魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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第十四訓 戦狂&叫喚

「真正面から敵の星に突っ込む?」

「そうじゃ」

 

天空の城、ラピュタ宇宙船にて

 

目的地到着まで残り数分といった所で陸奥が放った最初の作戦に首を傾げたのは茂茂であった。

 

「あまりに無謀すぎやしないか」

「普通に突っ込めばの、じゃからまずはこの船を囮に使って敵を引き寄せる。そしてその隙にコイツと分離した快臨丸を先導に他の船もろとも乗り込むという算段じゃ」

「なるほど、この船なら確かに時間稼ぎにはもってこいだな」

 

数も少ない兵力で数十倍の駒を持つ敵を相手と戦うには相手の意表を突く戦法がセオリー。

今回は正面突破でありながらラピュタを用いて敵をかく乱させる作戦を選んだのだ

 

「前に連中と戦った時は「地球を売る」という名目で奴等の星に忍び込んだ。だが今ではもうそれは無理の話、こうなったら直接殴りこんで勢いのままに連中ば叩き潰す、前衛を駆逐させた後は複数の小隊で内部に潜り込み入れ替わり装置、星の核であるSAGIの二つを破壊すればええ」

「その二つを破壊するだけじゃまだ敵は諦めないと思うんだが」

「ウチのバカ艦長はもう一度連中と交渉したいと言っておった」

 

彼の疑問に陸奥は眉間にしわを寄せながらもはっきりと答える。

 

「一度は成功したものの結局はその場しのぎにしかならんかった、じゃからもう一度ば連中と腹の底さらけ出し合って心開かせたいんじゃとな。つまりこの戦争を終わらすには奴が連中を説き伏せれるかどうかで変わるといっても過言ではなか」

「出来る保障もないのに、随分とあんた達は博打が好きみたいだな」

「ここまでいったら信じるしかないじゃろ、坂本辰馬という男を」

 

まだ自分でも安心しきってない様子でアゴに手を置く陸奥。

 

「正攻法も奇策も通じん相手には、一か八かの大勝負で賭けに出るしかないんじゃからの。後は仲間を、二つの世界からの混ざりに混ざったあのアホ共を信じ抜く事だけじゃきん」

「信じぬく、か……俺にはそっちの方が難しいな」

 

そう言って茂茂は部屋の隅にいるとある二人組の方へ振り返る

 

「出会ったばかりの人間をおいそれと簡単に信用出来るほど俺は楽観主義じゃないんでね」

「フッフッフ、味方に対して疑心暗鬼になっていては終わりだぞ達也殿。俺達に一体なんの不満があるというのだ」

 

こちらに振り返ってきた茂茂に不適に笑い返すのは七草真由美。そして彼女はカッと目を見開き

 

「ならばまずは蓮蓬よりも先に我々と腹を割って話し合おうではないか達也殿! だからこの縄を解けぇ!!」

「残念だわ達也君! 同じ学び舎の私にまでこんな真似するなんて本当に悲しいわ! あなたはこんな冷酷な事を平然と出来るなんて一体あなたの中で何が変わったというの!」

「七草会長、俺は何も変わってません、変わったのは攘夷思想にすっかり影響されてしまったあなたの方です」

 

少し前に将軍暗殺未遂を行った実行犯ということで、丁度いい柱に縄で縛り付けにされている真由美と桂に茂茂はクールに答えた。

 

「とりあえず二人は星に着くまで拘束させてもらいますから、後は他の仲間達からの意見によってどうするか決めさせてもらいます」

「俺がいない状態でこの戦いに勝機を見出せると思ってるのか達也殿! 俺がいないとアレだぞ! ただでさえ微妙な人気のこの作品が遂に底に落ちることになるぞ!!」

「この作品の存在意義が私達がいるから成り立ってると言っても過言ではないのよ!!」

「言っておきますがこの作品はあなた達がいようがいまいがずっと微妙なままです」

「そういうことを正直に言うのは止めろ! 別の意味で悲しくなるではないか!!」

 

二人の精一杯な弁明もあっさりと受け流しながら茂茂は陸奥のほうへ振り返る。

 

