魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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第三十二訓 元帰&残留

念願の入れ替わり装置が破壊される数分前。

 

鬼兵隊、坂本辰馬、桂小太郎、そして新生万事屋の寄せ集めチームは中層部の大広場で戦闘を繰り広げている者達へ赴く為に、春雨の戦闘員を各個撃破していきながら突き進んでいた。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!! 桂さんボディ! 私に力をぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

「ノリノリだね生徒会長……」

 

刀を振るってすっかり慣れてしまったその体で、桂は行く手を阻む春雨に問答無用で斬りかかっていく。

しかしそれ等全ては全く当たらずに避けられていくのが現実。多少体は動かせても本人が全く剣術の基礎さえ学んでいなければ素人となんら変わらないのだ。

 

「く! こうなる事が事前にわかっていたなら! 元の世界で剣術の稽古とか受けておけばよかったわ!」

「いや誰だって気が付いたら侍の体になってたなんて予想できませんから」

「魔法の鍛錬とかそんな事で青春の時代をドブに捨ててた私のバカ! もしまた元の体に戻れたら! ドブに捨てた青春を拾い上げて! 立派な攘夷志士として生きることを誓います!」

「それドブから拾った青春をまたドブに捨ててるだけですよね? ただのキャッチ&リリースですよね?」

 

自分の今までの人生を振り返りつつ、己の未熟さに心折れそうになりながらも桂はグッと拳を握って力強く宣言する。

 

勝手に落ち込んで勝手に盛り上がって、一人で騒ぎ立てる桂にジト目でツッコミを入れる光井のほのかであった。

 

「もうこんな周りが敵だらけの状態で変なテンションになってないで真面目にやって下さいよ生徒会長……」

「生徒会長ではない……」

「いやあなたから生徒会長取ったらただの犯罪者……」

 

桂に対しては結構辛辣な言葉を浴びせるほのかに対し、桂は突如ワナワナと両肩を震わせた後、刀を手に持ったままいきなりバッと彼女の方へ振り向くと

 

 

 

 

 

 

 

 

「桂だァァァァァァァァ!!!」

「えーなんですかいきなり!? あ! もしかして遂に心までどっぷり精神が支配されたとか!?」

「いや違う! 俺は! 俺は!!」

 

いきなり人が変わったかのようにこちらに振り向いて来た桂に驚くほのか、しかし桂は手に刀を握られてる事に気付くと、傍にいた春雨の隊員数人に目掛けて斬りかかり……

 

 

 

 

 

「戻ったぞぉ! 桂小太郎! 遂に本来の姿で推参!!」

「ぎべぇ!!」

「や、やべぇぞ! コイツいきなり剣の腕が上がりやがった!」

「フハハハハハハ! 貴様等随分と手こずらせたな! だがしかし! 元の体に戻れれば貴様等風情相手にもならんわ!」

 

裾の奥から球体型の爆弾を素早く出すと、それを残っている春雨の隊員達に向けて勢い良く投げつける。

 

そして次の瞬間にはその場に爆発音と衝撃波を撒き散らせ、あっという間に彼等を跡形もなく吹っ飛ばしてしまった。

 

その光景をほのかが言葉を失い呆然と見ながら、桂の方へ視線を向ける。

 

「もしかして……会長じゃなくて桂さん本人……ですか?」

「フ、そうだ、長きに渡る魔法少女生活に終止符を打ち! この狂乱の貴公子・桂小太郎が今戻ったぞ!!」

 

刀を持った右腕を掲げ雄叫びを上げる桂の態度を見て、ほのかはすぐにハッとした表情で察した。

 

「つ、遂に体が元に!? てことは銀さんと深雪達が入れ替わり装置の破壊出来たんですか!?」

「そうだ! 先程俺達は入れ替わり装置の場所へ赴き、なんとか破壊する事に成功したのだ!! これで俺達も自由に……!」

 

七草真由美の状態で入れ替わり装置の場所へ赴き、そして破壊した瞬間、いつの間にか彼女の中にあった魂は桂小太郎の体へと戻っていたのだ。

これでようやくひと段落着いたと桂は自分の体に戻れた事に歓喜の声を上げようとするが……

 

