違い、両目は赤く肌は紫色に染まりこの空間が張り裂けるような叫び声を上げ、目の前の獣に立ち向かっていった。その姿はまるで狂人であり、手に持つ鎌を片手で振り回し硬い獣の肌を削っていく。そしてあっという間に獣の体力はゼロになり大爆発。その後また叫び声を上げ笑い声を上げる。が、カミュを見つけるとリンネは走って彼女の元へ向かう。流石に危機を感じたかカミュは回避魔法を使い、リンネから距離を取る。さっきまでカミュがいた場所はリンネが何度も攻撃しその地形に穴が開いてしまうほどの威力を披露する。

 

「リンネさん…私が行けば止まるかも…」

「バカ言うなアモネさん!今のあいつに俺たちが見えていると思うか?ここは撤退したほうがいいと思うぞ!」

「だけど…リンネさんが一人に…」

「ここは撤退したほうがいいですね〜。今後のこともあるのでカザネちゃんに追尾してもらおうと思います〜」

「あいつは…もう……」「私達が知るあいつじゃないわ…」

「…でも私が……!」

「あんたが今あいつにやられて、後に自分がやったことを知ったらどうなると思う!?これはあのバカのためでもあるのよ!逃げるわよ!」

 

泣きじゃくりながら抵抗するアモネを二人掛かりで持ち上げ撤退した。アインクラッド入り口まで来たところで体がボロボロになったリンネが後からついて来たのだった。すぐに介抱し、第一層の宿屋に入った。アモネは感極まり部屋に入ると誰よりも先にリンネを抱きしめた。カザネが何か言おうとするも、カミュに制止され俯く。

 

「リンネさん…!ごめんなさい…助けられなくて……」

「仕方ないと思うよ…俺が切り落とした場所が悪くてカミュさんがやられそうだったからな。ところで…なんでお前たちはこのダンジョンに?」

「あぁ…それはですね……」

 

場所変わりユグドラシルシティ。その街にある装備屋では男の鍛治職人とピンク髪の女性リズペットが自信気に笑いながらリンネを見る。リンネは身にまとった服をまじまじと見ながら少し動作を確認する。そして、動きやすいことを確信しにこっと二人に笑い返した。

 

「動きやすさを追求し、動きに支障が出ないように最大限防御力を上げた、『サンライズ・デイ・ローズ』です。」

「私も手伝って作ったけれど…今まで作ったコート系統の防具はこれが最高ね。こちらからもお礼が言いたいわ」

「ちょくちょく整備しに来るようにするよリズ、ホルカ。お礼が言いたいのはこっちだから……」

 

そんな三人のやり取りを遠くから四人で眺めていた。ローベはうんうんと頷き和やかに見ていたが、カザネ、アモネの二人は口喧嘩をし喜んでいるリンネの様子を見てはいなかった。そしてもう一人、カミュは今日の一連の流れを考えていた。なぜ復活したのか…あのスキルはなんだったのか…リンネの背中にしまわれた鎌が怪しく紫に光る。その光り方は考えるカミュを嘲笑するかのような光に見えた。




「カミュ…あんたもうちょっと歌の練習をしたらどうなの…?」
「それが〜、歌い方を知らなくて体操なるんですよ〜練習はしてます〜」
「まぁ…私も練習付き合うからさ、頑張ろう?」
「…ありがとうございます」
「…今の素何……!?いきなり口調変わると怖いわ…」

次回「Mを探せ」白い死神に、明日はあるか。

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