ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

23 / 41
貴方を絶対離さない

死神と会って5日が経った。リンネは相変わらず魂が抜けた状態でベッドの上に横たわっていた。用意された食事5日分が放置され、腐敗臭が部屋全体に広がっているがリンネは全く反応を示さない。カウンセラーがきても意思疎通ができずメンタルケアができない。これにはさすがの菊岡も引いたような目でリンネを見ていた。

 

「吹田、リンネ君に何があった?」

「知らないですよ、一週間ほど前からいきなり魂を抜かれたようになっていたんすよ。話すら通じないです。」

「…逆にこの方が抵抗がなくていいか。もうしばらく観察を続けてくれ。」

 

それだけ言うと菊岡は歩いて行ってしまった。吹田には菊岡の言っていることがいまいちわからず、リンネも話していることが理解できてなく、部屋の隅で膝を抱えてうずくまっていた。吹田は流石に苛立ち、窓ガラスを殴り叫ぶ。

 

「おい死神!いい加減飯食えや…気味が悪いんだよ!ずっと見ねえといけないこっちの気持ちにもなれや…」

「…ぁ…ぅ…」

「いい加減目を覚ませよ…!」

 

それでもリンネはベッドから窓を見るだけで、死にかけた顔は変わらず口をパクパクさせているだけだった。今すぐにでも部屋に入りリンネを殴ってやりたい。この部屋から解放したいと思ったが、これが演技ならば開けた途端に襲われてしまい自分が死んでしまう。自分がそう考えてしまうことが吹田は悔しく、あまりの怒りから誰もいない夜の学校で吠えた。時刻は午後9時を指していた。

 

・・・・・・

 

「これなんだけど~何かわかることはないかしら~?」

 

栗色の神髪をお団子にし、ベレー帽をかぶるプーカ族の女性カミュがラプラコーンの女性に鎌を渡す。紫のセミロングにし顔には眼鏡をかけ知的に見える。華奢な身体を黄色主体の服で包んでおり、少し子供にも見える。彼女は鎌を撫でたり抱きしめたりと不可解な行動をはじめ、鎌を置き目を閉じて頷き始める。その行動にシルフの少女カザネが引き気味に見ていた。

 

「ほ、本当にこの人が武器の心が分かるっていうの…?」

「えぇ~彼女はクラウ~。ちょっと不思議だけど鍛冶のスキルはものすごく高いのよ~」

「は、はぁ…で、何かわかったのかしら…?」

 

しばらくしてクラウは目を開けると二人に向き合い、鎌を手渡す。その表情は先程から全く変わらないけだるそうな表情。だが、目からは熱心な様子がうかがえる。

 

「この鎌…前の世界の持ち主を探している。前の使用人はどこかって言ってるね。」

「前の世界…?まさかこの鎌は別のゲームの亡霊…?だから死神って言ってたのかしら?」

「他のことはわかる~?」

「ううん何も、何も話してくれないな。でも一人で怖がっている様子…きみのことは怖いらしいね」

「はぁ……えっ私!?ちょっとどうゆうことよ!!」

 

憤慨するカザネ。カミュはそんな彼女の肩に手を当て「そこだと思う~」といい、どうどうと落ち着ける。そしてクラウから武器を受け取るとお金を渡してカザネをつれラプラコーンの街を後にした。

戻ることいつものシルフの宿屋104号室。時刻は9:30を指しており自然とカザネの口からは欠伸が出てそれにつられカミュも欠伸をしてしまう。

 

「…この炎ってさ、ログインしてない状態なんだよね?」

「まぁそう言われているしそうなんじゃないのかな~。どうしたの~?」

「今の私たちを見てないのかなって少し心配なのよ…もしこいつが本当はログインしていたら私たちの下着とかが見られているのよ?」

「なら捨てちゃえばいいじゃないの~どうなろうが知らないならいいじゃない~?」

「なっ///!?あんた何言って!?そんなことできるわけないじゃない!バカ!!」

 

以前に自分の言ったことを今更後悔するカザネ。聞かれていたのだろうかと思うとカミュが一体何なのかますます怪しくなってくる。カザネは炎となったリンネを持ってみる。炎は熱くなく重くもない。紫に燃える炎は以前より弱くなっており、息を吹きかければ消えてしまいそうだった。

 

「私に謝らせず死ぬんじゃないわよ…責任取らせなさいよ……バカ」

 

ぼそっと呟き炎を抱きしめる。その後も特に炎の強さが変わらず机の上で消えかかっているが、まだ燃えていた。その近くにはドロップした鎌、『セイグリッド・デスライサー』が炎を守るように置かれた。そして二人はベッドに寝て自然にログアウトしていった。その間、鎌は炎が燃えるたび共鳴するように紫色に光っていたのだった…

 

・・・・・・

 

