魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

22 / 53
第二十二訓 読者&反応

「今更だけどさ、もうアタシ達って読者に忘れ去られてるわよね」

「いきなりどないしたんじゃ?」

 

ここは蓮蓬の母星に設置されている休艇場。

千葉エリカこと坂本辰馬はふと坂本辰馬こと千葉エリカにボソッと本音を漏らしていた。

 

「捜索組やテロ組の方が目立ちに目立ってアタシ達待機組全く出番無いじゃない、ここらで派手になんかしないとこのままどんどんフェードアウトしていく一方よ、ジェロモニになるわよ」

「アハハハハ! 心配いらん! 今ワシ等がやっている事を読者達が知ればジェロモニどころかロビンマスク級に目立てるぜよ!!」

 

いらぬ心配事だとエリカはゲラゲラ笑いながら

 

「はいドロー2! そしてUNOォォォォォォ!!!」

 

残り二枚となった手札から渾身の切り札を放ち、遂に王手と差し掛かっていた。

 

「さあおんしのターンぜよ! じゃがおんしの手札はまだ三枚も残っちょる! この時点でわしの勝利は決定的って事じゃな!! アハハハハへぶしッ!!」

「コレの何処がロビンマスクだぁ!!」

 

勝利を確信し、盛大に笑い声を上げるエリカの頬に思いきり右ストレートをお見舞いする坂本。

そう、現在二人がやっているのは

 

暇を持て余した二人だけの寂しいタイマンUNO大会。

 

「こんなのやってたらロビンマスクどころかキン骨マン並に完全に空気化するわよ!! 読者が数年に1回思い出すかどうかぐらいのレベルよ!」

「な、何を言う! キン骨マン舐めるなよ! 物語が進んでも随所随所で目立っておったじゃろ! 特に二世からだと息子まで現れる上に中々泣けるエピソードを……!」

「うるせぇキン骨マン! アパッチの雄叫びブチかますぞ!!」

 

殴られた頬をさすりながら弁明しようとするエリカを坂本は立ち上がってすかさす黙らせる。

既に彼は限界のピークに達していた、さすがに他の者が色々と動いているのに対し、自分だけが数時間も同じ相手と延々とUNOやってたら誰だって焦るであろう。

 

「もうウンザリなのよ! なんでアタシ達だけただずっとUNOやってんの!? もう飽きたわよ完全に! 誰かこのUNO地獄からアタシを解放して!!」

「なんじゃUNOに飽きとったんか、それな百人一首でもどうじゃ? わしが読み手でおんしが取り手で」

「それただアンタが言ったのをアタシが探して取るだけの作業じゃないのよ! 何が面白いのねぇ!? それで何が変わるというの!? それでアタシ達は何を得られるの!?」

 

名案を思い付いたかのように手の平をポンと叩くエリカに坂本はブチ切れた様子でサングラス越しから血走った目を剥きだしながら食ってかかっていると

 

「おいおまん等」

 

快臨丸の出入り口から見るからに重そうな荷物を軽々と持ったまま、快援隊の参謀役・陸奥が出てきた。

 

「何をサボっちょる、はよUNOをやっとれ」

「陸奥~、コイツがもうUNO飽きたと言っとるんじゃけど、どげんすればいいかの?」

「ならウチの船の倉庫に遊戯王カードとかいうのがしこたま保管されちょるきに、それで対戦でもしちょればよか」

「ん~わしそのゲームのルールよう知らんぞ、おまんは知っちょるか?」

「だからなんでカードゲームにこだわるのよ! いや知ってるけども! 最新ルールまで把握しているけども!」

 

またもや別のゲームで遊べと提案され、坂本は今度は陸奥の方に額に青筋浮かべたまま歩み寄る。

 

「ていうかそんな事どうでもいいのよ! なんでアタシとコイツだけ仕事せずにUNOやらされ続けなきゃならないのよ! アンタ達は仕事してるのにどうしてアタシだけ!」

「下手に動き回れると邪魔じゃからに決まってるぜよ」

「あぁ!? コイツはともかくアタシがいつ邪魔し……」

 

相変わらずのクールな物言いっぷりにますます激昂する坂本ではあるが急に顔色がみるみる悪くなり

 

