魔法科高校の攘夷志士   作:カイバーマン。

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合同修学旅行編
第十一訓 交戦&合流


遠い星、遥か彼方の銀河系で

 

世界の命運を託された宇宙船、快臨丸が数多の船を連れて地球を出てそろそろ一週間が経った頃。

船はいよいよ世界を掌握せんと企む種族「蓮蓬」の母星までもう少しという所まで来ていた。

 

「目標地点到達時間まで残り30分です」

「とりあえずここまでは順調じゃな、引き続き頼むぞおまん等」

 

カミソリ副官こと快援隊の副艦長、陸奥。船頭室で予定通りの航路を進んでいるのか逐一確認しながら目的地へと進んで行く。

 

「蓮蓬のいる場所はわし等の宇宙と異世界の宇宙の狭間。わし等は前にも一度行った時はすぐに艦長を失い為す総べなく逃げる事しか出来んかった。次はこうはいかんぜよ、蓮蓬の連中にリベンジマッチじゃ、心してかかれ」

「「「はい陸奥艦長!!!」」」

 

もはや坂本辰馬不在の今完全に船の艦長となってしまっている陸奥からの言葉に応えて力強く返事する船乗員達。そして彼女は踵を返して船頭室を後にして廊下に出る。

 

「大した人望だな、さすがは坂本さんが右腕と称した人物だ」

 

陸奥が廊下に出るとそこには一人の男が壁にもたれて待っていた。

幕府の現将軍、徳川茂茂。そして中身は魔法科高校一年の司波達也。

こちらに向かって話しかける彼に陸奥は表情を変えずに淡々とした口調で

 

「あくまで奴の代わりにまとめているだけじゃ、ところで連中の方はどうじゃ、まだ騒いじょるのか?」

「相変わらずだな、不慣れな体の上に長旅のあまり退屈しているせいもあって皆どこか落ち着きがないみたいだ」

「ならその長旅ももうすぐ終わりじゃと伝えておくか」

 

茂茂と共に廊下を歩きながら陸奥は彼等のいる待機室へと向かう。

 

「宇宙に行く事など異世界の連中にはあまり経験のない事じゃきん、こげな場所で何日も船乗っとったらストレスも溜まるじゃろうて、おまんは平気そうだがの」

「同じ場所に何日も籠る経験は何度もあるからな、これぐらいの事なんてことない」

「他の連中もそれぐらいの根性持ってればいいんじゃが」

 

そう言いながら陸奥は待機室のドアの前へ行くと、丁度曲がり角から万事屋の志村新八がこちらに向かって歩いて来た。

 

「あ、お疲れ様です陸奥さんと将軍……じゃなかった達也さん、何かありましたか?」

「悪い知らせじゃのうて良い知らせじゃから安心せい、他のモンも中にいるか?」

「ええ、多分いますよ。僕はちょっとトイレ行ってただけなんで」

 

そう言いながら新八と陸奥がドアの前に立つと自動的に開いた。

 

「おまん等良い知らせじゃ、目標地点まどあともう少しで到達じゃきん、長い旅もこれで終わりじゃ」

 

そう言いながら陸奥が中に入ると坂田銀時・桂小太郎・坂本辰馬・そして神楽が神妙な面持ちで椅子に座り円形のテーブルの上にあるボードの様な物を見つめていた。すると

 

「やったわ私が大女優に転職よ!! フハハハハ!! これで一気に大金持ちになってますますあなた達との差が広がりそうね!」

「ああ? 何言ってんのよテロリスト生徒会長、女優がなんだっていうのこちとら超一流お笑い芸人なんだから。女優なんて所詮一時代の流行りとして目立てるけどすぐに枯れちゃうんだからね」

「そんなモンお笑い芸人も一緒アル! 売れっ子漫画家になった私に比べればお前等なんて敵じゃねぇんだヨ!! こちとら一本ヒット作れば後は印税でずっと暮らしていけるんだからな!! 休みねぇし座りっぱなしでケツが痔になるけどな!!」