「この二人の事はアンタ達に任せる、それでいいか」

「そうじゃな、最悪このアホ二人は終わるまでずっとここに置いとけばいいしの」

「もしそうなったら七草会長もそちらの世界に連れて行ってあげてくれ、攘夷志士となった会長ならそれで本望だろうしな」

「ウチはもう満員じゃ、これ以上おかしな奴等連れ込もうとうするんじゃなか」

「ウチもお断りだ。今の会長が学校に復帰したら何やらかすか考えただけでも不安になるんだ」

「あーどっちの世界にも見捨てられた可哀想な私!!」

 

目の前で互いに自分を押し付けあっている茂茂と陸奥になんだか無性に泣きたくなる桂であった。

 

「もういっそ蓮蓬と一緒に母星探しに行こうかしら!!」

「諦めるな真由美殿! こうして周りから存在を疎まれることは攘夷志士としての宿命だ! だが彼等もいずれはわかってくれる、そういつかは!!」

 

ガックリと頭を垂れる彼に向かって真由美は元気付けようと檄を飛ばす。

 

「いつかは自らの非を詫びて首を差し出してくれるに違いない!! そうであろう達也殿!」

「そうよね達也君! か弱き民衆を救う為に私達と戦ってくれるわよね! 大丈夫よ達也君は何もしなくていいから! ただ首を切られてくれればそれで幕府も抹殺できる筈だから!!」

 

こんな状況になっても未だしつこく将軍の首を狙おうとしている桂と真由美。

 

茂茂と陸奥は二人に何も言わずただ無言でその場を後にするのであった。

 

 

 

 

 

 

そして時を同じくしてここは彼らの目的地である蓮蓬の母星。

彼等もまた大きな戦が始まると予期して着々と準備を始めていた。

それには当然、同盟を結んでいる春雨の連中も混ざっていた。

 

「いやはやまさか異世界同士でタッグ組んでやってくるとはねぇ……しかも春雨・蓮蓬の奇襲を難なく跳ね除けるたぁ中々骨のある連中じゃないの」

 

宇宙一面が見える巨大な窓を見上げながら呟くのは春雨第七師団副団長の阿伏兎、そしてその隣で退屈そうに壁に背中を掛けているのは

 

「良かったな団長、暇潰し程度にはなるんじゃねぇか」

「うーんどうかな」

 

春雨第七師団団長の神威。しかしいつもと違いどことなく不満げな様子である。

 

「やってきたのはここの連中に体を入れ替えられた奴等ばっかなんでしょ、出来るなら俺は本調子の状態の奴等と戦いたいんだよね」

「これだから戦闘バカは、向こうが本気出せねぇなら仕方ねぇだろ。俺達の役目はただ地球からやってきた勇敢なる勇者様ご一行を倒す事だけだ。よもや連中に本気ださせて貰うために異空間転心装置を破壊しようとか考えてねぇだろうな」

「アレ、バレちゃった?」

「ほらコレだよ、少しはその自己中心なおつむをどうにかしてくれねぇかな」

 

図星突かれたのか笑顔で振り返ってきた神威に阿伏兎は頭を手で押さえながらため息を突く。

もし彼がそんなことをやらかしてしまったら今度は蓮蓬と春雨の全面戦争に発展してしまうのだ。

 

「頼むからバカな事やらかそうとか思うんじゃねぇぞこのすっとこどっこい」

「いやー敵の中にあの晋助やあのお侍さん(銀時)もいるって聞いちゃうとね。そりゃあ戦いたくなるでしょ普通。それに」

「それに?」

「異世界の地球の連中とも戦ってみたいんだよね俺」

 

隠す気もなく堂々とこんな場所で言いながら神威はニッコリ微笑む。

 

「そっちの世界には残念ながら侍はとっくに絶滅してるみたいだけど、魔法使いとかいう面白いモンを使って戦う連中がいるんでしょ」

「大抵のことはすぐ忘れるくせにそういうのはホントよく覚えてるな……いい脳みそしてるぜ全く」

「やっぱアレかな、魔法使いって事は三角帽子被ったバァさんなのかな。箒に跨って飛び回りながら「イッヒッヒッヒ」って笑って手に持った魔法の杖で色んなモンバンバン出してくるのかな」

「そんなのいたら逆に斬新過ぎてサイン貰いに行くわ俺」

 

神威の口からそんなえらく古いタイプの魔法使いを例に出してくるとは予想してなかったので、さすがに阿伏兎もフッと笑ってしまった。

 

