魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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前回の前書きで言ってた元ネタを教えて下さってありがとうございました。
いやドラゴンボールは勿論知っていますが映画版には手ぇ出してなかったので知りませんでした。
という事で今度ツタヤ行って元ネタが入ってる映画を借りてきます。

p.S 前回のあとがきでアンケートみたいな感じで尋ねた件については申し訳ありませんでした。以後、次回作は自分なりに考えて書こうと思いますのでお楽しみに


第二十八訓 道筋&覚悟

激闘の末、坂田銀時と司波深雪が融合した姿、坂波銀雪と頼もしき新生万事屋のサポートもあって神威を撃退する事が出来た。

 

しかし勝利の余韻に浸る暇もなく、銀雪は彼を倒す為に犠牲となった者を忘れてはいない。

 

「お前はそう、一方的について来ただけでそんな親しくなかったけどいい奴だったと思うよ、だから安心して眠れ」

「ほのか……あなたと友達的な感じになれて私は幸せだった、あなたの遺体は遺言通り灰は宇宙に流してあげる」

 

倒れている光井ほのかに対し銀雪と北山雫は両手を合わせて合掌。

願わくば化けて出ることなく安らかに成仏する事を祈って…… 

 

 

 

 

 

「いやいやいや! 死んでないよ私!? あと誰が宇宙葬にしてくれって頼んだ!? ねぇ!?」

「あ、生きてた」

「意外としぶとい」

「意外とって何!? 死ねば良かったってか!?」

 

突然ガバッと起き上がり早々ほのかは二人に対して抗議の声を上げながら復活する。

どうやら思ったより手酷い傷は負っていなかったらしい。

 

「別に私あの強い人にちょっと軽くやられて気絶しただけで別にそこまで重症じゃないからね!?」

「ちょっと待ってほのか、じゃあ私は軽くノされただけのあなたの為にわざわざあんな凶暴な男に立ち向かったって事? それはちょっと解せない」

「解せないね、これは責任もって春雨の連中をおびき寄せる為の囮として頑張ってもらわないとね」

「気絶じゃなくていっそ半殺しにされてた方がマシだった私!」

 

ほのかが神威にやられた事に柄にも無く雫は彼に立ち向かった。

しかしこうもピンピンしている様子を見せられるとさすがに雫もカチンとくる。

一方銀雪の提案を聞いてほのかもまたすぐに回復できた事に後悔するのであった。

 

「でもまあ確かに体力がヤバいのは本当だから……気が付いたら雫ボロボロだし銀さんと深雪がなんか合体しちゃってるしで精神的にもかなりしんどいんだよね、主にツッコミきれないという意味で……」

「バカ野郎! ここにいるツッコミ役お前しかいねぇんだぞ! お前が倒れたら誰が俺達にツッコミを入れるんだ!」

「いやそんな責任感持ってツッコミしてないから私……」

 

床の冷たさに心地よさも感じながらどうにも起き上がれない様子のほのかに銀雪が必死な顔で叫ぶが、ここまで心に響かない激も珍しい。

するとほのかの代わりに雫が両手を腰に当てながら自慢げに胸を張って答える。

 

「ならば私がやろう、大丈夫適当にオイィィィィィィとかバカ丸出しで叫んでればいいってあの眼鏡の少年を見て学んだ」

「この短時間でウチのツッコミをマスターするとはなんて野郎だ、いっその事新八をそっちの世界に送ってお前とトレードしたいぐらいだぜ」

「てことは私とあの眼鏡は同等の価値という事? そこは納得いかない」

「悪かったな、ならヅラ、坂本、高杉の3バカ攘夷セットも追加だ」

「前から思ってたけど旧万事屋と新生万事屋のツッコミ役の扱い酷くない!? 私妙にその新八さんと仲良くやっていけそうな自信があるよ!?」

 

銀雪と雫の中で闇のトレード契約が決まりかけていると、そのトレード対象の一人である桂小太郎こと七草真由美が彼女達の方に歩み寄る。

 

