「あったぞ、恐らくこの二人はこのケースの部類だな」
「本当ですか!?」
さて場所は再び新八達のいるの方へ
沖田と神楽の異変に気付いた新八はどうしたもんかと途方に暮れている所に突如思わぬ助け船が現れた。
司波達也、そして今の名は徳川茂茂。
将軍の立場である彼がどうしてこんな所に来ているのかは甚だ疑問ではあるが考えてる時間はない、新八は彼と一通りの出来事を話し合った後(桂と将軍の件は伏せて、余計な騒ぎを起こさぬ為に)、謎の人物から貰ったノート、通称ZAKINOTEを彼に託したのであった。
そしてノートを開きながら茂茂は目の前にいる神楽と沖田の方へ目をやる。
「入れ替わり現象での失敗するパターンの一つだ、魂が別の体に入る時にその体の潜在能力があまりにも高すぎると、入れ替わった魂を一瞬で飲み込んでそのまま自我をも奪い、果てはその体の記憶を頼りに自己を作成する、とな」
「えーと、つまり今の神楽ちゃんと沖田さんは中身は別の人なんですけど、神楽ちゃん達が強すぎて弱い魂は記憶を失くして、代わりに神楽ちゃん達の記憶を持って成り代わったという事ですね」
「その通りだ」
「凄いですねもうそのノートの書かれた内容を理解しちゃうなんて」
パラパラとノートをめくりながら茂茂は頷く。あのノート、実は新八は一人でこっそり読んでみたのだが、あの人物の言う通り複雑な暗号の様な物でびっしりと書かれているのですぐに読むのを諦めていたのだ。
しかし茂茂はあっさりとノートの暗号を看破。彼曰く魔法式に乗っ取ったパズルを組み立てるような感覚だったらしい。
「それにしてもこのノート、特に気になるのは誰が書いたのかだ、あまりにも詳し過ぎる」
「そこなんですよ、僕もずっと引っ掛かってまして……結局正体を現さずに姿を消してそれっきりですし」
「まあ今はその事については置いておこう、まず問題なのは」
山崎だと偽って新八に幾度も助言をしていた人物の正体はさすがに茂茂もわからない。
こうして役に立つ物を渡してくれるのだから敵ではないと思うのだが……
しかし今はそんな事よりもまずこの二人の事であろう、茂茂はノートから顔を離して神楽と沖田の方へ。
「この二人には本来の”自分の記憶”を思い出させないようにする事だな、この二人は戦力になるし今記憶を思い出して面倒な事になったらマズイ」
「入れ替わった人には悪いですけど装置が壊れるまでこのままにしておきましょうか」
「うーむ、そうだったアルか、まさか私もユッキーと同じ世界の人間だったとは、けど全然覚えてないネ」
「そう言われりゃあ俺も何か引っかかるな、例えば」
茂茂と新八が現状放置を決める中、当人である神楽達は腕を組みながらなるほどと自分の置かれた状況を理解した様子。
そして沖田はというと、茂茂の方を指差して
「お前見てると無性にムカついて来るんだけどなんで?」
「いやそう言われてもな、もしかしたら俺と元の世界で会っていたんだろう、こう見て俺は他人の恨みを買う事も少なくはないし」
「うわなんかすっげぇイライラして来たわ、ごめんちょっと一回だけ斬っていい? 一瞬で済ますから」
「ちょっとぉニセ沖田さん! アンタ将軍の体の達也さんになにする気ですか!」
反射的に自分の刀を抜こうとする沖田を慌てて新八が止めていると、今度は神楽もまた小指で鼻をほじりながら茂茂をジーッと眺めて
「そういえば私もお兄様を見てるとなんか思い出しそうアル」
「ええ! ニセ神楽ちゃんまで!?」
「なんだろう、学校とかそんなの行かなくていいから早くウチに就職してくんないかなぁと」
「どんな記憶!?」
「きっと本来の私は売上の乏しいしがない工場で働いていた工場長だったんだヨ」
「なんでしがない工場長がこんな大規模な戦争に巻き込まれてんだよ!」
「あーあ、もうガーディアンとかそんなんいいから早くウチ来てくれないかなぁ、ウチで働けばもれなく残業代ゼロで休日ゼロで馬車馬の様にコキ使ってやるのに」
