魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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第十二訓 共闘&相性

 

敵に襲われ内部から崩壊しつつある船の中。

世界の壁と壁の狭間で。

その少女は現れた。

司波深雪

又の名を坂田銀時

 

「銀さん!? え、ちょ! 本当に銀さんなんですか!?」

「ったりめぇだろ、しっかし驚いたな、まさかテメェ等も向こうの世界からこっち来てたとは」

「ええ陸奥さん達と一緒に僕らも蓮蓬を止めるために……」

 

快臨丸の船頭室にして間一髪のところで助けられた新八はまじまじと深雪を凝視する。

助けようと思っていた相手が平然と現れ、平然と少女の体になっていたのだから

 

「てかマジで銀さんなんですか!? ウソでしょだってこんな!」

「しつけぇな、どんだけ疑り深いんだよお前」

 

未だに信じられない様子の新八に深雪はうんざりしているとすぐ様二人の下へ神楽がやってきた。

 

「マジでか! お前本当に銀ちゃんアルか!?」

「なんでどいつもこいつも疑ってくるんだよ、そんなに信用されてなかった俺?」

「嘘つけヨ銀ちゃんがこんなサラサラヘアーになってるなんて有り得ないネ! たとえ体を入れ替わってもその体の毛根を捻じ曲げて天パにするのが銀ちゃんアル!」

「お前らの俺を認識する為の判断基準って天然パーマだけなの? てか俺どんだけ天パに呪われてんだよ」

 

駆け寄ってきて早々こちらに指を突き付けて偽者呼ばわりしてくる神楽。

どうやら深雪の長くて美しい綺麗な黒髪が怪しいと思ったらしい。

 

「お前等さぁ、せっかく銀さんが戻ってきたのにその態度なに? 向こうの世界の奴等はもっと優しく俺を迎え入れてくれたよ、少しは見習えバカ共。特にお前だよ新八」

「え!?」

「さっきからなんで俺を直視しねぇんだよ、感動の再会なのに目ぐらい合わせろよ」

「い、い、いやだって……」

 

二人を説教口調でたしなめながら深雪は新八の方へ振り向く。

彼がずっと自分のことを見ようとせずに視線を泳がせている事に気付いていたのだ。

すると新八は意を決したかのように彼女の方へ初めて顔を合わせて指を突き付け

 

「銀さんなのに滅茶苦茶美人になってんじゃないすか!! こんな可愛い子を年頃の僕がそう簡単に直視できるわけないでしょ!!」

「は?」

「気付いてないんですか銀さん! はっきり言ってその見た目は世界的なトップモデルが裸足で逃げ出すレベルです! 神に愛されたのか悪魔と取引したのか! 努力で手に届く次元ではない美しさっていうんですかコレ! ヤバイ! 異世界の女の子ヤバイ! 生身の人間でなく青少年の願望が具現化した立体映像と言われた方が納得できるヤバさだよコレ!!」

「いやヤバイのはお前の頭」

 

思春期真っ盛りで異性に対して興味津々なお年頃である新八にとって深雪の美貌は暴力的な衝撃だったらしい。

顔を赤面させた状態で頭に両手を置きながら悶絶している彼をジト目でツッコミを入れた後、深雪は神楽の方へ振り返る。

 

「おい神楽、どうだ俺の体、新八が言うほど綺麗か?」

「別にそんなんでもないアル、65点ぐらいヨ。どこにでもいそうな平凡な小娘ネ」

「いや65点はねぇだろ、75点ぐらいは狙えるだろ」

「ガキの頃から高望みしても無駄アル、女は年をとってからが本当の勝負、ガキの頃に回りの猿共にキャーキャー言われて天狗になってたらおしまいヨ。大人になって社会に出たら自分がその辺の女と変わらないレベルだって気付くもんなのさ、女の魅力が成長するのはそっからネ」

「お前いくつだよ」

 

わかってる様な口ぶりで嘲笑を浮かべながらアドバイスしてきた神楽に、ちょっとイラっとしながらまた新八のほうへ振り返り

 