「全くお前は、人を勝手にトレードしようとするな、どうせするなら彼女と+服部君にしろ」

「バカ野郎、服部君までいったらお前、うちもう将軍出すぐらいしか成立しねぇじゃねぇか」

「服部先輩の価値将軍並なの!?」

 

倒れてる割には律儀にツッコミを忘れないほのか、そんな彼女を尻目に真由美は話を続けた。

 

「銀時、いや銀雪か。障害を一つ取り除いた今俺達の道はもう一つだ、共に入れ替わり装置の破壊に出向くぞ」

「それはいいけどコイツ等はどうすんだ、コイツ等多少は回復してるみてぇだがまだ激戦区に連れていけねぇし」

「案ずるな、少し歩けば鬼兵隊の連中もいるだろうからそこで休息してもおう。何より真由美殿も彼女達の護衛役として付いてもらう」

 

そう言って真由美は背後にいる桂の方へ振り返る。

 

「という事で真由美殿、彼女達を安全な所へ送り届けてくれ、俺と銀雪は装置の破壊に行ってくる」

「イヤです」

「では頼んだ……え?」

 

自分を絶対的に信用している彼の事だ、きっとすぐに了承して立派に仕事を務めてくれるだろうと期待していた真由美だったが、意外にも桂の答えはまさかのノー。思わず真由美は我が耳を疑う。

 

「真由美殿、何ゆえ断るのだ、俺とおぬしは言葉を交わす必要もない程のベストコンビ、おぬしならすぐに俺の気持ちもわかってくれる筈だと思っていたのだが」

「だからこそよ桂さん! 私と桂さんは一心同体! 例え火の中水の中! 何処へ行こうが私達は常に一緒じゃないとダメなのよ!」

「いや離れていても心が繋がっていれば十分であろう」

「それじゃあ追いつけないのよ! 今の私達はそれじゃああの二人に勝てないのよ!」

 

両手を広げながら叫ぶ桂に困惑する真由美だが、桂は突然ビシッと銀雪の方を指差す。

 

「この私達でさえ出来なかった融合を銀さんと深雪さんがやり遂げたのよ! このままだと私達ベストオブコンビイヤーの座から陥落するのも時間の問題だわ! なんなのよあの二人! ずっと仲悪かったのに気が付いたら急にみんなの前で公開合体ってどんな企画物AV!? どんだけ見せびらかしたいのよ! どんだけただれた関係築いてんのよ!」

「いやお前が言ってる合体それ違う、俺等そういうのじゃないんでホント」

「桂さんには私がついてないとダメなの! あの二人が一緒に行くっていうなら私もあなたと一緒に行くわ!」

 

勝手というかワガママというか、銀雪がボソッと反論するも全く話を聞かずに駄々をこねる桂。

遂に真由美は「あー……」と困った様子で呟くと銀雪の方へ振り返る。

 

「すまんが少し待ってくれ、とりあえず俺が真由美殿を説得しておくから」

「手短に済ませろよ、俺時間ないんだから、長い間この体でいるともう一生銀雪さんのままなんだから」

 

銀雪には時間が無い、タイムリミットはわからないが早急に入れ替わり装置を破壊しないと元の体には戻れない。

とりあえず桂の事は真由美に任せつつ、彼女は雫とほのかの方へ振り返る。

 

「お前等何かあったらすぐあのバカ会長を盾にしろよ、嫌がったら思いきりぶん殴って従わせろ、俺が全面的に許す」

「どうしてああなっちゃたんだろ会長、一応アレでも元は人望と才能もあり十師族の血を引く優秀な生徒会長だったんだけどね……」

「そういう人だからこそしがらみのない世界で生きている内に変わっちゃったのかも」

「まあ確かに家でも学校でも優秀でいなければいけないから結構窮屈な人生送ってたのかもね……」

 

ほのかと雫が少々七草真由美という存在に哀れみと同情の気持ちを抱えていると。

 

