詳しくは作者が別に書いている金曜零時投稿予定の竿魂の6話にて
真の黒幕が蓮蓬ではなく四葉真夜だとわかった銀雪と達茂の前に現れたのは、この星そのモノであり最強の蓮蓬・米堕卿が彼女達の前に現れる。
『ここから先はそなた達二人で行け、正確には四人と呼ぶべきか』
「上等だ、パチモンベーダ―、なに企んでるか知らねぇが直接本人に聞いてやらぁ」
「あの女狐の事だ、下らん小細工を仕掛けて俺達を待ち伏せにしているんだろうが、果たして今の俺達に通用するかどうか見物だな」
二人が上等だという風に身構えていると、米堕卿の背後から突如、天井からゆっくりと階段が下りてくる。
コレに乗って上層部の最上階まで行けという事か、銀雪と達茂は互いの顔を合わせて頷くと、二人揃って歩き出す。
恐らくこれから上で起こる戦いがこの事件の終着地点、侍として、魔法師としての信念を掛けた最後の戦い。
それを理解した志村新八はここで一緒に行こうとするのは無粋な真似だと悟り、ただ言葉だけを投げかける。
「銀さん、深雪さんに達也さん、そして将軍様……僕たちの地球、二つの地球をお願いします」
「……新八、あのババァは確かにアホな所はあるが紛れも無く最強の魔法師だ、万が一にも俺がヘマするかもしれねぇ、だから最後にコレだけは言わせてくれ」
「はい」
歩みを止めて銀雪は真顔でこちらに振り返って来た。
その顔は正に司波深雪そのモノだが、その瞳に灯された光はまさしく坂田銀時が腹をくくった時に灯される魂の光だ。
いつになく真剣な表情でこちらを見つめる彼女、侍としての言葉を絶対に頭に留めようと新八が力強く頷くと
彼女はジッと彼を見ながらゆっくりと口を開く。
「なんでお前、さっきからずっと全身真っ白でブリーフしか穿いてないの?」
最後になるかもしれないからと投げかけて来た言葉を聞いて
新八は真顔で固まった。
全身をくまなく白に染め上げ、身に付けている物はブリーフ一丁というこの上ないマヌケな恰好で
「……すみませんもう一度お願いしますか? なんか今凄い事が聞こえたような気がしたんですけど? おかしいな幻聴かな? 僕疲れたんでしょうかね……」
「いやだから、なんで周りの奴等はみんなちゃんと服着てるのに、お前だけそんな超ラフなスタイル貫き通してるの?って言ったの、なにお前、もしかして気づいてなかったの? 気付かぬ間に衣服を捨て去り全身ホワイトコーティングで今までずっと戦ってたの?」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
頭の上に「?」を浮かべてこちらに目を細める銀雪の反応を見てやっと新八は己の外見に気付いた。
彼の言う通り確かに新八の見た目は新手の露出狂そのものだった。
今まで何故ずっと気付かなかったのか、新八は己のあられもない姿に悲鳴のような絶叫を上げるばかり
「な、なんでぇぇぇぇぇぇぇぇ!? なんで僕だけこんな格好のままなの!?」
「俺、というより司波深雪の記憶を辿って見たんだけど、お前17話からずっとそのまんまの姿だよ」
「ウソだろオイ! 17話って確かニセ山崎さんと一緒に反乱軍の所へ向かう回でしたよね! そういえばあん時に蓮蓬にバレない様ニセ山崎さんにこの格好させられたんだった! ていう事はあそこからずっとこの状態だったの僕ぅ!?」
銀雪の説明を聞いて己の現状の経緯を知った新八は頭を両手でささえながらショックを受ける
そんなあまりにも情けない姿をしている彼を見て銀雪は思わず吹き出しそうになりながらも話を続けた。
「まあ、そこから「新八は体に塗られた白いペンキを落とし、脱いでた服を再び着直した」って描写があればよかったんだけど、お前ずっと今自分がどんな状態なのかっていう背景描写なかったら仕方ないんじゃね?」
「それただの作者の書き忘れじゃねぇか!! じゃあなんですか! ボクは今までずっと白ブリーフ一丁で施設を歩き回り! ブリーフ一丁で異世界の人達と交流を交わし! あまつさえブリーフ一丁でずっと戦っていたんですかぁ!?」
