銀時と深雪達が騒いでいる頃。
鬼兵隊と坂本達は別の部屋で今後の事について話を進めていた。
これから行う事がこの星に来た中で最もやらなければいけない事なのだから
「入れ替わり装置はこの近くにある通路の最深部に置かれています、我々は反乱軍が暴れて蓮蓬の者共が気を取られてる隙に、そこに忍び込み破壊する。これが我々の作戦です」
鬼兵隊参謀・武市変平太が事前に練っていた計画を皆に伝えると、その中で一人、千葉エリカが彼に一つ問いかける。
「入れ替わり装置の場所なんぞ誰も知らんかったというんに……その情報は一体どこぞで手に入れたモンじゃ?」
「やはり気になりますか、今更隠す必要はありませんね。実は我々は地球にいた頃からとある者から幾度も様々な情報を貰っていたのですよ、万斉殿」
武市が促すと河上万斉が前に出て代わりに話を始める。
「今起こっている入れ替わり現象の謎、蓮蓬の存在、そして異世界の存在など様々な情報を拙者達に教えてくれる者がおった、その者はここにいる蓮蓬と瓜二つの格好をしておったが、プラカードを使わず声で拙者達と対話したでござる。声からして男性ではあったが口調はまるで女性の様な、しかしそれ以外の事はわからぬ」
「ほう、誰だか知らんが高杉ん所の組織に単身で出向くとは大した肝っ玉じゃ」
鬼兵隊など自分達の世界では凶悪なテロリスト集団扱いされているのだが、そこにノコノコとやってくるとは勇気があるというか無謀というか……
「しかしその素性も知れぬ情報提供者の言ってる事が本当なら、高杉、わし等はすぐに行かねばならんの」
「ったりめぇだ、こんな所でウダウダと会話してるヒマはねぇ」
エリカが不意に話しかけたのは高杉晋助こと中条あずさ、本来なら可愛らしい少女なのであったのだろうが、今はもう見る影もなく、目を細めながらキセルを吸っている。
「何より俺の身体がこんなガキに支配されてると思うと腹の中が煮えくり返って今すぐにでも斬ってやりてぇ所だ」
「うう~……やっぱり高杉さん怖いですぅ……」
「大丈夫っスよ晋助ちゃん! 晋助ちゃんが私が一生護ってあげますからウヘヘヘヘヘヘヘヘ!」
未だ顔にモザイクかかったままの高杉を睨み付けるあずさ、それに対し怯える高杉を木島また子が嬉しそうに下品な声を漏らしながら介抱する。
その光景をあずさは何とも言えない表情で眺めるだけで何も言わなかった。
「ていうかさ、アタシからも一つ聞きたいんだけどいい?」
「ん? なんじゃおまん、珍しく積極的じゃの」
あずさと高杉の間に微妙な空気が流れているもにも関わらず、空気も読まずにサッと手を上げて万斉に尋ねようとするのは坂本辰馬
「アタシだってさっさとこんな身体おさらばしたいんだからやる気出るわよさすがに……あのさ、入れ替わり装置をぶっ壊せば晴れてアタシ等も元通りって最高のエンディング迎えられるけど、そこに至るまですんなりと事が進む保証はある訳?」
「当然無い、むしろ事がそんなに上手くいくなど絶対にありえぬであろうな」
「ほらやっぱり~……連中だって当然装置を破壊するのを死守するだろうし、装置の周りに護衛がいる事なんて当たり前だしね~……」
「それに敵は蓮蓬だけではござらぬ、宇宙海賊春雨、この者達もこの星の内部に潜伏している筈」
やはりそうかとガクッと頭を垂れて落胆する坂本、世の中そう上手くいくものではない、そもそもここに来る事だけでさえ何度も死ぬ様な目に遭っているのだから
項垂れる坂本をよそに万斉は話を進める。
「だからこそ白夜叉や桂小太郎を始め、攘夷戦争を生き抜いて来た猛者達が集まったこの瞬間こそ、装置破壊の好機だと拙者は考えている」
「わしと高杉、銀時にヅラか……」
かつて同じ戦場で背中を合わせ戦っていた四人の侍が再び手を合わせれば装置破壊も夢ではない。
そう願う万斉に対しエリカもまた三人の名前を呟きながらニッと笑う。
「そりゃおもしろか戦が出来そうじゃ、わし等が昔みたいに肩並べて戦うなんて何時振りじゃのぉ。のう高杉、おまんはどうじゃ?」
「フン、テメェ等なんざと行くつもりは毛頭ねぇよ、行くなら俺一人で十分だ。それに……」
この様な状況なのに楽しげな様子のエリカに対し、あずさはつまらなそうに返事すると
「戦ならもうとっくに始まってるだろ……」