「だがそんな重荷を一人で背負って生きて行く道こそが魔法師の、十師族の宿命みたいなものだ」

 

二人と銀雪の下へいつの間にか歩み寄って来たのは司波達也こと徳川茂茂。

 

「その重荷から背負う事から逃げ出して、宿命を捨ててただひたすら自分が望んだ道を歩もうとしてるあの人は、もう生徒会長どころか魔法師を名乗る資格すらない」

「へー、言うじゃねぇのお兄様」

 

やって来た彼に対し、銀雪がニヤリと笑って見せると、茂茂は彼女の方へ詰め寄る。

 

「俺はアンタと一緒に行くぞ、何度も言うが妹の身を護るのがガーディアンであり兄である俺の宿命だ」

「あーダメダメそいつは困る、今のアンタはお兄様ではあるが将軍の身だ。傷一つでも付いちまったら俺達の首が全部飛んじまうぐらいデリケートな代物なんだよ、そんな奴を激戦確実な場所においそれと簡単に連れて歩けねぇんですよ」

「ならアンタが俺の代わりをやるとでも言うのか? こんな事にならなければ俺達兄妹とは一切無縁の異世界の者でしかないアンタに、大事な妹を預けろとでも言うのか?」

「いや預けろっつうかもう一体化しちゃってるからね俺達」

 

将軍の体は総大将の体、何より一番護らなければいけないものだ。

それを迂闊に敵地の最前線に連れて行くなど愚策もいい所である。

しかし茂茂はこればかりは譲らないと銀雪に食ってかかる。

それに対して銀雪はまた挑発的に笑みを浮かべるだけ

 

「大事な妹さんとやらが得体の知れねぇ男の下に嫁いだぐらいでガタガタ文句言うなんてみっともねぇぞ、本当の兄貴ならそこは妹の為に黙って泣きながら赤飯炊いてりゃあいいんだよ」

「話を誤魔化そうとするな、確かに今の俺の身体ではアンタの様に満足には戦えない、だが本音を言えば」

 

茶化してくる彼女に冷たく返しつつ茂茂はフッと笑う。

 

「俺にとって将軍の体がどうなろうが知ったこっちゃない、いやアンタ等の世界や自分の世界の事だってどうでもいい。俺がこの世で大事なのは妹の深雪、ただそれだけだ。その為なら例え世界であろうが宇宙であろうが、お前達の世界であろうが喜んで敵に回して……」

 

茂茂が司波達也として初めて心の底で思っていた事を言ったその時……

 

「ぐ!!」

「お兄さん!」

 

ニヤニヤ笑うのを止めた銀雪が突然真顔で彼の顔面を思いきりぶん殴った。

その衝撃で茂茂は派手に後ろに吹っ飛ばされる。

 

「ぎ、銀さんと深雪!? 一体なんでお兄さんを!」

「……付き合ってらんねぇ」

「え?」

 

突然彼を殴りつけた彼女にほのかが思わず上体を起こして叫ぶと。

銀雪はクセッ毛の多い銀髪を掻き毟りながら吐き捨てるように呟く。

 

「これ以上ガキのワガママに付き合ってやる義理はねぇんだよこっちは」

「……俺が言ってる事がただのワガママだと?」

「ああそうだよ、それもわかんねぇからテメェはガキなんだよ」

 

口の中を切ったのか、茂茂は口を手で拭いながら起き上がるとすぐに目の前の銀雪を睨み付けるが。

彼女もまた得物こそ抜かないもののかなり苛立っている様子だ。

 

「大事なのは妹だけで他のモンは知ったこっちゃねぇ? 大したシスコンっぷりだが今のテメェは将軍の体を預かる身だという事忘れんじゃねぇ、テメェにどうでもいいと言われようが俺達にとってその体はテメェにとっての妹と同じぐらい護らなきゃいけねぇモンなんだよ」

