ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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死神の再来 前編

ぶつかり合う剣の音、俺リンネは今戦闘を行っている。が、これは忌々しいいつものPKではない。今俺の前で戦っているのは同じ種族のインプでとてつもない強さから絶剣と呼ばれている少女、ユウキだった。

 

「ふふん…中々やるね。だけど、ボクの本気はこれからだよ!!」

「本気で相手してもらって光栄だな!いくぞ!!」

 

俺はソードスキルを発動させようとモーションに入るが、その間に彼女は俺に急接近し右手に持つ剣で刺突してくる。なんとかモーションをキャンセルし、攻撃を防ぎきるが俺の持つ鎌は弾かれ手から離れてしまう。その後、何度か斬りつけ、俺の胸が十字に斬られ最後にもう一撃斬り裂かれた。速すぎて斬られている俺は何回斬られたのか全く分からない。これが彼女のOSS…『マザーズ・ロザリオ』である。

もちろん、俺は負けてしまった。が、あまり悔しくなかった。この絶剣と戦えたことがまず嬉しく、さらにOSSまで見ることができたことで満足だった。もちろん勝ちたかったが、ここまで真剣に勝負してもらい俺は嬉しかった。負けてしりもちをつく俺に対しユウキは勝ちを喜んでいる。そして俺の元に近づき、手を差し伸べる。

 

「楽しい決闘だったよ!もし次があればまた戦いたいな!」

「俺も…戦ってもらえるだけですごくうれしかった。こちらからもまた決闘させてほしいな」

「うんうん!君の楽しそうな気持ちが伝わってきてボクも楽しくなってきちゃったもん…!」

「同じ種族同士、これからもよろしくな」

 

お互い、固い握手を交わし決闘を終了した。時刻は夜7時だったがインプのプレイヤー達が集まっており黄色い声援が飛び交っている。もう今日はログアウトしてもいい気分だった。が、俺にはもう一つ仕事があった。

歩いて向かうこと数分、俺はとあるクエストを受ける準備を進めていた。これから行われるというクエスト、『死神の再来』だ。このクエストはアモネと同じケットシーの情報屋のアルゴから聞いたといい、信頼できるか不安だったがアルゴ曰く「オレっちの情報はいつも真実だゼ」と言ってたらしい…本人に会って話がしたいものだが。

 

このクエストはとある場所に特殊ダンジョンが現れ、最深部に待つ死神にを倒すと記念の武器が手に入るという。が、アモネは学校祭の準備でログインができず、ローベは武器イベントには興味はないとのこと。仕方なく一人で挑戦することにした。が、この情報はまだ他の人には公開されておらず、とある場所に行くと出されるらしい。アモネから聞いた話だと、クエストの開始位置しか聞けなかったらしいがそれだけでも結構だ。この特殊ダンジョンは洞窟なのでインプのスキルを使えば簡単にボスフロアまで行くことができる。そこでボスさえ何とか出来れば武器が手に入るのである。が、何故俺がここまでこのクエストにこだわるのか…

そう、過去の俺と決別するためだ。このクエストの報酬…確実に俺が使っていたあの武器だろう。ということは昔の俺が最下層に待っている。昔の俺と対決できるということだ。それは俺自身と戦える楽しみと、俺のSAOを終わらせるための思いがごちゃ混ぜになり居ても立ってもいられなくなったということだ。

 

「こんな時にアモネがいたらな…すげえ不安」

 

独り言を呟いているとそこに一人プレイヤーが現れる。緑色の半袖の服に若草色の腰巻き、黄緑のサイドテールの女の子が一人…以前俺が助けてもらった少女が何か汚いものを見るかのようにこちらを見ていた。目元はつりあがっており、殺意で満ちているような気がした。

 

「この前はありがとう。それを伝えようとしてシルフ領に入ろうとしたことは謝る」

「…別に助けようと思ったわけじゃないの、死んでいる光景を見たくなかっただけ。いつも私はこうだから」

 

すぐに視線を逸らしその場に座りこむ彼女。そういえば前にシルフの女性プレイヤーが言ってたような…

 

『カザネちゃんを泣かせたのは君たちでしょ!因みに私、スピードなら誰にも負けないからね!』

 