「まあそうなるわな、ブフッ!」
「笑うんじゃねぇ自分だって変な見た目してるクセに! なんでずっと黙ってたんだよ!」
振り返れば振り返る程恥ずかしくなっていく新八に遂に銀雪は噴き出してしまった。
「いやいや現に俺もずっと頭の中で「なんでコイツブリーフしか穿いてないの? 俺が異世界行ってる間になんかに目覚めた?」とか思ってたけどさぁ、それをとやかく探るのは無粋だなと思ってずっと黙ってたんだよ、ほら、人って誰しも聞かれたくない事情の一つや二つあるっていうだろ?」
「なに変に気ぃ使ってんだよ! 探れよ! そこはとことん探って聞かなきゃダメな事だろ! 穴が空くまで探り当てなきゃいけない事だろうが!」
噴き出してなお未だ笑いが込み上げてくるのを必死に耐えてる様子の銀雪に新八が素足で地団駄を踏んで抗議していると、背後にいた神楽も含み笑いを浮かべて
「実は私もずっと気になってたアル、「あれ、なんで新八あんな格好してるの? 人として恥ずかしくないの!? 眼鏡として恥ずかしくないの?」ってずっと思ってたんだけど、なんかヤバいし関わりたくないからずっと黙ってたネ、ぐひひ」
「ふざけんな! 人が誤った道を歩いてるのを黙って知らんぷりするとかテメェ等の血の色は何色だコラァ! せめて同じ万事屋として汗水流して働いて来たアンタ等ぐらいはツッコんでくれよ!」
こちらに対して完全にバカにしてる表情を浮かべて嘲笑している神楽をぶん殴りたい衝動に駆られながら新八が怒鳴り声を上げる。
しかし彼がそんな反応をすればするほど、周りにとっては面白く見えるだけ、沖田はおろか彼の持つ鎖に繋がれてる司波小百合まで、こちらに顔を隠しつつ体を小刻みに震わせている。
その場で真顔でいられるのは辰茂と、さっきからずっと黙っている米堕卿だけであった。
「それじゃあもう行くわ、最後にコレだけ言えてスッキリした。もうこれで思い残すことはねぇわ、そんじゃ」
「オイィィィィィィィ! とんでもない核弾頭落としておいて何勝手に行こうとしてんじゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
そう言ってそそくさと銀雪は達茂と共に歩みを再開する。
言いたい事だけ言っておいてラスボス戦に挑もうとする彼女に新八がキレながら呼び止めようとすると
彼女は最後に口を手で押さえたまま顔だけ振り返り
「もしも次に会う時があったら、そんときは真っ当な人間として……せめて真っ白な靴下履いてくれるぐらいには更生してくれているのを願ってるぜ! ぶははッ!」
「最後の最後にまた噴き出しやがったよアイツ! 四葉真夜頑張れ!! 性根の腐ったおっさんと少女をこの世から抹殺してくれ頼むから!!!」
親指立ててとても美少女とは思えない笑みを浮かべてゲラゲラ笑うと達茂と共に階段を駆け上がっていく銀雪
走りながらもなお「ブハハハハハッ!」と盛大に笑い声を上げている彼女の背中に向かって、新八はラスボスであろう彼女の叔母に熱いエールを送るのであった。
「あの野郎今度会った時はとっちめてやる! もう万事屋なんて辞めてやるよチクショウ!」
「ならウチの酢こんぶ工場のマスコットに転職させてやるヨ、だから今後一生その姿でいろよグヒヒ」
「マスコットがブリーフ一丁の全身真っ白男とかどんな酢こんぶ工場だ! どうせマスコットになるなら呪怨のマスコットになってやるよ! テメェ等全員呪い殺してやるよ!」
銀雪の次は神楽が面白おかしく茶化してくるので新八がヤケクソ気味に返していると……
ずっと傍観役に徹していた米堕卿がゆっくりとプラカードを掲げる。
『さて、貴様等をここで始末するのも悪くはないが、どうせいずれ消えゆくのみだ』
踵を返して彼もまた、銀雪達が昇った階段を上がっていく。
『せめてもの慈悲で最期の時間をゆっくり送らせてやる、死の瀬戸際まで精々足掻いて見せろ』
それだけ残すと米堕卿の床下がおもむろに穴が空き
『さらばだ』
「あ!」