「アンタ等の将軍を護ろうとする半端な覚悟と、俺が妹を護ると決めた覚悟を一緒にしないでくれないか?」

「ハン、笑わせんな、どっちが本当の半端野郎だ。言っておくがテメーは妹を護ろうとしてんじゃねぇ」

 

ポケットに両手を突っ込みながらペッと床に唾を吐き捨てながら彼女は茂茂を見下ろす。

 

「ただテメーの「覚悟」とかいうつまらねぇモンを護ってるだけだ」

「……なに?」

「妹の俺から見りゃあそんなただの自己満足にもう付き合ってられるかコノヤロー」

 

明らかに怒っている様子の茂茂にうんざりしながら一瞥して彼女は背を向けた。

 

「今のお前程度に護られる程銀雪さんはか弱くねぇ、誰が相手だろうが負ける気がしねぇんだよ、例え元の体に戻ったテメェだろうがな」

「……その言葉を言っているのは坂田銀時か、それとも深雪の方なのか?」

「どっちもだ、司波深雪はもうテメェの影に隠れて護られるなんざゴメンだ」

「……」

 

銀時が代わりに行っているだけはなく正真正銘深雪の本音、それを聞いて茂茂は遂に言葉を失う。

彼に冷たく言い放った銀雪だが、ふと首を垂れながら静かにボソッと呟いた。

 

「だからもういいだろ、妹を護る為にテメーの体を何度も危機に晒すのは……こんな時ぐらいテメーの身を心配しろよお兄様……」

「深雪……」

「今のお前は将軍だ、将軍にとっての覚悟は何があっても生き抜く事だ。忘れるんじゃねぇぞ」

 

最後にそう言って銀雪は歩き出す、護られる存在でなく、全てを終わらせる存在として。

その背中を追う事も出来ず引き止める事も出来ずに、ただ茂茂は呆然と見送るしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

そのまま銀雪がツカツカと一人で移動して数分後、遅れて真由美も彼女の隣に追いついた。

 

「貴様、待っていろと言ったではないか」

「あそこに長くいるとバカな兄貴のせいでイライラしててしょうがねぇんだよ」

「そんな事を言うな、アレはまだ子供だ、彼も真由美殿も色々考えて己の道を探している最中なのであろう。俺達も似たような経験があったであろう、ああいう年頃は色々と小難しい時期なのだ」

「いや色々考えた結果テロリスト目指すのはさすがにダメだろ、思いきり道間違えてるじゃん」

「テロリストではない攘夷志士だ。今の内に俺の帝王学をキッチリ学ばせていずれ真由美殿は俺達に負けないぐらい立派な侍になる筈だ」

「立派な侍になる前にこの件が済んだら間違いなく打ち首だよねあの子」

 

やや駆け足になりつつ銀雪はツッコミを入れながら話を続ける。

 

「そういやお前ちゃんと打ち首予定のバカ会長説得できたのかよ」

「ああまあ……少々手荒な真似はしてしまったが、きっとわかってくれたと思う……そう信じたい」

 

歯切れの悪い言い方をする真由美にジト目を向けながら銀雪はどうでも良さそうに「ふーん」と呟いた。

 

「まあああいうガキは自尊心を打ち砕いてぶん殴っておけばすぐ折れるもんだからな」

「それは貴様が達也殿にやった事であろう、だがしかし、あの男は貴様程度の拳では折れぬぞ」

 

真由美もまた駆け足になりながら前を見据える。

 

「あの者はまだ子供ではあるが強い、ゆくゆくは俺達など手も足も出ぬ程の強者になる才覚を持っている」

「わかってるよそんぐらい、誰の妹だと思ってんだ」

 

ふと少々離れた場所から何やら騒ぎ声が聞こえて来た、恐らく春雨の者達が誰かと交戦しているのであろう。

 

「だからこそアイツにはここで無駄死にさせたくねぇんだ、司波深雪としても、坂田銀時としてもよ。ああいう一直線に進もうとする信念を持った酔狂な奴は、俺は嫌いじゃねぇよ」