「しかも滅茶苦茶ブラックだよ! 達也さん社畜にする気満々だよ! 最低だよこの漆黒工場長!」
ジト目を向けながらブツブツと茂茂に文句を言い始める神楽、茂茂はそんな彼女とこちらにすぐにでも刀を抜こうとしている沖田を交互に見た後アゴに手を当て
「……なんか妙に思い当たる節があるんだが」
「え! 達也さん知ってるんですか工場長!?」
「工場長ではないが、もしかしたらこの二人……」
どうやら茂茂が司波達也だった頃にこの二人の正体とコンタクトを取った覚えがあるらしい。
新八が驚く中、茂茂は頭の中で推測しながら彼の方へ顔を上げ
「めんどくさいから永遠に記憶を思い出してもらわない方がいいかもしれない」
「どういう事それ!?」
「とにかく、この二人の事はそっちに任せた、もしその二人が本来の記憶を思い出したらそうだな……拘束してどこぞの部屋に閉じ込めておいてくれ」
「どんだけイヤなんすかこの人達!」
なんだかあの二人を相手にしたくないっと言った感じで新八に丸投げする茂茂、そして彼から受け取ったノートを開きながらどこかにいるであろう深雪(今は銀時)をキョロキョロと探し始める。
「さて俺はもう行かなければ、深雪を連れて一度銀さんの所へ戻る事にするよ」
「え、銀さんの所にですか?」
「実はこのノートの最後のページに気になる事が書かれていてな」
そう言って茂茂はノートの最後のページをめくる。
「入れ替わり現象における蓮蓬さえも知りえなかった究極の超常現象」
「あ! それってもしかしてあの人が言ってた入れ替わり現象によるプラスの効果の可能性を持つ事ですか!? 読めたんですか!?」
「読めるには読めたんだが、だがまだ完全には理解していないんだ。どうも他人に読まれても理解できぬ様に複雑な書き方をしていてな」
ノートを託した人物が言っていた事を思い出す新八は一体どんな事なのか見当も付かないでいた。
茂茂もまた読む事は出来てもその意味を理解するには至っていなかったようだ。
「器を入れ替えし二つの魂、時を重ねて仮の器と同化せん
双方違わぬ魂となれば、双方違う器は一つとなれる、
さすれば二つの魂は一つの器に収まり
魂もまた一つに合わさりその器は強大となるであろう
しかし注意せよ
一度魂合わせれば、入れ替えられし元凶を止めぬ限り二つの器と魂には戻らぬ
更には強大せし器、長き時を重ねるとその器と魂もう永遠に元に戻らず
その事、決して忘れるべからず」
ノートに最後に書かれていた情報を茂茂は口で教えてくれた。
新八はそれを聞き終えると「うーん」と難しそうに顔をしかめる。
「確かになんか古文やら現代文やらを混ぜて暗号みたいになってますね……でも何かとんでもなく凄い事が起きるけど、とんでもなくヤバい事だから気を付けろ的な事言ってるみたいですね」
「俺もまだそんな風にしか理解できていない、しかしこれが深雪と銀さんであれば実現出来るかもしれないと、このノートを作った人に言われたんだったな」
「はい、銀さんならきっと出来る筈だって」
「随分とそいつはあの男を信用しているんだな、本当に何者だ……? このように書かれているという事は既にその現象を見た事があるという事、いやもしかしたらこれは自分自身の……」
ブツブツとまたもや思慮深く考え込む茂茂だが、すぐに我に返って首を横に振る。
今はこんな事している場合ではない、一刻も早く妹を連れて行かねば
「……とにかく深雪と一緒に銀さんの所へ出向こう、ところでさっきから深雪の姿が見えないんだが?」
「……あ、それがですね達也さん、実は……」
彼の問いに突然歯切れの悪そうに新八はどう説明しようか迷っている様子。
すると二人の下へタタタタッと誰かが急いで駆け寄って来た。
「お兄さん大変! なんか深雪ったら勝手にどっか行っちゃったみたい!」
「妙に馴れ馴れしいゴリラが教えてくれた」
やってきたのはついちょっと前に茂茂と同行していた光井ほのかと北山雫。
彼女達の話を聞いて茂茂はすぐ様バッと振り返る。
