入れ替わり装置が破壊により影響を受けたのは攘夷志士達だけではない。
中層部で始まっていた地球連合軍VS蓮蓬軍の戦いでも次々とその影響が起こり始めていた。
「こ、これは俺の身体……よっしゃぁ! 遂に俺の身体を取り戻せた! 」
「オーマイガァァァァァァァァァ!!! 元に戻ってるぅぅぅぅぅぅ!!!」
蓮蓬との戦いの途中でふと視界がガラリと変わったと思いきや、自分の体が土方十四郎に戻っている事に柄にも無く喜びの声を上げる土方。
しかく同じく元の体に戻れたリーナの方はというと、小さくなった両手を見つめたまま絶望の声を上げ始める。
「返せそれはもう私の体なのよ! ようやく手に入れられた私の安寧の居場所をよこせ!」
「なに俺の身体自分のモンみたいに主張してんだクソガキ! テメェはテメーの身体で満足しればいいだろ!」
周りに敵がいるのも気にせずに突如土方に向かって食ってかかるリーナ。
普通にしていれば美少女なのだが、今の彼女は血走った目を剥き出して土方に襲い掛かる魔物の様に両手を伸ばして掴みかかる。
「ふざけんじゃないわよ! もう既に私は土方十四郎の身体でないと満足できない様になってんのよ! 土方十四郎でないと生きていけなくなっちゃったのよ!」
「なんかすっげぇ生々しい言い方になってんだけど!? 誤解を招く発言はよせ!」
「もう嫌なのよリーナに戻るのは! 私はね! いかにもな正義の味方って感じの仕事に憧れてたのよ! それで自分の国を護る事を仕事にする真撰組の土方十四郎になれた事がどれほど嬉しかったことか……」
服を掴んで喚きだしたかと思いきや今度は膝から崩れ落ちて、両目からうっすらと涙を溜めて語り始めるリーナ。
「だってリーナだったらアレじゃん! 裏切り者の制裁とかそんなんばっかりやらされるのよ! おまけに周りの連中は全然私の事褒めてくれないし! 逆に色々と陰口叩いてるわ近寄りもしないでどんどん離れていくのよ! こちとら仕事してるだけだってのになんなのあの嫌われ様!? イジメ!? そりゃ私の事を心配してくれる人も何人かいたわよ! でもだからといってツライってのは変わりないんだからね! どんだけ足掻いても私がリーナである限りあの苦しみからは逃げられないのよぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「うわめんどくせぇ! コイツ元に戻ったら更にめんどくさくなりやがった!」
「という事で……!」
心の底から湧き上がる吐露をぶちまけるリーナに土方は早くこの場から去りたい、彼女から離れたいという衝動に駆られていると、彼女は突如目をギラリと怪しく光らせ、手に持っていた刀を鞘から引き抜く。
「体が元に戻ってしまった以上……! かくなる上はアンタの皮膚を全て剥いで! それを被って今度こそ私が唯一無二の土方十四郎に成り代わるしかないわ……!」
「オイィィィィィィィ!!! もう発想がサイコパス過ぎるだろ! 猟奇的過ぎてドン引きなんだけど!?」
「グヘヘへ……身体をよこせぇぇぇぇぇぇ!!!! 皮を剥がせろぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「どうして俺の入れ替わり対象だけこんなサイコ野郎なんだチクショォォォォォォ!!!!」
ついに強硬手段を取って、リーナはすっかり殺人鬼が獲物に向ける目をしながら土方目掛けて刀を持ったまま襲い始めた。
真に怖いのは幽霊よりも人間。そのあまりにも恐ろしい迫力に土方は圧倒されてすぐに彼女に背を向けて、目的地も決めずにただひたすら走り出す。
しかしリーナも諦めはしない、リーナという生き方に希望を見いだせない少女は、土方十四郎として生まれ変わる事こそが自分の運命だと勝手に悟り、自分自身を見失ってしまった彼女はただただ土方の命を狙う為に追いかけて行く。
「土方死ねコノヤロォォォォォォ!! そして私が新たな土方として生まれ変わるのよぉぉぉぉぉぉ!!!」
「うおぉぉぉぉぉぉ!! ダメだコイツ! もはや天人と戦いなんかしてる場合じゃねぇ! 俺にとってこの星で最も恐るべき相手はこのシザーマンレディしかいねぇ!!」