「フ、だからこそあの者にも俺達のような関係を築き上げる者がおれば良かったのにな」

「は? なんだそりゃ?」

「決まっているであろう」

 

喋りながら銀雪と真由美はすぐにその場所に辿りつく、案の定そこは春雨ととある二人組の乱戦と化していた。

 

千葉エリカと中条あずさ、たった二人で次々と敵を倒す彼女達の姿がそこにあった。

 

恐らくここから入れ替わり装置への道はもうすぐであろう。

 

 

 

 

 

「支え合ってくれる友が出来れば、どんな道であろうが突き進めるものだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場所は戻り先程銀雪と真由美がいた場所では、慌ただしく人達が動き出していた。

 

「うぉっしゃぁぁぁぁぁぁぁ!! 土方十四郎は近藤さんと沖田君をお助けに行ってくるぜ!」

「おいもういい加減その口調止めろ! 全然違ぇから! 俺がそんなマヌケな喋り方する訳ねぇだろ!」

 

どうやら体力が回復し終えた土方は近藤達のいる蓮蓬との戦いに戻りに行くらしい。

恐らくすでにもう始まっているであろう、一刻も早く行かねばと土方と、そしてリーナも叫びながらついて行く準備をする。

 

「ったく、総悟はともかく近藤さんの方は心配だ、俺が一瞬見た時は近藤さんが3人に増えてた、アレはきっと良からぬ事が起きる凶兆かもしれねぇ」

「ゴリラ3匹でゴリラゴリラゴリラだぜ」

「学名みたいに言うんじゃねぇ、とにかく早い所合流しねぇと真撰組としての面子が立たねぇ」

 

リーナにとって真撰組という存在は大きい、それを護る為なら命を捨てる覚悟だってある。

彼女にとって真撰組はそれをする価値が十分にある存在であり大事な居場所なのだ。

 

「テメェ等はここで隠れて休んでおけ、本当はあのバカに色々言われて腑抜けちまった将軍も連れて行きたい所だが……」

「うん、お兄さんは私達が見ておくから……」

「私とほのかはまだ魔法式の展開が出来るから問題ない」

 

こちらの方にチラリと横目を向けるリーナにほのかは大丈夫だと頷く。雫もまたとある人物が引っかかっている壁の方へ目を向けながら

 

「問題なのはここで磔にされている生徒会長」

「桂さぁぁぁぁぁん! どうして私を置いて行っちゃうのぉぉぉぉぉ!!」

「そいつはもうほおっておけ」

 

雫の視線の先にはピッタリと氷によって壁に貼り付けられている桂の姿が。

どうやら真由美の言っていた少々手荒な真似とはこの事だったらしい。

涙目で叫ぶ彼を見ながら素っ気なくリーナは呟いた後、背を向けて歩き出す。

 

「準備が整ったら俺達の後を追って来い、恐らく蓮蓬軍の本隊との戦いは入れ替わり装置の破壊に行ったアイツ等と同じぐらいの激戦になる。まともな戦力としては期待してねぇが何か役に立つかもしれねぇ」

「あの戦闘狂を術中にハメてた所から察するに、少なくとも簡単にノされたこの金髪クソビッチよりは役に立ちそうだものねあなた達」

「テメェもアイツにやられてただろうが! つーかさっきから口調ブレブレなんだよ! どっちにするかさっさと決めろ!」

 

ドサクサに乏してくる土方にキレながら、リーナは彼と共に走って行ってしまう。

 

ここに残されたのは未だ回復しきっていないほのかと、なんとか歩く事ぐらいは出来る様になった雫。

歩くどころか身動き一つ取れない状態で壁に貼り付けられている桂。

 

そして

 

「お、お兄さん大丈夫ですか……?」

「……」

 

その場に根を張ったかのように立ち尽くしている茂茂だ。

不安そうに尋ねるほのかではあるが、彼女の言葉も耳に届いていないのか、彼はただ無言でジッと銀雪が進んだ方向を見つめている。

 