すぐに自分の体をジーッと見下ろしながら

 

 

 

 

 

 

 

「……なんか違う」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「うーむどうもしっくり来んな、コレ本当に俺の体か? なんか関節曲げづらいし体が硬いんだけど?」

「いや正真正銘あなた以外の何者でもないですから!」

 

いきなり自分の体なのかと疑問を浮かべ始める桂、どうやら長い間ずっと七草真由美の体で生きていたのでどうも違和感があるらしい。

自分の体を疑い始める桂はふと自分の下半身を見つめながら顔をしかめ

 

「なんか股間に変なの付いてるせいで歩きづらいんだけど? 俺本当にこんな邪魔なモノをぶら下げていたっけ?」

「な、何に対して疑いを持っているんですかあなたは! それ男として一番大事なモンなんでしょ!? 銀さんが深雪の体になった時に一番ショックを受けたのはそれを失った事って言ってましたもん!」

「いや本当に歩きづらい、ちょっとコレ取ってくれない? なんか引っ張れば案外簡単に取れるかも」

「女子高生相手になんちゅう事を要求してるんですか! 引っ張りませんし取れませんよそもそも!」

 

自分の股間を袴の上からゴソゴソと探りながらお願いしてくる桂に、ほのかが数歩引いて全力で嫌がっていると。

 

「ヅラ、どうやらおまんも元の体に戻れた様じゃな……」

「!」

 

背後からの声に桂は即後ろに振り返ると、そこには腕を組んだ坂本辰馬が不敵に笑っている。そして自分を親指で指すと嬉しそうに

 

「わしもおかげで元通りじゃ、数カ月ぶりに我が家へ帰宅出来たきに」

「おお! お前も元に戻れたか坂本! という事は入れ替わり現象は完全に解決できたという事だな!」

「いや、一つ問題が残っちょる」

「なに?」

 

桂に続き坂本も無事に元の体に戻れた、しかし坂本曰くまだ問題は残っているままらしい。

 

彼はおもむろに自分の股間を掴みだすと

 

「長い間留守にしちょった間に、いつの間にかわしの股間にブラブラすんモンと玉が二つが出来ちょった、これのせいで上手く歩けんのじゃ」

「おお! やはりお前も同じだったか坂本!!」

「やっぱ邪魔じゃろコレ、はよう取らんとわし等まともに動けんぞ?」

「うむ、やはり早急に切除する以外手は無いな!」

「いや久しぶりに元の体で再会出来た時に交わす言葉がそれでいいんですかあなた達!?」

 

どうやら坂本の方も股間に違和感を覚えているらしい。しかも入れ替わり生活が他の三人に比べ、圧倒的に長かったので、股間にある”それ”の存在そのモノさえ忘れてしまっているようだ。

互いに股間の違和感を拭いきれずにいっそ取ってしまおうかと話し合っている二人にほのかが必死に叫んでいると、彼女の傍をタイミング良くスッと一人の少女が通り過ぎて、桂と坂本の方へ近づき

 

「私に任せて、一思いにチンコ引き千切ってあげる」

「おおそれは助かるぜよ!」

「よし! ならば今すぐ俺達のチンコとタマを取ってくれ!!」

「オーケーベイビー」

「雫ぅぅぅぅ!? 早まらないで二人共! せっかく男に戻れたのに今度はオカマに転職する気!?」

 

指を滑らかに動かしながらいつでも来いといった感じで現れた北山雫、彼女に対してすぐに坂本と桂はやってくれと歩み寄るがそれを必死に止めに入るほのか。

 

するとそこに……

 

「ったく揃いも揃って元の体に戻れても相変わらずバカやってんなお前等」

 

血に濡れた刀を手に持ったまま、ふらりと彼等の前に現れたのは高杉晋助。

今しがた元に戻れたと同時にその辺の天人を始末してきたかのように、口元に歪な笑みを浮かべながら

 

ずっと己の顔を隠していたモザイクをひっぺ返して踏み潰すと

 