刀をブンブン振り回しながら周りの蓮蓬など気にも留めずにただ土方を追うリーナ。
そしてなんとか逃げ切ろうと土方が必死に足を動かして悲鳴のような声で叫んでいると……
「やはり幕府の犬はこの程度なのね、女の子一人に襲われただけでキャンキャン吠えてるなんて切腹モンだわ」
「仕方ない、このキャイ~ンにも勝る超絶仲良しコンビに比べればあの者達の絆など精々wコロンと同クラスだ」
「!」
ふと背後から聞いた事のある男女の声に土方は思わず逃げるのを止めて即座に振り返る。
そこにいたのは不敵に笑う一人の男と一人の少女
「ランニングは終わりかな、鬼の副長殿。貴殿の相方はこの通りこの攘夷志士、桂小太郎と」
「その右腕、七草真由美が大人しくさせてあげたわよ、有難く思いなさい」
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉ!!! 邪魔をするな攘夷志士風情がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「桂! それと桂と入れ替わっていた電波小娘!!」
この様な状況下で助けに来たのはまさかの攘夷志士という本来敵である立場である桂小太郎であった。
そして彼に従う様に七草真由美も現れ、彼女の足下にはリーナが奇声を上げながら踏みつけられている。
「惨めったらありゃしないわね。互いの事を理解し合う事こそがこの戦いに置いてもっとも必要な事なのに」
「全くだ、貴様等の醜い争い事は目に余る、敵として情けない」
どうやら元土方とリーナのやり取りを傍で見ていたらしい。
心底呆れた様子で二人はため息を突くと、桂と真由美はもはやお約束になっているのか、互いの腰に手を回しながら仲良さげに
「仮にも俺達攘夷志士の脅威である鬼の副長がこの体たらくでは! もはや幕府打倒も間近と言った所だな真由美殿! フハハハハハハハハ!!!」
「所詮権力にすがる犬っころの絆など所詮その程度なのよ! 大人しく私達ゴールデンペアに敗北を認めてひれ伏しなさい!! フハハハハハハハ!!!」
「ホントなんなのコイツ等!? 仲良すぎて逆に気持ち悪いんだけど! 二人揃って同じ笑い方してすっげぇ腹立つ!!」
既に勝ち誇ったように高々に笑い声をあげてきた桂&真由美ペアに、土方はリーナに対する恐怖心も消え失せて、この連中に対して激し苛立ちを覚え始めていると、彼等の下へ何者かが全速力で駆け出す音が聞こえ
「笑ってないでさっさと戦えテロコンビ!!」
「「どぅふ!!」」
両者の後頭部にそれぞれの両足を飛び蹴りでかましたのは渡辺摩利。
先程まで近藤達のいる本陣で待機していたのだが、彼等が戦場にいるのを見て、居ても立っても居られずにここまで走ってやって来たのだ。
「さっきから大変な事が起きてるのにどうしてお前等は……あれ? もしかしてお前達元の身体に戻っているのか?」
「フ……随分と手荒い歓迎だな、摩利殿」
「親友の後頭部に蹴りかますなんて随分とアクティブになったわね、しばらく見ない内にツッコミの仕方も覚えたのかしら?」
「真由美の口調が元通りに……い元通りって訳じゃないけど。という事は遂にやったのか! 入れ替わり装置の破壊を!」
蹴られた個所をさすりながら振り返って来た二人の反応を見て摩利はすぐに気付いた。
二人の身体と魂は正真正銘、桂小太郎と七草真由美として無事にあるべき場所に戻れたのだ。
「まあ将軍の事は達也君……いや達也君と将軍様に聞けたから咎める事はもうしない、それに戻れた事は素直に嬉しいし、とりあえずおめでとうと言いたいんだが、その前にお前達にもこの戦に加わってもらうぞ」
「無論だ、各々が元の身体に帰りし今! 我等攘夷志士トリオでこの戦いを勝利に導いてみせようではないか!」
「おい攘夷志士トリオってなんだ!? まさか私も攘夷志士トリオとしてカウントされているのか!?」
「当然でしょ摩利、私が桂さんの右腕ならあなたは桂さんの右足なんだから」
「なに右足って!? 攘夷志士にとっての右足って主に何をやる役目!? そこは左腕とかでいいだろ!」
「左腕はエリザベスさんですから、それじゃ……」
