魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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第二十訓 秘密&判明

前回のあらすじ

ゴリラ2匹が潰れて代わりにドSのお巡りさん・沖田総悟が土方十四郎と共に銀時達の前に現れた。

突然の出来事と突然の出会いと突然の悲劇に銀時達を代表して志村新八が驚きつつやっと口を開く。

 

「真撰組が僕らの目を掻い潜ってコッソリ同行していたなんて……事前に言っておいてくださいよ」

「サツの俺等が攘夷浪士共と手を組んで戦うって訳にはいかねぇんでね」

「将軍と攘夷志士が手を組んでるんだから今更じゃないですかね……」

「ま、潜入捜査みたいなもんだから。俺等の事は気にせずおたく等はおたく等だけでこの危機的状況をなんとか打破する手筈でも整えているんだな」

「いや今さっきアンタのせいで危機的状況に陥っているんですけど……」

 

勝手な事を言う沖田だが新八はふと彼の足元に目をやる。

彼が先程足を置いている瓦礫の下には、彼の上司である近藤勲と異世界組の十文字克人が……

 

「それに来てくれたんなら僕等にも力貸してくださいよ、今こっちは滅茶苦茶ヤバい事になってんですから。特にウチの万事屋のリーダーが大変な事に……」

 

新八がふと背後にいる銀時の方へと目配せすると沖田は目を細めて彼を観察する。

 

「おおよその事はこっちも把握しているぜぃ、どうやらここにいる旦那は異世界とかいう所の小娘の魂が入り込んでいて、旦那の方はその小娘の体乗っ取ったとか、体の中から操るたぁさすがは旦那、俺も真似出来ねぇ調教テクニックだ」

「何ジロジロ見てんですかコノヤロー、初対面でいきなり人のツラ見ながらなにブツブツ呟いてんですかコラ セクハラで訴えますよ? そして勝ちますよ?」

「あり? もしかして旦那元に戻ってる?」

「沖田さん違います……なんといいますか、どうやら体の入れ替わりが長引くと魂に影響を及ぼすらしいんです……」

 

こちらを見て来る沖田に銀時はガン付けながらけだるそうな声を上げる。

いよいよ本格的にヤバくなってきている気がする、新八は徐々に本物の銀時の様な感じになっている司波深雪に危機感を覚えながら沖田の方に再度首を戻した。

 

「という事でウチのリーダーもこんなんなっちゃったんで協力してもらえませんか? 他にも異世界組と僕等の世界の面子が集まっているんですが、大概ポンコツ揃いで」

「確かに今の旦那じゃまともな戦力になりそうにねぇしな、どうしやす土方さん?」

 

そう言って沖田は背後に立っていた上司である副長・土方十四郎に言葉を投げかける。

真撰組の頭脳とも称される彼ならばこの状況下でも最良の手を下せる筈。

すると土方はフンと不機嫌そうに鼻を鳴らすと

 

「そこの銀髪は見てるとムカムカするから斬った方がいいんだぜ」

「そうですかぃ、んじゃ今の旦那は足手まといにしかならないという事でここで死んでもらうという事で」

「なんでだよ! ってあれ? ちょっと待ってください、何か土方さんおかしくないですか?」

 

アッサリとした土方の判断に沖田がすぐに了承したかと思えばすぐ様身を乗り上げる新八。

 

「喋り方に違和感があるというかなんというか……」

「おいメガネ、この土方さんに対して歯向かうつもりかだぜ」

「そうだよ、ほら土方さんも言ってんだろ、副長命令だから仕方ねぇんだよ」

「いやいやいや! やっぱさっきからなんかおかしくありませんか!?」

 

叫びながら新八は沖田の後ろに立っている土方に指を突き付ける。

 

「さっきから語尾に「だぜ」とか付けたり変だとは思ってたんですけど! なんかいつもの土方さんらしくないんですけど! アンタ本当に土方さんなんですか!?」

「何言ってんだ俺は正真正銘土方君なんだぜ、そうだよな沖田君」

 