「じゃあもういいや、そんなんじゃまともに戦えそうにもねぇし。一回乳揉ませてやるからちょっくらトイレに篭って一人でゴフッ!」

「私の体でなにやらそうとしてんですかあなた」

 

自分の胸を強調しながら新八の方へ歩み寄ろうとする深雪の後頭部に木刀が炸裂。

振り下ろしたのはもちろん

 

「人の体で勝手なことしないで下さい、まさかこんな下品な男が私の体に入り込んでいたなんて」

「いってぇな誰だゴラァ! ってアァァァァァァァ!! 俺ェェェェェェェェ!!」

「今更気付いたんですかあなた」

 

現れたのは本当の司波深雪の魂が入り込んでいる坂田銀時。

自分と入れ替わった人物と初めて遭遇した深雪は呆れた様子でこちらを見下ろしてくる銀時の股ぐらにすかさず手を伸ばし

 

「俺の大事な体! そして何より一番大事なモンを返せぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

「どぅはぁぁぁぁぁぁ!! もげる! そんな強く掴んじゃもげru!!」

「銀さぁぁぁぁぁぁん! 可憐な美少女の姿でナニ掴んでるんだぁ!!!」

 

銀時の股の間にぶら下がってるモンを力強く握り締める深雪、思わず我に返ってツッコミを入れる新八をよそに。

今度は負けじと銀時が深雪の胸に手を伸ばし

 

「あなたこそ私の大事な体を返しなさい!!」

「ギャァァァァァ!! もげる! おっぱいもげる!! 痛い痛いマジでもげるから止めて!!」

「アンタもおっさんの体でなんてモン掴んでんだァァァァァァ!!!」

 

やり返すように深雪の胸を思い切り鷲掴みにする銀時。

その痛みで悶絶しそうになりながらも深雪は銀時の股間から手を決して離そうとしない。

 

「ちょっとこれ絵面的にヤバイ事になってんですけどぉ!! おっさんと女の子がメンチ切りあいながら胸と股間掴み合ってんだけどぉ!!!」

「面白い光景、学校のみんなにいいお土産ができた」

「おい! カシャッって音がしたぞ! 誰だ今こんな痴態を写メ撮った奴は!!」

 

後ろから携帯カメラのシャッター音が聞こえたのですかさず新八が振り返ると。

そこには涼しげな表情で携帯片手に持った北山雫。

 

「って誰だお前ェェェェェェ!!」

「安心していい私はあなた達の味方であり深雪の友達の北山雫、この写真は地球に帰ったらクラスメイト全員に一斉送信するつもり」

「明らかに友達がやることじゃねぇだろうがそれ! ぜってぇ悪どい事企んでんだろ!! ていうかアンタよく見たら僕が銀さんに助けられた時にいた二人の内の一人じゃねぇか!!」

「そう、もう一人の私の友達のほのかは」

 

感情のこもってない口調で話す少女の存在に始めて気付く新八。

そして雫はふと反対側を指差して

 

「あそこでチャイナ娘に襲われている」

「オラァァァァァァ!! 蓮蓬なんてなんぼのモンじゃぁぁぁぁぁい!!」

「ぐふ! ごふ!」

「ちょっと神楽ちゃぁぁぁぁぁん!! 何やってんのぉ!!!」

 

マウントポジションを取って雫と共に助っ人としてやってきた光井ほのかを両手の拳で交互に殴りまくっている神楽に慌てて新八が駆け寄る。

 

「それ味方だから!! 銀さんが連れてきたらしい向こうの世界の人達だから!」

「え? 蓮蓬の手先じゃないアルか?」

「全然違ぇよ! なにマウントとって顔面殴りまくってんだよ!」

「いやだって、コイツも蓮蓬と入れ替わった奴等と同じように白目剥いてるネ」

「白目剥かせたのはおめぇだろうが!!」

 

白目を剥いてグッタリしているほのかの胸倉を掴み上げて見せる神楽。

新八が声高々に叫んでいる中、フラリと一人の男がやってきた。

 