「そういうんじゃなくてもっと近代的な魔法使いなんだとよ。お前さんが考えてるようなアナログ派じゃなくて連中はデジタル派だってこった。どういう戦い方をするのかは知らねぇがもしかしたら夜兎の俺達よりずっと強かったりしてな」

「へー俺達より強いか。そうだったら燃えるね、むしろそれぐらいじゃないと俺が困る」

 

相手の力量まではわからないがもしかしたら夜兎をも越える戦闘能力を持っているかもしれない。

しかしそれもまた神威にとっては待ち望んだ展開の一つという訳だ。

 

「俺は強い奴にしか興味ないからね、そう簡単に殺されちゃったら拍子抜けだ。だから魔法使いの連中とも本気でやりあいたいんだよ俺は。あーやっぱりあの装置ぶっ壊しちゃおうかな」

「おい、冗談でもそういう事をこんな所で言うんじゃねぇよ、もし誰かにバレでもしたら……」

 

お構いなしに声を大きめにして物騒なことを言う神威に阿伏兎は焦って注意をしていると

 

「!」

 

背後からザッザッと足音を立ててやってくる気配、その音に敏感に反応してすぐに阿伏兎が後ろに振り返ると

 

アヒルだかペンギンだからおばQだかわからない奇妙な被り物、言葉を使うことさえ許されずプラカードのみで意思疎通を図る種族、蓮蓬がズラリとその場に並んでいたのだ。

そしてその中から一人の人物がシュコーと音を鳴らしながら一番前に出る。

 

その者は真っ黒なマントと兜を着け、蓮蓬の長らしい風貌を漂わせる人物であった。

 

「こいつは驚いた……まさかあの米堕卿がこんな所で現れるとは……」

「誰それ?」

「この星を支配する蓮蓬を統括している総帥だよ!! それぐらい覚えとけすっとこどっこい!!」

 

敵の陣営には興味あるくせに味方の事に関したら名前さえ覚えれない始末。無邪気に小首を傾げてみせる神威にさすがに阿伏兎も声を荒げてツッコんでいると米堕卿と呼ばれた人物は懐から一枚のプラカードを取り出した。

 

『先ほど我々の秘蔵の兵器を破壊すると言っていたのは真か?』

「い、いやいや米堕卿! ただのジョークですよジョーク! 俺達春雨がよもや同盟相手のアンタ等の兵器を本気で破壊しようだなんて思っちゃいませんって!!」

「そうだよ、俺は侍や魔法使いと本気で戦いたい。だからあの装置邪魔だから壊していい?」

「団長ォォォォォォォ!!」

 

必死にごまかそうと米堕卿に近づく阿伏兎をよそに正直に平然と言ってしまう神威。こんな連中の星でそんな事を言えば春雨と蓮蓬の戦争も避けられない。この世の終わりだという表情で叫ぶ阿伏兎だが、米堕卿は全く動じずに

 

『やれるものならいつでもやってみるがいい』

「え?」

『元より貴様等海賊と同盟を結んだ事はただの戯れに過ぎん』

 

彼が取り出したプラカードを読みながら阿伏兎はつい慌てるのを止めた。

神威も面白そうに笑っている。

 

『地球二つを手に入れる事など我々だけで十分に事足りる』

「でも一度負けたんでしょ、地球のお侍さんに」

『失態はもう二度と起こさぬ』

 

安い挑発も利かない様子で米堕卿は淡々とプラカードを取り出していく。

 

『その為に我々はあの装置を作り上げた。優秀なるリーダーを失えば星は滅んだのも同然、既に我々の攻撃は二つの地球に尋常な被害をもたらしている』

「だからその装置が俺にとって不満なんだよ。俺は本気でやり合いたいんだ」

『それで貴様等が我々に対して戦争を仕掛けるというのなら容赦しない』

「ふーん、それじゃあ」

「いや待てバカ団長!!」

 

いいなら遠慮なくといった感じで動こうとした神威の肩に手を置いて止めたのは阿伏兎。

 

「アンタの勝負事に俺等まで巻き込もうとしてんじゃねぇよ、すまなかった米堕卿。ウチのバカ団長はどうも敵さんにお気に入りがいたもんでな、そいつ等とガチでやり合えねぇと聞いてご不満みたいだ。コイツには俺から口うるさく説教しておくからここは穏便に、という事で」