「妙に馴れ馴れしいゴリラとはなんだ?」
「いや気にするところそっちじゃねぇだろ!」
ほのかの方でなく雫が言った事に気になってしまう茂茂に新八がツッコミを入れる。
「すみません、僕等の不注意でいつの間にか深雪さんが消えちゃったんですよ。それも滅茶苦茶銀さんみたいになってる状態のあの人を」
「銀さんっぽく? そうかやはり深雪も」
「え、深雪もって事はもしかして……」
引っかかる言い方に新八は嫌な予感を覚えると茂茂は
「そちらが知ってる銀さんもまた徐々に浸食されつつある、たまに自分の存在を忘れるぐらいにな」
「はぁ!? 何やってんですかあの人! まさかおっさんのクセに自分があんな可憐な美少女だとでも思い込んでるんですか!? いよいよもってマジでヤバい事になってるんじゃないですか!」
「しかし、だからこそコレに賭ける意味があるのかもしれない」
自分の所のリーダーまでもが既に精神汚染が末期状態であると知らされて焦る新八。
しかし茂茂は至って冷静に、むしろこれが好機なのではと手に持ったノートを見つめる。
「未だ解明できていないが二人を合わせれば何かわかるかもしれない」
「それじゃあまずは深雪さんと銀さんを捜しにいかないと、僕はニセ神楽ちゃんとニセ沖田さんを見張ってますから達也さんお願いします」
「妹の面倒を見るのは他でもない兄の役目だ、あの男はついでに見つけておく、任せろ」
「ウチの大将ついで扱い!? いやまぁ別にいいけど、あ! そうだ」
さり気ないシスコンアピールをしてくる茂茂に新八は苦笑しつつ一つ思い出す。
「そういえばウチの所に土方さんって人がいましてね、でも妙に行動や言動がおかしいんで入れ替わり組だと思うんですよ、本人は頑なに自分が土方だと主張していますけど」
「土方……ああ、そいつはきっとアンジェリーナという奴だな、本物の土方とはついさっき銀さんと一緒に会って来たよ、金髪ツインテになってた」
「やっぱりあの女の子だったのか……じゃあついでといっちゃなんですけどお願いしていいですか?」
「ん?」
申し訳なさそうに頬を掻きながら新八は一つ茂茂にお願いをするのであった。
それから数分後
「よっしゃぁ! 行くぞテメェ等! この土方十四郎に続くんだぜェ!!」
意気揚々と刀を抜いて叫ぶ土方の姿が、そんな彼の後ろに周りながらほのかはヒソヒソ声で茂茂に話しかける。
「お兄さん本当にこの人連れて行くんですか?」
「押し付けられたから仕方ない、ただでさえ二人も増えたのにこれ以上面倒なのはいらないんだと」
「要するに邪魔だから預かってくれって訳ですね……」
刀をブンブン振り回してテンション上がりっぱなしの土方を眺めながらほのかは悟った。
確かに何か余計な事をしそうな匂いがプンプンする。
「おい! テメェ等についていけばあの忌々しい金髪クソビッチスパイと会えるんだよな!」
「会えますよ土方さん、だからそれまで黙って俺達と一緒に行きましょう」
「おっしゃぁ! たぎって来たぜぇ!! 待ってろあの小娘! 土方十四郎が月に代わって成敗してやるぜ!!」
「本当に大丈夫なんですかお兄さん?」
「心配するな、もしもの時はどこぞに捨てても構わないと言われてる」
本物の土方ならここまでオーバーな反応はしないであろう。
見ててますます不安になるほのかを茂茂が問題ないと安心させていると、彼等の下へ雫が戻って来た。
「渡辺先輩はここで蓮蓬軍との戦いの為に残るみたい、なんでも知り合いのゴリラがいたからほおっておけないんだって」
「知り合いのゴリラってなんだ? あの人ゴリラの知り合いとかいたのか? ていうかどうやって知り合いになれるんだゴリラと?」
「お兄さんさっきからやたらとゴリラの事について興味津々なのはなんで?」
ゴリラと聞いてまたもやすぐに雫の方へ振り返る茂茂にほのかがボソッとツッコんでいると。
雫が戻り全員揃った事を確認した土方が出発の準備を始める。
まずどっから出て来たのか、土方は大層立派な黒毛の馬の上にまたがる