「どうやら俺達の世界にいた連中も同じ考えだったようだな、しかも俺の学校の生徒まで連れてくるとはたいした人望だ」

「将軍様! じゃなかった達也さん大変です! あなたの妹がウチの所のダメ侍と乳繰り合ってます!!」

 

やってきたのは司波達也の魂を持った徳川茂茂。

彼がやってきたとわかると新八は慌てて銀時と深雪を指差す。

既に掴み合いを止めて今度は殴り合いに発展している。

 

「うおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「こうして見る限りどうやら深雪の体は無事みたいだな」

「無事じゃねぇよ現在進行形で深雪さん自身が自分の体傷つけてるよ!! 新手の自傷行為やってるよあいつ等!」

 

敵を放っておいて自分達だけで戦いを始める二人を眺めながら茂茂はアゴに手を当てる

 

(それにしても深雪があんなにも感情を周りに隠さずに晒すとは、どうやら異世界という環境変化に良くも悪くも深雪なりに順応していたという訳か……ふ、成長したな深雪)

「冷静に頭の中で分析してないではよ止めにいけやバカ兄貴!!」

 

見た目は天下の将軍であるにも関わらず容赦のないツッコミを新八が入れていると。

未だ蓮蓬と成り果てた仲間達と戦っていた陸奥が彼等に向かって叫ぶ。

 

「おまん等、感動の再会は後にするぜよ! 今はとにかくこいつ等を……!」

「蓮蓬に光を……!」

「!」

 

不意をつかれて背後から乗組員に襲われる陸奥。しかし

 

彼女に襲い掛かる寸での所で乗組員は全身に電流が走ったかのように痺れさせてバタリと倒れた。

 

「心配せんでもよか、軽く痺れさせて動けなくなる程度の電流弾じゃ、それでもやっぱ仲間相手に撃つのはキツイのぉ、陸奥」

「!」

 

船頭室で舵握ってる坂本の隣に現れたのは深雪たちと同じ制服を着た赤髪の少女、千葉エリカ。

得意げに手に持った電子銃をクルクル回しながらグラサン越しに陸奥に笑いかける。

 

「わしが留守の間も立派にこの船護っておったようじゃの、さすがはウチのカミソリ副官殿じゃきん」

「もしやおまんは!」

「そう、わしこそがこの快援隊の艦長!!」

 

彼女の正体に気付いた陸奥が言いかけるのを遮って堂々と彼女が名乗ろうとしたその時。

 

「坂本辰……!」

「返せ私の体ァァァァァァァ!!!」

「まぁぁぁぁぁぁ!!」

 

カッコ良く名乗ろうとした所ですかさず隣に立っていた坂本が彼女に蹴りを入れた。

腰をおさえながらエリカはすぐに立ち上がる。

 

「なにするんじゃ人がせっかくビシッと決めようとしていた所で……あれ? おまんよく見るとわしによう似てるのぉ」

「今更気付いてんじゃないわよ! アンタと入れ替わって高校デビュー逃した千葉エリカよ!!」

「おおそうか! わしはおまんの代わりに充実した高校ライフを楽しんだ坂本辰馬じゃ! アハハハハハ!!」

「この野郎人の顔でヘラヘラ笑いながらあたしの大事な青春を奪い去りやがった事になんの罪悪感もないっていうの!!」

 

笑いながら自己紹介するエリカの胸倉を早速掴み上げる坂本。

 

「こちとらどんだけ辛くて苦しい艦長ライフ送ってたと思ってんのよ!!」

「おいおい揺らすなぁ! 船の中でそげな揺らされるとわし……」

 

頭をグラングランさせながら坂本に止めてくれとお願いしてる途中でエリカは突如顔を青くさせて苦しそうな表情で

 

「オボロゲシャァァァァァァァ!!!」

「ギャァァァァァァァ!! あたしの体でなんてモン吐いてんのよぉぉぉぉぉ!! ってヤバ! この酸っぱい匂い嗅いだらあたしまで……」

 

突如頭を垂れて床一面に吐瀉物を吐き散らすエリカに坂本が飛び退くがその匂いを嗅いで彼も思わず。

 