「っておい、なに急に刀ば抜いておるんじゃ?」
突然腰に差した刀を鞘から抜き始めたあずさ、いきなり抜刀態勢に入る彼女にエリカが驚くのも束の間
「気付いてねぇのか辰馬、俺達はもう”連中”に袋のネズミにされてるぜ」
「なんじゃと!」
エリカが叫ぶと同時に、部屋の扉がバーンと勢いよく開かれてしまった。
「ヒャッハー! 皆殺しだぁ!! ずぶ!」
入ってきたのは蓮蓬とは違い異形な姿をした天人、気性の荒さから見るに数多の星で略奪行為を繰り替えて来た無法者集団、宇宙海賊春雨の一人であろう。
彼が入って来た途端、あずさはすぐさま動き出し、手に持った刀をその首に突き刺す。
「こんなモンじゃ余興にもなりやしねぇ、万斉、テメェ等は俺の身体を守っておけ。装置の破壊は俺が行く」
「待て晋助! 今の主の身体では満足に戦え……!」
春雨の斥候を一撃で絶命させながら刀を屍から抜くあずさに、万斉が言葉を言い終える前にまたもや春雨の奇襲部隊が彼女に向かってドアから襲い掛かって来た。
「テメェよくも俺のダチ公を!」
「小娘だからって容赦しねぇぞ!」
「その手と足引き千切ってアクセサリーにしてやるぜ!」
いかにも三下が使いそうなセリフをテンション高めに叫びながら彼女目掛けて襲い掛かったのは三人。
そんな彼等をまずあずさはその中の二人に絞って、血が滴り落ちる刀を後ろに構えると一気に飛び掛かり
「「ぐへぇ!!」」
「お、弟達よぉ!!」
空中で回転しその勢いで二人の首を刎ね飛ばす。あまりにも速いその斬撃に三人目が面食らっていると
「うぐお!!」
「狭い通路から奇襲かける時は、声なんぞ出すんじゃなかアホたれ」
あずさに気を取られてる隙にエリカが後ろから最初に殺した春雨の斥候が落とした刀を拾って構え、すぐにバッサリと両断。
ほとばしる血飛沫が顔にかかり、嫌そうに袖で拭いながらエリカはあずさの方へ顔を上げ
「高杉、おまんや銀時の奇襲戦法に比べればコイツ等全然大したことないの」
「アイツと同等にするな、アイツのみみっちい戦法より俺の戦術の方が遥かに上だ」
「相も変わらず負けず嫌いだのぉ互いに、アハハハハハ!!」
あくまで優位なのは自分だと譲らないあずさにエリカは不思議と懐かしさを感じ思わず笑い声をあげた後、彼女は後ろに立っている坂本の方へ振り返る。
「そんじゃまぁわしは高杉と一緒にちょっくら出掛けて来るきに、留守番ば任せた」
「はぁ!? ちょっと待ちなさいよ! アタシも連れて行きなさい! アタシだってこんな身体だけどきっと役に……!」
「おまんには鬼兵隊の連中と共に春雨の数ば減らしてもらうっちゅう大事な仕事が残っとる」
こんな危機的状況で置いてかれるなんてごめんだと抗議する坂本に対し、エリカは血で汚れたグラサンをポイッとその場に捨てながら、瞳が見える状態、ありのままの千葉エリカの姿で笑みを浮かべた。
「おまんにはおまんの戦い、わし等にはわし等の戦いがあるっちゅう事じゃ」
そう言うとエリカは奪った刀を肩に駆けながら彼に背を向ける
「それと礼を言っておくぜよ、おまんの体のおかげでわしはまた刀握れるようになった。他の三人と違うて剣術を嗜んどるおまんの体と入れ替えられて、わしはほんにラッキーじゃ」
「……」
最後にそれだけ言い残すと、無言で固まる坂本をよそにエリカは部屋のドアへと駆け出す。
「さぁて久しぶりに刀ば使える戦じゃ! 行くぞ高杉! まずは銀時とヅラの回収じゃ!」
「行くならお前一人で行きやがれ、言っただろ、俺は一人でも行くと」
「アハハハハハ! なら無理矢理にでも引きずっておまんも連れて行くまでじゃ! 力ならわしの体の方がずっとあるからの!」
絶対に一緒に行こうとしないあずさの後襟を掴んでズルズルと引きずっていこうとするエリカ。
しかしそんな時、あずさに対してずっと震えていた高杉が思い切って口を開く。
「あ、あの高杉さん……!」
「……あ?」
「ひぃ~!」
エリカに掴まれたままギロリと血走った目で睨み付けて来るあずさに怯えつつも、高杉は意を決して
「高杉さんの体! 私絶対に傷付かないようにしますから! だから無事に帰ってきてください!」
「……」
ここまで威嚇してくる相手に対して無事に帰って来いだのとよくもまあそんな心配が出来るものだと。