自分を親指で指さしながらドヤ顔でそう言い切る土方に沖田も無表情でコクンと頷く。

 

「そうですぜ土方君、アンタは唯一無二の土方君でさぁ。うわこれ完璧に土方君だわ、手のつけようのない完全な土方君だわ、誰が何と言おうとパーフェクト土方君だわ」

「な? 部下が言っているのだから確固たる証拠だぜ、これでわかったのぜ?」

「のぜ!? そんな無理矢理語尾付けなくても! 土方さんのキャラ絶対把握できてないでしょ! ぜってぇコレ土方さんじゃないよ!」

 

疑惑は徐々に確信に変わりつつある、新八はこのあからさまに偽物っぽい土方に一気に詰め寄った。

 

「明らか誰かと入れ替わってるよ絶対! きっと会長や深雪さんと同じ入れ替わり組だって! 誰なんですか一体!?」

「俺は誰とも入れ替わってないんだぜ」

「そうそう土方さんは誰とも入れ替わっちゃいねぇよ、付き合いの長い俺が言うんだから間違いねぇって」

「いや沖田さんアンタ絶対わかってるでしょ! なんなんすかアンタ! ひょっとして遊んでる!? 」

 

あくまでシラを切る土方(?)とそれに対してすっとぼけてる様子の沖田。

この二人どうも怪しい……新八が怪訝そうな表情を浮かべていると沖田の足元にあった瓦礫の下から小さく物音がしたと思うと

 

「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!!! ゴリラナメんなぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

下敷きにされていた2頭の内のゴリラ(恐らく近藤勲の方)が勢いよく飛び出てきた。

伊達に真撰組として長く修羅場を潜り抜けてきた猛者だけあってあっという間に復活し、すぐに周りを見渡して沖田と土方を見つける。

 

「おおトシ! 総悟! もしやお前達俺を探す為にわざわざこんな所まで来てくれたのか! さすがはお前達だ! 真撰組バンザーイ!!」

 

長く別れていた同志との再会に喜ぶ近藤。たとえこんな身体になっていてもなお自分の下に駆けつけてくれた事に感激して涙を流す。

 

しかし沖田と土方は冷めた表情で顔を合わせ

 

「土方さん、なんですこの馴れ馴れしい人語を話す不思議ゴリラは?」

「この真撰組副長である土方君に対してふざけたゴリラだぜ、斬っちまうんだぜ」

「へーい」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!! 待て待て待て!! 俺だよ俺!! お前達の大将の近藤勲だよ!!」

 

冷静に自分に対して刀を抜こうとする沖田に、慌てて両手を突きだして必死に自分の名前を名乗る近藤ゴリラ。

 

「もうなんだよ~姿形が変わっても俺の事ぐらいわかるだろ~同じ釜の飯を食った仲じゃねぇかよ~。冗談きついぜ全く~大将にいきなり斬りかかろうとするなんて~」

「何言ってんでィ俺達真撰組の大将はいつだってたった一人だ、ここにおられる方こそ俺達の大将だぜ。そうですよね」

「……え?」

 

おもむろに沖田が後ろに振り返るとそこからヌッと現れたのは彼等と同じく真撰組の制服を着た黒くて毛深い……

 

ゴリラ

 

「ウホ」

「ほら見ろ、ここにいる人こそ正真正銘本物の近藤さんでさぁ」

「いやそれゴリラじゃねぇかァァァァァァァ!! なんでぇ!? なんで俺の身体完全にゴリラになってんのぉ!?」

 

姿形全く今の自分と変わらぬ姿をしているゴリラがそこにいた。自分と入れ替わったのがゴリラだというのは大体見当ついていた、しかし自分の元の姿は変わらぬと思っていたのだが……

 