「オロロロロロロロ!!!」

「ドボロロロロロロ!!!」

「二人揃ってなに汚いモンを船に撒き散らしてんじゃゲロまみれ艦長コンビ」

 

舵を操作する大事な所で胃の中のモン全てを吐き出しているエリカと坂本に陸奥が呆れたように呟いている間に、彼女の横でドゴォ!と何かを殴りつけたような音が

 

「うし、これで大分減ったな」

「誰だか知らんがわし等の仲間を必要以上に傷付けるな、もし事が済んでもそやつ等が眠ったままではわし等は元の世界に帰れんばい」

「手加減の仕方ぐらい十分承知だ、何より坂本さんの仲間相手だからな」

 

いつの間にか隣に現れた男に対して陸奥は全く動じずに注意する。ここまで来たら驚く事さえめんどくさいのであろう。

いきなり彼女の前に出てきたのはエリカが連れてきた西城レオンハルト

 

「俺は西城レオンハルト、レオでいい」

「ここば船の副艦長やっとる陸奥じゃき、よろしくなヒデキ」

「……なんであんた等そんな頑なに俺の名前間違えるの? いつも思うんだけどどうしてヒデキ?」

 

エリカはともかく彼女まで同じ間違いをしてくるのでレオは自分自身の名前に疑問を持ち始めながらも周囲の対処を怠らない。

 

「こっちはもうそろそろおしまいだ、後は俺に任せて坂本さんと会って来たらどうだ副艦長さんよ」

「必要ない、奴がまだ変わらずバカなまんまだというのを知れて十分じゃ、情報交換はコレが終わった後でも構わん」

「いや情報交換とかじゃなくて色々と……」

「おまんがなにを勘違いしてるのか知らんが」

 

飛び掛ってきた乗組員を陸奥は無表情で蹴り上げて天井に叩き付ける。

 

「仲間がこげな真似されてる状況の中で、わし等ほったらかしにして異世界で遊び呆けてたあのバカ艦長の相手するなんてうんざりじゃ。船を奪い返したらあのバカの股間を完膚なきまでに潰してやるぜよ」

「男と女ってホントわかんねぇな、ていうか潰れるも何も今の坂本さん付いてねぇんだけど……それと仲間に容赦なさ過ぎだろアンタ!」

「心配ない、この程度の事で死ぬほどわし等の仲間は弱くなか」

 

レオと共に乗組員を次々と倒していきながら陸奥は暴れ回る。もう彼女には迷いも焦りもなかった。

 

そして次々と敵が減っていく中でドアから遅れて一人の少女が現れる。

 

「とう!」

 

生徒会長七草真由美は華麗にジャンプして着地すると最後に残った乗組員を目掛けて突っ込む。

 

「ほぉ……」

 

そしてそれと全く同じタイミングで動いたのは桂小太郎。彼女と乗組員を間にして交差すると、乗組員が糸が切れた人形のようにバタリと倒れた。

桂と真由美は背を向けたまま静かに語りかける。

 

「ベクトルの方向を逆転させるダブルバウンドを使い相手の力を殺しかつ無力化するとは。そして何よりその美しいフワッフワヘアー余程の人物とお見受けします」

「そちらこそ交差する直前の一瞬で居合いの構えから峰打ちとは恐れ入った、そして何よりその見事なサラッサラヘアー、余程の強者と見た」

「さては」

「さては」

 

同時に呟くと二人はバッと一緒に互いの顔へ振り返る。

 

「文武両道才色兼備、誰もが憧れる超絶可愛い生徒会長七草真由美だなぁ!!」

「日の本の明日を担う我らが救世主、誰もが憧れる攘夷志士桂小太郎だなぁ!!」

 

同じように指を指し合いながら叫ぶと二人は両手を広げて

 

「な~んちゃって会いたかったわ真由美ボディ!!」

「フハハハハハ! ようやく出会えたな桂ボディ!!」

 

互いの体を強く抱きしめ合いながら己の体を確認しあう二人。そして

 

「敵に襲われてる時になに抱き合って互いの体との再会を喜び合ってんだダブルバカ!!」

 

二人の頭上に思い切り両手で手刀を振り下ろす渡辺摩利。

 