桂、真由美、摩利は互いにボケとツッコミを交えながら蓮蓬相手に構えると、しばしの間を置いておんなじタイミングでそれぞれの方向へと走り
「我等攘夷志士の未来の為に!」
「この戦に勝利をあげていざ倒幕ゴー!!」
「攘夷志士じゃなくて二つの地球の為に戦えバカ共!!」
蓮蓬達との戦いを始めるのであった。
そしてずっと踏みつけられていたリーナはようやく解放されて、踏まれた頭をさすりながらフラフラと立ち上がると
「ひ~じ~か~た~く~ん……!」
目の前に立っている土方にすぐに恨みがましい目つきを浮かべて殺意を放つリーナ。そしてその背後から
『食らえ!』
蓮蓬の一人が襲い掛かるが
「邪魔すんな!」
『でふッ!』
彼女は振り向こうともせずに刀の鞘で襲って来た蓮蓬の顔面に深々と食い込ませて吹っ飛ばす。
彼女のターゲットは今目の前にいる土方十四郎、ただ一人だ。
「私の目的はただ一つ、アンタを倒して私が真撰組の副長に返り咲く事なのよ、だからその為にアンタには消えてもらうけど別に構わないわよね」
「フゥ~……隣の芝生は青く見えるとはまさにこの事か、滑稽過ぎてビビる気も失せちまったぜ」
「なんですって!?」
無表情でタバコを吸い始め、軽く挑発してきた土方に
持っていた刀を腰に戻してリーナは片手を土方の方へ突き出す。
剣ではなく己の魔法で戦うという事だ、十数年必死に英知を注ぎ磨き上げて来た魔法で
「テメー自身がいかに恵まれている事にも目を向けずに、俺という存在に執着しやがって。仕方ねぇ、年上として指導してやる」
「ゴチャゴチャ言ってんじゃないわよ! 観念したならとっととその体寄越しなさいっての!」
「悪いが土方十四郎はこの世でただ俺一人だ、そしてテメェもただ一人の存在でしかねぇ」
腰に差す久々の愛刀の鞘をしっかりと握りしめ、群がる蓮蓬達を気にも留めずにただ目の前にいるリーナ一人に集中すると、タバコを咥えたまま目を瞑り、そして次にカッと目を見開いたその瞬間
「アンジェリーナ=クドウ=シールズ! いざ尋常に!」
「勝負!!」
互いに手を取り合うべき筈の地球人同士が、敵そっちのけで本気の喧嘩をおっ始める。
二人が互いに向けて走り出しぶつかった途端に
その衝撃で周りにいた蓮蓬達が次々とぶっ飛んで行く程の凄まじい大喧嘩であった。
一方場所は少し変わり戦場の蓮蓬陣地。
しかしそこはもはやまともに戦える者達は誰もいなかった。
そう、全てはこの徳川達茂の登場によって戦いは茶番と化し、一方的な蹂躙により蓮蓬達はみるみる倒れていき、遂には副将・レフトドラゴンが残されたのみとなってしまったのである。
「どうした? 残るはお前だけだぞ」
『ぐ! まさかこの様な隠し種があるとは!』
「あんなにいた蓮蓬軍がこんな一気に総崩れになるなんて……!」
魔法を使えば使う程面白いように倒れていく蓮蓬達を辰重の背後から眺めていただけの新八は、この状況を見て愕然とする。
「大丈夫なんですかコレ、主に物語的な意味で……一方的にジェノサイドかましてますけど主人公がやっていい事なんですか? 僕等は本当に正しい行いをしているんですか?」
「問題ない、ウチは基本こういうスタイルだ」
片膝を突いているレフトドラゴンに銃口を定めながら達茂は平然と新八の問いに答えていると
「新八ー!」
「え、神楽ちゃん?」
「とどめだ」
『ぐはー!』
「って人が呼ばれてる時に間髪入れずに最後の一人にトドメ刺すなや!」
不意に背後から少女の声がしたので新八が振り返った瞬間には、もう達茂はレフトドラゴンにとどめの一撃を浴びせていた。
容赦が無いというより空気の読まないその戦い方に新八は思わず怒声を上げる。
「さっきからテンポ早いんだよアンタは! もうちょっと相手の最後の言葉を聞いてやるとかで尺稼ぎぐらいしろよ!」
「そういえば人気低述により打ち切りになった作品ってのは、終盤は異常なほど展開が猛スピードで早くなるのがよくあるよな。ああいうの見ると、打ち切られた作家は本当はこの辺も長く描きたかったんだろうなとどこか寂しくなるのは俺だけだろうか?」
「なんでこの流れでそれ言った? 切られんの!? もう首飛ばされるの確定したのウチ!?」