河上万斉と木島また子を引き連れてやって来たではないか。

 

「晋助……よくぞ元の体に戻ってくれた、拙者はずっとおぬしが帰って来る事を心の底から待っていたぞ」

「戻るのが遅れて悪かったな万斉、これでようやくオメェと心置きなく暴れられるぜ」

「晋助様! 晋助ちゃんじゃなくなるのは悲しいっすけど! やっぱり私には晋助様が一番っす! でももっと晋助ちゃんの頭なでなでしたかったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「また子、お前ちょっと休んでろ……」

「晋助ちゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!」

 

ようやく鬼兵隊の大将の帰還に万斉は心から安堵している表情でホッと胸を撫で下ろしているが。

また子の方は以前の中条あずさが入り込んでる状態の高杉の事も忘れられない様子で、血走った目をひん剥かせて悲痛の雄叫びを上げていた。

そんな彼女に高杉は頭を押さえながらどう対処すればいいのかお困りの様子だが、桂と坂本がこちらに歩いて来たので彼は顔を上げる。

 

「高杉、やはりお前も元に戻れたか。これで俺達4人の内3人は無事に元の体に戻れた事が確認できたな」

「後は銀時だけじゃな、しっかしアイツはわし等とはちぃと事情が違うからのぉ、どうなっちょるかは見当もつかん」

「アイツの事なんざどうでもいいさ、俺は俺の身体に戻れただけで満足だよ」

「ところで高杉、お前に一つ聞きたい事がある」

「あ?」

 

愛用しているキセルを吸って煙を吐きながら、ようやく元に戻れて満足している高杉に対し、桂は鋭い目を彼に向けながら真顔で尋ねる。

 

「股間に付いている変なモノのおかげで少々歩きづらくなったと思わんか?」

「……お前入れ替わり先の所に脳みそ置き忘れちまったんじゃねぇか?」

「もしよければ彼女が俺達のチンコを回収してくれるらしいのだが」

 

いきなり訳の分からない事を言って来た桂に彼は表情崩さずにただ固まっていると、雫が近づいていき、あろう事か彼に対して両手の指を高速で動かしながら

 

「さあさあ包帯のお兄さん、さっさと着物とパンツを脱いでナニを出してもらうか、長年共に一緒にいたチンコにお別れを済ませてオカマになる準備はできたかな?」

「……おい、この俺にふざけた態度取ってくるガキは斬っていいのか?……」

「ヘイカモーン」

「雫ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!」

 

無言でこちらに殺気のこもった目つきで静かに見下ろしてくる高杉に、雫は得意げに指を動かしながら挑発。

 

それを見てほのかは必死に叫びつつも思った。

 

ああ、私の友人には怖いモノなんてないんだなと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして瓦礫となり果て、音を立てて崩れていく入れ替わり装置を前にし

 

事を済ませた銀雪達一行はというと

 

「コレで俺の役目は十分に果たせたか……」

 

装置丸ごと両断した事で、すっかり体力を使ってしまった桐原が安堵のため息を突くも、この場所にはまだ敵が残っている事を忘れちゃいなかった。

 

「っと思いたいが、次斬られる予定の連中がまだまだ一杯だな」

「おやおやぁ? それは俺達の事かね? 威勢が良いね異世界の魔法使い殿は」

 

パラパラと氷の欠片が降り注ぐ中で、桐原の前に一人の男、阿伏兎がニヒルな笑みを浮かべて現れる。

 

入れ替わり装置を破壊出来ても未だこの男は健在だ、それに他の夜兎の連中も

 

未知なる相手に桐原は果敢にも刀を構えて挑もうとする、しかし阿伏兎はそんな彼を前に静かに目を瞑り

 

「安心しな、もう俺達にはお前さん達と戦う理由はねぇよ」

「何!?」

「元々俺達は蓮蓬の連中からの命令で、この装置を護れと言われていただけだしな」

 

桐原は警戒しつつもそっと構えを解く、確かに今の彼等には敵意や殺気が感じられない。

この場で自分達とやり合うつもりはないのは本当の様だ。

 

