ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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守るべきもの

これがこの世界で言う死というものなのか。特にSAOのデスゲームの世界ではこれが現実での死亡宣告だったために、この表記を見た瞬間どれくらいの人が絶望を見たのだろう。そんな絶望を俺は見せていたと考えるととても心が痛い。これが罪なら受け入れよう。蘇生時間がカウントされていくが正直どうでもよかった。いくら不死の世界でもこのように永遠と死んでいくのなら生きていては意味がない。蘇生したら二人の捜索を諦めこのゲームをやめてやろうと思った。

そんなことを思っていると急に体に力が入り気づいた時には俺の体は元に戻っていた。寝ている状態から手の握りの確認、視界の確認、しっかりとそれぞれの能力を確認した後頭の後ろにある柔らかい物が気になる。上を向いてみると誰だかよく分からない女性とバッチリ目が合い、女性は顔を真っ赤に染めた。俺は慌てて起き上がり正座で彼女と対面する。相手は顔を赤らめ目を逸らしている。とりあえず御礼は言っておくことにした。

 

「あの…ありがとう。俺まだ飛行が上手くできなくてさ、ログインしたら墜落してこのざまで…」

「……」

「俺はリンネって言うんだけど…お前は?」

「…」

 

彼女は飛び立ってしまった。緑の羽を広げ消えてしまったのだ。後追いをしようとは思ってはいないが、こんな別れ方をしたのが何か残念な気分になってしまう。また逢えることを信じて自らの拠点を目指すことにした。

しばらく歩いていると暗い空のかなたから何かを感じ慌てて回避する。すると先ほど俺がいたい地には火の玉が直撃し大爆発。いきなりこの世界の洗礼だろうか、これがこの世界で新たに入ってきた技、魔法だろうか。そして炎の魔法と考えると…後ろを向くと先ほどの魔法の主が着陸し俺を見据えてくる。

 

「お前、ニュービーか。こんなところで一人で居るなんて殺して欲しいのか?」

「あ、いや…ちょっと空を飛ぶことができなくて歩いて拠点にね…」

「あのな、この世界はSAOと違ってプレイヤーはキルしてもいい、むしろキル推奨のゲームだ。ここで一人でいて殺されても自分の責任で罪はないんだぜ?」

「罪…か」

 

罪のワードに俺の思考は再び思考を開始する。何が罪なのか、俺がここにいたらそれは全て俺が悪いのか…キル推奨のこの世界で彼らが俺を殺したらそれは罪になるのだろうか。この世界もまた…弱肉強食の世界なのだろうか。そうならばなおさら背いてやりたくなった。裁かれる事がないのならまんべんなく「殺し返し」てもいいということだ。俺は装備していた片手剣を手にサラマンダーの兵士と対峙する。すると奴の仲間なのだろうか、空から二人ほど甲冑をかぶった兵士が降りてきた。この感覚、久しぶりだ。昔と同じ、一人対多数の対決だ。

甲冑の二人が俺に向かって剣を振りかざすが、俺も真正面から突進し剣を振りかざした。お互いもといた場所と逆の方向になり、まるでアニメのワンシーンのようだ。その後お互いが振り向いてどちらかが倒れるという流れだったが、俺は剣を鞘に納める。カチンと完全にロックがかかった瞬間爆発。後ろを確認すると、サラマンダーの兵士が一人減っているのである。そう、二つの剣を避けて通り際に一人のサラマンダーを切り裂いた。おそらくこのゲームを始めたばかりではキルすらできないだろうが、勢い任せにやったせいか何かを切断する確かな感触があった。残る二人に対しにやけてやるとボスらしいサラマンダーは露骨に悔しそうな顔をする。後ろから残るサラマンダー兵士が襲い掛かってくるが、剣を後ろに構えることで自然と赤い装甲を貫きサラマンダー兵士は爆発した。そこには赤い炎が残っていたが、どうでもよかった。

 

「お、お前は…なんなんだ…まさかサバイバー…!?」

「帰還者ってそう呼ばれているんだ。確かに、俺はSAOから帰還したプレイヤーだけど。」

「ま、まさか攻略組…!」

「残念だけど俺はそんな強くないんだ。もしよければさ、シルフ領まで案内してくれたら嬉しいんだけど?」

「わ、わかった…!だ、だから見逃してくれ!!」

 

実力では及ばないと思ったからか、あっさり言うことを聞いてくれわざわざ徒歩で案内してくれた。暑い砂漠を通り抜け、暗い森を抜けるとそこには日本の街のように明るい街が見えた。とりあえずこのサラマンダーに御礼を言うことにした。

 

「ここまでありがとう、サラマンダーだよな。隣同士、また出会った時は勝負してくれよ?」

「あ、あぁ…」

 

力なく返事をした彼はすぐに赤い羽根を広げ飛び立った。逃げられてしまったのだろうか。一体それほどのことをしたのか、自分には疑問だった。

改めてシルフの街を見ると夜なのにも関わらず、にぎやかで何より緑。風の妖精がたくさん集まっているんだろうか。それが正解なら、あの時助けてくれた彼女はシルフ領にいるはずだ。徹夜を覚悟でシルフ領に入ろうとした、その時横から強烈な衝撃が襲い掛かる。ぶつかられた俺はそのまま倒れるが、その感覚に久しぶりに安心した。

 

「リンネさん、生きていたんですね!私ですよ!」

「わかっているよ、アモネだろ?久しぶりだな。」

 

そう、SAO時代にともに冒険をした仲間アモネだった。が、SAO時代と違い、アモネの髪は黒で全身の格好も黒基調の服装になっている。装備もあまり変わらず短剣を装備しており少し色が変わった程度の変化となっていた。が、久しぶりの再会にかかわらずアモネは神妙な顔で俺に話しかけてくる。ミラのことかと思ったが、それとは全く違った話だった。

 

「リンネさん、別の領にその領のプレイヤーなしで入ったら即死ですよ」

「そんな理不尽なシステムなのかよ…」

「いえ、システムじゃないです。プレイヤーがそれぞれの領でやっている自衛行為です。」

 

自分の身を守るゲームの次は自分の陣地を守る防衛ゲームに来てしまったのか。正直そんなゲームならば、俺はどこの世界にも就きたくない。無理やりにでも入れられるならこんな世界なんて後にして二つの目的を諦めようと思った。ここまで情けない人間たちの本性を見ているとなんだか俺の心も飽きてきてしまう。アモネに陣地に返ってこのゲームをやめると言おうとした時だった。あのシルフの少女がシルフの領地から歩いて出てきたのである。そして俺たちを見るとそのまま立ち尽くしてしまった。

 

「あ、あの時の…キラー……」

 

アモネもすぐに口が出せず、夏なのにも関わらずその場は冬のように冷たくなり、騒然となった。


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