 

いきなり桂が口を開けて笑い声を上げると坂本と神楽がそれに対して嫌な顔をしながら反論。そしてその中で銀時がただ一人無表情で。

 

「すみませんこの人生すごろくおかしくありません? なんで身内と結婚できないんですか? なんで私とお兄様結婚できないんですか?」

「んな事出来る訳ないでしょーが! 一人だけ無職金無しだからってイチャモンつけてんじゃないわよ!!」

「いや無職な事は関係ないですから別に気にしてませんから、こんなモンただのゲームなんで。たかがゲームで本気になってるあなたと一緒にしないで下さいニセ坂本さん」

「誰がニセ坂本よ! 千葉エリカつってんでしょこの白髪頭! ゲームでも現実でも無職みたいなモンのクセに!! こちとら現実でも艦長よ!」

「陸奥さんに無能呼ばわりされてるクセになに艦長気取ってるんですか。言っときますけどあなたみたいなモジャモジャすぐに秒殺出来るんですからね」

「アンタもモジャモジャだろうが! 上等よやってみなさいよプー太郎風情が!!」

 

いがみ合いから殴り合いに発展するんじゃないかというぐらい睨み合ってる銀時と坂本。

そんな彼等に陸奥は無表情で近づくと後ろから坂本と銀時の頭を掴んで

 

「なに仲良く人生すごろくなんぞやっておるんじゃおまん等」

「「うべご!!」」

 

力任せに思いきりテーブルに置かれた人生すごろくに叩きつけた。

 

「戦いの前に緊張してるのかと思いきや、アホな事やっとらんでもう直目的地に着くぞと言うちょるんじゃ、さっさと踏み込むv準備せい」

「大丈夫か深雪」

「この身体は頑丈なのでなんとか……それにこの方々の世界はツッコミが激しいとわかっておりますので……」

 

歩み寄って安否を伺う茂茂に銀時は鼻を押さえながら顔を上げる。

 

「ところでお兄様、もうすぐ着くという事はいよいよ……」

「ああ、いよいよ首謀者を叩く時が来たようだ、コレで俺達も元の世界に……」

 

茂茂が銀時に優しく言いかけたその時

 

突如快臨丸が何かにぶつかったかのように激しい音を立ててグラリと傾いた。

 

「な、なによコレ! うげ!」

「これは……おまん等はここで待機しておけ」

 

突然の衝撃に椅子から転げ落ちる坂本を無視して陸奥は待機室から出て一気に廊下を駆ける、それにすぐ様追いつく茂茂。

 

「どうやら問題発生みたいだな副艦長」

「おまんも待機しちょれ、あまりにも事が順調すぎて不気味だと思っちょったわ……」

「俺に出来る事は」

「宇宙でのトラブルはわし等の仕事ぜよ、まだおまん等が動く時ではなか」

 

つまり余計な事はするなという事、遠回しにそう言うと陸奥は一目散に船頭室へと戻ってきた。

 

「状況はどうじゃ!」

「陸奥さんヤバい! 敵は蓮蓬だけじゃなかった!」

「!」

 

船頭室前方に付いている画像モニターを見て陸奥は目を見開く。

モニター一面にとある艦隊が一面に広がりこちらに向かって来るではないか。

 

「春雨……!」

 

宇宙をまたにかけて数多の悪行を行って来た銀河系一の宇宙海賊「春雨」

その船と思わしき船団を前に陸奥は奥歯を噛みしめる。

 

「奴等まさか蓮蓬と同盟を!」

「マズいのか」

「あれほどの数を前にしてよう涼しげな顔でそげな事言えるの……鬼兵隊に連絡じゃ! わし等と奴等で連携して叩くぞ!!」

 

さほど大したこと無さそうに眺めている茂茂に呆れながら陸奥は急いで伝令を飛ばす。

しかしその瞬間、再び快臨丸は大きく揺れ始める。

 