そこからスッと彼は真っ逆さまに落ちていく。
恐らく四葉真夜と同じく彼も何やら企んでいるのだろう……
残された自分達はどう動くべきかと新八が一人悩んでいると……
「ハァハァ……不覚……」
「雫! しっかり!」
こちらに向かっておぼろげな足取りで歩いて来るのが二人。
声がしたので新八達が振り向くと、そこにはどうやら負傷している様子の北山雫と、彼女の肩に手を回して懸命に歩かせている光井ほのかがいた。
二人がどうしてここへ来たのかわからないが、どうやらここに来る途中で何かあったらしい。
新八は銀雪や神楽への怒りを忘れて慌てて二人の方へ駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!? その子なんかヤバそうですけど!」
「ハァハァ……いやそっちの見た目の方がヤバいと思うんだけど、白ブリーフ一丁とか無いわぁ……」
「余計なお世話だコノヤロー! やっぱりみんな気付いてたよ! 気付いてた上でスルーしてたのかよ!!」
ほのかに肩を回されてようやく立ち上がってる状態の割にはごもっともな正論を叩く雫に新八がツッコミを入れていると、彼女の代わりにほのかが顔を上げて説明する。
「実は……ここに来る途中で高杉さんって人とやり合ったせいで……」
「え!? あの高杉さんが彼女をやったんですか!? まさか体が元に戻れたからもう手を組む必要はないと考えて!」
嫌な予感が頭をよぎる。もしやこの状況に置いて内部からの裏切りが……
不安で表情をこわ張らせる新八に対し、ほのかは言いずらそうに目を逸らしながら
「いやその……どういう経緯かは省略するけど、雫が高杉さんの……」
「チンコ取ってやろうとしたら突然キレられて襲われました……無念」
「100%オメェが悪いんじゃねぇか!」
一体どういう経緯でそうなったの?と疑問に思う新八だが
きっと彼女の事だからクソ下らない事なんだろうなとすぐに理解し、聞かずにスルーするのであった。
ブリーフ一丁の青年が女子高生に接近して怒声を浴びせるという事案が発生している頃
銀雪と辰茂が階段を駆け昇った先には、とてつもなく広い空間がそこにあった。
「ここが頂上か、随分と広いがなんもねぇな」
「……」
足を床に乗せるとそこは見渡す限り何も置かれてない殺風景な場所であった。
ドーム状に作られたその部屋は、天井も壁も全て透明な窓が貼られており
まるでプラネタリウムにいるかのように頭上には多くの星々が点々と見える。
そしてその部屋のほぼ中心の位置に唯一置かれている豪華な玉座にて
「ようやく会えたな、伯母上」
達茂が言葉を投げかけた先に、この星の新たなる主が座っていた。
その者は全身を灰色のローブで身を包み、顔はすっぽりフードに覆われているせいで何も見えない。
銀雪達が来たというのに動じず騒がず何も言わず、ただこちらを優雅に眺めているかのように
玉座の上で足を組んだ状態でジッと座っていた。
「やれやれ元気そうで残念だ」
「久しぶりに甥っ子姪っ子と会えてどんな気分だ伯母上様?」
「……」
真ん中にポツンと座る人物に二人が言葉を掛けながら接近していくと、玉座に座りしその者は肘掛けの上に置かれていたプラカードをスッと掲げる。
『待ちくたびれちゃったわ、達也さんに深雪さん』
「プラカードだと? どうして蓮蓬と同じ会話手段を使う、地球人のアンタが」
『フフフ、ちょいとしたお遊びよ』
プラカードをすぐに裏返して返事するその者に対し、辰茂はあと数メートル程の距離にまで達した時にピタリと足を止めると、銀雪もそれを見て同じく歩くのを止めた。
”アレ”に無闇に接近するのはマズい、ここで距離を取り相手の出方を伺おうという考えなのだろう。
当然それは玉座に座りし王もわかっている様子で、小刻みに体を震わせながらさもおかしそうに笑っている。
『用心深さは相変わらずみたいね、それで? 遥々こんな辺境まで来て何をしに来たのかしら?』
「それを言葉にする必要は無いだろう、長年ずっと伯母上の寝首を掻こうとしていた俺だ。ここでやる事といったらただ一つ」