「新八君どういう事コレぇ!? 俺の元の身体完全にゴリラになってるよ!? パーフェクトゴリラだよ!? 入れ替わるのは魂だけじゃないの!? もう俺の元の体どこにもなくなったの!? どう足掻いてもゴリラなの!?」

「僕だってわかりませんよ! もしかしたら入れ替わりの影響で近藤さんの体がゴリラの魂に浸食されて何かしらの変化が起きたとか!」

「イヤだぁぁぁぁぁぁぁ!! このままだと入れ替わってもゴリラのままじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!! つーかどうしてアイツ等俺の身体の変化に気付いてねぇんだよ! 総悟! トシ! 俺が本物の近藤勲なんだ! 信じてくれ!」

「んー確かにこっちのゴリラも近藤さんっぽいような……」

「こっちのゴリラって事は完全にそっちもゴリラだと認識してんじゃねぇか!! 遊んでる!? もしかして総悟君遊んでるこの状況で!?」

 

どうやら近藤とゴリラの入れ替わりには何かしらのイレギュラーが発生してしまったらしい。これには新八も理解できないし、恐らくこの現象について詳しく知っているであろう蓮蓬の連中もわからないかもしれない。

両者完全にゴリラの体に成り果ててしまい深く悲しむ近藤であるが、とにかく自分が本物の近藤勲であることだけでも証明しようと沖田に向かって涙目になりながら叫ぶ。すると沖田は小首を傾げてジト目を彼に向けながら

 

 

「まいったねぇどっちが本物の近藤さんか見分けつけねぇから本当なのかどうかわからねぇや、近藤さん元から見見た目ゴリラと瓜二つですし」

「ウホ」  

「ああすいやせん近藤さん、近藤さんは立派な人間です、俺が保証します」

「いやそっちモノホンのゴリラだからね! 近藤さんこっち!! てか意思疎通出来んの!?」

 

毛深き野生の獣人の屈強な肩に手を置いて微笑む沖田に後ろから近藤が必死に叫んでいると彼の隣からヌッと大きな人影、否、ゴリラの影が勢いよく飛び出す。

 

「近藤、どうやらそちらでは大変な事が起こっている様だな、俺で良ければ力を貸すぞ」

「おお俺の事を近藤勲と認めてくれる数少ない人がここに!」

「人じゃなくゴリラですけどね……」

 

近藤と同じぐらい屈強で毛深いゴリラになってしまっている十文字克人。

喜ぶ近藤を尻目に新八がボソッとツッコんでる中、沖田は首を傾げて十文字を眺める

 

「うわ、またゴリラ出てきましたぜ、参ったなこれじゃあどれが近藤さんかわかりやしねぇや」

 

そう言って沖田はポリポリと後頭部を掻きながら自分の隣にいるゴリラと目の前にいる二匹のゴリラを見比べた後、軽くため息を突き

 

「もう全員近藤さんでいいか、めんどくせぇし」

「いやそれはダメだろ!」

「だってゴリラなんて大体近藤さんみたいなモンだろ」

「沖田さん真面目にやってくださいよいい加減に!!」

 

考えるのも面倒臭くなったのか、ゴリラ=近藤勲という安易な結論を導き出す沖田にすかさずツッコミを入れる新八。

 

「さっきからふざけ過ぎですよ! 土方さんもああだし近藤さんもゴリラになってるんだからアンタも本当は気付いてるんでしょ!!」

「何言ってんでぃ俺はいつだって大真面目だ、なあ土方さんに近藤さん」

「そうだぜ、沖田はいつも真面目にやっているんだぜぃ、組織を裏切ろうとするクズ共とは大違いなんだぜ」

「ウホホホ、ウホホ、ウホッホッホ」

「ほら」

「そいつらの意見なんか信用できるかァァァァァァ!! つーかゴリラ何言ってるのかわかんねぇよ!!」

 

頑なに言動のおかしい土方とゴリラを信じ続けている様子の沖田。

そして遂に新八が声を荒げて怒鳴り声を上げていると……

 