「よっしゃぁ! 金髪クソビッチ狩りの開始だぁ!」
「ねぇちょっと! あの人馬乗ってんだけど!? 今までいなかったよねあんな馬!?」
「こっから先は蓮蓬達を掻い潜って行くぜぇ! 腹ぁくくるんだぜぇ!」
ほのかがヒヒーン!と鳴く馬を指差しながら雫に叫んでいるのをよそに、馬を器用に操りながら土方は上にまたがった状態で腕を組むと
「アーユレディィィィィィィィ!?」
「いえー」
「レッツパァァァァァァァァァリィィィィィィ!!!!」
「ぱーりー」
土方の叫びに一人だけ乗ってあげる雫。
そしてほのかはというと遠い目で彼を見ながら
「もはやそれ土方さんじゃなくて別の人になってない?」
「ていうか俺達置いてかれたぞ」
茂茂一行が蓮蓬達の目を掻い潜りながら捜索開始した頃。
探されている人物である坂田銀時と司馬深雪は同じ場所にいた。
「……」
「おい小娘、さっきから何無言でジロジロと私の事眺めてんだコラ」
「……俺だ」
先程からずっと銀時の周りをグルグル回りながら信じられない表情で彼を観察する深雪。
今現在、このフロアには鬼兵隊や坂本達はいない。何やら話があるとかで移動してしまったらしい。
深雪もまたそれについていこうかとも考えたのだが、色々と調べたい事が出来てしまったのでこの場に残ることにしたのだ。
その調べたい事とは今目の前で死んだ魚の様な目をしながらこっちを見つめ返している坂田銀時の状態だ。
「寸分違わぬ俺になってるじゃねえか! しばらく見ない間に何があったのお前に!? いつの間に銀さんデビューしたんだよ!」
「何があったって、なんでそんな事いちいちお前に教えなきゃいけねぇんだよ、彼女気取りですかコノヤロー」
「いや待て! 銀さんはもうちょっと目がキリっとしてて身長も180cmぐらいのストレートパーマだったような!」
「いやそれ誰?」
少々自己願望めいた事を呟きだす深雪に銀時は素っ気なく返すと自分の鼻を小指でほじりだす。
「男子三日会わざれば刮目して見よとか言うだろ? 色々な出来事を経て私は成長したって事だよ」
「いや三日も経ってねぇし人前でハナクソほじれるようになったのが成長っていうのそれ? つーかお前男子じゃないから、女子だから」
「いちいちうるせぇなぁ、お兄様の妹だからって調子乗ってんじゃねぇぞ」
「ああ?」
小指に付いた鼻くそをピンとこちらに向かって弾き飛ばしながらぶっきらぼうに答える銀時に、深雪は歩くのを止めてカチンときた様子で目元をピクリと動かす。
その時、深雪の雰囲気が先程までとは変わったような気がした。
「なんだお前、俺がお兄様の妹だという不動のポジションに着いている事になんか言いたい訳? ひょっとして羨ましいの? 俺がお兄様の妹として常にお傍に着ける事にジェラシー抱いちゃってる訳?」
その返しにまた銀時もしかめっ面を浮かべて深雪を睨み付ける。
「は? いや別にそんなん抱いてないんですけど? むしろ哀れみを抱くわお前に。だってお前、お兄様からしたらお前ずっと妹という存在なんだよ」
「だからどうしたんだよ妹でいいじゃねぇか、最近は妹萌えとか流行ってんだろ? ハーレム物の漫画でも妹がヒロインの一人になるとかよくあるじゃねぇか」
「いやいやだからさ、幼馴染とか年上の先輩とかなら月日を重ねていつの間に急接近とかそういう事があんだろ? でもお前はずっと妹なんだよ、永遠にお兄様にとってはお前は妹という存在にしかなれないんだよ、どう足掻こうがお前はお兄様の妹というポジションにずっと置かれる立場なんだよ」
「ふざけんなテメェなんか妹どころかヒロインにすらなれねぇおっさんだろうが!」
「なれます~、この作品のタグにBLって付ければ必然的に銀さんとお兄様で成立します~、このまま銀×達という新たなジャンルを切り開いて見せます~」
「誰が付けるかそんなもん! テメェさっきからずけずけと勝手な事言いやがって……!」
腕を組みながら滅茶苦茶な解決方法を見出す銀時に対し、深雪は遂に我慢の限界が来たかのように彼の方へ歩み寄って