「オロロロロロロロロ!!!」

「今まさに思いきり邪魔しておるじゃろうが、おい、このアホがまた吐きよったから掃除しておいてくれ」

 

陸奥の足元に盛大に吐瀉物を吐き散らす坂本。入れ替わりの影響により船酔い性質が移ってしまったのか、このように度々具合が悪くなって吐いてしまう癖が付いてしまった様だ。

そんな彼を他人事のようにエリカが「ほ~」と面白そうに眺めている、

 

「まさかこうして自分が吐いているのを見る事になるとはのぉ、しかしアレじゃの、自分では気付かんかったがこうして見ると吐いてる時でも中々の面構え……ドボロシャァァァァァァァァ!!!」

「はよう掃除してくれ、アホに続いてバカが吐きよった」

 

坂本の放つゲロの臭いのせいでつい自分も気持ち悪くなってその場に一緒になって吐くエリカ。

しかし目の前で二人吐かれても陸奥は顔色一つ変えず清掃員を呼ぶ。

 

するとバケツとモップを両手に抱えた西城・レオンハルトが思いきり嫌そうな顔で彼女達の方へ歩み寄って来た。

 

「やれやれまた吐いたのか、ていうかなんで俺がこの二人のゲロ掃除担当になってるの?」

「艦内の仕事はわし等が行うのが当たり前じゃ、ノコノコとウチの所のバカ艦長についてきおったおまんに割く仕事はなか、だからこのゲロコンビの子守り役として適任させたまでじゃ」

「いや力仕事なら俺結構出来るんだけど……」

 

自分としてはもっと肉体労働などで動きたいと思っているのだが、ふと陸奥が明らかに100キロ以上はありそうな重荷を片手で持ち上げて肩にかけている事にレオは気付く。

 

先程から陸奥は船から重そうな荷物を運んでまた別の船へと持っていく行いを何往復もしている。恐らく船に必要な物資を他の船にも配り、いざとなったら最低限の装備で船を出せるよう準備しているのだろう。

他にも陸奥と同じく物資を運んでいる連中はいるが、皆数人がかりで必死な顔で運んでいるのに対し、一人で運んでいる陸奥は依然涼しい顔を浮かべ汗一つかいていなかった。

 

 

「……やっぱいいや子守り役で」

「しっかり頼むぞ」

 

陸奥は神楽と同じ種族、夜兎。そんじゃそこらの人間とは到底比べ物にならない怪力を持っている。

レオもまた特殊な家で育っているおかげで並の人間とは別格の強さを持ってはいるが、さすがに夜兎の怪力を見せられると自信を失ってしまう。

 

「ったくどっからあんな力が出るんだよあの人、見た目は細っこいのに。何時かは超えてみてぇがまだまだ俺じゃ敵いそうにねぇな……」

「ちょっとゲロ掃除係! コイツのゲロをさっさと掃除……オロロロロロロロ!!」

「ヒデキィ! はよこの娘のゲロを始末してくれぇ! わしはもう限界……オロロロロロロロ!!!」

「だぁー! どっちも喋りながら吐くんじゃねぇ!!!」

 

互いのゲロを交えながら何か言っている坂本とエリカにツッコミを入れながらレオは早速持っていたモップで二人の吐瀉物を片付けだす。

 

「宇宙まで来てやる事がコレかよ……」

「ハァハァ…何言ってんのアンタが傍にいないとアタシが困るのよ」

「え? このタイミングでデレ?」

 

唐突に傍にいて欲しいだのと告白めいた事を言う坂本にレオが軽く驚いていると坂本は真顔で

 

「下には下がいるという事をこの目で確認しておかないとアタシの精神もたないのよもう」

「好意どころか見下す対象としてか見てなかったよコイツ!」

 

突拍子もない告白をサラッとぶっちゃける坂本にレオはすぐさま抗議する。

 

「つーか俺お前より大分マシだぞ! 陸奥さんにボコされてもねぇしおっさんの体にされてもねぇし!」

「いやいやアンタより大分マシだから、実はこれアンタに直接言ってあげようかどうか迷ってたんだけどさ……」

「え?」

「ぬ! まさかおまん! ヒデキにアレを言おうとしとるんじゃなか!?」

 

パーマ頭をグシャグシャと掻きながら何か言おうとする坂本に何故かエリカが慌てて止めに入って来た。

その様子をレオは口をポカンと開けた様子で眺めるだけ

 