「おい! また何か落ちて来たぞ!」

「え?」

 

反乱軍の一人が大きな声を上げて頭上を指差す。新八も思わず釣られて顔を上げた。

見ると先程沖田達が開けた穴から、あちこちにぶつかって派手な音を鳴らしながら勢いよく落ちて来る小さな物体が

 

そして

 

その物体はドンガラガッシャーンとやかましい音を最後に鳴らすと新八達の近くに落ちて来たのである。

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!! 今度は何事ぉぉぉぉぉぉ!?」

 

次から次へと起こる急展開に新八はうろたえながら落ちて来た物をすぐに見下ろす。

するとすぐに目をハッとさせて驚きの表情を浮かべた。

 

「親方! 空からパツ金ツインテの女の子が!!」

 

先程落ちて来た新八の眼前に横たわる者の正体は金髪ツインテールの小さな少女であった。

そしておもむろに銀時も彼等の下へと駆け寄ると口を大きく開けて叫んでいる

 

 

「一度言ってみたっかったんですよねコレ」

「いやアンタもいい加減焦ろよアンタは! その自由な言動からしてもう本格的に銀さんに浸食仕切ってるんだぞ! このままだとS級美少女から天パのオッサンに染まり切って一生冴えないダメ人間のまま生きていく事になるんですよ!」

「心配ねぇですよぱっつぁん、大丈夫ですよ私達にはお兄様がいますし。パチンコでもしながら気長に待ってればその内元に戻りますって。あ、さっきの店に戻っていいですか私?」

「駄目だコイツ、もうこのまま堕ちることろまで堕ちるしかない……」

 

目が完全に死にかけ、言動も性格も変わり果てていく銀時を見て新八が絶望のさ中にいると、二人の声を聞いて意識を取り戻したのか、倒れていた女の子がピクリと動く。

 

落下の衝撃のおかげかぐったりとした様子はあるが、しばらくすると半目の状態でよろよろと上半身を起こす。

 

「いつつ……あのニヤケ野郎ふざけやがってなんつー馬鹿力だ……こんな所まで叩き落としやがって……」

 

金髪の少女は頭を押さえつつ舌打ちすると、次に自分の顔をペタペタと触り始める。

 

「変装術が解けやがったか……しかしそれ以外の損傷はさほど無い所を見るとあの野郎殺す気は無かったようだな……」

 

ブツブツと何やら意味深な言葉を呟きながら少女は膝に手を置いてゆっくりと立ち上がろうとする。

するとふと顔を見上げた先に立っていたある人物と目が合った。

 

そこに立っていたのは先程から彼女の顔を覗き込もうとしていた土方十四郎であった。

 

「……」

「……」

 

二人は互いの顔をジッと見合わせながら時が止まったかのように数秒固まる。

 

そして

 

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

何故かはわからないが全く同じタイミング、同じ波長で素っ頓狂な声を上げて二人が驚き出したのだ。

 

最初に動いたのは金髪の少女の方、彼女はすぐに土方に向かって指を突き付けるとテンパった様子で

 

「お、お、お前ぇぇぇぇぇぇっぇ!! もしかしてお、俺の……!!」

 

あまりにも衝撃的な出来事に遭遇したのか上手く言葉が出てない様子で何かを言おうとしている少女。

しかしそんなうろたえている様子の少女を前に、土方はすぐにビシッと指を突き返して

 

「みんなコイツは蓮舫が差し向けてきたスパイだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!? テメェ何ふざけた事言ってんだゴラァ!!!」

「沖田君すぐに殺っちゃうんだぜ! アレだよアレえーと……そう切腹だ! 副長命令で切腹なんだぜ!!」

「チッ誰がスパイだ……俺は今はこんな身体になっちまったが正真正銘真撰組の……」

 

とち狂ったかのように慌てた様子でスパイ呼ばわりしてくる土方に少女は一瞬たじろぎながらも弁明しようとする、だが……

 