あずさは内心呆れつつ静かにフンと鼻を鳴らすだけで何も返事する事はせず
エリカに引きずられるまま共に行ってしまった。
いよいよ入れ替わり装置破壊作戦が開始となった。
一方その頃深雪達は茂茂から入れ替わり現象の説明を聞いていた。
その内容は当然、先程茂茂が謎の人物から託されたノートに記された人と人の魂と肉体を一つにするという秘術。
「融合だぁ?」
「ここに書いてる内容が正しければ、そういう事になる」
「おいおいお兄様、入れ替わりだけでもヤベェのによ、さすがにそれは無理なんじゃねぇの?」
彼の話を聞き終えた深雪は懐疑的な目で茂茂を見つめる。
融合、言うなれば合体みたいなものであるがそんな事普通出来るのかどうも疑わしい。
そう思っている彼女の下に仲間である北山雫がツカツカと歩み寄るとポケットから一枚のカードを取り出し
「私は魔法カード「融合」を発動~」
「いやそれ使っても無理だって、ブルーアイズ三体じゃあるまいし」
「「入れ替わりし魔法師 司波深雪」と「入れ替わりし万事屋 坂田銀時」を墓地に送り、私はエクストラデッキから「超魔法侍 万事屋 坂波銀雪≪さかばぎんゆき≫」を融合召喚~」
「なに坂波銀雪って? 無駄に語呂良いのが逆に腹立つんだけど?」
何故そんなカードを手に持っていたのかはいいとして、そんな事で融合されてたまるかと深雪は軽く雫の頭を叩きながらツッコミを入れていると、深雪と共に茂茂の話を聞いていた坂田銀時が不敵に笑い出す。
「フッフッフ、私はわかったぜお兄様、このバカな妹なら到底理解出来ねぇようだが、要は合体すればすんげぇ力が手に入るんでしょ、ならちゃっちゃっと済ませようじゃねぇか」
「なに!? お前どうやって出来るのかわかったのか!?」
「簡単な事だ、もうちっとシンプルに物事考えやがれコノヤロー、つまり……」
腕を組み壁に背中を傾けながら銀時はキチンと理解した様子、分かっていない深雪に対し彼が導き出した答えとは
「お前先にシャワー浴びて来い、後から俺も行くから」
「って合体ってそっちぃぃぃぃぃぃ!?」
合体ではあるが全く別の方向、アダルト的な合体だという結論に至っていた銀時に深雪は叫びながら額に青筋を浮かべる。
「誰がテメェとこんな所で合体なんざするか! シンプルに物事考えろってシンプル過ぎるんだよ! 原始人の発想レベルだろうが!」
「人は皆愛を求める時原始に帰るのさハニー」
「お前だけ帰れ! 永遠に戻って来るなバカ!」
甘え口調でとんでもないアホな事を言い出す銀時に深雪が怒鳴っている中。
もう片方の入れ替わり組、七草真由美と桂小太郎も茂茂の話を聞いて驚愕していた。
「バカな入れ替わり組による融合だと! そんな事が本当に出来るのか達也殿!」
「まだいたのか裏切り者、今すぐ粛清してやりたい所だが俺達はお前等に構ってる暇などない」
「桂さんちょっと目を離した隙にいつの間にか達也君がすんごく冷たくなってるわ! ゴミを見る様な目で私達を見ているわ!」
「最近の若者はすぐコレだ、ちょっと嫌な事があったからってすぐにへそを曲げおって。だがそんな事はどうだっていい!」
将軍の魂を宇宙へ発射させておいてどの口が言うかと、茂茂は前よりも数段真由美達に嫌悪感を示すが。
真由美は彼の事などお構いなしに話を進める。
「問題なのはどうして超絶仲良しコンビである俺と真由美殿ペアがその融合とやらが未だ出来ないという事だ!」
「そうよ! 私と桂さんはもはや水魚の交わりと呼んでもいい存在! そちらの険悪コンビより私達の方がずっとその力に相応しい筈だわ!」
「その通りだ! ずっといがみ合いを続けている銀時と深雪殿ではそんな事出来る筈がない!」
再び仲良く互いの腰に手を回して仲良しアピールをする真由美と桂、そんな二人を遠目から見ていた光井ほのかが「あの~」っと恐る恐る歩み寄って口を開く。
「もしかして二人の間で若干のズレがあるとかそういうのがあるんじゃないですか? だからお兄さんのいう融合が出来ないとか?」
「バカな! 俺と真由美殿にそんなものがある訳ないだろ! 互いに高みを目指し切磋琢磨し! 互いに将軍の首を狙い幕府打倒を願う! そして互いに日本の新たな夜明けを目指している! これ以上の間柄に一体どこにズレなどあるというのだ!」