倒れてピクピクと微かに動いているレフトドラゴン眺めながら何やら不吉な事を呟く辰茂のせいで、新八の頭に暗雲が出来ている中、彼を呼んだ少女、神楽がもうすぐ傍にやって来ていた。
「何叫んでるネ新八? てかなんでお兄様までいるアルか? ひょっとしてお前も元に戻ったアルか?」
「え、まさか神楽ちゃん元に戻ったの!? てことは銀さん達が!」
「おうよこの通り元通りネ、私の体に成り代わっていたこのおっさんも」
神楽の雰囲気がいつもの様に戻っている、という事は入れ替わり装置は破壊出来たという事だ。
正真正銘本物の神楽として帰って来た彼女に新八が驚きつつも素直に喜んでいると。
得意げに神楽は手に持っていた古ぼけた汚い雑巾の様なモノを取り上げて
「この通り元の身体に戻れて龍郎もバッチリ元通りヨロシ」
「う、うぐおぉ~……」
「龍郎死にかけてるぅぅぅぅぅぅ!!! バッチリ元通りじゃねぇよ! 身体元に戻れたのにほぼほぼ瀕死じゃねぇか龍郎!!!」
神楽が手に持っていたのは司波達也と司波深雪の父、司波龍郎。
彼もまた元の器に戻れたようだが、しばらく見ない内に随分とボロボロになっていた、うめき声を上げているのでかろうじて生きているのはわかるが、それにしちゃ随分と痛めつけられたような手酷い姿である。
「神楽ちゃん何があったの! 達也さんのお父さんに!?」
「大したことねぇヨ、蓮蓬に取り囲まれた時に元に戻ったから、咄嗟に傍にいたコイツを武器にしてしばらく戦っていただけアル」
『うおぉぉぉぉぉぉ!!! ゴムゴムの風車ァァァァァァァ!!!!」
『ギャァァァァァァァァァァァ!!!』
「瀕死になってる原因10割それだろうが! 何一般人の身体を武器にして振り回してんだ戦闘民族!」
「たまにうるさく叫ぶから何発か顔面にお見舞いして適度に黙らせてたネ」
「た、助けてくれ新八君……この少女の傍にいるととてつもないスピードで寿命が縮んでいる気がするんだ……」
「おいしっかりするアル龍郎! 心臓マッサァァァァァジ!!」
「ぐふッ!」
「縮んでた寿命が遂にここで尽き果てたァァァァァァ!!!」
倒れた龍郎にとどめの一撃と言わんばかりに心臓目掛けて夜兎の拳をぶち込む神楽。
その瞬間、青くなっていた龍郎の表情は蒼白となり、白目を剥きながらガクリと意識を失った。
「達茂さん! アンタの父親がウチのヒロインのせいで危篤状態なんだけど!? 助けられないんですか!?」
「なんだその汚いおっさん、俺は知らないな。その辺に捨てておいてくれ、宇宙にでも」
「どんだけ嫌いなんだよアンタ!!」
こちらに振り返り、今初めて龍郎の存在に気づいたかのような素振りをしながら
冷たい目で自分の父親を見下ろしながらすっとぼける達茂。
本当に仲が悪い親子なんだなと新八が実感していると、今度はジャラジャラと何かを引きずって歩いている様な音が聞こえて来た。
「よぉ、どうやらそちらさんも上手くいったみたいじゃねぇか」
「その声は沖田さん! 良かった! 神楽ちゃんと同じく元の身体に戻れたんですねってぇぇぇぇぇ!!!」
「おうよコレで何もかも元通りだ、ようやく大手を振って歩けるぜ」
沖田が来た事に気付いて新八が振り返ると一瞬で目を見開き驚愕の声を高々と上げてしまう。
一方沖田の方はジャラジャラと音が鳴る鎖を手に持ちながら平然とした様子でこちらに顔を上げると
「おら、もっと早く歩け」
「…………」
完全服従の意を示す首輪をつけられ、項垂れている司波小百合を引き連れてやってきた
「いやどっからどう見ても大手を振って歩けねぇよ! 人妻相手に何やってんだアンタぁ!」
「大した事ねぇよ、ちょいと元に戻る前に色々とお喋りしてただけだから、こうやって」
『生々しい表現が長々と含まれてる為文字にする事は出来ません』
「本当に何があったんだよ! 説明できない生々しい表現って一体なに!?」
得意げに鎖を持ったまま小百合を連れて来た沖田に新八がツッコミを入れていると
彼の叫び声がうるさかったのか、それとも小百合の存在に気づいたのか
「さ、小百合……」
「おお! 見て下さい達茂さん! 龍郎さんが奥さんの気配に気づいて意識を取り戻しましたよ!」