「それはイカン! それだけはイカンぜよ!! この世には知ってはいかん真実もあるんじゃ!」

「いつまでもその真実を知らせないというのもある意味残酷じゃないの、今自分がどんな状態に陥っているかという現実に直視させる事もまたコイツの為になるわ」

「え、ちょっと何? なんか怖いんだけど? 俺一体何なの? 何がそんなにヤバいの俺?」

 

急に深刻なムードで話し合っているエリカと坂本を見てレオはますます不安な気持ちになる。

そしておもむろに坂本の方が彼の方へ再び振り返ると

 

 

「そんなに気になるなら教えてあげるわよ、アンタ……」

 

静かに腕を上げて指を突き付けた。

 

「登場人物の中で読者からの反応一番薄いのよ」

「ってヤバいってそういう意味ぃ!?」

「不人気とかいうレベルじゃないわよ、空気よ空気、アタシ自分がどう思われてるのかここの感想欄マメにチェックしてるけどでアンタの名前が最後に出たのだっていつだったか忘れたわ」

「そうなの!? ていうかお前! 世界の危機に直面してるのに! なに自分がどう思われてるか感想欄なんてチェックしてんだよ!!」

 

現在の時点で出てるキャラクターの中でダントツに読者からの反応が無いという事実を突き付けられた西城・レオンハルト。

それを残酷にも本人に言ってしまった坂本に隣にいたエリカが「ハァ~」と重苦しいため息を突く。

 

「実はわしも薄々勘付いておったんじゃ、読者から反応貰うので大事な事と言えばインパクトじゃろ? それがどうもおまんには足らなすぎるというか……」

「漫画家の担当みたいな事言い出したよ! 急にキャラのダメ出し始めてきたよ!」

「せめて何か尖ったモンが無いと印象に残らんきに」

 

さっきは言ってはいけないとか言ってたクセに、エリカもまたレオに対してダメ出しを始め出した。

彼女も内心彼の事をずっと気に掛けていたのであろう。

 

 

「ほら、別に入れ替わり組じゃなくても読者からもよく名前書かれてもらってるキャラもおるじゃろ?」

「そうね、やっぱこの作品ってダントツに入れ替わり組への反応が多いけど、別に入れ替わってないキャラでもそれなりに目立てば誰かしら反応してくれるものね」

「銀時の所の娘っ子二人とか、ヅラの所の風紀委員長とか、服部君とか」

「いや服部さんは色々反則だろ……」

「やっぱ大事なのはインパクトなのよインパクト、ここぞという時に派手なシーンかませば読者も覚える筈なのよ、なのにアンタは……」

 

エリカとの会話を終えた後、坂本は首を横に振る。

 

「全くと言っていい程仕事してない、ホントなんにもやってない。せいぜい周りにツッコミキャラがいなかったら代わりにツッコミキャラになる程度、もはやツッコミのヘルプ要員でしかない」

「ツッコミのヘルプってなんだよ! なんなのそういう扱いだったのずっと俺!」

 

段々と己の扱いの悪さに気付いて来たレオ、そんな彼にエリカが優しく肩に手をかけて

 

「じゃからわしはおまんの存在の薄さを危惧して少しでも読者の印象に残してもらおうとヒデキと呼んでおるんじゃ、西城だからヒデキ、西城ヒデキ」

「かたくなに俺の事ヒデキって呼んでたのってそんな理由!? しかもメチャクチャしょーもないんだけど! すげぇつまんねぇし何も捻りもねぇんだけど!」

「あーやっぱおまんもそう思う? 実は読者からの反応も皆無じゃったから薄々スベッてんだなと気づいておったんじゃが、ここで引いたら負けると思うので今後もヒデキで行こうと思います」

「行かなくていいんだよ! なんでそこ決心した!? もうレオで良いだろそこは!」

 

急にキリっとした表情でこちらに顔を上げながらはっきりと決断する潔いエリカにレオは声高くツッコミを入れた後、遂にガックリと腰を折って自らが置かれている状況に気付く。

 

「知らなかった……俺読者からなんとも思われてなかったのか……」

「この際だからいよいよ言っちゃうけど、今のままじゃアンタいてもいなくてもどうでもいい存在としか認識されないから、空気キャラ以前にキャラではなくただの空気でしかないから」