「フフフ、何を言い出すのかと思いきやほのかさんったら、私と桂さんの仲に限ってそんな事ありえないわ」
確かに二人の仲は良好なのは一目瞭然である。断固たる信念でそれを否定する真由美と共に、桂も笑みを浮かべながらほのかの意見を一蹴した。
「まあ添い遂げるパートナーのいないほのかさんがそんな事言っちゃうのもわからなくもないわ、昔の私も同じ側だったし。けど私と桂さんの仲慎ましい光景に思わず嫉妬しちゃうのは良くないわね」
「え、嫉妬? 真由美殿それは一体どういう……」
「やあねぇ桂さんったら照れちゃって、今更口に言う事でもないでしょ~」
「?」
アゴに手を当てながら意味深な言葉を呟く桂に真由美が怪訝な表情を浮かべるが、彼は笑いながらそれを流す。
桂に対して初めて真由美が疑問を浮かべた頃。
リーナ&土方十四郎ペアも茂茂の言っていた融合について部屋のドアの近くで考えていた。
「こんな小娘と合体なんてごめんだぜ、土方十四郎は常に俺ただ一人、余計なコブなんざ付けたくないんだぜ」
「誰がコブだ! テメェこそ俺の超ド級の巨大コブだろうが! つーかなんでそんな頑なに土方十四郎に成り代わろうとしてんだテメェは!」
「成り代わる? な、何を言っているのわからないんだぜ……わた、俺は正真正銘この世で唯一無二の土方十四郎であって……」
「おいいい加減にしろよテメェ、もうとっくに周りにバレてんだよ。いい加減正直に……」
喋れば喋る程ボロが出始める土方十四郎に対してリーナが段々苛立ちを募らせていると。
「あん?」
「どうしたんぜ小娘」
「足音、それもこの数は一人や二人じゃねぇ……」
ドア付近に立っていたリーナの耳に怪しい音がドアの向こうから聞こえて来た。
全く気付いていない土方をよそに、リーナは腰に差してる刀に手を伸ばそうとする。
すると
「地球の猿共の臭いがプンプンするのはこの部屋かぁ!」
「!」
突如ドアを蹴破って中へと入ってきたのは先程鬼兵隊と坂本達に襲い掛かった春雨の一人。
いきなりの敵襲に一瞬面食らうリーナだがすぐに持っていた刀を抜こうとする、だが
「ギャァァァァァァァ!! 化け物ォォォォォォ!!」
「ぐふぅ!」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!?」
いきなり訳のわからない敵が現れパニックになった土方が、自分と敵の間に躍り出て刀でぶった斬ってしまう。
自分が先陣を切ろうと思っていたリーナなのだが、空気も読まずに土方が一手柄取ってしまう。
「一体何なのよこのタコみたいな顔した化け物は! 蓮蓬ってみんななんとかのQ太郎みたいな姿してなかった!?」
「おい土方十四郎、完全に女口調になってんぞ」
「思わず斬っちゃったけどいいのよね!? 私は悪くないわよね!? 正当防衛的なアレよね!?」
「もう完全に素になってるじゃねぇか」
血を噴き出して倒れる敵からこちらの方にクルリと振り返りながら鬼気迫る表情で同意を求めてくる土方にリーナがボソッとツッコミを入れながら刀をスッと抜く。
「まあいい、俺の身体をちゃんと使いこなせてる訳じゃねぇが多少は出来るみたいだな、行くぞガキ」
「この土方十四郎に命令するんじゃないわよ! ちょっと可愛いからって調子乗ってんじゃないわよ! ちょっと世界一の美少女だからって生意気抜かすんじゃないわよ!」
「おいコイツ素になったらなったらでますますめんどくせぇんだけど!? 元の土方十四郎モードの方がまだマシなんだけど!?」
自分と同じ姿した者が女口調で叫び出すのを見るのはこんなにもキツイモノなのかと、リーナはほんのちょっぴり深雪に対して同情を感じつつも、とにかく彼を連れて部屋を出て行く。
残された深雪達もまた戦いが始まった事を察知して、各々得物を構える。
「クソ、これ以上合体だのなんだの考えてる時間はねぇって事か……よしオメェ等、お兄様を全力で御守りしながら敵陣突っ込むぞ」
かつて何者かが持って来てくれた木刀を構えながら周りの者に命令する深雪。
そして銀時もまた木刀を肩に駆けながら同じように
「死ぬ気でお兄様護れよオメー等、お兄様が斬られそうになったらすかさず盾になれるようにしておけ、安心しろ、ただ死ぬだけだから」