「司波深雪ナメんじゃねぇぞコラ!」
「そっちこそ坂田銀時ナメんじゃねぇぞゴラァ!」
「いやちょっと待てぇぇぇぇぇぇ!!!」
両者顔を合わせながらメンチの切り合いを始めようとする深雪と銀時の間に、ずっと彼等のいざこざを見物していたリーナが慌てて間に入る。
「一旦落ち着けテメェ等! さっきから自分の事を間違えてんだよ! 入れ替わったんだろお前等! だったらこっちの万事屋の姿をしている方が!」
「坂田銀時でーす、万事屋やってまーす」
「こっちの小娘の方が!」
「司波深雪でーす、高校生やってまーす」
「なんでだよ! おい万事屋!」
二人揃って自己紹介するのだが明らかに間違えてる、入れ替わっていないのであればこれが普通なのだが、入れ替わり組であるこの二人がまるで本来の自分を忘れてその体の主かの様に振る舞っているのだ。
リーナはすぐに先程までずっと行動を共にしていた深雪の方へ振り返る。
「テメェまでなにふざけてんだ! こちとらヤベェ状態になってるのに更に混乱させるような真似すんじゃねぇぞ!」
「ああ!? いつ俺がふざけたってんだ! おい銀さん! 俺なんかおかしな事言ったか!?」
「いや、いつもと変わらず何の役にも立たねぇハナクソみてぇな妹のまんまだよ」
「んだと天然パーマブチ殺されてぇのか! ロクに稼ぎもねぇプー太郎が名家のお嬢様に喧嘩売ったらどうなるか教えてやろうか!」
「わぁ怖い、ハナクソぶん投げられそう」
「誰がんな真似するかァァァァァァァ!!! てかハナクソぶん投げるってどんだけデケェハナクソだよ!」
「おい! いい加減目を覚ませ!」
「ごふ!」
仏頂面の銀時にまたもや腹の立つ事を言われ身を乗り上げようとする深雪に、遂にリーナが鉄拳でお見舞いする。
軽く後ろに吹っ飛ばされながら深雪は頬をさすりつつすぐに立ち直って
「あれ? 何してたんだっけ俺? なんか変な事言ってたような気が……」
「チッ、ようやく正気に戻ったか、一応確認しておくがテメェの名は?」
「はぁ? 深雪さんに決まってんだろうが、寝ぼけてんのかお前?」
「寝ぼけてんのはお前だろうが……ダメだ、ショック療法も通じねぇ」
殴られたショックで一時的な記憶が吹っ飛んだだけで深雪は依然変わらず深雪のままであった。
銀時と会ってから彼女の突然の変貌にリーナは眉間にしわを寄せて考え込んでいると、リーナと同じくこの場に残ってるとある二人組が仲良く「ハッハッハ」と笑う声が部屋にこだまする。
「おいおいもう少し仲良く出来んのかお前等、そんな事では何時まで経っても俺と真由美殿の様な仲良しコンビにはなれんぞ」
「言っても無駄よ桂さん、銀さんと深雪さんコンビでは到底私達の領域に達する事など不可能なのだから!」
「それもそうか、強いて言うなら俺達は水魚の交わり、俺達を脅かす仲良しコンビはもはやさまぁ~ずだけだ、ハッハッハ!」
「キャイ~ンやよゐこも油断できないわよ桂さん、トリオもありならネプチューンも強敵ねハッハッハ!」
「なんだこいつ等無性に腹立つ! なんでコイツ等だけ普通に仲良いの!? 他の奴等は大体入れ替わった相手といがみ合ってるのに! 俺なんか殺されそうになったのに!」
仲良く腰に手を当て高らかに笑い声をあげるのは七草真由美と桂小太郎。
この二人、他の入れ替わり組は喧嘩したり殴り合ったり、果ては片方を抹殺しようとするのに、そんな状況下の中でもここまで仲良くやっていけるのは地味に凄い事なのかもしれないと、リーナが思っていると。
彼女がよそ見している内にまたもや深雪と銀時が口論を始めていた。
「いいか年中死んだ目をした毛玉野郎、言っておくけどお前が俺のお兄様をお兄様と呼ぶ資格はねぇんだからな、今のテメェはただの底辺に生きる貧乏人、お兄様をお兄様と呼んでいいのはこの世で妹であるただ俺一人なんだよ」
「はん、んだよそんな事かよ、バカだなぁ深雪ちゃんは。お兄様をお兄様と呼んでいいのは自分だけ? なら私がお兄様の弟になればいいだけの話だろ」