「自分の置かれてる状況理解しろ! 全く久しぶりに会えたと思ったら何やってんだ真由美!!」

「あら摩利じゃない、久しぶり、元気してた?」

「1ヶ月以上会えなかった親友を前にリアクション薄過ぎるだろ!」

「ところであなた攘夷志士にならない? 今なら簡単な手続きでサクッと資格が取れるキャンペーン実施中なんだけど、大丈夫最初はみんな警戒するけど入ってみればきっと攘夷志士の素晴らしさを理解できるから、明日にでも幕府を撃ち滅ぼしたいという衝動に駆られる筈だわ」

「おまけに変な宗教勧誘みたいなこと言い出したぞコイツ!」

 

久しぶりに出会えたというのにどっかで聞いた事のあるような悪質な勧誘をやってくる桂に摩利が軽く引いてる中、真由美は桂の姿にうんうんと感心するように頷く。

 

「長く別れていた友との再会の祝いをする前に言葉巧みに攘夷志士とさせる為の誘いを行うとは、さすが真由美殿桂ボディを見事に使いこなしている。もう俺が何も言わずとも君はもう立派な攘夷志士の一員だ」

「なにが立派な攘夷志士だ! 勝手に真由美をお前等の仲間にするな!!」

「ちなみに真由美殿程ではないが俺も俺なりに生徒会長として自分なりに仕事をしてきたつもりだ。例えば先週の校内新聞の為に取材された時俺は「魔法師がいるのになぜ攘夷志士はいないのか」という内容で1時間ほど語り尽くしたからな」

「なんかおかしな事が一面書かれてると校内で噂になってたがあれお前が原因か!」

「常に生徒会長としてみんなの注目を浴び一目置かれる存在として一科生も二科生も関係なく人を攘夷の世界へ導いていく、あなたも立派に真由美ボディを使いこなしていたようね桂さん。あなたはもう私が何も言わなくても立派な生徒会長よ」

「いや生徒会長関係ないから!!」

 

的外れな意見を言い合いながら初対面であるにも関わらず意気投合している桂と真由美を摩利がツッコミを入れてる中、新八はぼんやりとした視線を彼女達に向けていた。

 

「見てごらん神楽ちゃん、向こうの入れ替わり組は気持ち悪い程仲良くやっていけてるみたいだよ」

「世間知らずのバカお嬢様と電波バカが入れ替わった時点で奇跡だったアルな、バカ同士仲良くやっていけてるみたいネ」

「坂本さん達はどうなのかな」

「バカとバカがゲロ吐いてるアル、まずは互いの腹の底を曝け出してから仲良くなっていくスタイルから始めたみたいヨ」

「いや言葉の意味と少し違くね? それじゃあ……」

 

神楽の評価を聞きながら新八はそっと後ろに振り返る。

 

「ウチの入れ替わり組はどうなのかな、さっきからずっと喧嘩してんだけど」

「てめぇの体のせいでこちとら飲み屋もいけねぇしパチンコも行けなかったんだぞゴラァ!」

「あなたの体のせいでこっちも変なオカマの人に店連れてかれそうになったりスナックのママさんに家賃よこせって胸倉掴まれて怖い思いしたんですからね!!」

「おいまさか払ってねぇだろうな! 払ってたらマジぶっ殺すよ! マヒャド撃つよ!」

「元より払う金が無かったんですよ誰かがロクに稼いでなかったから!!」

「……」

 

掴み合いも殴り合いも止めて今度はメンチ切りながら罵り合いをおっ始めていた銀時と深雪を無言で眺めた後神楽はボソッと

 

「ほっとけばいいアル」

「そうだね……あの二人に地球を任せるのは絶対にしない事にしようか」

「そうでもないと思うが」

「え?」

 

もうコイツ等はどうでもいいかと二人がすっかり諦めムードに入っている中、茂茂はまだ銀時と深雪の口論を眺めていた。

 