『貴様等と事を交えようが交えまいが我々にはなんのメリットもデメリットもない』

 

歴戦の猛者である夜兎が二人であろうとこの星から抜け出すのは至難の業。速やかに事をおさめようとする彼に米堕卿はクルリと背を向けながらプラカードを取り出す。

 

『我々はいずれこの世の覇者となるであろう、その時のために我々に媚びへつらうか、それとも今から牙をむいてくるかは勝手にするがいい』

「……」

 

そういい残すと米堕卿はシュコーと音を鳴らしながら複数の蓮蓬達を連れて去っていくのであった。

 

「……ありゃ完全に俺達なんか眼中にねぇって感じだな」

「ムカついた?」

「少しな」

「なら殺る?」

「殺らねぇよ、ん?」

 

まだ諦めてない様子の神威にウンザリする様に阿伏兎が振り返ると、彼の背後にある窓を見てある物に気づいた。

 

「遂にきたか、異世界地球同盟軍」

「お、やっと来たの?」

「ああ、しかしあの見てくれは映像で見たとおり……」

 

敵艦が複数の船を連れてやってくるのを目撃すると神威もまたそちらのほうへ振り向く。

するとすぐに「おお!」と嬉しそうに声を上げて

 

「コイツは凄い、天空の城が大気圏を越えて遂に宇宙の城になっちゃったよ」

「見てくれも凄いが備え付けた武装も凄ぇぞ。なにせものの数分で春雨の艦隊を10台仕留めた要塞だからな」

「ふーん、俺もアレ乗ってみたいなぁ」

「まあ男なら誰もがそう思うモンだろうさ、おっとこうしちゃいらねぇ、俺等は奥行って本陣の護衛を勤めなきゃな。装置の方の護衛はアンタに任せられねぇから俺がやる。お前さんは米堕卿のいる部屋に辿り着くための通路にでも座ってろぃ」

 

慌しく動き始める阿伏兎をよそに神威は敵艦隊を見つめながら不敵に笑った。

 

「そうだ、俺が壊しちゃダメなら、連中に壊させてあげればいいのか」

「あ? なんか言ったか団長?」

「ううん別に」

 

目を見開きながら神威が一つの企みを思いついてる事も知らずに、阿伏兎はさっさと異空間転心装置のある部屋へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場所は再び戻りラピュタ宇宙船。

 

「ここに来たのは二度目じゃな」

「そうじゃのう、あの頃はよもやこんなええ体付きのお嬢ちゃんになるとは思いもしなんかった」

「わしもまさかウチの役立たずがさらに役立たずになるとは思わなかったぜよ」

「セクハラとクレームのダブルパンチで責めてくんの止めてくんない?」

 

快臨丸のモニターに映っているのはかつて見た蓮蓬の母星。

そう、坂本辰馬はコレを見た瞬間、異空間転心装置に撃たれて異世界へ送り込まれてしまっていたのだ。

その事を思い出していたエリカと陸奥に、後ろから彼らのおかげでとばっちりを食らう羽目になった千葉エリカの魂を持つ坂本が腕を組みながら舌打ちする。

 

「アンタ等がヘマしなけりゃこんな事にならなかったのよ! アンタ等のせいであたしのバラ色ライフは一瞬にして灰色ライフに急転直下だコンチクショウ!!!」

「まあそう言うなって、ここで坂本さん達責めても何も変わりやしねぇよ」

 

グラサンの下から涙を流しながら訴えかけている坂本を後ろから西城・レオンハルトが呆れた様子で引き止めた。

 

「それにあんなバカデカいのを坂本さん達で止めるなんざ無理な話だろうが、少しは坂本さんの事も考えてやれよ」

「うるせぇぇぇぇぇぇ!! 坂本坂本ってアイツの事考えてる暇あったらあたしの事も考えろボケェ!! こちとらもう元の生活に戻れても全然学校の授業に追いつける自信ないのよ! あたしの人生はもう終わりよ! アハハハハハハ!!!」

「うわ……凄い荒みっぷりだなコイツ……」

 

額に青筋浮かべてブチ切れた様子で振り返ってくるも今度は泣きながら大笑いを始める坂本に、レオはドン引きしながら目を細める。

 