「そこまで言う!? なら今のままじゃダメなら一体俺はどうしたら……!」

 

励ましどころかトドメの一撃まで叩き込んできた坂本。

もはやどうすればいいのか自分でもわからなくなってしまったレオ

 

しかしそんな風に談笑しているのも束の間

 

突然、一隻の船の中から爆発が起こったのだ。

 

「え! なんか爆発してるけどどういう事!?」

「陸奥! わし等の船の中の一隻がおかしな事になっとるぞ!」

 

さほど大きな爆発ではないものの、何か良からぬ事が起きている可能性がある。

驚いている坂本をよそにエリカがすぐに陸奥の名を叫ぶと、すぐ様本人が荷物をほおり出して彼女の下へ現れる。

 

「アレは蓮蓬に体を支配されたモン達を閉じ込めていた船じゃ、どうやら奴等、意識が戻ったと同時に艦内で暴れ出したか」

 

快援隊は蓮舫の星へ潜入を試みた時に一部の者達が蓮蓬に体を入れ替えられてしまっている。

その者達は皆、一つの船にまとめて閉じ込め、動けぬよう厳重に縛り付けておいていたのだが……」

 

「連中を侮っておった、捕まえていたのは全員じゃなかった、今の今までわし等の仲間のフリをしながら欺いて

おったんか」

 

宇宙で様々な諜報活動を行っていた蓮蓬はやはり一筋縄ではいかなかった。連中はすぐに船の乗っ取りが出来ないと悟ると、入れ替わっていないと欺いて今までずっと快援隊の一員として動いていたのだ。

そしてその数は……

 

 

 

 

 

「快援隊のモンはわし等以外既に蓮舫に体を乗っ取られておる」

「「「!!!」」」

 

自分達が油断し、探索組が出払って守備が手薄になっている所で連中は遂に本腰を入れてきたのだ。

エリカは気付く、さっきまで自分の周りにいた乗組員が全員

 

白目を剥きながらこちらを囲んでいる事を

 

「我等こそが真の蓮舫……」

「我等の産みの親であるSAGIを捨てる事など出来ぬ……」

「親を捨て、何処へ消えたかつての同志など捨て置け……」

「だが我等蓮蓬の中で袂が分かれた原因を作り……」

「言葉でかつての同志達を誑かした坂本辰馬という男だけは……」

「この手で直接葬ると決めていたのだ……」

「今こそ復讐の時……」

 

蓮蓬と化してしまった快援隊の乗組員は皆ブツブツと呻きながらこちらに向かってゆっくりと歩いて来た。

 

「おまん等……!」

 

かつての仲間達が変わり果てた姿を再び目の当たりにしたエリカは奥歯を噛みしめながら彼等を睨み付けると

 

「すんませーん! 坂本辰馬はコイツでーす! アタシ千葉エリカっていう超バリバリのJKなんですけど! あなた方の復讐とかそういうの全く関係ないんで逃がしてもらえます~!?」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!? アンタなに言ってんのよコラァァァァァ!!!」

 

すぐ様隣にいた坂本の肩に手を置いてコイツが坂本だと言い触らすエリカ。妙にぶりっ子みたいな口調で叫ぶ彼女に坂本がキレながら振り返る。

 

「すんませーん! さっきのは噓でーす! コイツが本物の坂本辰馬でーす! アタシはあなた方の入れ替わり装置で体を入れ替えられた哀れなJKであり本物の千葉エリカでーす!」

「ちょっと坂本さん冗談きついわよ、アンタの仲間が今あんな状態になってるのに、なに可愛いJKであるアタシこと千葉エリカちゃんをを売ろうとしてるの? 仲間があんな目に遭ってるのにそれでも艦長? チンコついてんの?」

「お前ぇぇぇぇぇぇぇ!! 人の口調完コピしたからって千葉エリカ面すんじゃないわよ!! つうか本物の可愛いJKはチンコなんて言葉使わないのよ!!」

 

口調を完全に真似しながらこちらに軽蔑の眼差しを向けながら非難するエリカの胸倉を掴みながら坂本は顔を近づける。

 

「この期に及んでシラを切ろうとすんじゃないわよ! 連中の狙いはアンタなんでしょ! だったらアンタが大人しく殺されれば……ってそれだとアタシの体が殺されるって事じゃないの!」