「…………チッ」
「舌打ちした! 達茂さん思った以上に感情豊か!」
先程まで死ぬ一歩手前であったにも関わらず、愛の力が成したのか、ギリギリで蘇り目を見開くとともに立ち上がる龍郎。
彼の思わぬ生還に辰茂が小さく舌打ちしてる中で、龍郎は沖田に首輪をはめられている小百合を見てハッとする。
「お前私の妻に何を……! 許さん私が相手だ! うおぉー!」
「ええー!? 無茶だ龍郎さん! その体であのドSと称される沖田さんに挑むなんて!」
「返せ私の妻をぉぉぉぉぉぉ!!」
妻を奪われて何もしない夫など夫以前に男ですらない、例え勝てない戦いであろうと男としてどんな強敵であろうと立ち向かわねばいけない時があるのだ。
拳を振り上げ勇猛果敢に沖田に挑みかかる龍郎。
しかしその瞬間、沖田に首輪をつけられていた小百合が項垂れまたまま目をキラリと光らせ
「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「どうふぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
突如、龍郎目掛けて一気に距離を詰めてサマーソルトキック。
小百合の予想だにしていない行動力とその俊敏さに、龍郎は驚く暇もなくアゴに食らって宙を飛ぶ
「な、なんで……?」
「龍郎ォォォォォォォォォ!! しっかりするアルゥゥゥゥゥゥ!!!」
顎をやられたおかげで意識が朦朧としている龍郎に必死に神楽が叫んでいると。
小百合はそんな彼等を気にも留めずに沖田の方へ振り返ると
「小汚いウジ虫を駆除しました、ご主人様」
「飼いならされてるぅぅぅぅぅぅ!! 既にもう沖田さんの従順なる飼い犬に躾されてるよあの人妻!! 今旦那の事ウジ虫って言ったよね!?」
沖田の前にひれ伏し、完全服従を誓う様に深々と頭を下げながら報告する小百合。
その姿を見ても沖田は何事も無かったかのように驚いてる新八の方へ顔を上げ
「よーしそれじゃあ蓮蓬達も残り少ないみたいだし、上手い事やっちゃって全員がハッピーになれるエンド目指しに行くか」
「なれるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 夫婦そろってバッドエンドに直行させた奴がどの口でほざいてんだコラァ!!!」
人二人不幸にしておいて最高のハッピーエンドって奴を志す沖田に新八がブチ切れながら叫ぶ。
ドSここに極まれり、例え女子供相手だろうと異世界の人であろうと一切の躊躇も見せずに調教してしまうその手腕は、敵としても味方としても恐ろしい。
「達茂さん! アンタの義理の母親が大変な事に!」
「幸せそうで何よりじゃないか、あの世へ行った親父もきっと草葉の陰で喜んでいるよ」
「どこが幸せ!? あと龍郎さんまだ生きてるから! 体どころか心もボロボロだけどまだかろうじて生きてるから!!」
珍しく朗らかな表情を浮かべてみせた達茂に新八はツッコミながらふと彼を見て気付く。
神楽と龍郎、沖田と小百合は無事に互いの身体に戻れたのに。達茂だけは以前達茂のままだ。
入れ替わり装置を破壊すれば彼もまた司馬達也と徳川茂茂に戻れると思っていたのだが……
「そういえば達茂さん、どうしてアンタだけ体に変化が無いんですか? まさか合体したらもう二度と元に戻れないんじゃ……」
「ああ、その辺の事については茂茂と合体してから気付いている」
「え?」
「今の俺は司馬達也であると同時に徳川茂茂、つまり互いの記憶も共有している生命体だ」
そう言うと達茂の表情が若干険しくなる。
「おかげで茂茂であった時の俺の行動や達也であった時の余の行動は全て把握している。そしてそれを共有した上で、俺はとんでもない過ちを犯していた事に気付いた」
「過ち!?」
「ああ、それは……」
どうやら合体すると互いの記憶や思い出の方も合わさってしまうらしい。
その結果、達茂は自分の身体が分離されない事にもあらかじめ気付いていた様だ。
彼等が元の身体に戻れない、その理由を彼が新八に語ろうとしたその時……
「お兄様ァァァァァァァァァァァ!!!!」