「仕方ねぇな、元に戻ったら勉強教えてやるって、ちなみにウチの学校もうすぐ期末試験だからな」

「はぁぁぁぁぁぁぁ!? 学校の授業一つも受けてないあたしが期末試験なんか出来ると思ってんの!? ああもう終わりよ! 例え元の体に戻れても一生実家に引きこもってやるわギャハハハハハハ!!」

「こりゃ戻ってもカウンセリングが必要みたいだな、完璧重症だわ……」

 

半ばヤケクソ気味に笑っている坂本の姿をジト目でレオが眺めてると彼の下へ茂茂が唐突にやってきた。

 

「レオ」

「ってうおぉぉビックリした! えーと達也だよな」

「ああ、でも今は天下の将軍様だ」

 

ずっとドタバタしていたのでこうしてサシで顔合わせるのは久しぶりだった。

驚くレオに茂茂は口元にわずかに笑みを作る。

 

「俺の前で少しでも無作法な事をしたら首を刎ねてもらうぞ」

「向こうの世界じゃマジで実現出来るらしいからな。冗談キツイぜ全く……」

 

後頭部を掻きながら少々ビビッているレオに茂茂は話を続ける。

 

「ところで本物の将軍である茂茂公はどこに?」

「ん? いや見てねぇな、多分銀さん達と一緒じゃねぇか? てことはまだラピュタにいるかも」

「そうか、改めて挨拶しておきたいと思ったんだが、何せ俺は紛い物でありながら将軍に扮して向こうの世界で色々と勝手な真似を行っていたからな」

 

そう言いながらふと茂茂は周りを見渡しながらフッと笑う。

 

「正直今一番将軍に首を刎ねられるべき相手は俺だ、今のうちにゴマすって置かないと後々マズい目に遭わされるかもしれない」

「いやいや大丈夫だって、俺達はあの将軍さんとちょっとの間行動していたが、あそこまで人間出来てる人は中々いねぇよ。そう簡単にお前の首を刎ねろととか命じねぇって」

 

冗談で言ったつもりであろう茂茂にレオが笑っていると船頭室のドアを開けて一人の男が入ってきた。

 

「む、その体はもしや、そなたが余と入れ替わった司波達也か」

「お、ほら達也、噂をすれば向こうからわれ等が将軍様が……え?」

 

やってきた男の声を聞いてレオはすぐに茂茂の魂を持つ達也だと気づいて後ろに振り返るとすぐに表情をギョッとさせ

 

「なんで将軍様全裸になってんだぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「会いたかったぞ、余と入れ替わった者がいかなる人物なのかこの目で見ておきたかったのだ」

「そしてなんで全裸のまま何事もないように話しかけれるんだこの人!」

 

一体何があったのかレオが知る由もない、実は込み入った事情で現在達也は着る服がないのである。つまりちょっと前からずっとすっぽんぽんのまま艦内を歩き回っていたということである。

 

「ちょっと将軍さん! もうすぐ決戦という時にさすがに全裸じゃマズイですって! ていうかなんで全裸なんですか! なんでそんな誇らしげなんですか!」

「落ち着けレオ、将軍の御前だぞ」

「いやだって……って!!」

 

茂茂のほうへ振り返ってレオはまたもや驚愕する。

 

「何でお前まで全裸になってんだぁぁぁぁぁぁぁ!! 俺が目を離した一瞬でオールパージしたの!?」

 

そこには豪華な着物に隠れた中々良い肉体を見せ付けるように全裸になっている茂茂の姿が

 

達也よりずっと小さなモザイクを股間につけて平然と立っている。

 

(これはきっと将軍が俺を試しているに違いない、裸でいるという事は「何も隠さず真正面から俺を見ろ」というメッセージ、ならば俺もそれに応えて同じ様にし返して見せればいいだけの話)

「おい達也! なんか知らねぇけどこれだけはわかる! お前絶対勘違いしてるから!」

 

どうやら達也が全裸で登場したことにより計算高い性格が裏目に出て思い切りど天然なミスをしてしまっている事に本人は気づいていないみたいだ。

そんな茂茂にレオがツッコミを入れる中、達也は「ほう」と全裸になった彼を見つめながら

 