「は、それどういう……」
「つまり」
いつの間にか深雪を壁に追いやると、不敵な笑みを浮かべながら銀時は深雪の顔のすぐ隣にドン!と壁に強く手を置くとフフッと笑い。
「俺と結婚してお兄様の義弟にさせてくれ、お前にはなんの興味も無いけどそれでお兄様と身内になれるなら訳ねぇや」
「未だかつてない最低なプロポーズしてきたぁぁぁぁぁぁぁ!!! 助けてお兄様! 深雪さんの貞操が腐れ外道に奪われる!」
「これから俺は司波銀時と名乗る事にするわ、よろしくなマイハニー」
「しかも一族に食い込もうとする気満々だよ! テメェみたいな寄生虫を一族に迎え入れる訳ねぇだろうが!」
大胆かつ酷い求婚宣言してくる銀時、というかもはや別人ではないだろうか……。
深雪は彼の下衆っぷりに困惑しながらも必死に泣き叫ぶ。
「おいそこのお前等なんとかしろ! 可愛いヒロインが変なおっさんに無理矢理結婚されそうになってんだぞ!」
「おいおい銀時、お前仲良くなれとは言ったがまさかそこまで……しかしまさかお前が俺や坂本や高杉の中で一番に所帯を持つ事になるとはな、フ、式場にスタンバっておく必要がありそうだな」
「あらイヤだ、元気な子を産んでね銀さん」
「助けを求める相手間違えたぁぁぁぁぁぁぁぁ! 何の役にも立たねぇバカ共だったぁ!」
助けに来るどころか見守る様に距離を取って優しく微笑む真由美と桂。正直そのツラぶん殴ってやりたいと思いながらも、今度はリーナの方へ振り向く深雪。
「助けてリーナさぁん!」
「ったくどんどんおかしくなりやがって……一生やってろバカコンビ」
「あ、テメェ逃げる気か!」
しかしリーナはというと全く関心を持たずにスタスタと部屋の扉の方へと行ってしまう。
深雪が必死に叫ぶと彼女は扉を背に向けたままクルリと振り返って
「俺はやる事あんだよ、さっき万斉の野郎が高杉に言っていたのを遠くから聞いていた、入れ替わり装置はこっからちょっと先の通路を進めばあるってな」
「入れ替わり装置!? んだよもう近くにあったのかよ!」
「詳細はわからねぇがあるのは確からしい、とにかく今から俺は鬼兵隊の所へ行って情報を探って来る、テメェ等はそこでずっとバカ騒ぎでもして……」
入れ替わり装置を破壊すれば全てが元通りになる、無論おかしくなった深雪と銀時もきっと
鬼兵隊が坂本達はきっと今頃、入れ替わり装置の場所や進行ルートを相談しているのだろう。
リーナもそれに参加していよいよ装置破壊に赴こうとしたその時
「イエェェェェェェェェェ!!!」
「いえー」
「ぶっほッ!」
突如扉が強く開かれ、扉に背を向けて立っていたリーナはいきなりやってきた巨大な物に轢かれて弾き飛ばされてしまう。
「だ、誰だコラァ今轢いた奴! っておま!」
「ほう、俺が一体誰かだって……なら教えてやらぁ」
「ひかえおろー」
現れたのはなんと馬、そしてその馬の上にまたがっているのは何故かいる雫と、彼女を腰にしがみ付かせている見知った顔……
「奥州筆頭、伊達政宗とはこの俺の事だァァァァァァ!!!」
「いやそこは土方十四郎って名乗れよ! なに土方捨てて独眼竜になってんのコイツ!? 人のモン借りパクしておいて何勝手に筆頭名乗ってんだコラ!」
こちらに向かって刀を抜きながら名乗りを上げる伊達政宗、もとい土方の登場にリーナは面食らった表情を浮かべながらもすぐに立ち直る。
「この野郎人の体で好き勝手しやがって!」
「叫び声が聞こえたと思ったらまさかの大当たりだぜ、ここで邪魔なお前を仕留めて本物の……」
思いがけない相手と再会できたリーナはすかさず腰に差す刀を即座抜くと、土方もまた彼女を見下ろしほくそ笑みながら馬に乗ったまま刀を抜く。
しかし彼の背後からまたしても別の人物が
「余計な騒ぎは起こすな、アンジェリーナ=クドウ=シールズ」
「へ!? い、いや誰の事言ってるのだぜ! 俺はそんな名前じゃないんだぜ!」