「ああそうか、おまんを売ったらわしの体が殺されるっちゅう訳か! いかんいかんそれはいかんぜよ! すんません今の無し! 本物の坂本辰馬はわしでーす! 殺すんならわしですよー!!」

「何を言うとるんじゃわしが本物の坂本辰馬ぜよ! 可愛いJKの千葉エリカちゃんは大人しくそこで黙っとれ! さあわしを殺せ!! アハハハハハッ!」

「おうい! いつの間にわしの口調完コピ出来るようになっておんのじゃ! 皆さん違うきに! わしが本物の! 本物の坂本辰馬でございまーす!! 坂本辰馬に清き一票をぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

両者もみくちゃになりながら蓮蓬軍相手に自分が坂本辰馬だと叫び始める二人を

 

「いい加減にするぜよ」

「「のばぁ!!」」

 

エリカ、坂本と順番に陸奥は涼しい表情で綺麗な踵落としを二人の頭部にかます。

 

「結局どっちかでも殺されたらおまん等両方死ぬという事じゃろうが、さっさと気付けアホたれ」

「うぐぐ……つまり今のわし等は一心同体っちゅう訳か……」

「アンタに死なれちゃアタシも元の体に戻れないものね……おっさんと運命共にするなんて最悪だわ……」

 

ようやく自分の身に置かれた状況に気付いたエリカと坂本は頭をさすりながら立ち上がる中で、陸奥は周りを見渡しながら基地内部に入る出入り口を見つめる。

 

「大将が死んだら戦は負け、他の連中共にとって大将は将軍か将軍の体を持つ司波達也じゃろうが、わし等快援隊にとっては坂本辰馬が大将、まっことやる気が起きんが、わしはおまん等を護らねばならん、という事で」

「え? ゲフゥ!!」

「ちょっとアンタ! いきなり何を……どふぅ!!」

 

陸奥は突然、二人に向かって思いきり蹴りをかまし、内部に入る為の出入り口の方へと思いきりぶっ飛ばす。

あまりにも豪快に吹っ飛ばされたおかげで慣れない身体である蓮蓬達は目で追う事が出来なかった。

 

「ここはわしがやる、おまん等は先に入っていった連中の所へすぐにこの事を伝えて来い」

 

そう言うと陸奥はすぐ様、仲間の体を支配している蓮蓬達が坂本達を追わぬよう床をダッと踏み出すやいなや

 

「安心するぜよ、殺さぬように加減をするというのは、あのバカ共のおかげで慣れてるきに」

「!」

 

飛ばされた坂本達を追いかけようとする快援隊の一人に拳を叩き込む。

殴られた方はそのまま壁の方にまで飛ばされ、他の快援隊達はどよめき始めた。

 

「わしの仲間の体とそちらの体では価値が違い過ぎる、その売買は不成立じゃお客さん」

「その力は夜兎の……」

「さすがは一度は我々を退けただけはある……」

「だがこれしきの事で……」

 

隊列は乱れつつあるも、蓮舫は長年その名を隠しつつも優れた傭兵部族。

 

「我等が怯むとでも思ったか……」

「全員、船にあるありったけの武装を装備せよ……」

「坂本辰馬を殺す前に……」

「奴への見せしめにこの女を殺せ……」

 

夜兎一人が出てこようが引く気など微塵も無く、一斉に陸奥目掛けて襲い掛かるのであった。

 

 

 

 

 

 

さっきからずっと彼女の近くにいるレオをほったからしにして

 

「あの、俺もいるんだけど……」

 

取り残されたレオが自分を指差し寂しげに自己主張するも陸奥と快援隊達はガン無視で戦い始める。

 

「わし等の船から武器を奪ったか、念には念をと買っておいた武器が仇になるとは笑えん冗談じゃ」

 

それでもなお陸奥は足を動かすのを止めず、一人一人確実に仕留めていく、己の拳と蹴りのみで無力化させていった。

設置型の大型重火器が彼女に照準を定め、派手な銃撃音と共に銃弾が飛んで来ようと彼女は走り回りながらそれを掻い潜っていく。

 

「弾を勝手に使いこんでからに、こりゃあ相当そちらさんに払ってもらわんといかんの」

「うぐ!」

 