「その任務はお前さん達のおかげで失敗だ、連中に責務を問われる前に俺達はここでトンズラさせてもらうぜ」

「装置を破壊した俺達を殺せば名誉挽回のチャンスはあるんじゃないのか?」

「名誉だ? 連中に感謝されても全く嬉しくねぇよ、ぶっちゃけハナっから気に食わなかったからなあいつらの事は」

 

微笑みながらそう言うと阿伏兎は部下の者達の方へ振り返り「行くぞ」と短く指示を飛ばす。

他の夜兎達は誰も異議を唱えず素直に彼の指示に従い踵を返し部屋から出て行ってしまった。

 

「あばよデジタル世代の魔法使い、今度会う時があれば上の命令じゃなくて俺たち自身の意志で戦わせてもらうとするわ。そん時は遠慮なく殺させてもらうからよろしくな」

「殺されるのはどっちだろうな、あまり俺達の世界の者をナメるなよ」

「へ、ナメちゃいねぇさ、お前達の強さは十分身に染みたよ」

 

こちらを睨んで来る桐原に対し、阿伏兎は飄々とした態度で返事すると仲間と共に部屋を後にする。

 

「そうそう、俺達がいなくなったからって安心すんじゃねぇぞ、お前さん達の本当の戦いはこれからなんだぜ」

「?」

 

最後に捨て台詞を吐いた後、その言葉の意味が上手く理解できなかった桐原を残して阿伏兎達は行ってしまった。

 

「本当の戦いはこれから……? どういう事だ……」

「フッフッフ……」

「!」

 

一人考えにふけていると不意に不気味な笑い声が部屋に響き渡る。

桐原はすぐに彼の言っていた本当の戦いが始まったのかと腰に差す刀に手を置いて、声のした方向へ身構えると……

 

 

 

 

「うおっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! アタシの体に戻れたァァァァァァ!! おめでとう千葉エリカ! 長きに渡るモジャモジャの呪いから今あなた解放されたのですキャッホォォォォォォォイ!!!!」

 

そこにいたのは先程共に戦った一人である千葉エリカであった。急にハイテンションになって両手を上げながら絶叫を上げてピョンピョンと何度も跳ね上がる彼女に、桐原はギョッと驚いた様子で目を見開く。

 

「さ、坂本さん!? いやもしかして千葉なのか!?」

「ったりめぇでしょうが! てか誰よアンタ! 馴れ馴れしく呼ぶんじゃないわよ! 地獄の底から這い上がりしみんなのヒロイン、とっても素敵で可愛いJK千葉エリカ様と呼べやコラァ!!」

「誰って! 俺はちゃんとしたお前の一個上の先輩だぞ! そっちこそ桐原先輩と呼べ!」

「知るかボケコラカスゥ! こちとら入学式の日からずっと宇宙放浪の旅に出てたのよ! 誰が先輩だろうが同級生だろうがなんにも知らずに生きて来たのよ! こんな可哀想な女の子に慰めの一つも出来ねぇのかこの杉田智和!」

「誰が杉田智和だ! てか誰だ杉田智和って!?」

 

どうやら無事に坂本の体から解放されて千葉エリカもまた元に戻れたようだ。

そのせいかいつもよりもずっとハイなテンションになって先輩である桐原に対しても粗暴な言葉を浴びせながら部屋中を踊る様に駆け回っている。

 

「遂に体を取り返せたしもう思い残す事は無いわ、さっさとこんな訳の分からない星から脱出して元の世界に帰るのよアタシは!」

「いや待て千葉! 確かに装置は破壊出来たがまだ他にもやる事があってだな!」

「んな事こちとら知らないわよ! 今からアンタのやるべき事はただ一つ! アタシ一人でもいいから安全に元の世界に返す為の準備に勤しむ事よ! おらさっさとやれ! 今すぐやれ! 40秒で支度しな!」

「なんなんだコイツ、まさか入れ替わり現象の反動で脳になんらかの負荷がかかったんじゃ……あるいはただのバカか」

「アハハハハハ! 他の連中なんて知ったこっちゃないのよ! 特に坂本辰馬率いる連中の事なんか心底どうでも……オロロロロロロロロ!!!!」

「ああ、ただのバカの方だった」

 