「そうだただ死ぬだけだ、けどお兄様は生きている、それでこの世は救われるんだから心置きなく死んでいけ」
「この二人お兄さんを護る事に関しては意見が一致するんだよねってうわ!」
「ヒィィィィィハァァァァァァァァァ!!!」
二人揃って似た様な事かつ酷い事を言いながら戦闘態勢に入る深雪と銀時を交互に観察しながらほのかが呟いているのも束の間、天井から穴を空けて春雨の兵達が入って来るではないか。
「なんか天井から落ちて来た! やけに頭の薄い小太りの化け物が!」
「ヒーハー!!」
襲われてるにも関わらずやけに冷静に敵の特徴を上手く説明するほのかに対し、敵は奇声を上げながら彼女目掛けて飛び掛かる、だが
「丁度いい機会だ」
「ヒハァァァァァァァ!!」
「お兄さん!」
「この身体がどこまで使えるか、試してみよう」
ほのかに襲い掛かる敵を背中から刀を垂直に斬り下ろしたのは茂茂。
どうやらこの身体を上手く扱えるかテストしてみようと思っているらしい。
「貴様よくも俺の相方を! どうかしてるぜ!」
「やれやれ、今度は顔面ブツブツの妙に饒舌そうな化け物まで出て来たか」
両手に持った刀を構えながら茂茂は次々に現れる敵と対峙しつつ深雪達の方へ目をやると
「おら死ねぇ! お兄様を殺そうとするクズは今すぐ死ねぇ!」
「ギャァァァ!!!」
「今お兄様を殺そうと狙ってた奴はどこのどいつだ! テメェかぁ!!」
「グヘェェェェェェェ!!!」
共に木刀を振りかざし、兄に歯向かう輩を抹殺対象とみなし暴れ始めている。
しかし銀時の方は強靭な身体能力があるも無駄な動きが多く、深雪の方も少々心もとない戦い方であった。
「だぁぁぁ!! 全然力出ねぇ! なんか俺もっと力あった筈だよな!? なんかうまい具合に得物振り回せられねぇんだけど!?」
「クソったれ! ワラワラと沸きやがって! 銀さんナメんじゃねぇ!」
先程まで随分と長く蓮蓬と戦い過ぎたのが仇になったのか、(銀時の)体にまだ疲労が残っている事に体の持ち主(司波深雪)が気付いていないらしい。次々と押し寄せてくる春雨の海賊団に少しずつ押され気味になっていく。
「うお!」
「ゲヘヘヘヘヘ、これでオメェもおしまいだ……」
隙を突かれてトカゲみたいな姿をした敵に刀を振り下ろされ、木刀で受け止めるも銀時の顔にみるみる敵の刃が近づいていく。
体に疲れが生じ力のコントールが出来なくなってしまったのだ。このままだと殺される、そう銀時が思ったその時。
「深雪!」
「げばぁ!」
「お兄様!」
殺されそうになっている銀時の下へ茂茂が颯爽と現れ敵の首を刀で斬り落とす。
間一髪の所で彼に助けられた銀時は歓喜の声を上げた。
「さすが私のお兄様です! こんな身体になっても私を助けてくれるのですね!」
「ああ勿論、ん? 深雪お前、もしかして元に……」
自分の体が本来の体と違うと認識している様子の銀時を見て茂茂が目を細めている中。
「お兄様ァァァァァァァ!! こっちもヘェルプ!!!」
「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
突如今度は深雪の方が悲鳴を上げ、必死に部屋の中を逃げ回りながら彼に助けを求める。
力が弱くなってしまった上にあずさ(高杉)や真由美(桂)とは違いその体での戦い方を熟知していない。
春雨の斥候相手に半泣きで逃げる深雪、だが
「はいどーん」
「あばばばばばばばばば!!!」
「!?」
逃げてる深雪を追う敵に対し、手の平から魔法式を作成し放ち助けたのは北山雫。
彼女に手の平を向けられた途端、次第に敵は頭を押さえながら狂ったように叫び声を上げる。
「共振破壊、これ人間に使ったらマズイんだけど、人間じゃないならいいよね?」
彼女が扱った魔法の名は共振破壊。
対象物に無段階で振動数を上げていく魔法を掛け共鳴点を探し、「振動させる」という事象改変に対する抵抗が差異も小さい共鳴点を発見した時点で、対象を振動破壊する。
本来の用途は別にあるのだが、もし普通の人間相手に使ったら平衡感覚を損失する程の強烈なめまいや吐き気の症状を発し、たちまち気絶してしまうであろう。
現にその魔法を浴びせられた相手は口からブクブクと泡を噴き出しながらバタリと倒れてしまった。