 

土方の命令を聞いて沖田はニヤリと笑うと腰に差す刀を抜いてすかさず彼女に突き付けたのだ

 

「おい女、さっさと白装束着替えな、介錯は俺がしてやる」

「おい待て俺は敵の間者でもなんでもねぇ!! テメェ一体どういう真似……」

 

刀を突き付けられて血相を変える少女に沖田は徐々に腹黒そうな笑みを口元に広げながら歩み寄ると

 

「はい介錯ぅ!!」

「いやまだこっち白装束着てないんだけどぉ!?」

 

何のためらいもなく勢いよく刀を振り下ろしてきたではないか、上体を逸らして間一髪ギリギリのタイミングで避けて立ち上がる

 

「あ、あっぶねぇ! テメェいきなり斬りかかるとか何考えてんだ! 人の話を聞け! 俺だ俺! お前の上司の……」

「え、なんだって?」

「どわぁ! 聞き返しながら殺しに来たよコイツ!!」

「え、なんだって?」

「ラブコメの主人公かお前は!」

「キムチでもいい?」

「それヒロインの方!」

 

少女の必死な説得を聞こえない振りをしながら何度も刀を振り回してくる沖田に少女はまたもや寸前で回避しながら

、彼に踵を返して走り出し、逃げ出そうとする。

 

「あの野郎ぉぉぉぉぉぉぉ!! 元に戻ったら逆に俺が介錯してやる!」

 

とても見た目可憐な女の子とは思えない形相と物騒な台詞を吐きながら逃げ出す金髪ツインテ少女、しかし走ってる途中でふとある人物が視界に映る。

 

「ん?」

 

そう、少女の目に映ったのは……

 

「ウホホウホホホホホ!」

「え、マジで!? バナナって実の中心を指で押すと綺麗にに3つに割れんの!?」

「ウッホホ~」

「ほう、このゴリラ意外にも博識……いずれ我々ゴリラのホープの存在となるやもしれん」

 

三匹のゴリラが意気投合しながらバナナ談議に花を咲かせている真っ最中であった。

その光景を見た少女は静かに目を逸らして前に向き直り

 

「……こりゃいよいよ完全に疲れてるな、近藤さんが三人に見えるとか異常だわ」

 

疑問を浮かべながらも少女は一人梯子を勢いよく駆け昇って逃げ出すのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、徳川茂茂&桂小太郎と合流していた司波深雪一行は思ったより進行が定まらず困難を極めていた。

 

「あり? もしかしてどんどん下っていってねぇか?」

「多分そう、今の場所は多分上層部より中層部の方に近い」

「なんか色んな所グルグル回ってるせいかどっち行ってるかもわかんなくなるね……」

 

先頭を歩く深雪の後をついて回りながら北山雫、光井ほのかが今置かれてる状況を説明する。

どうにも場所が広大な為に迷ってしまったらしく、目的地である入れ替わり装置のある部屋を見つける以前の問題であった。

 

「マジかよ、そういや前ここ来た時より随分とデカくなってるみたいだなここ、こりゃあ地図みたいなモンがねぇと永遠に彷徨う事に……」

 

思ったように物事が進まない事にアゴに手を当て苦々しい表情を深雪が浮かべている、だがふと気になったのか、脇に立っていた茂茂の方をチラリと横目をやる、すると

 

「ねぇ~ん達也君、ちょっとこのまま二人でデートでもしてみな~い? ちょっと薄暗くて人一人忽然と消えても問題ないような所とか行ってみたいと思わな~い?」

 

妙に色っぽい口調で将軍茂茂に攻め寄る攘夷志士桂小太郎がいつの間にか傍にいた。

しかし茂茂は相変わらず何の感情も籠ってない表情で淡々とした口調で受け流す。

 