午後十時、仕事に嫌気がさした吹田は辞表を書いていた。この仕事をやめてもいい、自分自身を守るためならこれしかなかったのだ。ここ五日、思い出す度に吐き気がして何度もリンネをぶちたくなった。が、この壁がどうしても邪魔をする。そう考えるとここをやめるしかなかったのである。窓の外を見ると相変わらずひきこもるリンネの姿が見えた。やはり見るとイライラする…吹田は辞表を書き終わり深呼吸をするとリンネに向かった怒鳴った。

 

「おい!いい加減目ェ覚ませや!!お前がやってんのはたかがゲームだろうが!昔のことをまだ引きずってんのか…そんなんだからお前は弱いんだよ!」

「……」

「今日でお前のお目付け役は終わるからな…今日言いたいことをすべて言わせてもらうぜ」

 

だが、リンネから反応はなく聞く耳も持ってなさそうだったが、ストレスが限界に達した吹田に取っては関係なく、全ての不満をぶちまけていく。

 

「いつまでうじうじしているんだ…またお前は一人で勝手に背負って落ち込んでいる…それがまた腹が立つんだよ!それが全て大人だと思ってんじゃねぇ!お前、あの世界にいる時仲間ができたって聞いたがその仲間には見捨てられたのか?」

「……」

「その仲間をお前は頼らず…お前はある意味仲間を殺した。それでよく死神なんて名乗っていられるな。」

「…僕は……」

「今のお前は屍だ。死神の頃のお前はどこに行ったんだ…俺はお前が死神としてあの世界で生きて、お前が活躍したクソむかつく話を毎日聞かされるのが俺の唯一の楽しみだったんだがな!非常に残念だ!!お前が落ち込む暇があったらまずはその元仲間をどうにか説得させてから落ち込めよこのエセ死神!」

 

リンネは目を見開き窓を見て今の状況を把握しようと周りの状況を見ている。が、その光景は今まで住んでいた部屋ではなく、ガラスや破片が飛散した地獄のような状態。リンネからはまた頭を抱え唸り声が出てしまい胸の中から何かがせりあがってくる…その時だった。

 

「ここは立ち入り禁止だぞ!お前は誰だ!」

「リンネさん!リンネさんですよね!!私です!アモネです!!」

「ア…モネ…?」

 

そう、アモネと同じ顔の少女がリンネの閉じ込められた窓を叩いているのだ。が、窓は一向に割れる気配を見せず学校の中にたたく音が響く。吹田は止めようとするが、突き飛ばされてしまい唖然とする。アモネは消火器に立ててある使用説明が記載された棒を手に取り窓ガラスを思い切り叩いた。が、ガラスはヒビが入るだけで割れてくれない。そこから何度も叩き、ある程度ヒビが入ると棒を捨てガラスを殴り始めた。

 

「リンネさん…私は貴方が見逃してくれた日を覚えています。私のわがままを聞いてくれた日も…私を受け入れてくれた日も。その時から私は決めていました、貴方を守るって決めてたんです…!」

「あの日…俺と…アモネが…繋がったあの日……」

「貴方はあのギルドに負けても諦めなかった。私を助けに来てくれた。だから…私も諦めたくないんです!手を差し出してください!!絶対離しません!」

 

が、何度殴っても割れない。そんなガラスに強い衝撃が加わる。アモネが後ろを見ると吹田が警棒でガラスを殴っていたのだ。その後、近くにあったヘルメットをアモネに渡し、自分も被りガラスを叩く。

 

「これは貸しだからな死神。お前がここから出たら何でも言うことを一つ聞いてもらう」

「リンネさん…いや、音弥さん!手を…伸ばしてください!!」

 

ガラスが割れ、破片が床に飛び散る。その上をじゃりじゃりと音を鳴らす物が一つ。リンネは床に這いつくばりながら窓へ向かって手を伸ばす。そして伸ばした手は、アモネの小さな手を弱弱しく握りもう一本の手は体を支え立ちあがる。アモネは両手でリンネの手を包みその手を胸に持って行った。その手には…苦労を物語るアモネの血と涙が流れていた。リンネが手を開くとそこには星のキーホルダーの破片があった。アモネの片手にもキーホルダーの破片がある。

 

「アモネ…ごめんな……」

「貴方を…もう離しません。」

 

隔てられた壁は破壊され、二人は再び繋がった。その様子を吹田が苦笑しながら見守っていた。

その日以降リンネの体は浄化されたかのように活気に溢れ、以前の生活に戻っていった。モニターだが学校の授業に参加し、終了すれば食事を済ませALOの世界へと飛び立つようになった。修理されたナーヴギアにはアモネからもらったキーホルダーの破片が紐を新調してしっかりと結び付けられていた。




次回、これと対になっているリンネの心情が明らかに…

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。