ソードアート・オンライン 白い罪人   作:かえー

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白い真実

人狼ゲーム…とある村の村人の中に一人だけ人狼が混ざり…続々と人を食らい尽くしていく…その前に人狼を追い出せたら勝ち、食いつくされると負けという本来なら想像上で行われるゲーム…が、この世界では簡単に現実的なものとなってしまったのだ。

今俺たちは人狼ゲームでいう朝のフェイズで話し合いを進めている。この流れに仕向けたのも人狼だろう、いったい何を考えているか全くわからない。緊迫した宿屋の中で朝会は始まった。

 

「なんでこんなことに…!」と、仲間の死にかなり悔しがる細身の男シャル。

「もうこんなところ出ていこうよ…!」恐怖でその場から動けない少女サラ。

「いや、確か過去の噂ではゲーム中に退席したプレイヤーは死ぬと言ってました。死んでもいいんですか?」冷静沈着な男性キンノ。

「アリスが殺られたんだ…きっと相当な手練れなんだ…!!」恐怖と落ち込みがよくわかる女性ボーイッシュな女性シューイ。

「なんなら…俺が出会ったらぶっ飛ばしてやるぜ!!」怒りでどうにかなってしまった大柄の男ジムテ。

「まぁ…最初は昨日の夜誰が何をしてたかお互い話し合おう?」とりあえず穏便に話を持っていきたい俺リンネ。

「そうですね…私から話します。」目つきが変わり、真剣な表情のアモネ。

 

ア「私は…あのメッセージの後、怖くて部屋に籠ってました。でも、その時にサラちゃんも部屋に駆け込むのを見たんです。」

サ「は、はい!もう出ていきたかったんです…死ぬような思いで、無事を祈って寝ました…」

リ「ふむ…他には?」

シャ「俺は副リーダーのジムテと夜の街に繰り出していた、情報収集にな。」

ジ「そうだな…より多くの情報を集めるために夜の街で人と話した。ほとんど同じ情報だったがな。」

シュ「私はトイレで起きて、宿屋内を歩いたんだ。すると…大柄な男の人が見えたんだ。その後は知らないんだけど、トイレから出たらアリスちゃんの部屋が開いていたんだ。」

キ「アリスさんの動きが分かれば…犯人が分かるのかもしれませんね…私は部屋で寝ていました。朝起きると、皆集まっていて、この騒ぎになっていたんです。」

 

一通り情報は集めた。聞いたところ怪しいのは夜中に行動していた二人…シューイの発言が本当なら二人は外に出たことが確定する。

 

シャ「おいお前、お前は証拠がないな…アリスを殺したのはお前だな?」

リ「い、いや…俺だってアリバイがある!俺も怖くてねたんだ!!」

 

…が、誰も肯定する様子は全くない。人狼ゲームではこの後一人住人を追い出し、運命の時を待つ…ということは今の流れだと信ぴょう性のない俺の発言は嘘と思われ俺が追い出されてしまう。この中に嘘をついている狼がいるんだ。万事休すか…

 

キ「…ログには二人が入った記録がありません。」

ジ「昨日は俺等は帰ってきていないな…」

シャ「確かにそうだ。他の階層にも情報を聞きに行ったからな。シューイ…お前」

シュ「ま、まさか私だと思っているの?寝ぼけていたから私は…」

リ「けど、俺が来た時も扉は閉じたままだった、人狼は嘘しかつけない…シューイ、お前じゃないのか?」

 

と、そこに不気味な通知音が鳴る。机の真ん中には『追い出スプレイヤーを一人選ベ』と書いてある。空気は一段と冷たくなり緊張が走る。シャルの合図によって同時にプレイヤー達は指を指した。

俺は目を開けそれぞれの指を見る。俺の方向には指があったが…一本だけ、他の六本は全てシューイに向いていた。彼女は涙目で顔を隠し泣きじゃくる。

 

シュ「どうして私なの…!いままでみんなと冒険してきたじゃない!この死神が!!」

シャ「確かに死神も十分怪しいが、お前の発言が合わなかったんだ…すまない、先に外に出て待っていてくれ。絶対迎えに行く。」

 

顔色を変えずにシャルは言い切るが、その反面信じられないといった表情で皆を見ていくシューイ。特に俺をにらむときの目はとても憎悪が籠っていたのだろう、殺意が感じられた。

 

そしてその晩、荷造りをして外に出ようとすると通知音がした。いきなりのことで荷物をすべてドロップしてしまった挙句、しりもちもついてしまった。案の定部屋の机の上にメッセージウインドウが浮き上がっていたのだ。『ゲームはマダ終わらナい…今宵モ夜がやっテくル…』

 