「スマブラでリベンジだ、ピーチ姫使ってかかってこい。お兄様のマリオと俺のルイージの真骨頂を拝ませてやるぜ」
「いやそっちじゃない」
隣りで腕を組みながら真顔で見当違いな事を言う銀雪に短く否定しながら、達茂は前方を見据える。
「伯母上、アンタはあらゆる者を翻弄し、破滅させ、それを上から眺めて愉悦に浸る事だけに快楽を見出している様な愚かな人間だった、だがまさか、関係の無い世界まで巻き込んでここまでバカな真似をするとはな、アンタのその下らない人生、悪いがここで終止符を打たせてもらう」
『随分とおしゃべりになったのね達也さん、将軍様の身体をプレゼントしたかいがあったわ、随分とはしゃいじゃって、フフフ』
「おいお兄様、やっぱコイツ気味悪いわ、さっさとぶっ飛ばそうぜ」
『深雪さんの方も上手い具合にパートナーと一つになれたようで安心したわ、なんだかんだで相性ピッタリね』
辰茂の些細な変化と銀雪の大きな変化を見て、その者は満足げな反応をしていた。
全てこうなる事も計算の内だったという事だろうか
『四葉の跡継ぎに良い婿候補が出来たという事かしら?』
「いやぶっ飛ばすんじゃなくてやっぱ殺しましょうかお兄様、ミンチにしましょう、ミンチ、もしくは牛裂きの刑に処しましょう」
「そうだな、俺も義弟が年上となるとどう対応していいか困ってしまう」
「え、その程度の困り具合なの? 俺達が結婚しても困る事はそれだけなの本当に?」
茶化された事で一気に殺意が芽生え始めた銀雪だが、達茂は意外にもアッサリとした反応を見せる。
それに対し銀雪は軽くショックを受けながらも彼女はスッと指を玉座に座る王に突き付けながら口を開く。
「兎にも角にもだ、まずはテメェが一体どうやってこんな真似ができたのか教えてもらおうか、伯母上様、いや四葉真夜」
『あらそんなこと聞きたかったの? まあそんなに長くもならないし、久しぶりにあなた達と喋りたいってのもあるし構わないわよ』
意外にもすぐに話をしてくれるらしいが、やはり説明方法は口ではなくプラカードのみである。
『最初に彼等、蓮蓬と出会ったのは四葉家が宇宙に秘められた謎を解く為に調査を行っていた時よ』
「宇宙調査だと、テメェ等さてはロクでもない事を企んで……」
『いや私が「宇宙凄ぇー神秘的だからもっと見てみたい」と思って発案しただけなんだけどね』
「それただのテメェの個人的な願望じゃねぇか! 一族巻き込んでじゃねぇよ!」
『そして私達の世界の地球近辺で、僅かに生きてるかのような反応を持っていた破片を見つけたのよ』
全ての始まりが思った以上にしょぼい理由で生まれたことに銀雪がツッコむが、その者は話を続ける。
『その破片こそがSAGIのコアだった、彼はとある戦いに敗れ、身体がバラバラになってもなお生き延び、異世界に渡る程の執念を持って飛んで来ていたのよ』
「……あの野郎、くたばったと思ってたがまさか生き延びて異世界にまで……」
『コンタクトは向こうからだったわ、宇宙を調査している私達に気付くと、かろうじてまだ備わっていた通信傍受を行って、四葉家の下へハッキングを試みて会話を行い出したの』
SAGIが敗れたというのは当然坂田銀時達一行との戦いの事であろう。
蓮蓬の母星であるSAGIのまだここで消える訳にはいかないという並々ならぬ執念を感じた。
『私は直接彼と対話してい内に色々と教えてもらったわ、異世界の存在、天人という宇宙生命体、土星の輪っかはガスで出来てるという事』
「いや3つ目はちょっと調べればすぐわかる事だから」
『そして私はSAGIと取引を行った、その膨大なる知識を四葉家、いえ私自身に譲渡する代わりに、この星にある技術であなたの身体を復活させると』
あろう事かこの者は、SAGIの持つ危険思想と宇宙の奥深くまで知っている人類が到達できない程の高度な知能を求めたのだ。
そしてその結果