とち狂ったように叫んでいる途中で急に「うぷ!」と無駄にテンション上げ過ぎて気分が悪くなったのか、突然床に向かって盛大に吐瀉物を撒き散らすエリカ。

とても可愛いJKのやる事ではない行為に、桐原が心底呆れてため息を突いていると

 

「戻った! 遂に元の体に戻れたわ!!」

「か、会長!」

 

エリカと違いぶっ飛んではいないものの、やや興奮したような感じで誰かが喜びの声を上げている。

すぐに桐原が振り返ると、そこには1話目からずっと桂小太郎としての人生を歩んでいた七草真由美の姿が

 

「七草真由美、久方ぶりにこの体に戻る事が出来たわね……ここに来るまで色々大変だったけどこれでどうにか問題を一つ解決できたことで良いのかしら?」

「そうです、とにかく氷山の一角は崩せたと思います」

 

急にキリっとした表情でこちらの状況の確認を取る真由美に、桐原は久しぶりにかつて生徒会長として皆を導いていた時の彼女を思い出し、すぐにピンと直立して返事をした。

 

 

「ただ敵の一人が妙な事を言っていたので今すぐにでも準備を始めた方がいいと思います。こうして会長達も元に戻れたのですから戦力は確実に上がっていますし」

「私もそうするべきだと思うけど迂闊な行動は命取りになるわ、まずは一刻も早く皆に連絡を取るようにするのが先決よ。未だ情報の伝達が出来ていないこの状況で、バラバラになって勝手に動き回るのは危険よ」

「はい! では俺は今から鬼兵隊や快援隊、真撰組の所を駆け巡って情報の伝達に!」

 

さすがは生徒会長、今までずっと奇行に走ってたのがウソの様だ。コレが本来の七草真由美の姿だと桐原は心底頼もしいと思っていると、ふと真由美は真顔で彼に一つ尋ねる。

 

 

「ところで入れ替わり装置を破壊してくれたのって桂さん達だけじゃなくて桐原君も手伝ってくれたの?」

「ええ、連中が敵を上手く誘った所を俺が装置の破壊を行いました。こうして無事に会長達の体を取り戻せたのも彼等のおかげです」

「そうだったのね、でもあなたも立派よ桐原君、桂さん達と共に見事私達の体を取り戻してくれて……」

「会長……」

 

自分の肩に手を置き、クスッと笑い慈愛に満ちた表情を向けてくれる真由美に、桐原はもはや感無量と言った感じで内心喜んでいると

 

真由美はそのままの表情で彼に向かって

 

 

 

 

 

 

 

「これであなたも立派な”攘夷志士”としてやっていけるわね」

「会長ォォォォォォォォォォォ!?」

「情報の伝達ついでに将軍と合体した達也君の首も取って来てね」

「どういう事ですか会長!? アンタまさかまだ!?」

 

かつて攘夷志士として悪名轟かせる凶悪なテロリストにでもなるんじゃないかと危惧するぐらい思考回路が狂った会長はもうここにはいない、そう思っていたのだが

 

元の体に戻っても桂小太郎だった時の様な事を口走る真由美に桐原がパクパクと口を開けながら焦っていると、彼女は笑みを浮かべるのを止め

 

「これより私達は救世主であり皆を導く先導者である桂小太郎をリーダーとし、皆で力を合わせて幕府を討ち滅ぼす戦を仕掛けます、あとついでに蓮蓬にも」

「蓮蓬ついで扱い!? 幕府とか俺達には関係ないでしょ! そっちの事は向こうの世界の人に任せて俺達は俺達の世界を!」

 

この期に及んで将軍を討ち取り国家転覆を狙おうとする真由美に桐原はすぐに説得を試みるが、彼女はやれやれと言った感じでめんどくさそうに髪に指を絡めながら

 