何故!間違いなくあいつは人狼だと思ったのに、インチキでもしているのだろうか。部屋で考え事をしているときにすごい勢いでノックされ、絶叫してしまった。ノックの主は分かるのだが、状況が状況なので心臓が爆破すると思った。

 

「リンネさん!ジムテさんが…」

 

あの大柄野郎か、俺はアイテムを適当に書き集め部屋を出た。朝話したテーブルにはジムテが座っている。俺はジムテの向かい側に座り、ココアを頼んだ。

 

「ジムテ…お前何するつもりだ…」

「俺が人狼でないことを証明する。俺が人狼を殺す」

「やめろ!このルールにお前は…!」

「俺はこのギルドのガーディアンだ、そんな簡単に死なないさ。接触したらリーダーにメッセを送ろう。そうしたら明日の朝にでもシューイを引き連れてここを去れる。」

 

決意は固かった。彼の装備は最大まで高めたヘビー系統の装備をしている。これはボスモンスターの攻撃を食らっても最悪体力を半分で止めることのできる特殊効果付きだ。大丈夫だと思うが…相手の…この主催者はどうやってプレイヤーをキルしているのか全く分からない。ここにいるのは女性二人と男性四人。ハラスメントコードに引っかからない女性なら男性をキルすることができるが…どちらも発展途上のため男性を運ぶことはまず無理だろう。それなら男性だが…先述の理由によりまず殺害は無理…となると一体なんなのか。

 

「俺は今日もここに残る…事を大きくしたくない。」

「そうか…もしプレイヤーを捕らえたら外の掲示板からお前たちに通知するよ。」

「わかった。無事を祈っている。」

 

お互いうなづき、それぞれの方向へ向かっていく。俺はジムテを信じている、それは彼も信頼しているのだろう。そうでなければここまで俺に作戦を話してくれなかったはずだ。ゆっくりと推理をしながら部屋に入り寝ころんだ。

最初のプレイヤー、アリスは夜中に殺害されたのに朝集まっていたプレイヤー達にはオレンジマークはなかった。もともとここはオレンジ禁制のエリアだ、カルマ回復のクエストは最低でも半日かかる。ということは他殺、とも考えられるがここには夜チェックインしたプレイヤーしか入れない。と考えると人狼はこの5人の中にいる。そうならば、確実にジムテと遭遇する…この街はキル禁止エリア、だから仮に転移中でも時間は取れるだろう。俺たちは占い師となる人が生まれ勝利が確定…そして一人部屋で眠った。

 

次の日、悲鳴で起こされた。この悲鳴はアモネではない、もう一人の少女サラだった。サラは机の上で伏せており泣いていた。そこにいたのは…サラを慰めるシャルと泣きじゃくるサラ、昨日と変らない顔をしたキンノ、呆然とこの状況を見守る俺とアモネだった。ジムテは殺されたのだ。ふと思い出しシャルに質問する。

 

「そういえばジムテからメッセは来てないか?」

「メッセ…あぁ、鎌…でメッセが途切れている。ジムテは見たんだろう。」

 

彼なりに冷静を装っているのだろう、シャルの顔は真顔になっていたが目線がうろついているところを見ると明らかに動揺している。怪しい。

 

「キンノ、お前はどうなんだ?」

「私は見ました、ギルマスが彼を殺したのです。」

「や…やめろ…」

「彼はジムテに近づき少し話をした後転移していった、その後彼は殺害されたと仮定します。」

「殺される瞬間までは見ていないんだな?」

「えぇ…転移したところまでは本当です。」

 

明らかにシャムの動揺は大きくなってきている。相当な決断だったのだろう、ジムテは最後にどんな顔をしたのだろう、ひどすぎた。他にも聞いてみる。

 

「サラ、もし話せることがあったら話してくれるか?」

「…シャルは…私と、寝てた…からっ……シャルは犯人じゃな…い…ジムテは優しかったから…私は、悲し……い。」

「ふむ…なるほど。」

 

掲示板に情報をまとめていく、アモネは昨晩は一人で寝ていたらしいが索敵スキルには全く反応を示していないといい、なるべく犯人が見れるよう潜伏をしながらトイレで籠っていたらしいが寝てしまったという。だが、ジムテが持っていた剣がドロップしていたのを確認したらしい。そしてそのまま起きてロビーに一番最初に集まった。

 

「俺はジムテと話した。俺が囮になるからもし何かわかったらメッセを送るとな。彼は一文字だが何か残したのだろう…お前にメッセを送ったんだシャル。」

「……」

「その内容は『鎌』。一応だが俺たちの武器を確認させてほしい。」

 