銃弾の雨を避けつつ、陸奥は徐々に距離を詰め寄ると最後に一気に飛び込んで、その重火器ごと快援隊を蹴り飛ばした。重火器の先にある銃口はへし折られもう使い物にならなくなり、飛ばされた者もその場で倒れ動かなくなる。

 

倒れた者が死んではいないと一瞥すると、陸奥は休む暇なく駆け出して戦い続けるのであった。

 

 

 

 

 

 

そしてそんな中でもレオは誰一人にも相手にされていない。

 

「だから俺いるんだけどぉ!? なんでスルーして全員陸奥さんに向かってんの!? 俺は敵としてもみなしてないの!? それとも遂に俺の存在が空気と一体化して誰にも気づかれないの!?」

「ヒデキー!!」

「坂本さん!」

 

戦場と化した場所のど真ん中でポツンと佇むレオに向かって、出入り口付近にまで飛ばされていたエリカが起き上がって彼に向かって叫ぶ。

 

「ここがおまんの正念場じゃぁ!! ここで目立たんと完全に最後まで読者に存在を忘れられたまま消えるぞー!!」

「いやそれよりさっさと逃げろよアンタは!! 誰のために陸奥さんが一人で奴等と戦ってると思ってんの!?」

「ほらほら戦え戦え空気野郎! アタシを護るために「ここは俺に任せて先に行け」とかいい感じの台詞吐いて敵陣突っ込め! そして死んで伝説になれ!!」

「最終的に死ぬのかよ! ていうかお前も逃げてなかったのかよ千葉!!」

 

応援というか半分ヤジに近い感じでこちらに向かって叫び続けるエリカと坂本。

この様な状況でもどうしてあそこまでふざけていられるのかと疑問に思いつつも、レオは彼等にクルリと背を向けた後、グッと親指を突き立てて顔だけ振り向き

 

「……ここは俺に任せて先に行け」

「ヒデキィィィィィィ!!!」

「感激ィィィィィィィ!!!」

「お前等絶対仲良いだろ!!」

 

両手でパチパチ鳴らしながら煽ってるかのようにその場でピョンピョン跳ね上がる息ピッタリのコンビニにツッコミを入れ終えると、もはやヤケクソ気味にレオは陸奥と交戦している敵陣の方へ駆け出す。

 

「だーもうやってやるよ!! 見てろよアホコンビ! 見てろよ読者! これが西城・レオンハルトの一世一代の大活劇だァァァァァァァ!!!」

 

拳を掲げ果敢に突っ込んで行くレオ、その勇姿にエリカと坂本が「おおー!」と叫ぶ。

 

だが突っ込んで行くレオの目の前にタイミング良く

 

「って危なッ!」

 

何処からともなく巨大な箱が派手な金属音を鳴らしながら落ちて来た。

 

「はぁ!? なんだこのバカでかい箱!! 一体どこから……って」

 

頑丈そうに出来た鋼鉄製の巨大な箱、見る限り陸奥達が持ってきた荷物なのかもしれないがどこか異様な雰囲気が漂う代物であった。

 

レオが恐る恐るそれに手を伸ばそうとすると……

 

「ゴアァァァァァァァァァァ!!!」

「ギャァァァァァァァァ!! なんか出てきたァァァァァァ!!!!」

 

先程落ちた衝撃で筈かに箱に隙間が出来たのか、そこからごつくて毛深い両手でこじ開けて何者かが顔を出し咆哮を上げる。

ビックリして後ろに下がるレオの前に現れたのは

 

「ウゴォォォォォォォ!!!」

「ゴリラァ!? なんでこんな所にゴリラが!? しかも何だこの大きさ!? 3メートルは軽くあるぞ!!」

 

顔だけでなくその全身を箱から抜け出し現れたのはなんと巨大なゴリラであった。

唐突に現れたそのゴリラは叫びながら胸を叩きこの場にいる者全員に威嚇しているかのように見える。

しかもこのゴリラ、そのデカさも気になるのだがもう一つ気になる点が

 

「なんでウチの学校の制服着てんのこのゴリラ!?」

「おお! ヒデキよく見て見ぃ! そいつはわし等の学校にいた十文字先輩じゃ!!」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!? 十文字先輩こんなんだったっけ!?」

 