「いやもう私もう元いた世界とかどうでもいいの、生徒会長とかナンバーズとかそういう肩書とかいらないし、私が欲しいのは桂さんの隣、もうそれ以外に何もいらないから」

「何てことだ完全に桂に毒されている……! もはや俺達の生徒会長は完全に死んだというのか……今俺の目の前にいるのはあの狂乱の貴公子・桂小太郎を崇めたてる事に執念を燃やす攘夷志士でしかないというのか!」

「桂? あの人を馴れ馴れしく呼び捨てで呼ばないで、これからは腐った国を撤廃し、天人に負けない新たなる国を築き上げる為に日夜幕府と戦う我等が英雄、桂小太郎様と呼ぶのよ」

「ダメだぁぁぁぁぁぁ!! これもう完全にダメだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

ドヤ顔で桂の呼び方を改めるように要求してくる真由美に、遂に桐原は両手で頭を押さえながら絶叫を上げ始める。

てっきり装置を破壊し、元の体に戻れば染まっていた魂も元に戻るのであろうと思っていたのだが……恐るべし桂の攘夷思想、その思想は元の体になってもなお、真由美の魂にしっかりと受け継がれてしまったみたいだ。

 

七草家にどう説明すればいいのだと桐原が一人混乱に陥っていると、ふとまたもや別の少女の声が

 

「はわわ~、どこですかここ~? あれ? これ私の体……」

「中条!?」

「きゃ! 桐原君!? なんでここにー!?」

 

見るとそこには自分と同じように慌てふためく中条あずさの姿が。

元の体に戻れた事に混乱してるらしく、キョロキョロと辺りを見渡している彼女の下へ桐原はすぐに駆け寄る。

 

「中条お前なんともないのか!?」

「え、いや特に何もないですけど……?」

「本当か!? 世界をぶっ壊したいとか企んでないよな!?」

「わ、私そんな事考えてないですよ! 高杉さんじゃないですから! それより私達元の体に戻れたんですか!? 良かった~」

「な、なんだと……そういえば中条は入れ替わっても全く精神を乗っ取られてる感じは無かったな……」

 

司波深雪や七草真由美は次第に精神が浸食されてしまったが、あずさは何故か影響も受けずに高杉の体になってもなお自分を貫き今の今までやってこられたのだ。もしかしたらコレは地味に凄い事なのではないのだろうか……。

 

「とにかくお前だけでも無事で何よりだ中条……お前以外はもうダメだからな」

「ダメって一体……あ、会長!」

「あーちゃん!」

 

諦めたようにため息を突く桐原に首を傾げるあずさだが、ふと傍に頼もしき先輩である真由美がいる事にようやく気付いた。

彼女が声を上げると真由美も嬉しそうに歩み寄って両手を取り

 

「あなたも無事に元の体に戻れたのね!」

「はい! うう~ようやく先輩と元の体で再会出来ました~!」

「そうだったわね、それじゃあ久しぶりの再会を祝って……」

 

互いに本当の体に戻れた事に喜びを噛みしめつつ、あずさが思わず泣きそうになっていると真由美はニコっと笑うと

 

「ちょっくら攘夷活動でも始めてみる?」

「ふぇ!?」

「大丈夫よあーちゃん、まずはあの鬼兵隊とかいう同じ攘夷志士でありながら桂さんに盾突く無法集団を殺しに行ってちょうだい」

「うえぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 無理ですよ私! そもそも今までずっと鬼兵隊の皆さんのお世話になってたんですよ!? ていうかどうしたんですか会長!? なんか変です! おかしいです!」

「いいえ少しもおかしくないわ、だってこれが私としてのあるべき姿なんだから! さああーちゃんもこっち側に……!」

「か、会長が壊れちゃいました~!」

 

段々と目が怪しく光り輝き、手を伸ばしてゆっくりと歩み寄って来る真由美に、怯えた様子で涙目になりながら後ずさりするあずさ。

するとそこに先程盛大に胃の中にあったモノをぶちまけていたエリカが気分悪そうに歩いて来る。

 

