アモネの負けた相手…やっとそのしっぽがつかめたと思ったらまさかそれが元副リーダーでギルド解放軍にかかわる人間だった。その現実が俺のイラつきを加速させる。あれから一か月が経過し周りのプレイヤーはぱたりと俺たちに対して攻撃をしなくなった。怪しさが際立つがあえて突っ込まないようにいつも通り生活を続けた。もしかしたら監視されているかもしれなく、無理に圏外にある収容所に向かうことができない。スカベンジトードの塩焼きを食べながら60層を歩いていた。監視されていて収容所に行けない…毎日宿に通っていたらお金だけが減っていきお金の供給が難しい俺たちは飢え死ぬことはないが、次ミラたちとあったら間違いなく死んでしまうだろう。どうしたことか。
「リンネさん家建てましょう」
「!?」
いきなりの提案に食べていた肉を吹きだしてしまう。床についた肉は無惨にも破片となり消えていってしまった。
「お前いきなりなんてこと言うんだ!!せっかくのカエル肉が…!」
「家ですよ!私たちの基地があれば食費だけで済むんですよ!もう殺人事件に巻き込まれなくていいんです!」
確かに、家だと収容所に行かなくても寝る場所は確保できるしまずPKされることがない。お金も大半失ってしまうが、食費も節約すれば何とかなりそうで今一番の案として立候補された。が…
「少し問題もあるんじゃないか?」
「そんな、PKもされないし何も問題なんt…」
「成人もしていない男女が家を買って同居するということが俺はどうしても気になる…」
「ど、同居ですか…!!」
顔を赤らめたものの少し興奮して俺を見るアモネ。その顔はおもちゃコーナーで興味のあるおもちゃを見つけ、『いつもお利口にしているから買って欲しいな♪』と言いたげな子供の様子とバッチリ一致した。だが、その計画は俺が強引に購入した回廊結晶により却下せざるを得なくなった。
長いこと二人で旅をしているがさっきまでアモネとの関係なんて全く考えていなかった。ただの冒険者としてしか見ていなかったのでさっきの発言は少し現実を見るきっかけとなり少し気が楽になった。考えてもいいかな、と隠し持っているお金を確認しながら不機嫌に頬を膨らます彼女を慰めていた。押し付けられたカタログを見る限り持っているお金で払っても十分余裕はある。遺品から手に入れたお金を使うのは少々気が引けるが仕方ない。誰も襲ってこないならばアモネのご機嫌取りでもしよう。
「アモネ、家以外で何か欲しいものはないか?」
「ないですよーだ。」
「そんな怒るなよ…悪かったから、せめてもののお詫びするって。」
「…ラグーラビット。」
「はっ!?」
「とは言わないから、買い物に付き合ってください。」
食べ物か、なら持ち物が増えることがないので少し安心した…一時間前までは。アモネは転移門をくぐると食べ物の店を通り過ぎ服屋に直行する。急ぎ足で俺もついていき店内に入ると服をまじまじと見つめ自分の体に服を合わせている。現実でも彼女ができず家族であまり買い物に行ったことはないが大体わかった…この買い物…
「リンネさん、これ買ってください!会計終わったら次行きますよ!!」
「は、はい…」
と、次々に服屋を回り俺が購入し荷物を持たされたまま次のエリアに飛んで行く。辛いこと限りなし、さりげなく彼女にお仕置きされているらしい。非常に悔しかった。
20着ほど買い、時刻は昼過ぎ。一日が終わるまでまだまだだったが、彼女の足は止まることを知らずそのまま駆けていきフィールドに出た。そこにはかなり興奮している様子の色違いフレンジーボアが三匹こちらを見て大きな息を吐いていた。あれだけやって俺を殺す気なのか、彼女を少し疑ったがボアの後ろから作業服のようなものを着た男性が走って近づいてきた。
「こんにちは、フレンジー牧場へ!この子たちと戯れていきますか?」