「すみません会長、今現在この身体の状態でそのような行いは恐らくどちらも得が無いと思いますよ、主に俺の方が。長髪のおっさんとデートするとか完全に罰ゲームですし」

「フッフッフ、将軍様の体になっても相変わらずいけずなのね貴方は……でも大丈夫、年上の私が手取り足取り『首取り』教えてあげるほぉぉぉぉぉ!!!」

「なにお兄様を誘惑してんじゃこのクソアマァァァァァァ!!!」

 

桂が言い終える前に深雪の飛び蹴りが彼の顔面に炸裂。モロに受けた桂はそのまま地面を削るように滑っていく。

 

「ちょっと目ぇ離した隙にいけしゃあしゃあとお兄様に近づきやがって、テメェは列の一番後ろにいろって言っただろうが。もしくはついて来んじゃねぇ、その辺で野垂れ死んでろ」

「うう、そこまで私と達也君の接触に過剰にならなくてもいいじゃないの……」

「テロリストに成り果てた野郎を将軍の傍に置ける訳ねぇだろ、身の程を知れコノヤロー」

 

地面に倒れたまま顔面を押さえてる桂に向かって深雪がしかめっ面を浮かべながら睨み付けていると。

茂茂の方へほのかが心配そうに歩み寄る。

 

「あの、お兄さん大丈夫でしたか? 会長さんに言い寄られてましたけど……」

「ああ心配ないよ、七草会長も少しばかり……いやかなりおかしくなってるしな、早い所入れ替わり騒動を解決しなければな」

「そうですね、早く無事に終わらせてみんなで元の体で故郷の地球に帰れると……」

「お兄様をたぶらかそうとしてんじゃねぇクソビッチがぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「おっふぅぅぅぅぅぅ!!!」

 

茂茂とほんわかムードで会話をしていただけのほのかに突然深雪の無慈悲なる暴力が襲う。

彼女の飛び蹴りがほのかの腹にクリーンヒットし、そのまま後ろにぶっ飛ばされた。

 

「この野郎油断も隙もありゃしねぇ! どいつもこいつもお兄様に近づこうとしやがって! お兄様どうしますコイツ等! お兄様誘惑罪を犯した罪で敵をおびき寄せる為の生贄にしてやりましょうかね!?」

「いや銀さん、会長はともかくほのかは別に俺に何かしようとする理由は見当たらないぞ」

「へ、銀さん?」

 

頭に血が上っているのか激昂した様子で桂とほのかに指を突き付けて叫んでいる深雪に向かって茂茂が冷静に諭す。

すると深雪は口をへの字にしたまま彼の方へ振り返り

 

「銀さんって……誰?」

「……」

「……あ」

 

ジッと静かにこちらを見つめる茂茂の反応を見て、深雪はやっと気付いた。

 

「銀さん俺だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! あっぶねぇ自分の事完全に見失いかけてたぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「いや完全に見失ってたぞ、ともあれ気付いてくれたようで何よりだが」

「何やってんだ俺! 消えろ俺の中のブラコン妹! 戻って来い小栗旬!」

「いや小栗旬じゃないだろアンタ」

「ついでに山田優と8000億もお願いします!!」

「落ち着け、山田優も8000億もアンタには一生縁がないモンだ、全て小栗旬のモンだ」

 

頭を押さえて必死に自分の何かと格闘している様子の深雪に対して至って冷静なツッコミをいれる茂茂、そして腕を組みながらしばらく彼女を観察する

 

 

「どうやら会長と同じく銀さんもそろそろヤバい様だな」

「この人は私達の世界にいた頃はまだ自分を保っていられたけど」

 

静かに深雪の精神が浸食している状況を把握している茂茂の傍にヒョコッと雫が近づいた。

 

「お兄さんと会ってから徐々に変わっていっている、今ではもうすっかりブラコン暴力系妹キャラに」

「本来変わるのであれば俺の知る深雪になると思うんだが……今の状態はそうだと言えるのであろうか。なんか完全に別キャラになっている様な」

「多少過激になっているのは銀さんの部分がまだ残ってる証拠」

「そうか、俺の知る限り最悪の化学反応だな、状況が状況なら今すぐこの現実から目を背けたい」

「私は正直面白いけど」

「よしてくれ、とにかく一刻も早く元に戻さねば」

 