(これはきっと達也殿が余を試しているのだな、裸になったという事は「このまま全裸で敵陣に突っ込む事こそ敵を撹乱する作戦だ」というメッセージ、ならば余もそれに応えてこのまま敵陣へと突っ込み共に戦おう)

「おいこっちはこっちで絶対勘違いしてるぞ! 何だよコレ! 何で全裸の男同士でずっと見つめ合ってんだよ! つうかそれに挟まれてる俺が一番なんなんだよ!!」

 

両者勘違いしたまま全裸のまま無言で見つめ合っているというおかしな雰囲気にレオが両手を頭に抱えて悩み苦しんでいると。

ダダダッと駆け足でこっちに向かって走ってくる少女が一人

 

「将ぐぅぅぅぅぅぅぅん!!! 股間にモザイクかけたまま船の中歩き回るんじゃねぇって言ったでしょうがぁぁぁぁぁ!!!」

 

全速力で艦内の廊下を走ってやってきたのは坂田銀時こと司波深雪。どうやら勝手に歩き回っていた達也を追いかけて来てたらしい。

 

「ってオイ! なんでこっちの将軍まで全裸になってんだ聞いてねぇぞ! なんで全裸のまま無言で見つめ合ってんだよ!! なんで足軽と猛将がお見合いしてんだよ!!!」

「そんなモン俺が聞きてぇよ! どうすればいいんだこの空間! 何をすれば正解なんだ!」

「いやもうどっからどう見ても人として不正解だから手の施しようがねぇよこれじゃあ! クソ! アイツはまだか!」

 

まさか全裸の人物がもう一人増えるとは考えもしていなかった様子の深雪。

レオと一緒に慌てふためいていると再び廊下を走る足音が

司波深雪こと坂田銀時である。

 

 

「持ってきました! 制服はまだですが下着の方は乾いてます!」

「下着だけかよ! ああもういい! それだけでいいからとにかく将軍に履いてもらうんだ!」

 

紙袋におさめられた下着を持ってきた銀時に深雪がすぐに命令するが彼はハッとした表情でとまり

 

「お兄様!? お兄様までなぜにそんな全裸に!?」

「いやそっちは知らねぇけどとにかく将軍にパンツ履かせろ!」

「ど、どっちの将軍に!?」

「お兄様将軍のほうに決まってんだろ! 将軍お兄様は後回しだ!」

「ダメです体は将軍様でも中身は私のお兄様なんです! お兄様の裸を回りの目に見られるなど私には耐えられません!」

「いやそれなら見た目がお兄様の方も結果的にお兄様の裸を回りに見せ付けているということになって……ああもうどっちがどっちだかわかんなくなってきた!! なんで決戦を前にこんなくだらねぇ事で頭悩ませてんの俺!!」

 

将軍二人を前にすっかりパニックになりながらも深雪は銀時の手に持つ紙袋をぶん取る。

 

「とにかくコイツは元々将軍お兄様の方なんだからこっちの方に履かせるべきだ!」

 

そう叫んで深雪は紙袋から下着を取り出した。

ある部分がもっさりした純白の白ブリーフを

 

 

「ブリーフじゃねぇか! なんで異世界渡ってももっさりブリーフなんだよウチの将軍!! お兄様の気持ちも考えろ!」

「将軍家は例え時空を超えようともっさりブリーフ派だ」

「知らねぇよ! そんなに貫き通すモンなら全裸にならないでくださいませんか!」

 

胸を張って誇り高くそう答える達也にブリーフを投げつける深雪。

 

「ったくウチの殿様にも困ったもんだぜ……しかしこれで股間のモザイクは消せるな」

「い、いや待ってください!」

「あん?」

 

とりあえず一安心してホッとする深雪をよそに銀時が取り乱したように叫んだ。

 

「ブリーフ履いてもお兄様の”アレ”ははみ出たままです!」

「将ぐぅぅぅぅぅん! なんでサイズ合わせなかったぁぁぁぁぁ!! いつも足軽サイズのブリーフしか履かなかったからわからなかったの!?」

 

達也が履いたブリーフの上からちょこんとモザイクがかかっている。

これはつまりサイズが合っていないということ。しかし達也はそれを見下ろすとすぐに顔を上げてフンッ!と誇らしげに鼻から息を吹き出す。

 