パッツンパッツンの状態ではあるがかろうじて着ているあの服は国立魔法大学付属第一高校の制服と瓜二つ。

そして後ろからまだ逃げていないエリカがそのゴリラこそが三年生・十文字克人だと言いレオは戸惑った表情を見せる。

 

「確かにあの人最初見た時ゴリラっぽいとは思ってたけど……これもうモノホンのゴリラじゃねぇか!!」

「こちらに運ばれた物資の中にはわし等が向こうの世界から運んだモンも混ざっちょる。そうか十文字先輩はわし等だけ行かせるのは危ないと思いコッソリ荷物に紛れて隠れておったんか……うう! 陰ながらわし等を助けようと思っておったとは! なんて後輩思いのええ先輩なんじゃ!!」

「アタシもこんな優しい先輩がいる学校で楽しい高校生活を送りたかったのに……うう!」

「いやいやいや! なんで泣いてるのアンタ等!?」

 

二人揃って顔を手で覆いながら泣いてる仕草をしているエリカと坂本にそろそろレオも一々相手するのが面倒臭くなってると、突然、十文字(?)と思われる巨大ゴリラがドラミングを終えると遂に動き出す。

 

「ゴアァァァァァァァァァァ!!!」

「ギャー十文字先輩が暴れ出したぁ!」

 

丸太の如き大きな腕を振りかざし、それを誰に狙いを定める訳でもなく闇雲に振り回すゴリラ。

 

「まさかこのような化け物をまだ隠し持っていたとは……!」

 

床や壁、船や快援隊のメンバーさえも見境なくぶっ飛ばしていくその姿は正に鬼神の如き強さ。

 

蓮舫に乗っ取られた快援隊がその暴れっぷりを見て戦慄を覚えている隙に

 

「よそ見するんじゃなか」

「ぐ!」

 

後ろからやってきた陸奥が手刀を首に当てて一撃昏倒させた。

そして目の前でだだをこねる子供の様に喚きながら暴れているゴリラを彼女は見つめる。

 

「こんなモンが紛れ込んだおったか、全く向こうの世界はどうなっておるんじゃ? ラピュタといいこの巨大ゴリラといい……」

 

分析しようとするが陸奥の思考の回転より先にゴリラは段々と派手に動き回るようになり、あちらこちらを無茶苦茶に破壊していく。快援隊のメンバーもちらほらと多大な被害が生じているみたいだ。

 

「マズイ、このままだとあのゴリラ……操られとるモンの体ごと潰しよるぞ、なんとかして止めねばこの場にいるモン全員殺されるぜよ……」

 

見る限りあのゴリラは既に名の知れた夜兎並の身体能力を誇っている、つまり陸奥でさえ相当手強いと認識するレベルだ。

しかしそんな危険な状態を前にレオは

 

「いやまだ打つ手はありますよ陸奥さん……アレがもし坂本さんの言う通り十文字先輩ならきっと俺達の味方だ、だったらやる事は一つしかねぇ……」

 

強靭な顎で壁を嚙み砕き始める巨大ゴリラと対峙しレオは腹をくくったかのように歯を剥き出す。

 

「全力でぶつかって俺達の力を認めさせるんだ! そうすりゃあきっと先輩も正気に戻ってくれる!」

「全くどこの世界のモンもほんに世話のかかる連中ばかりじゃて……」

 

戦わねば道は開けない、ならばやる事はもう既に決まっている。

既に決心しているレオと同じく陸奥もまた眼前のゴリラを睨み付ける。

 

「行くぞヒデキッ!!!」

「おうよッ!!!」

 

そしてレオと陸奥は真っ向から巨大ゴリラに向かって飛び掛かり戦いを挑むのであった。

 

 

 

 

 

「あーでもよく見たら十文字先輩じゃないような……さすがにもう少し小さかったかもしれんのぉ」

「そらそうでしょ、ゴリラが魔法学校の生徒になれたら世の末よ」

 

よくよく見てみるとやっぱアレ十文字克人じゃないなと気づいたエリカは坂本と共に出入り口の方へ踵を返し

 

「逃げた方がええか」

「アイツ等の骨は後で拾ってあげましょ」

 

謎の巨大ゴリラと戦っているレオと陸奥を残し、すたこらさっさと内部へと潜入するのであった。

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。