「深雪を護るのは俺の役目であり存在する理由だった、しかしあの男は横からそれをかすめ取り、更には深雪そのものと一つとなり俺では選ばせられなかった道へと進ませた……」

 

まるで心にぽっかり穴が開いたかの様に茂茂は虚無感を覚えながら呟く。

 

「俺はそんなアイツに嫉妬していたのかもしれない、そして同時に焦りを覚えていたんだろう。深雪が俺の手を離れ、俺を一人置いて行ってしまうのかもしれないと。だからこそ俺はこの体になってなおがむしゃらに動いてそれなりに働いていたつもりだったんだが……」

 

本来の司波達也には感情というモノは無い、あるとしたらそれは妹に関わる事のみであった。

しかし今は違う、今彼の中にあるのは『劣等感』、そしてそれは妹である深雪ではなく坂田銀時という存在に向けられた感情であった。

 

「結果的に俺は自分の行いに満足して、本当の深雪を見ていなかった、深雪は俺に護られたいんじゃない、共に歩みたかったんだ」

「お兄さん……」

「だからこそ深雪はアイツと一緒になる事を選んだ、俺を護るだけでなく他のモノも護れるほど強くなりたいという信念を持って」

 

一人自暴自棄に陥っている自分にふと嫌気がさしてフッと笑ってしまう。

 

「これでは兵器としても、魔法師としても、そして兄としても失格だな……」

 

 

 

 

 

 

 

「将軍家たるもの、いかなる強固な壁が現れようと決して下を向いてはいけない」

「!?」

「え!?」

 

不意に背後から聞こえたその声に茂茂は思わず表情をハッとさせる。

一緒にいたほのかもまた彼の背後に立っているその人物を見て驚愕していた。

この聞き慣れているが違和感の覚える声、もしや……

 

「将軍とは常に前を見据え民を導く存在となり、いかなる犠牲を払ってでもその歩を止めてはならぬのだ」

「……」

「もっとも余はまだ、そんな風に強く生きていける将軍にはまだなれていないのだがな、余の為に血を流す者など、誰一人いて欲しくないのだから」

 

茂茂はゆっくりとその声がする後ろへ振り返る、なぜあの男がここに?という疑問と共に。

 

そしてそこに立っていたのは

 

「立場というモノは難しいモノだな、生き方も歩き方も誰かに決められ続けるのは辛いであろう? 余もそなたと同じだ、将軍という立場にいてもなお、かつて余は叔父上の傀儡として育てられていた」

「徳川茂茂……!」

 

現れたのは徳川茂茂の魂を納めている司波達也であった。本来の自分の体が今目の前に現れた事に茂茂は困惑している中、達也は真顔でゆっくりと話を進める。

 

「どうやらそなたと余は身分と境遇違えど似た者同士らしい」

「どうしてアンタがここに……桂小太郎にハメられて宇宙へと飛ばされたと聞いたが……」

「やはり桂の奴から何も聞かされていなかったか、ならばその件についての説明ついでに」

 

上手く頭が追い付いていない様子の茂茂に、達也はフッと笑うと彼に向かって優しく問いかける。

 

 

「どうだ? ここで一度互いに腹を割って話してみようではないか、状況も建て前も何もかも捨てて、ただの一人の人間としておぬしと話してみたいのだ」

「将軍……アンタは一体」

「もしそなたと真にわかり合う事が出来たなら、余とそなたで融合が可能となるやもしれん」

「!」

 

融合? それはもしや銀時と深雪が出来たあの事を言っているのだろうか……? 一体どこでそれを……

目を見開いてこっちを見る茂茂へ、達也はスッと手を差し伸べる。

 

 

 

 

 

 

「司波達也、余は願わくばそなたの友として共に歩みたい、その為にまず、この徳川茂茂がおぬしの力になろう」

 

嘘偽りのない言葉を乗せて

 

徳川茂茂と司波達也の心の対話が始まる。

 

 

 

 

 


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