この少女…カザネというのか。名前が彼女の種族とぴったり合っていて少しすごいなと驚く。もしかしたらこれが本当の名前でもないかもしれないが。一体彼女はどんな気持ちでこのクエストに臨むのだろう、そんなことを考えていると、コールと同時にメニュー画面のinformationの欄に赤く臨時の文字。そう、クエストが始まったのだ。それを告げるように俺たちがいる目の前に小さな洞窟が現れる。カザネも俺も現れた瞬間同時にスタートを切った。そして洞窟内を駆けていくのであった…

 

俺はモンスターを避けながら暗い洞窟を颯爽と駆けていき、カザネは魔法で辺りを照らしながら進んでいく。両社譲らず今地下5階である。クエスト情報を見る限り最下層まではニブルヘイムに至るとまで書いてある。そこまでどちらが先に息絶えるか…忍耐力の勝負も始まっていた。

が、俺たちが進む先に一つの石の壁が立ちはだかる。どうやら一定時間その場にいることによって開く扉のようだった。そんな扉の前では俺たちの戦いは急背せざるを得ない。大人しく座り扉の開放を待った。

 

「どうせ…貴方もPKなんでしょ…そんな臭いがする」

「前はそうだったけど今はそうでも…」

「私、PKが大嫌いなの」

 

そう言われた途端扉は解放され次なる階へのスタートが切られた。一体彼女の過去に一体何があったのかは知らないがとりあえずクエストを進めることにした。後ろには人がおらずこのクエストの存在が全く公にされていないことがよく分かる。もしかしたら人気がないだけなのかもしれないが。階を増していくごとにモンスターの種類も変わっていきすべて戦闘回避というわけにもいかなくなってきた。地下20層、二人してサイクロプス相手に足止めを食らってしまう。大型すぎて通路が塞がれているのだ。ここで彼女と共闘してサイクロプスを倒すのもいいが…生憎自分にモンスターとの戦闘能力はない。が、人が他のためまだ何とかなる。

 

「カザネ、俺がここを引き付けるから先に行ってくれ」

「じゃ、遠慮なく。」

 

俺がサイクロプスを斬りつけると、巨人は立ち上がり俺に棍棒を振り降ろしてくる。その時、立ちあがった為に隙間が空き人間一人は入れそうな空間ができた。いくら借りとはいえ、自分は死ぬんじゃないかと少し後悔しているような気がした。

なんとか、巨人をすり抜けてきたものの俺の前にはカザネはもういなかった。先に死神を倒されてしまうかもしれない、競争に負けることを覚悟に後を追った。が、追いつくのに時間はさほどかからなかった。二階ほど降りた場所でカザネはモンスターに囲まれていた。相手はリザードマン、SAOの個体とほぼ同じものだろう。カザネは攻撃を避けリザードマン5体に対して善戦していたように見えたが、だんだんさばききれずにリザードマンの一撃を受けてしまう。俺は居ても立ってもいられなくなりすかさずその先頭に介入しリザードマン二体を片づけた。が、カザネはとても不機嫌そうに俺を見てくる。

 

「私が戦闘してたんだから…無視すればよかったじゃない」

「そんな話は後だ!来るぞ!!」

 

残る二体がそれぞれ俺たちに攻撃を仕掛けてくるが、無事に俺たちはリザードマンを討伐し何とか戦闘を終了した。カザネは後ろから人が追ってきてないことを確認すると俺の胸ぐらを掴み壁に叩きつける。目を見ると涙が流れていた。

 

「借りとかいらないから…私に関わってこないで……!」

「………」

 

元はといえば彼女から介入してきたことなのだが、あえて言及することをやめ黙って罵詈雑言を受け続けた。どうやらPKに対して相当拘りがあるそうだ。彼女は俺を開放すると黙って次の階層に行ってしまった。俺もあとを追い無心に進んでいくことに階層は40階を超えていた。

40層以降も敵が強くなっており、ノーダメージで切り抜けることが難しくなっていく。買い込んだポーションも少しずつ減っており元々持っていた数の3分の1はなくなったのではないかと予想する。そんな戦いの中、カザネも槍で戦っている。が、お互い体力は黄色まで減りどちらが先に倒れてもおかしくない状況だった。そして階層地下46層目、リザードマンの他にゴースト種も出るようになりさらに攻略が難しくなる。ゴースト種は回避が高く中々攻撃が当たらないからだ。俺も手一杯なのだが彼女もギリギリのところで戦闘を切り抜けている。シルフの彼女は回復魔法が使えるからいいが、俺にはそんなものはない。俺にあるのは少量の支援魔法と、この手に宿っている敵を倒す力だけだ。