「あの銀さんという男はあんなにも喧嘩早い人なのか」

「ええそうですよ、99%自分が悪くても残りの1%を使いきって無理矢理押し通そうとする人なんですから」

「なるほど、実はさっきから深雪の身体の中に入った男がどんな人間なのか観察しているんだが、恐ろしいぐらいに良い所が一つも見当たらないんだ」

「はっきりと言わないでくれません!? こっちまで悲しくなるんで!」

「深雪ともこれ以上ない程相性最悪だ」

「ええ、滅茶苦茶相性最悪ですよ」

 

分析しながら頷いてみせる茂茂に、新八は銀時と深雪をジト目で見つめながら肯定していると。

 

「おや、そこにいるのは将軍……という事はもしや貴殿が達也殿か? それに新八君もリーダーも」

「ああ桂さんお久しぶりで……ってこっちまでよく見りゃ滅茶苦茶綺麗なんですけど……うぐ!」

「まだ言ってるアルか新八、見た目が良くても中身はあのヅラだぞ、いい加減目ぇ覚ませヨ」

「初めまして、司波達也です。あなたが江戸で世間を騒がせている凶悪な攘夷志士、桂小太郎ですね」

「フフフ、将軍の身となっていたらそんな風に聞いているのも当たり前か」

 

今初めて気づいたのかこちらに向かって歩いて来た真由美。

彼女が現れて新八がまたドギマギしていると神楽が脇腹に肘で手痛い一発を入れる。

彼女の正体を既に知っていた茂茂が挨拶すると真由美もまた不敵に笑って見せる。

 

「だが状況が状況だ、ここは一度将軍と手を取ってみるのも悪くないなと思ってな。世界そのものが崩壊しようとしているのだ、倒幕だの国家転覆など言ってる場合ではないからな」

「そうだな、お互いに全力を尽くそう」

 

そう言って茂茂自ら手を差し伸べると真由美は少し小難しそうな表情を浮かべ

 

「そういえば貴殿にしか頼めない事があってだな、今すぐ手に入れなければいけないものがあるのだ、それをなんとか渡してもらえないだろうか」

「俺にしか頼めない事……それは一体どんな物で」

「それは……」

 

何かに勘付いたかのような様子でわざととぼけた様子で尋ねて来る茂茂に真由美はフッと笑った後

 

「将軍の首だァァァァァァァ!!!」

「天誅ゥゥゥゥゥゥ!!!」

 

それが合図だったかのように茂茂目掛けて襲い掛かる真由美と彼女の近くにいた桂が刀を引き抜き襲い掛かって来た。

 

「ごめんなさい達也くん! やっぱり将軍見てると体が動いちゃうの、てへ♪」

「世界が壊れようが我等攘夷志士悲願の将軍討伐を怠る俺ではないわぁ! 食らえ魔弾の……!」

 

舌を出しながらコツンと自分の頭を叩く桂と共に真由美は叫びながら右手を茂茂目指してかざそうとする。

 

だがそこへ

 

「将軍の身体に」

「お兄様に」

「「え?」」

 

飛び掛かろうとする直前で真由美と桂は足が掴まれた感触。掴んだ人物は

 

先程喧嘩していた筈の深雪が桂を、銀時が真由美の足を掴んでいた

 

「「なにしとんじゃぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」」

「「だふるッ!!」」

 

同時に叫びながら二人をそのまま床に叩き落とす深雪と銀時。

 

「ふむ、案外ああいう正反対な性格の方が戦いにおいていい動きする事があるものなんだな」

「アンタ命狙われたのになんで冷静でいられるの!?」

「気付いてたからな、魂胆が見え見えだった、二人が桂さんと七草会長を止めなくても俺一人でなんとかしたさ」

「アンタ何者なんですか……」

 

やはり真由美の企み事などお見通しだったらしい。余裕の表情を浮かべる茂茂に新八が驚いて言葉も出ないでいる中、深雪と銀時は桂と真由美の足を掴んだまま目を合わせた後。

 

「ふん!」

「ペッ!」

 

銀時はプイっと顔を背け、深雪に至っては床に向かって唾を吐きながら顔を逸らす。

 

かくして入れ替わり組は各々様々な反応をしながらゆっくりと目的地へと向かうのであった。

 

 


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