全員が所持武器を距離を話しドロップした。なんと5人中4人アモネ以外が鎌使いだったのである。犯人は明らかにこのギルドを利用して滅ぼすとともに俺も殺しにかかっているのだろう。いい作戦だ。この結果によりシャルの潔白は証明された、後は3人。だが…

 

「さっきキンノ、お前はシャムが殺したといったがサラの証言が真実と仮定するとシャルは犯人じゃない。しかもメッセージの内容が真実だ。二人は犯人じゃないと確定した。残るはお前と俺だけだ。」

「ふむ…もしかしたらあなたかもしれませんね。」

「今更言い逃れでもする気か…俺はジムテと話した後寝てしまった。生憎言えることはこれだけなんだよ。」

「その内容から…貴方はまだ容疑者でしょう。」

「人狼は嘘しかつけない。昨日のトリックだってわかったよ。お前たちはそこで待機してな、俺が今からメッセージのトリックを再現する。」

 

俺は立ち上がり掲示板の方向へと歩を進めた。キンノは先程と変わらない雰囲気でシャムは犯人でもないのに様子がおかしく息苦しそうだ。俺は掲示板に適当に書き込みをし送信する。するとこの宿全体に不気味な着信音が鳴り響く。

 

「これがタネさ。昨日お前は何かを確認しに行った勢いでこれを起動させてシューイを追い出すよう仕向けた。タイミングは完璧だったな。」

「……」

「ただ一つ…どうやって人狼がマーカーを付けずにキルしているかがまだ解けない…」

 

キンノを除く三人が驚きの目をして俺を見ていた。これでキンノが人狼ということが完全に決まり、追放されるのはキンノになった。そこから夜にメッセージが来ることなく俺たちは解放された。生き残ったシャムとサラはシューイを迎えに行こうとメッセージで連絡を取り合っている。俺はため息をつき、今度こそ荷造りをして次の宿屋を探す準備をしていた。

 

「リンネさん、無事解決してよかったですね!」

「うーん……」

「まさかリンネさんが人狼だったんですか…!?」

「そこまで血に飢えていないわ!いや、まだ気になることがあってな…」

 

そう、マーカーを付けずにどうやってキルするかどうやってアリスやジムテを運んだのか…何が目的か。去る前に聞きだせばよかったが、つい聞くのを忘れてしまった。

 

「…リンネさん?」

「あ、あぁごめん。アモネ、明日何かおごるから今日あともう少し俺の仕事を手伝ってくれないか?」

「えっ…まぁいいですけど…?」

 

きょとんとするアモネを抱え俺は宿を出た。目標は一つ、シャルたちがシューイと合流する壊れ橋だ。

 

潜伏スキルを使い、二人を追いかけた。あたりはすっかり暗くなり数時間まった後シャムとサラの元にシューイが歩いて戻ってきた…が、明らかに様子がおかしい。

 

「そいつから逃げろ!!」

 

俺は駆けだし、シューイの上げた剣を両手で止めそのまま背負い投げした。もちろん戦闘エリア外なのでシューイは紫のウインドウに守られノーダメージ。そのまま戦闘エリアに連れていこうとしたその時、横から強い衝撃に襲われシューイを離してしまい壁のない場所から突き飛ばされた。そして下に何かあるわけでもなくこの下は永遠の…闇、俺はアインクラッドから突き落とされてしまったのある。死んでたまるかとアインクラッドの壁に曲刀と俺の手をぶち蹴るが中々引っかからず手と曲刀の耐久値がみるみる下がっていく。俺は足も利用して何とか地上に降りるための対策を取った。一体何階落ちたのだろう、季節が早送りのように変わっていく。夏になったあたりで壁が低く、一部が展望スペースになっているエリアが見えた。見ていた人には悪いけどここしかない。最後の力を振り絞り前の蹴りを入れた。体が横っ跳びになり降下する勢いによって地面に激突し、スライディングをする形で停止した。体術スキルマジスゲェ…。HPゲージは黄色になっていてぎりぎり瀕死ラインにならなかったものの、後ろを見ると一人が腹を抱えて倒れている。多分俺の体が直撃したのだろう、だが時間はない。

 

「また出会った時に謝罪させてくれ」

 

その場に慰謝料1万コルを置いて再び55層へ移動した。

 

転移に時間がかかりたどり着いた時には人が増えており逃げる三人に対して二人が追い回していた。もちろん追い回しているのはシューイとキンノ、追い回されているのはシャル、サラ、アモネの三人だ。一度捕まれば永遠の闇に消えることは間違いない。ポーションを飲みほした俺は追い回す二人に決闘の申請を送る。血の気が立っている二人はもちろん承諾してくれた。

 