「……来たか、そろそろだと思ってたぞ二人共」
「え? ってえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
突如冷たい風が流れ込んで来たと思ったら、すかさず雄叫びのような声を上げて銀髪ロングの少女が足元を凍らせながら滑る様にこちら目掛けて突っ込んで来たではないか。
口を大きく開けて叫ぶ新八ではあるが達茂は彼女”達”の登場は事前に察していたらしい。
「だ、誰ですか一体!? 一見深雪さんにも見えますけどあの髪の色はまるで銀さん!」
「両方だ、あの二人は俺達も先に合体した生命体、坂波銀雪だ」
「銀雪ィィィィィィィ!?」
二人が融合する可能性を秘めているのは知っていたがまさかもうとっくに合体済みだったとは……
新八が呆気に取られていると坂波銀雪こと銀雪はこちら目掛けて大きく飛び上がり
「戻れねぇぞどうすりゃあいいんだぁコラァ!!」
「へぶんぬ!!」
「っておい銀雪さん! 龍郎踏んでる! 親父さん踏んでるから!」
ここまで踏んだり蹴ったりという表現にピッタリな目に遭った者を見るのは早々滅多にないであろう。
心身共にボロボロになっている龍郎の腹部目掛けて銀雪は思いっきり両足で着地すると、彼は短い声を上げてガクリと完全に力尽きた。
しかしそんな事を気にも留めずに銀雪は達茂の方へ額に青筋を浮かべながらブチ切れた様子で
「入れ替わり装置ぶっ壊したのに体が元に戻らねぇだよ! テメェ言ったよな! 入れ替わりの元凶を止めれば俺達の身体は元の身体に戻れるんだって! って、お前まさか……!」
「ああ言った、あのノートが正しければ俺達の身体は元に戻れる筈だとな、だが俺と茂茂もお前達同様何も変化しちゃいない」
「この野郎、随分と前と雰囲気変わったと思ったら……まさか将軍と合体してやがったとは……」
辰茂が達也と茂茂の融合体だという事に気付きつつ、銀雪はバツの悪そうな表情を浮かべるも腰に手を当てながらフンと鼻を鳴らし
「前よりはマシな面構えになったんじゃねぇか? お兄様よ」
「フ、俺は俺で色々と経験してきたって事さ」
互いに融合体である同士で言葉を交えていると、そんな二人の傍へ沖田がフラッと歩み寄って来た。
「流石旦那だ、ガキと融合して内部から調教するたぁ俺でも出来ねぇテクニックだ。だが旦那、せっかくの合体プレイだがそいつを終わらせるにはまずはこの事件の黒幕を倒さなきゃならねぇ」
「黒幕? 俺達がこうなった原因は蓮蓬じゃねぇのか?」
「ここにいる連中はみんな”アイツ”の手駒アルよ銀ちゃん」
沖田に続いて神楽もやってきた。どうやら二人は異世界で入れ替わっていた時に色々と自分達が知らない情報も掴んでいたらしい。
「私とコイツがここに来たのも、ここの連中を影で操って企み事してる奴をぶっ飛ばす為に来たんだヨ」
「おいおい聞いてねぇぞそんな事……つーか神楽? お前もしかして俺が深雪さんやってた世界にいたの?」
「おう、銀ちゃんの親父として陰ながら見守ってたアル」
「言えよ! なんで陰ながら見守ってるだけなんだよ! 俺超心細かったんだぞ! 訳の分からない世界にほおり込まれた上に周りは俺みたいに入れ替わってるバカしかしねぇし!」
「旦那、それにはちゃんと理由があるんでさぁ」
神楽もまた異世界に来てた事に今気づいた銀雪、しかしそこで沖田が間に入り、真顔で話を続ける。
「俺達も将軍様同様、コッソリと隠れながら独自に行動していたもんでね、ここに援軍としてやってくるのも、全ては”あの女”を倒す為に綿密に練った作戦の一つなんですよ」
「あの女……?」
「この入れ替わり現象は蓮蓬だけで成し遂げた事じゃねぇ、俺達と蓮蓬もあの女の手の平で踊らされてたんですよ、そう 全てを知り、全ての裏で暗躍していた真の黒幕」
「”四葉真夜”の手の上で」
遂に明かされる全ての元凶の正体
やっとこさラスボスの名前が出てきた……ここまで来るの長かったです本当に。
本当は10話ぐらいで終わる予定だったんですけどね、けどやりたい事書きまくってたらいつの間にかこんな長丁場に……
何はともあれ無事に完結目指して最期まで気を抜かずに頑張ろうと思います。