47層目、モンスターに攻撃が通らなくなり、さらに小型のドラゴンが追加され戦闘はより悪化していく。が、その時だった。カザネの武器がリザードナイトに破壊されてしまう。ナイトはリザードマンの上位種で武器は界のスキルを持っている厄介者だ。そしてカザネは今その攻撃を受けて死にかけている。俺は一瞬葛藤した、仲間でもないのに俺は助けるのか…一度かかわった人を見逃すわけにはいかない。後者の意見が勝り、おれは全力でナイトにタックルした。そしてナイトの腹に剣を突き刺すが変な感触を腹に感じる。ナイトの剣も俺の腹に突き刺さっていたのだ。ナイトは光の粒子となり消えていくが、俺はなんとか赤ゲージながらHPは残っていた。因みにこのクエスト、普段のデスペナが二倍になり、受けるダメージ量も二倍になる特殊仕様で普段腹に刺されるのとは全く違い、今まで感じたことないような痛みが体全体に響いていく。つい力が抜け倒れてしまった。何故か急に眠くなり俺は静かに眠った…

 

 

 

『…音也、これから生きる上で大事なことを教えてあげるわ』

『うん!!教えて!!』

『人生は…勝ちが全てなのよ。何をしてでも勝つことが全てなのよ』

『勝つこと…?』

『えぇ、お母さんはねお父さんに負けてこんなになっちゃったから。お父さんに教えてもらったの。負けるとお前の持つものが失われるってね』

 

本当のことだとここ最近まで思っていた。お母さんが言っていることは正解だと思っていた。だから頑張って勝とうとして負けると殺されそうになった…少し違うんじゃないかと思った…けど最後まで否定することが出来なかった。僕には…俺には力なんてもの………

 

 

変な夢を見て俺は起き上がった。が、そこは部屋のベッドではなくごつごつの石だらけの地面でクエスト中だということを俺に思い出させた。HPバーを見ると体力は満タンになっており腹の傷も癒えていた。隣を見るとカザネが無防備に寝ておりすうすうと寝息を立てている。まだ人は来てなさそうなので起きるのを待った。3分ほどたった頃、彼女は目を覚まし俺を見るとビックリしたのか目を見開き肩をビクつかせる。が、すぐにするどい目線に戻り俺から視線を背けた。そして彼女は鼻をすするような音を立て始め、うぅと小さな声で泣き始めた。

 

「なんで…私の言うことを聞いてくれいのよ…関わらないでって」

「一度かかわってしまったら事が終わるまで関わらないと無責任だろ?」

「くどっ…何でよ……なんでオレンジプレイヤーなのにそんなこと言ってくるのよ……そう言って私を殺すつもりでしょ…!!」

「俺はお前を殺さない。何があっても絶対お前は殺さない。」

 

急に黙り込んだカザネ、涙を流しながらこちらを見ている。何故泣くのか…俺は脅した覚えもないし何故か見ると俺まで涙をそそられてしまう。彼女は俺をしっかり見て口を開く。

 

「…私は、SAOで兄を殺されたの。家族も人に殺された…だから私は悲しみを一番よく知っていると思うの」

 

重かった。学校ではこの世界での自分のリアルの状況を教えるのはタブーなのだが、我慢の限界なのだろうか信頼してくれたのか、カザネは話を続ける。

 

「今回、このクエストに参加して死神を倒して敵を取ろうとしたの。兄は死神に殺されたってログから聞いたから…」

「死神…に……」

 

まさかだった、俺が殺したのだ。どんなプレイヤーだったかなんて覚えておらず話を聞いても全く分からなかった。あの世界では誰もが恐慌状態に陥り、何人ものプレイヤーが俺に攻撃をしてきた。その中に彼もいたのだろう、俺は現実のことなど全く考えずにカザネの兄をキルしたのだ。今なら攻撃を防いで撤退ということもできたかもしれないが、死ねば命が散るあの世界では…やはり無理だったのかもしれない。どう思おうが、その事実に俺の脳内は真っ白になり、ただ落胆するしかなかった。


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