「ふぃ~」
「ハハハ……ずっと仏頂面しておいてやる時はやるじゃねぇか」
見事に敵を倒して見せた雫に対し深雪は内心(おっかねぇ術持ってんだなコイツ……怒らせねぇようにしねぇと)とビビりながらも彼女の方へ歩み寄って行く。
「まあ一応礼ぐらいは言っておいてやらぁ、あんがとよ」
「宇治銀時丼1杯」
「は?」
素直じゃない言い方でとりあえず礼だけはする深雪に対し、雫は人差し指一本立てて要求する。
「食べさせてくれたら貸し借りナシにしておいてあげる」
「……おめぇ俺の宇治銀時丼食えんの?」
「興味はある、だから食べたい」
「へ、そうかい」
周りの者からはゲテモノ扱いされている宇治銀時丼を是非食べてみたいと無表情で要求してくる彼女に思わず笑ってしまう深雪。
「だったら1杯だけじゃなく好きなだけ食わしてやらぁ、食べればすぐに俺みたいにやみ付きになれるぜ」
「ますます興味深い」
「本当何考えてるよくわかんねぇなお前……、まあいいさ、だったらとっととこんな面倒事片付け……」
何やら同じ味を共有できる仲間が出来そうな事に少々喜びを感じつつ深雪はとりあえずこの部屋から出ようと出入口の方へ振り返える
だが
「がはぁ!」
「げふぅ!」
「!」
突如部屋の出入り口からこちらに向かって飛んできたのは、先程部屋を出た筈のリーナと土方。
二人揃って派手にぶっ飛ばされて再びこの部屋に戻って来た事に深雪が驚くのも束の間。
部屋の中に彼女達を吹っ飛ばした張本人がゆっくりと入って来た。
「こんちわ~、ウチのモンがお世話になってまーす」
「お、お前は神威!」
「へぇお嬢さん俺の事知ってんだ、異世界でも有名になってるのかな俺?」
やってきたのはあろう事か、春雨の第七師団の団長、神威。
ちょっと前に真由美達と出会い、その後リーナとやり合い彼女を下層部まで突き落とした程の強者。
ここで彼と会うのは初めてであった深雪は思わず面食らった表情を見せるがすぐにヤバいと認識し
「テメェ等、コイツとはまともにやり合うな、今までの雑魚共とは比べモンにならねぇバケモンだ」
「強いの?」
「ああ、お兄様が最強のお兄様だとしたら」
隣りに立つ雫の質問に答えつつ深雪は前方の神威を見つめる。
「アイツは最凶のお兄ちゃんだ」
「ハハハ、そんなビビらなくてもいいって、今の俺は入れ替わり組には興味無くてね、一つ俺の質問に答えてくれるならここ通してあげるから」
ニコニコと微笑みかけそう言いながら神威は
額から血を流してぐったりして目を瞑っている光井ほのかをこちらに掴み上げ見せて来た。
「この弱っちいのって入れ替わり組? 違うなら殺すけどいいよね?」
「「「「「!!!!!」」」」」
あまりの出来事に深雪どころか茂茂も言葉を失ってしまった。
神威が笑顔を浮かべながら制服の後ろ襟を掴んでる少女は、紛れも無く先程まで自分達と同じ部屋にいたほのかであった。
この騒ぎに生じて彼女は運悪くこの男の牙にかかってしまったのである。
「テメェ……よくも!」
護ってやれなかった事にショックを隠せないでいる深雪。
しかし彼女が何か言おうとする前に
北山雫は既にに神威目掛けて駆け出していた。
「っておいお前!」
「あり? もしかしてこの子のお友達だったかな?」
深雪が手を伸ばして呼び止めようとしても、神威がのほほんとした感じで尋ねても、雫は何も答えずただ目の前の敵を倒さんと無言で突っ込んで行く。
そして一気に距離を詰めると、雫は神威目掛けて飛び掛かる。
その時の彼女の表情は彼にしか見えず、それを見た神威は目を見開き不敵に笑う。
「へぇ~こりゃ驚いた、小さいクセに大した面構えじゃん……!」
「……」
雫が友の仇である神威に対してどんな表情を浮かべていたかはわからない。
だが少なくとも血生臭い戦いを欲する彼はその顔を見て満足げだ。
そして手に持っていたほのかをその場にほおり捨てると神威の中でスイッチが入る。
「……」
そんな彼に対して雫は再び手の平を突き出して、先程の共振破壊を飛び掛かったまま発動。
今度は一切の躊躇も見せずに
「あれ?」
頭の中を高速でシェイクされた様な奇妙な感覚が彼を襲う
「おっとこれは結構ヤバい」