「もしかして将軍にとってはあれがベストなのでは……」

「どんだけ足軽から名将になった事が嬉しいんだよ! そんなに島左近になった事が誇らしいんですか! だから言ったでしょうが! それはアンタじゃなくてお兄様の島左近なんだよ!」

 

例え人のモンであろうと自分の身に付いているという事が嬉しいのであろうか……。

一向に隠そうとしない達也に深雪は徐々にイラッと来る。

 

「仕方ねぇこうなったらあの島左近をも超えるモン見せつけて将軍の自信を奪うしかねぇ、おいそこのデカブツ、パンツ脱げ」

「なんで!?」

「どうせ図体もデカいからそっちの方もそれなりにいいモン持ってんだろ。さっさと脱げ、殺すぞ」

「パンツ脱がねぇと殺すぞなんて初めて言われたぞ俺!」

 

仏頂面で自分の下半身を指差しながらドスの低い声で命令してきた深雪に思わず固まるレオ、だがすぐに首を横に振って

 

「無理だって俺のはせいぜい詰所頭レベルだって! いやよくわかんねぇけど!」

「詰所頭だぁ? テメェ何しにこの船に乗ったんだよ?」

「少なくとも他人にナニを見せに来た訳じゃねぇのは確かだが!?」

「ったく仕方ねぇな、どうやらここは俺の加藤清正を見せつけてやるしかねぇみたいだ」

 

レオがダメだと言うので仕方ないとため息交じりに深雪は銀時の方へ振り返った。

 

「おいクソガキ、俺の自慢の清正を出しやがれ」

「いやそれとんでもねぇセクハラ発言だぞ!」

「いい加減本気で殺しにかかりますよあなた」

 

見た目は銀時でも中身はただの女の子であるのに無茶苦茶な要求をしてきた深雪。

驚くレオを尻目に彼女は銀時の腰の帯を掴む。

 

「四の五の言わずにチンコ出せつってんだろうが! 将軍の自信を奪うにはこれしかねぇんだよ!!」

「いやですあなたの身体とはいえ人前で恥部を晒す様な恥知らずではありませんから私!!」

「オメーそれ言ったらお兄様どうなっちまうんだ! 将軍の身体でさっきから粗末なモンブラブラさせてんだぞ! テメェも一肌脱げ!」

「イヤァァァァァァァ!!!」

 

ズボンを脱がされぬ様必死に抵抗する銀時に深雪が容赦なく帯を引っ張って襲い掛かっていると

 

横からカシャ!という軽快な音が飛んできた。

思わず銀時と深雪はピタッと固まりそちらの方へ振り向くと

 

「いいもん撮らせてもらった」

「おいクソガキィィィィィィ!! なんてモン撮ってんだコラァ!」

 

携帯片手にバッチリカメラで撮っていた北山雫がいつもの無表情でそこにいた。

 

「学校のみんなに画像添付して送ろう、あ、圏外だ」

「ちょっと雫! そんなの出回ったら私もう学校に戻れないじゃないですか!」

「よこせその携帯!」

 

さすがに宇宙の彼方のここでは圏外だ、ちょっとガッカリした様子の雫に銀時と深雪が携帯を奪おうと駆け寄ろうとしたその時。

 

艦内がズシン!と大きく揺れ始めた!

 

「いて! なんだこの揺れ……」

「なにかにぶつかったんですか?」

「たった今敵と交戦中」

「「はぁ!?」」

 

揺れる艦内で尻もち突きながら混乱している深雪と壁にもたれている銀時に雫は冷静に状況を伝えた。

 

船頭室では陸奥とエリカが前方モニターを眺めながら

 

「いよいよ来たか第二陣、春雨の艦隊がまたウヨウヨと、こっから厳しくなるぜよ」

「アハハハハ! 元よりこうなる事は想定済みじゃろうが! 行くぞおまん等!」

 

再び春雨の宇宙船がゾロゾロと蓮蓬の星から出撃してくる。

あっという間にモニター一面が敵の船で埋まるもエリカは笑い飛ばしながら指を突き付ける。

 

「目標は蓮蓬の星! 全艦隊に告ぐ! 超突っ込めぇぇぇぇ!!!」

 

宇宙を賭けた大勝負が今始まる。

 

 

 

 

 

「……ところでなんでわし等の後ろであの二人は裸で腕を組んだまま無言で立っておるんじゃ?」

 

 

 


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