ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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仲間

目が覚めるとそこは俺の家の中だった。頭についたナーヴギアはあっさりと外れ俺は自由を手に入れた。ふと考えるとさっきまで俺はゲームの世界にいた。HPがゼロになれば死ぬデスゲームの世界に俺はいたんだ。だが、あの後…ミラに逆襲を食らい、俺は死んでしまったはずだった。が、脳は焼き切られず俺は生きている。この装置は夢を見せるための機械にしか過ぎなかったんだ。死んだのに生きているという現実がここにあるのだ。ふと、耳を澄ましてみるとドアの先から声が聞こえる。聞き覚えのある声。俺が殺した男、女、モンスターが俺の名前を呼んでいる。俺を祝福してくれている。俺は戸を思い切りこじ開けた…が、その先は青白い電子の海だった。俺は一生この海の中に落ちていくのだろうか。それが俺の罪なら…それでいい。なにも抵抗せずただ落ちていった。途端目の前は白で埋められていき俺は意識を失った。

背中への大きな衝撃で俺は目覚めた。目の前は以前にも見たことのあるような世界。馬小屋ほどの大きさの木造建築、真ん中に机、床を見れば食糧庫が開きっぱなしになっている。俺は一度自分を思い切り殴った。が、そこには紫のウインドウが現れ俺は一瞬怯んでしまう。そう、俺がさっきまで見ていたのは夢で、ここが現実である。そうだった、仮に現実に戻ったとしても俺に平和な生活なんて待っていないに違いない。ここも向こうもう場所がないと思うと死にたくなってきた。

 

「あんた…さっきまでぐったりしてたのに、何がどうなっているのよ…!?」

「お前は…」

 

そこにはしりもちをついて俺を見上げているバラがいたのである。今回は装備がドロップすることなく健全な装備で俺と対面することとなった。恐らく置いていかれた後、彼女がここに入れてくれたのだろう。

 

「す、すまない…」

「それで済めばいいんだけどあんたにも言っておかないといけないことがある。」

「…?」

「収容所が見つかったんだ。あんたが追尾されてギルド解放軍から攻撃された。」

 

最悪だった。俺はアモネどころか、収容所のみんなまで裏切ってしまったのである。

 

「所の皆は全員避難して無事だったよ。皆、あんたの家の前で待っているから何か言ってきたらどうだい?」

 

神妙な顔をしてバラが言う。彼女はいつもへらへらしていたが、今回はそんな表情をしていない。仮にこれがドッキリだったとしても彼女はこんな表情を俺に見せたことがなかった。本当の感情らしく、俺はバラの冷たい目線を受けながら家の外に出た。

バラの言う通り、外には収容所のメンバーが一人もかけず集まっていた。体の大きなバトラー、その手下たち、俺をにらんできたプレイヤー達。懐かしい顔ぶれだったが久しぶりだからといって俺に笑いかけてくれる奴は一人もおらず、冷ややかに俺を見つめていた。囚人の先頭に立っていたバトラーが俺に近づいてきた。

 

「…おいリンネ、どうしてくれるんだ」

「…すまない」

「違うだろう」

「すまない」

「違う」

「ごめんなさい」

「俺はお前の謝罪を聞きに来たんじゃねえ」

 

胸ぐらを掴まれ思い切り殴られる。ここも圏外なため俺は紫のウインドウで守られるが、バトラーのかなりの怪力で俺はぶっ飛ばされ家の壁に叩きつけられた。HPには影響はないものの背中に鈍痛が襲い掛かる。バトラーは俺の首を持ちあげ俺を軽々持ち上げた。

 

「いいか、俺たちはお前のそんな姿を拝みに来たんじゃねぇ。確認したかったんだ、俺らのことをどう思ってんのかを。」

「…お前たちは……同じ収容所の宿泊者だ。」

「それだけか?」

「あぁ…」

 

それを聞くと呆れたのか、俺を投げ捨てた。が、正直なところこいつらは俺を殺さないだろう。今の俺は殺す意味がないただの屍だというのだろう。俺の子の気持ちがいったい誰にわかるのか、そんな奴は一人もいないはずだ。

 

「あそこで過ごした日々は…俺のわずかな光だった。俺はそれを失いたくなかったんだ。だからお前たちと関係を切ってお前たちだけでも守ろうとした。ただの宿泊者だけどそれでも大切だったんだ」

「…それならなおさら俺たちに相談してくれればよかっただろう?」

 

壁にすがり心が虚無にある俺をさっきと変らない目でみんな見ていた。いったい何のつもりなのだろうか。

 