思わずグラリと頭を揺らして倒れそうになる彼に対し、雫は術式を解除しないままさらに距離を詰めて術の威力を強くさせようとするも……
「けどまだ全然だ」
「!」
倒れそうな体制の状態から神威は雫が近づいて来た途端、ガバッと体勢を整えると右手の拳を構え
「がは!」
「!」
「げほ!げほ!」
正拳を彼女のどてっ腹に思いっきり浴びせる。
今まで味わった事ない強烈痛みが雫の腹部を襲い、そのまま勢いで壁にまでぶっ飛ばされてしまう。
壁に打ち付けられた雫は口から血を吐きだし、その場にズルズルと倒れ込んでしまった。
「雫!」
「バカ野郎! 柄にも無く無茶しやがって!」
一撃とはいえ夜兎の拳をまともに受けて無事で済むとは思えない。彼女の下に銀時だけでなく深雪もすぐに駆け寄ってしゃがみ込む。
「雫! 気をしっかり!」
「ハァハァ……」
「夜兎の拳、ましてやあのバカ兄貴のモンをモロに受けちまったんだ、しばらくはロクに立つ事すら出来ねぇだろうさ」
銀時の悲痛な訴えに雫は何も言えずお腹を押さえながら荒い息を吐くだけ
そんな彼女診ながら、深雪はゆっくりと彼女の頭に手を置く。
「だからそこでちょっと休んでろ、宇治銀時丼食う前に腹壊しちまったら勿体ねぇだろ」
「……うん」
優しくそう言いながら深雪が彼女の頭を撫でてやると、雫はやっと返事をしてくれた。
それを聞いて深雪はフッと笑った後、再び真顔に戻って立ち上がる。
「テメェがあの野郎に届けたかったモンは、俺がキッチリ届けてやるからよ」
深雪は手に持った木刀をグッと強く握り前方にいる神威を見据える。
まだ頭がクラクラしているのか手で頭を押さえながらも彼女を見てニッコリ微笑んでいた。
「へぇなるほど、お嬢ちゃんからはあのお侍さんと同じ匂いがする。てことはそっちのお侍さんの体してる方と中身入れ替わってるって事か」
「どっちがどっちだなんて今更関係ねぇよ」
どうやら銀時と深雪の正体に勘付いたらしい、そんな神威に深雪と同じく銀時もまた返事しながら木刀を肩に掛ける。
「どの道私とコイツでテメェをぶっ倒すだけだ」
「二人まとめてかかってくるって事? 残念ながら俺は入れ替わってる人たちは相手にしたくないんだ、だって本来の体じゃないと本気なんか出せやしない、そんな相手を殺しても面白くないだろ?」
「「それはどうだろうな」」
「?」
神威自身はこの勝負に何の興味もないし理由も無いが、深雪と銀時にはちゃんとした理由がある。
ほのかや雫を傷つけられて、二人の中で何かが共鳴し始めた。今までいがみ合っていた二人が共通する敵を前にした瞬間、その意識が混合し始める。
「俺の万事屋のモンに手ぇ出した落とし前」
「私の友人に手ぇ出した落とし前」
「「ここでキッチリ付けてやらぁ!!!」」
その瞬間、突然深雪と銀時を中心に眩い光が放たれる。
「深雪! く! これはまさか!」
「銀時、そうかコレが達也殿が言っていた……」
双方違わぬ魂となれば、双方違う器は一つとなれる、
さすれば二つの魂は一つの器に収まり
魂もまた一つに合わさりその器は強大となるであろう
茂茂と真由美はその眩しさに腕で目を覆うも、光の中で銀時と深雪の姿が消えていく所が見えた。
そして
(あり? なんだここ、視界が真っ黒だ)
目を開ければそこは虚空、何もない暗闇の世界に立っていた自分、そしてふと自分の体を見下ろすと
「え、嘘!? これ俺の身体じゃん! よっしゃぁ元に戻ったぁ!!」
いつの間にか自分の体が元に戻っていた事に気付いた銀時、嬉しそうにはしゃいでみるがすぐに我に返って立ちすくす。
「って戻ったはいいけど一体どこだここ? なんも見えねぇし……」
懐かしき天然パーマを掻き毟りながら銀時は辺りを見渡していると
「私もとんでもなくアホ面で死んだ目をしたおっさんしか見えません」
「え? うお!」
いつの間にか自分の傍に何者かが立っていた事にやっと気付く銀時。
彼の目の前に立っていたのは
「互いに元の体でお会いするのは初めてですね、坂田銀時さん」
「……座敷童……」
「司波深雪です、ぶっ飛ばしますよ」
暗闇の中でもはっきりと見えるその姿は先程まで自分が借りていた体。
そしてその体本来の持ち主である司波深雪もまた元に戻っているみたいだった。