「ちょっとアンタ達さっきからうるさいんだけど……こちとら吐いたばっかで最悪なのよ……騒ぐんならあっち行ってくんない?」

「丁度よかったわ千葉さん、あなたも攘夷志士に入りましょう」

「いや遠慮しておくわ、アタシこれから魔法師としての人生をリスタートするって決めたから」

「今なら洗剤と野球観戦のチケットも付けるわよ」

「新聞か! いらないわよそんなの! 勧誘するならそこのちっこいのにしなさいよね!」

 

真由美の誘いをキッパリと断ると、うんざりした表情でエリカはあずさに話を振る。

しかし後輩である彼女にちっこいの呼ばわりされてはさすがにあずさも先輩として注意せねばと恐る恐る顔を上げながら

 

「あの~……私、千葉さんの先輩なんですけど……」

「は? だから何? 今のアタシに先輩とかそんなの関係ないから、この世の存在物は全て私を中心に回ってるという結論の域に達してるぐらい怖いモノなしなんだからアタシ」

「うえ~みんな変になっちゃってます~! あれ?」 

 

ジト目を向けながらとんでもない事を言い出すエリカにもはやあずさはどうすればいいのか困っている様子。

すると、そんな時、彼女の方へトボトボとある人物が静かに歩み寄って来た

 

「も、もしかしてえーと……」

 

その人物とは

 

 

 

 

 

 

 

「前に会長から聞いたんですけど、確か坂波銀雪さんでしたっけ? 銀時さんと司波さんが合体した姿……」

「……ご名答」

 

装置を破壊する前も後もなんら変わらず、死んだ魚の様な目をこちらに向けながらすっかり気力を失ってるかの表情で坂波銀雪が現れた。

 

本来であれば入れ替わり装置を破壊すれば、坂田銀時と司波深雪に分離出来る筈だったのだが……

 

 

 

 

 

 

 

「なんで……なんで俺達だけ戻ってねぇんだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「ひぃ!」

「あら銀さんと司波さん……ってアレ? なんで元に戻ってないんですか?」

「あーこりゃ完全にやっちまったパターンね、もう一生そのままねアンタ達、お幸せに」

「ふざけんなゴラァ! 誰がテメェ等の体取り返してやったと思ってんだ!」

 

銀髪ロングに強いクセッ毛があちらこちらに飛び出た髪を揺らしながら銀雪は激昂した様子で真由美達に指を突き付ける。

 

「チクショウ! 時間切れにしちゃ早過ぎだろ! なんで俺だけこんな事に! 兄貴の奴は入れ替わった元凶を討てば終わるって言ってたじゃねぇか! 元凶って入れ替わり装置の事なんじゃねぇのかよ!」

 

銀雪はずっと入れ替わり装置さえ破壊すれば、分離出来てそれぞれの体に戻れると思っていたのだが。

どうやらそう上手くはいかないらしい。

何故ならあの入れ替わり現象について書かれていたノートに記されている『入れ替わりし元凶』というのは

 

入れ替わり装置の事ではなかったのだ。

 

「俺を! 俺を返しやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

壊れてバラバラになった装置に向かって銀雪は悲痛な声で叫ぶが当然返事は無かった。

 

そんな彼女を少し離れた所から見ていた桐原はふと阿伏兎が言っていた事を思い出した。

 

 

お前さん達の本当の戦いはこれからなんだぜ

 

 

「もしやあの言葉の意味は……おいアンタ! ちょっと話が!」

「返してくださぁぁぁぁぁぁぁい!! なんでもするから銀さんと深雪さんの体カムバァァァァァァァァク!!!」

「なに壊れた装置に向かって土下座してるんだ! いいからちょっと俺の話をだな!」

「うるせぇんだよ杉田智和のクセに! テメェは一生中村悠一と仲良くやってろ!!」

「だから誰なんだよ杉田智和って!!」

 

もはやヤケクソ気味に装置に向かって土下座して懇願し始める銀雪。

彼女に意味深な事を言われながらもとにかく話を聞かせられる様必死に落ち着かせようと奮闘する桐原であった。

 

 

最終決戦開始まであと僅か

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今更だけど

七草真由美ファンの皆さんにごめんなさいとだけ言っておきます

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