深雪のブラコン気味な愛情表現が銀時本来の性格と合致した上でのこの始末。

事がどんどん深刻になっている事に茂茂は徐々に気付き始めていると、ふと廊下の曲がり角からフラフラとした足取りで人影がゆっくりとやって来る事を察知した。

 

「……やれやれこんな状態で新手か」

 

そう言って茂茂は腰に差す刀に手を置き、人影が姿を現すのを待っていると……

 

「ん?」

「私達と同じ人間? でも誰?」

「ゼェゼェ……! 総悟の野郎絶対ぶっ殺す……だが最も殺さなきゃいけねぇ奴はあの野郎だ……!」

 

茂茂と雫の前に現れたのは金髪ツインテの見た事のない女の子であった。年もさほど変わらないであろう少女がいきなり現れた事に茂茂は思わず面を食らうがすぐに勘付く。

 

(気配や放ってる殺気からして恐らく”あの人物”だな、偽装魔法を敷いて俺達に素顔を隠していたのか、抜け目のない奴だ)

 

彼女の立ち振る舞いを見て茂茂はある人物だとすぐに合致していると金髪少女の方が彼等に気付いて顔を上げた。

 

「ああ? んだよ将軍もどきか……てことは本物の将軍も近くにいる……ってうおわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

一瞬安堵したのも束の間、少女は何故かまだ項垂れている深雪の存在に気づくと素っ頓狂な声を上げて飛び上がった。

その叫び声に気付いて深雪も「あ?」としかめっ面で顔を上げる。

 

「は? 誰だお前? なんで見た事ねぇツラの小娘がこんな所にいやがんだ」

「へ!? あ、俺……いや私はその……」

 

突然敵地で見た事もない少女がいきなり現れた事で物凄く怪しんでいる視線を向けて来る深雪からすぐに目を逸らして冷や汗を流す少女。

すると茂茂がおもむろに口を開き始めた。

 

「実は彼女は響子さんが連れてきた潜入に特化した密偵なんだ、銀さん達には悪いが彼女の存在が敵方にバレるとマズいんで彼女の存在は今までずっと極秘扱いしていたんだ」

「密偵? この金髪ツインテの小娘が?」

(ナイスフォローだ将軍もどき! 生意気そうな野郎だとしか思ってなかったが少しは空気読めるみてぇだな……!)

 

正体を言わず平然としたまま彼女の素性をスラスラとでっち上げてくれた茂茂に少女が心の中で賞賛する。

しかし深雪の方は未だ怪しむ様に少女をジーッと見つめる。

 

「コイツがねぇ……おいガキ、名前なんつーんだ」

「(テメェこそガキだろうが!)……わ、私の名前は”アンジェリーナ=クドウ=シールズ”です、はい、愛称はえー……リーナだっけ? なんかそう呼ばれてます……」

「ふーん……」

 

リーナと名乗る金髪ツインテ少女に深雪はますます眉間にしわを寄せると小首を傾げ。

 

 

「まあ夫婦そろってスパイ映画出てたしそういう密偵活動もお手のモンって事かね、ブラピとは最近どう?」

「そりゃアンジェリーナジョリーだろうが! アンジェリーナしか合ってねぇのにどうすれば間違えんだよ! ていうかもう別れてるからあの二人!」

「ほーん、そのくどくて長いツッコミ……どうもウチの世界の匂いがしますなぁ」

(うそぉぉぉぉぉぉぉぉ!! ツッコミだけで速攻バレかけてる!)