「ただの宿泊者だけどそれでも俺らのこと大切なんだってよ。そういうのをなんていうっけなお前ら?」

「仲間じゃねーのか?」「仲間しかねーだろ!」「仲間だと思います…」「仲間ってやつか?」「最初から仲間だろう?」

「仲間…」

「不器用だなお前。今まで仲間の意味が分からなかったろ?」

 

そこにいた群衆はいきなり大声で笑いだし、俺を囲う。俺の知っている仲間は一緒に共通の目的を持って共にその目標へ歩む集団であって、さっきの開放軍のようなものだと思っていた。

 

「忘れちまったのか?俺たちにもあいつらに負けない共通点があるだろ?俺ら全員にある勲章がよ」

 

そうだった、俺とこいつらの唯一の共通点、それぞれいろんな境遇があっただろう、いろんなギルドにいたり最初からソロプレイヤーだったりしたんだろう。だが、それでも俺には、俺たちには、オレンジプレイヤーという勲章があるじゃないか。それは解放軍のオレンジプレイヤーの抹殺に匹敵する目的意識、『自分が殺されるのなら最大限の力を使い生き続ける努力をする。』殺されない、自分の意思ならば絶対負けないだろう。そう思う度俺の中から力がみなぎりその溢れる力は俺の雄たけびによって解放された。叫び終わった俺はバトラーに近づき、軽く胸をたたいた。

 

「お前たちの力…貸してくれないか?」

「報酬は通常に5割増しにしてくれよ?」「リンネは金が余っているらしいし奢ってもらおうぜ!」

「流石リンネは太っ腹だな!」「今度は俺たちが反撃する番だ!!」

 

俺は囚人に持ちあげられ、胴上げされてしまう。それと同時にリンネコールが止まってくれない。初めてで照れくさいものの、何か心が軽くなった気がした。しばらくして胴上げが終わり、俺の家の前では囚人たちによる作戦会議が始まった。

 

「やつらのアジトの位置は大体わかるが、そこにはアモネがとらえられている。俺のフレンドリストにまだ名前はあるから生存していることは分かるけれど、奇襲でもしようものならアモネが死んでしまう。」

「そうか…だが、あの集団なら俺らで何とかなる。お前はあの二人を何とかできるのか?」

「正直に言えば…ミラはあれからレベルが全く上がっていない。俺と同じ20なんだ。だから問題はあの巨大な怪物ゴルドレムだな。」

 

ゴルドレムのスキルの内容からやつはレベルがかなり上と思われる。さらにあの体力半減攻撃、あれ体術スキルの一種なのだろう、自分のレベルが相手より上の場合体力を半分にする『ハーフブレイク』という技だ。相手が同じ体術スキル使いといっても俺もそうなのだから大体の動きは分かる。正気が見えてきた。その後も話し合いは進み。いつの間にか皆が俺の家で泊まり始め、道具も買い込み相手の情報も集めた。その時間は昔の何かを思い出さしてくれるような…そんな感覚に浸らせてくれた。だからこそこいつらを、この『仲間』を守りたい、そう思わせてくれる。俺は大きな敵の前に立ちはだかっている。相手はギルド、俺たちは同じ肩書を持った犯罪者。ビーターの黒の剣士が戦った、聖騎士ヒースクリフなんて比べ物にならないのだろう。黒の剣士と俺たちを同じにしてはいけないかもしれないが、関係上はどちらも同じだ。正義に対してそれを俺たちは真っ向から否定するのだ。

 

「俺たちは今日11月7日、中ギルド『ヴァイスヴァールハイト』を襲撃する。目標はアモネの救出だ。それ以外はどうでもいい。もし抵抗されたら…殺る気で相手してやってくれ。いいな!」

「おう!!」

 

時は来た。11月7日…ミラの言う通り解放軍は解散してしまった。が、彼のギルドは残っているようで、アモネもまだ生存している。今日はメンバー全員の参加が可能で、さらに天候も曇りという完璧なコンディション。彼らに見せるのだ、そして否定するのだ。白が全てではないと。俺らは歩を進め13層の奴らのアジトへと向かう。俺は初めてミラと同じ立場に立ち戦うことになる。そんなことを考えていると誰かに猫だましを食らう。バトラーの手下だった。驚いてしりもちをつく俺に声をかけてくる。やめろよ、と言い返した後に同じ立場なんてどうでもよくなり俺の気持ちを全力でぶつければいいと決心した。気づけばアジトの門は目の前、俺は突入のカウントダウンを始めた。


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