「二人まとめて相手してやるよ。戦略で負けても戦闘なら自信あるぜ」

「谷底に突き落としてやる…」

 

先にキンノが飛びかかり、シューイは後方からピックを投げ、万全な攻撃態勢になっていた。が、俺はいくつもの戦地を駆け巡った身、こんなものなんて簡単に突破して見せよう。

シューイの攻撃パターンを読みつつ俺はキンノをけん制するべく連続技『ランバー・ジャック』を打ち込む。どちらも防がれるが確実にキンノを後ろに後退させている。そこに鎌を思い切り振り降ろし最後の仕上げをするシューイは俺とキンノが常に一線上にいるため攻撃ができない。押し切った後俺はフェイントをかけ、右手に持っていたピックを後ろにいたシューイの首元に思いきり突き刺した。

すると、シューイに paralyzeの文字が浮かんだ。彼女はけいれんを始め震えたまま倒れてしまった。

 

「あっ!それ私のピック!なくしたと思ってたのに!」

 

そうだ、おんぶしたときにアモネの手から拝借させてもらったのである。凄そうな雰囲気を醸し出していたが…暫くは麻痺は引きそうになさそうだ。これで相手はキンノだけになった。

 

「さて…死神を殺そうと計画したことは褒めてやるよ。殺しきれなかったこと後悔するんだな」

「貴様ァァ!!」

 

キンノはジャイアントアックスで斬りかかってくるが戦闘面は単純すぎた。レベルは高いのだろう一撃が強く、一撃を食らったら俺は死んでしまうと思う。この決闘は完全決着モードで設定してある。その名の通り、死ぬまで終わらないモードだ。このモードにしたから彼らは承諾してくれた。彼らは殺す気はあるが…殺される気などないだろう。

キンノの攻撃を避け腹に正拳突きを繰り出す。相手は一瞬スタンになりそこから背負い投げに移行し、ジャイアントアックスをドロップすることに成功した。キンノは驚いた表情をしており、恐らく予想外の行動に動揺しているのだろう。そこから仕上げにに入る。右の拳で頬を思い切りぶった。相手の体力はその力に比例して下がっていく。キンノは抑えられており攻撃ができず、ただ俺の拳を待つ体制になっていた。

右、左、左と見せかけて右、だが、相手の体力は赤ゲージのまま停止している。そう、俺は今体術スキルの峰打ちを使用している。某ゲームでもお世話になるこの技、ご存知相手の体力を一定量以上減らさない技。要するにこの技はこのデスゲームの世界では尋問の一種と化したのだ。体術スキルマジすごい。

 

「何故俺を殺そうとした…お前たちはどこのグループだ?」

「くっ…」

「…言え。言えよ!吐け!!」

 

何度も殴った、何度も殴り続けた。ダメージは入るがHPバーはっピクリとも動かない、何度も何度も、何か話そうとしても殴り続けた。

 

「話せ!!!!!言え!!!!!!」

「…ヴァイスヴァールハイト…我々は平和と真実を伝えるもの………」

「何!?」

「シューイと私が人狼です…貴方の読み………侮っていた…。」

 

ぴたりと拳を止めるが、相手は全く反撃しようとしない。観念したんだろうか目は虚ろとどこを向いているか分からない。

 

「黒を白に染めるもの…お前のような…白に別の色を塗るプレイヤーを粛清する存在」

「…どこだ!どこにある、リーダーは誰だ!!言え!!」

「…ミラ…様に……」

 

ミラ?聞いたことある名前だが…そういえば彼は俺をギルドに誘った人間。それがなぜ…聞けることは聞いたので胸ぐらを持ち、渾身の力で頬を殴った。キンノは吹っ飛び壁の直前で止まった。シューイは麻痺が治ったのか、立ちあがったが、俺を見ると一目散に逃げだしてしまった。キンノは唾を吐き起き上がると俺に指さしてくすくすと気味悪く笑いだす。

 

「リンネ……お前は滅びる。汚点は全て粛清される…神に栄光あれ……!」

 

と、飛び降りてしまった。皆で下を覗くがキンノの姿はどこにもなかった。

 

シャルとサラと別れ、再び宿を探し始めた…が、アモネの様子が変わっていた。アモネは何かにおびえるように俺にしがみ付いてきた。あれは少しやり過ぎただろうか、アモネを撫でてやるが全く反応を返さず目を伏せたままだ。何も言わずにおんぶをしてやると静かに口を開いた。

 

「彼らです…彼らなんです。私が負けた相手は。」

 

歩みを止めてしまった。どうやら俺たちのゴールが決まってきた。ヴァイスヴァールハイト…白い真実。いらだった足先は次の階層へと足を進めていた。


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