 

どうやらちょっくらカマかけてやろうと深雪が上手く引っ掛けに来たらしい、ニヤリと笑う彼女を見てまんまと乗せられてついツッコミを入れてしまったと気付いたリーナが内心動揺していると、雫がすぐに深雪の下へ歩み寄る。

 

「この人があなたの世界の人間かもしれないとどうしてすぐに疑ったの?」

「なんつーかこう初めて会った気がしないんだよなコイツ……しかもなんか嫌々ツラ合わせる事がしょっちゅううあったような……」

「じゃあ銀さんと同じ入れ替わり組って事?」

「だろうな、誰だろうなコイツ……おいお前、本当の名前言ってみろ」

(ヤバい! このままだとあっという間にバレる!)

 

こうまであっさりバレるとは予想してなかったのか、リーナは目を細めながら睨んで来る深雪から必死に目を逸らして着ているマントの下をゴソゴソと探り始める。

 

(なんとか疑惑の種を取り払わねばマズイ……! まさか俺がこんなガキになってるなんてコイツにバレたら一生何言われるかわかったもんじゃねぇ!! よし! ここは普通にどこにでもいる女の子アピールをしてやり過ごそう!)

 

そう思いリーナは懐からある物を取り出しながら必死に作り笑いを浮かべながら深雪の方へ振り返る。

 

「や、やだなぁ私は極々真っ当な人生を謳歌して真っ当にスパイ活動してるだけの超ノーマルな女の子なんですけどー! なんか変に疑り深くてマジ引くー! チョベリバーって感じーみたいなー!」

「チョベリバとかそんな死語使ってるノーマルな女の子なんざいねぇよもう」

「マジウザいんですけどー! は~いもう喉渇いちゃったんでーしばらく話しかけないでくださーい!」

 

物凄く下手くそでバレバレな演技をしながら無理矢理にでも突破口を開こうと模索しながらリーナが取り出した物とは……

 

 

 

 

マヨネーズ

 

 

 

 

 

「やっぱひと運動した後はマヨネーズよねー!」

 

そう言いながら腰に手を当てたままもう片方の手でマヨネーズを得意げに掲げると、そのまま口に付けて直で飲み始める。

 

ズズッー!っと生々しい音を奏でながらなんのためらいもなく飲んでいく光景を目の当たりにした雫は思わず「うわ……」と呟き目を逸らし、後ろで眺めていた茂茂もゆっくりと顔を背ける。

しかしその光景から目を逸らさず、深雪はただ一人無言で直視していた。

 

「お嬢さん……何やってんの君?」

「あ? マヨネーズでの栄養補給は乙女のたしなみだろーが、女の子、つか人類皆マヨネーズ大好きだろ普通」

「お前……」

 

 

 

 

 

 

「土方君だろ」

 

リーナの手元にあった空のマヨネーズ容器が地面に落ちる空しい音が静かに響いた。

 

 

 

 

 

 




投稿が遅れてしまい大変申し訳ございませんでした。
どうにも仕事に集中しないといけない期間がありましたので長らく執筆活動を出来ないでいました。
ようやく山場を超えられたのでこれからは資料を調べ直しながら他作品諸々なるべく早く投稿できるよう頑張ろうと思います。

それではまたすぐに会える日を願って

追記
現在の入れ替わり組(攘夷勢のみ)の状態をわかりやすく記しておきます

七草真由美 性格も完全に染まりつつあり危険な状態 
桂小太郎 少々規律に対して真面目になったり他の所も彼女の影響を受けてきているがまだ軽め 
司波深雪 たまに自分という存在を忘れてしまう事がある、超危険
坂田銀時 深雪と同じ状態、超危険
千葉エリカ 船乗るとたまに吐く、たまに土佐弁が出る、それ以外は自分の事を保ってられているので軽度の状態 
坂本辰馬 全く染まっていない、完全に自己を保っており全く心配はない状態 
高杉晋助 染まっていない様に見えるが、今までの態度を振り返るとほんの若干だが大人しくなっているのが見受けられる(生徒会室で大人しく席に座ったり人の話を素直に聞いたり)
中条あずさ ???

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