『SAGIの身体は徐々に形成され、遂には自力で自己の身体を修復できるように至った。そしてその途中で私は様々な化学兵器の作り方を学び、独自に研究を重ねた結果、偶発的にあるモノが生まれたのよ、それが……』
「入れ替わり装置……」
『ええ、察しが良いわね深雪さん、アレは元々私が自分の身体から別離する為に生まれたモノだったのよ、私、この世で一番嫌いなのは何よりも己自身だったから』
そうプラカードを掲げつつ、玉座に座りし王は己の体をローブの上からそっと触る。
『SAGIは私の作った入れ替わり装置に随分と興味を持ったらしくてね、それでこう持ち掛けてきたのよ、「滅ぼしたい星があるからそれを使わせてくれ」とね』
「なるほど、話が見えて来た、で? そっから俺達はSAGIの連中にモルモットとして臨床実験に付き合わされるハメになったのか」
『面白い体験だったでしょ? けど入れ替わったのはあなた達だけではないわ』
「なに?」
やはり全ての根源はSAGIを支援し、更には入れ替わり装置を造り上げてそれを連中に譲渡した四葉真夜のせいだったのだ。
散々な目に遭った事を思いだし銀雪は煮えたぎる怒りを静かに抑えつけていると
『そう、私自身も入れ替わりを望み、新たに生まれ変わったのよ』
「な!」
『SAGIのおかげで異世界の存在を知り、更には向こうの世界と干渉出来る事を知った私は、あなた達の世界で偶然にもとんでもないモノがある事を知った、それは未だかつてない強大で凶悪な魔力を秘めた地球人……』
驚く銀雪をよそに、その者は歓喜に満ちたかのように体を震わせながら話を続ける。
『深雪さんや達也さんはおろかこの私でさえ太刀打ちできない程の力を秘めた存在……魔法分野に疎いその世界では、その者がどれ程恐ろしい力を持っているのかを誰も気付いていなかったのよ、その者本人でさえ』
「マジかよ……俺達の世界にそんなすげぇ奴が隠れてたなんて……一体どこのどいつだ」
『フフフ、今あなたの目の前にいるわよ深雪さん』
「!」
そう言うとずっと玉座に座っていたその者はスクリと立ち上がり、おもむろに自分の顔を覆うフードに左手を掛けた。
『そして私は遂にその体を手に入れる事が出来た、私が開発した入れ替わり装置のおかげでね』
「まさかテメェが入れ替わった相手ってのは! その最強の力を秘めた奴だってのか!」
『最初に入れ替わった時はその者の不憫な境遇のせいで長く辛い生活が待っていたわ、しかし耐え抜いた先に私はついに手に入れた、この最強の体を手にした私は晴れてSAGIを統治する新たな当主の座に着く事になったのよ、この……』
驚愕する銀雪を前にし
遂にその者はずっと身体を覆っていたローブをバッと翻し
新たなる己の身体を披露したのだ。
「このマジでダークな王、略してマダオと呼ばれし”長谷川泰三”の体があれば、私を阻むのはこの世から誰一人いなくなったという事なの」
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坂場銀雪の時がしばし止まった。
目の前で遂にプラカードではなく自らの口で宣言し、優雅に不敵な笑みを向けて来るその男は
あまりにもみずぼらしい格好をした、無精ひげを生やす冴えないグラサンを掛けたオッサンだったからだ。
銀雪は真顔でその姿を数秒程眺めると、静かに目を閉じてまた何かを考えるように数秒間置いた後
再びパチッと目を開けるや否やすぐに隣に立つ達茂の方へ振り返り
「んじゃもう帰るかお兄様」
「そうだな」
「えぇ!? ちょ! ま! なんでそこで帰ろうとするの!? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」
自らの口で大声を上げるまるでダメなオッサン、略してマダオである長谷川泰三を放置して
銀雪は達茂と共にこの場から去る事を決めるのであった。
最終決戦とかもうどうでもいいやという感じで
銀さんたちはもう完全にやる気ゼロみたいですが、ちゃんと戦いますのでご安心を
でも相手があんなオッサンだったらきっと楽勝ですね!