…は?モンスターと戯れる??冗談だと思い説明を聞こうとしたら相方が興奮気味で返事を返してしまう。そこから俺とアモネは柵の中に入れられフレンジーボアは男性プレイヤーにより解放されたのである。その勢いは始まりの街付近にいた部類とは違うく、とても早くとてもでかかった…そしてそのおっかけてくるボアに対し俺は全力疾走で柵の中を逃げ回った。出入口は男性プレイヤーが愉快に笑いながら締めている。対してアモネを見ると一匹のボアに懐かれておりフリスビーをするなど楽しく遊んでいる…俺は二匹のボアと追いかけっこをしていた。
「止まってあげればボアさんも止まって懐いてくれますよ!!」
信ぴょう性はないが、ワンチャンスその場で停止してみたがボアたちの勢いは止まらずそのまま体当たりされてしまった。ダメージはほぼゼロなのだが…それ以上に何故か身体に衝撃が襲ってきた。その後もボアたちは優しくしてくれることなく俺を突き飛ばすなどおもちゃにして遊んでおり、アモネはその様子を男性プレイヤーとともに腹を抱えて笑っていた。
休憩して柵の外でへたり込んでいると牧場の管理者は水分を俺に渡してきた。
「いい運動になりましたか?」
「なわけないだろ…こちとら死にかけたよ…いい商売しているよなお前…」
「すみません、このモンスターをテイムしたときにどうすればいいかって考えたらこれが…」
「次俺が使うときはもっと控えめなモンスターにしてくれるととてもうれしいよ。」
くすくすと笑う管理人。久しぶりにアモネ以外の人を笑顔にした気がする。少しうれしかった。
「ところであなたはよかったんですか?75層に行かなくて?」
「75層?」
「はい、あのKoBのヒースクリフ団長と黒の剣士が決闘したらしいのですが」
「黒の剣士?」
KoB、血盟騎士団の団長ヒースクリフ。見たことはないが何やら決闘では無敗神話を持つすごいプレイヤーということは知っていた。が、黒の剣士を俺はよく知らない。
「最初はびっくりしましたよー、私のボアが切刻まれるんですから…あはは」
とってもあははで済む要件じゃなさそうだが、そこはあえて突っ込まないでおこう。が、無敗神話を持つ伝説のプレイヤーと闘う黒の剣士…白い死神と呼ばれた俺と真反対なところから少し気になった。今度バラに聞いてみよう、突き飛ばされ悔しかった俺は休憩を終え再びボアたちに立ち向かうのだった。
「あのモンスター本当なんだよ…あれだけ突き飛ばすのに何でダメージが2しか…」
「リンネさんにくらべちゃまだマシだと思いますよ」
57層に戻りご飯を食べながら話す俺たち。最近また肉ばかりだったので二人でとことんサラダを頼みキャベツが山もり乗ったサラダを食していた。因みにこのメニュー、料理を作った際に使わなかったキャベツの部位を適当に切って乗せただけの残飯処理メニューである。全部食べたら無料にしてくれるらしい。
「実はな…家のことなんだけど」
「買ってくれるんですか!?」
椅子を突き飛ばし体を前のめりに聞いてくるアモネ。そうだ、実は家を購入したのである。隠し金もかなり残り、食費に困らないことを述べた。その話を聞いてからアモネはテンションが上がりっぱなしで、残飯処理を終えた後ラーメンとカレーを平らげてしまった。
食事が終了し、どうしても家が気になるとのことだったので彼女を連れて家に向かった。ついたのは50層から離れた15層辺りにある小屋。アモネはここについても意味が分かっていなかった。
「ここってバラさんの家じゃないですか?ここに家を建てるんですか?」
「いえ…これが家ですアモネさん。」
「…えっ」
歓喜の表情から一変、表情が固まったまま地面にへたり込んでしまった。実は買い物に付き合っている途中、たくさん別荘を持っているバラと連絡を取り合い安い物件がないか相談していたが、広告に載っている一番安い物件よりもバラの別荘の方が安く、金額によゆうができた。だから今回のご機嫌取りもすることができたのだ。ここならPKもなく町も近い、完璧な環境で安い…買うしかなかった。
「お前が欲しかった家だぞ?ほらもっと喜べよ」
「思ってたのと違う…」
馬小屋ほどの大きさの建物は俺たちの家となり、ここから俺たちの旅が始まる…そんな気がした。穴あきの天井から見える二つの星は俺らの門出を祝うかのようにいつもより強く光っていた。