「私達がどうしてこんな空間にいて、どうして互いの体が元に戻っているのかはわかりません、本来なら元に戻れた事に喜びたい所なんですがすぐにでも戻らないと」
「仕事がまだ残ってるからな」
「ええ、私とあなたにはまだやるべき事が残っています」
銀時に対し深雪は強く頷くとスッと彼に手を差し伸べる。
「お兄様だけじゃなくほのかや雫、他のみんなを護れる強さを欲した時、いつの間にか私はここにいました」
「俺も似たようなモンだ、で? いいのお前? こんなおっさんの俺とで」
「ええ、相手があなただという事に不満はありますが、残念ながら他に選択肢が無いので」
「可愛くねぇガキ」
微笑を浮かべる深雪のに不機嫌そうに鼻を鳴らしながら銀時は彼女が差し伸べている手を握り返した。
その瞬間、二人の周りが輝き始め、暗闇の世界に光が灯される。
「テメェには色々と言いたい事があるんだ、全部片づけても逃げんじゃねぇぞコラ」
「それはこちらの台詞です」
光の中で目を合わせながら銀時がフッと笑うと深雪もつられて笑い
「銀時! 無事か!」
「深雪!」
「銀さん! 深雪さん!」
二人を包み込んでいた光が徐々に消え始め、
真由美と茂茂、桂が心配そうに光っていた中心を見つめる。
そしてそこにあった二つの影は一つとなり、シルエットと共にその者は現れた。
「ったくうるせぇな、そんな叫ばなくても出てやるっつうの」
「「「!!!」」」
その者の登場に一同驚愕の表情を浮かべる。
けだるそうに喋るのは少女の声。
腰まで伸びた長い銀髪には所々にクセッ毛が飛び出ており
腰の両側に差すのは「洞爺湖」と彫られた二本の木刀。
服装は国立魔法大学付属第一高等学校の制服ではあるが、その上には空色の着物を袖に通さず羽織っている。
履いてるブーツを踵で合わせながら、彼女は現れた。
「へぇなるほど、合体するってこういう感じなのか、へ~なるほどなるほど」
顔は本来であれば百人見れば百人見とれてしまうであろうな美少女なのだが、その表情にはしまりがなく目は死んだ魚の様な目をしていた。
彼女の登場に周りが驚いて言葉を失ってる中で、敵である神威が笑顔で問いかける。
「誰、キミ?」
その問いかけに対し、少女は振り返りながらニヤリと笑って返した。
「坂波銀雪≪さかばぎんゆき≫」
今回登場した銀さんと深雪が合体した姿、坂波銀雪。
一体どれ程強くなったのかわかりやすく例えてみます
入れ替わりし魔法師 司波深雪 ☆3 魔法使い族 ATK1500 DEF900
効果モンスター
➀このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「坂田銀時」として扱う。
➁このカードが召喚・リバースした時、デッキから「万事屋」と名のついたカード1枚を手札に加える
入れ替わりし万事屋 坂田銀時 ☆6 戦士族 ATK2300 DEF1800
効果モンスター
➀このカードのカード名は、フィールド・墓地に存在する限り「司波深雪」として扱う。
➁このカードの攻撃力は自分のフィールド・墓地に「司波達也」がある限り500アップする。
超魔法侍 万事屋 坂波銀雪 ☆10 戦士族 ATK3300 DEF3000
融合+効果モンスター
「坂田銀時と名のついたモンスター」+「司波深雪と名のついたモンスター」
➀このカードの融合召喚は上記のカードでしか行えない
➁このカードは自分の場に存在する限り、このカードのコントローラーは「坂田銀時」「司馬深雪」を自分の場に出す事は出来ない。
➂このカードは自分の場に出ている「万事屋」か「司波達也」と書かれているモンスターの種類の数によって以下の効果を得る
1種類 自分の場の「万事屋」か「司波達也」と書かれているモンスターは攻撃力500アップする
2種類 このカードが攻撃する場合、相手はダメージステップ終了時まで魔法・罠カードを発動できない
3種類 このカードの攻撃で相手モンスターを破壊した時に発動できる。このカードはもう1度だけ続けて攻撃できる
4種類 このカードは相手のカードの効果を受けない
5種類 このカードがフィールドに存在する限り、自分の場のモンスターはこのカードと同じ効果を得る。
6種類 相手フィールドのカードを全て除外する
ね? わかりやすいでしょ?