「ていうかなんで雫も馬乗ってんの!? 早く下りて!」
「フフフ、お前如きの腕でこの私を同じ地上に立たそうと思ったか、もはやこの私を対等の地に立たせる者などおらぬわ」
「ここでまさかの拳王気取り!?」
後ろから声を掛けられて急に取り乱す土方、彼に声を掛けたのは茂茂であった。
彼に続いてほのかも現れ、彼女は急いで雫を無理矢理馬から下ろす。
「テメェは……!」
「久しぶりだなもう一人のアンジェリーナ、いや土方十四郎と呼ぶべきだったな」
部屋へとやって来た茂茂はリーナを一瞥した後、すぐに銀時と深雪の存在に気づく(桂と真由美の事にも気づいたがあえて無視した)
「深雪、それと銀さん、まさか二人が合流して一緒にいたとはな。案外近くにいてくれたから蓮蓬とやり合わずに済んで助かったぞ」
すぐに二人に向かって微笑みかけながら話しかける茂茂、すると銀時と深雪は彼が現れた事に一瞬言葉を失うがすぐに
「「お兄様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」
「えぇぇぇぇぇ!? なんか二人がかりでお兄さんの下へと駆け寄って来たんだけど!」
「……やはり事はかなり深刻だ、俺の予想をはるかに上回る異常事態だ」
歓喜の表情で同時にこっちに向かって駆け寄って来る銀時と深雪。
もはやどっちとも性格も兄に対する愛情も全く同じの状態、これには茂茂も表情には出さないが危機感を覚える。
「だからテメェがお兄様の事お兄様って呼ぶんじゃねぇって言ってんだろうが! 俺のお兄様だ!」
「何言ってんだ、さっき結婚の約束しただろ? コレで私も晴れてお兄様の義弟だ、どうもお義兄様、あなたの義弟の司波銀時です」
「んなもん約束した覚えねぇんだよ! 聞いて下さいお兄様! このジャンプの主人公と思えないおっさんがウチの一族に婿入りしようと企んでるんです! 将軍の権力使ってコイツの首刎ねてやってください!」
「おいおいつれない事言うなよハニー」
「誰がハニーだ! ぶち殺すぞ!」
足やら肘やらを出して相手を妨害しつつどちらが先に茂茂の下へ行くか揉めながらやってきた二人に。
茂茂と同じくほのかや雫もその異変に気付いた。
「……お兄さん、知らぬ間に銀さんと深雪が結婚するみたいだけど……ていうか二人共元の自分を完全に忘れてるよね?」
「まさかの急展開にさすがに私もビックリ」
二人を指差しながら頬を引きつらせるほのかと、驚いたとは言いつつも相も変わらず無表情の雫。
そして茂茂もまたどうしたもんかと黙り込んでいると
「おいお兄様、前から聞きたかったんだけどさ」
「ん? どうした深雪?」
「いや深雪じゃねぇんだけど私、銀さんなんだけど」
「……」
何言ってんのコイツと言った感じで顔をしかませる銀時にもはや茂茂もどう対処すればいいのか困っている模様。
そんな中で銀時は勝手に話を続ける。
「お兄様、もうこの際だからこのバカな妹にハッキリ言っちゃってくださいよ、私とコイツどっちがお兄様にとって最も大事な者なのか、そしてそれが私だという真実をコイツに突き付けてやってください」
「おいテメェ! いい加減にしねぇと殺すぞマジで! お兄様にとって大事なのは妹である俺だという事は宇宙が生まれる前から決まっている事なんだよ!! 俺からもお願いしますわお兄様! この野郎にハッキリと死刑宣告しちゃって下さい!」
「やれやれ……」
二人揃ってどちらが一番大事にされてるかと詰め寄って来る銀時と深雪に対し、しばしの間を置いた後に茂茂はゆっくりと銀時の方へ手を伸ばし
「体や魂が完全に変わろうが関係ない、俺にとって最も大事なのはお前だけだよ深雪」
「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! 銀さん大勝利ィィィィィィィ!!!」
「ウソだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 深雪さんを選んでくれると信じてたのにお兄様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「いや選んだのは深雪……」
茂茂に手を取られた瞬間ガッツポーズを掲げて勝利宣言する銀時。
そして深雪の方はガクッと両膝を床に着いて。涙声で叫びながら自分が敗北した現実を受け入れられないでいた。
「どうた負け犬! これからもうテメェは二度と自分の事をヒロインだなと名乗るんじゃねぇぞ! これからの魔法科高校の劣等生のヒロインは私! 銀さんだ!」
「いやそうなると原作の展開上あまりよろしくないんだが……」
「ご心配なくお兄様! 表紙のカバーにBLって書いておけば受け入れられるんで! 本屋ではちょっと普通の人には目の届かない本棚に置かれるだけなんで!」
「心配しかないんだが、100%ネットで炎上するだろそれ」
意気揚々とこれからの事について話す銀時に茂茂はボソリとツッコミを入れる中で、無念にも負けてしまった深雪は一人床を涙で濡らしながら失恋のショックに立ち直れないでいた。
「くっそぉ~! なんでだお兄様! なんで妹である俺を差し置いてあんなおっさんを選びやがったんだぁ~!! まさかおっさんにお兄様寝取られるなんて~!!」
「可哀想な銀さん、お兄さんにフラれてあんなに泣いている……」
「大丈夫だよ」
恨めしそうに泣いている深雪を悲痛な表情で見つめる事しか出来ないほのか、しかし雫はというと安心させる為に深雪の頭にそっと手を置いて
「いざとなれば愛人ルートもあるから」
「それだ!」
「ナイスフォロー雫!」
彼女に頭を撫でられながらすぐにガバッと顔を上げて立ち直る深雪。
名案を思い付いた雫にほのかはよくやったと親指を立てるのであった。
(さて、これはさすがにマズイな)
深雪が雫とほのかに慰められているのを見つめながら、茂茂は一人頭の中で整理し始める。
(深雪は銀さんの様になり、一方で銀さんは深雪の様になった。これが入れ替わり現象における結末と呼んでいいだろう。装置の破壊前にこうなる事は避けたかったのだが)
状況はこの上なく最悪であった。なんとか打開策はないかと茂茂は藁にも縋る思いで新八から託されたノートを開くも、だがやはり最後に書かれている超常現象についてはわからない。
(しかしアレだな、二人共妙に似通っている、深雪は性格と言動が荒れて俺に対する親しみを残したまま、銀さんは性格と言動は残したままで俺に対して親しみを持っている)
まるで二人の人間が人格を共有して中身が瓜二つの人間になったみたいだ。
そう思いつつ茂茂はフッと笑ってしまう
(いっその事この二人を合体でもさせて一つにすれば扱いも簡単になるというのに)
そんな現実離れした事を考えてしまう茂茂、だがふと何かに気付いたように静かに目を細める。
「合体……?」
再びノートの内容を読み直す茂茂、読む場所はもちろん最後のページ
「器を入れ替えし二つの魂、時を重ねて仮の器と同化せん……銀さんと深雪は入れ替わり時間が経つにつれて精神を侵食されていった」
「双方違わぬ魂となれば……浸食の結果、二人の性格はほとんど一緒になった。違わぬ魂というのは全く同じ色に変化した魂という事か」
「双方違う器は一つとなれる、さすれば二つの魂は一つの器に収まり、魂もまた一つに合わさりその器は強大となるであろう……そうかようやくわかったぞ」
ノートをはっきりと見ながら茂茂は遂にこれらに書かれている内容を真に理解できた。
しかし
「だがこんな事が本当に可能なのか、人と人が、住む世界も違う人間同士でそれが可能なのか……?」
解明した本人でさえもそう簡単に受け入れられる事ではなかった。
それはまるで銀時達のいる天人のずば抜けた科学力だけでなく、自分達の世界にある超高等魔法術式も合わせてやっと出来るかもしれない技術……
「……魂と肉体を合わせ一つの新たなる生命体となる、これがこの入れ替わり現象における究極の超常現象、その名は……」
「融合」