「これしきの攻撃なら想定の内じゃ! 怯むな! 打ち負かして突き進め!!」

 

負けじとこちらからも攻撃開始の合図を出す陸奥、だがそんな彼女の肩に茂茂は静かに後ろからポンと手を置く。

 

「ここで俺達が迂闊に前に出て敵の中に入りこんだら思うツボだ。艦隊全てを後退しつつ迎撃に入りながら周り込め、そうすれば集中砲火は防げられる」

「素人が口を挟むな、これはわし等の戦じゃ!」

「悪いが今のアンタにこの船にいる深雪達の命を任せられない、今のアンタは焦り過ぎている」

「なんじゃと!」

 

横からいきなり助言してくる茂茂に陸奥はすぐ様振り返って睨み付ける。

だが茂茂は冷静に彼女を見下ろしながら

 

「世界の命運を託された事、この連合艦隊をたった一人でまとめあげなきゃいけないというプレッシャーに加え、ずっと奪われていた大切なモノを取り返したいという思いが強すぎて落ち着いた判断が出来なくなっている」

「……」

「頭冷やして状況を見極めろ、カミソリ副官。坂本辰馬の右腕がこれぐらいの事で焦ってたらあの人に笑われるぞ」

「……ごちゃごちゃとわかった口叩くんじゃなか……」

 

確かに背負いすぎていたのかもしれない……

基本的に表情が変化しない陸奥が珍しく苦々しい表情を浮かべながら舌打ちすると茂茂から顔を背けて前に振り返る。

 

「総員! 後退しながら敵の懐に回れ!! 奴等の横っ腹に風穴開けちゃるんじゃ!!」

「「「はい!!!」」」

 

先程とは違う茂茂の案に乗っ取った命令を飛ばした後、陸奥はいつもの無表情に戻った。

 

「確かにここん所冷静さが欠けておったのかもしれん、長旅で憔悴していたのはアイツ等でなくわしの方じゃったという訳か、みっともない姿見せて悪かったの」

「いや俺も差し出がましい事をズケズケと言って悪かった。俺は俺で妹の事になると冷静さを失う事があるからな」

「妹の事でわれを失うか、じゃがわしは決してあのバカの事で我を失ってた訳じゃなか、そこん所はよく覚えちょれ」

「フ、了解した副艦長殿」

 

念を込めて注意深くそう言う陸奥に茂茂が思わず軽く笑ってしまっていると

 

「大変だ陸奥さん! 背後から正体不明の巨大な宇宙船がこちらに急接近で近づいてきている!! これじゃあ後退も出来ない!」

「挟み撃ちか……! こうまで来るとわし等でもつかどうか……」

 

 

後ろからも追撃が来てると聞いて驚く陸奥、これはさすがにマズイかと撤退命令も考えていたその時。

 

「ど、どういうことだこれは!」

「後方から迫りくる巨大宇宙船! 次々と我々を阻んでいた春雨の艦隊を蹴散らしていきます!!」

「6、7……ものの数十秒で10船を撃墜!!」

「なに!?」

 

陸奥は前方のモニターを見て驚いた。前にあった敵艦隊が次々と藍色の光線によって切断され破壊されていく。

そしてその敵艦を襲っている正体を彼女ははっきりと視界に捉えた。

 

「……なんじゃあの顔面にモザイクかかっちょるラピュタのロボット兵みたいなモンは」

 

体の所々に苔の付いた古い構造のからくり、3メートルほどの。モザイクのかかった顔から再び藍色の光線を放って瞬く間に敵艦を殲滅させていく。

 

「巨大宇宙船から物凄い数で放たれている模様です!」

「ロボット兵は我々には攻撃してこない様子! もしや援軍!?」

「スタジオジブリに援軍を求めた覚えはなか、油断するな」

 

どうやら自分達の代わりに敵艦を減らしてくれているようだがまだ素性も知れない者に対して迂闊に信用しては命取りになる。険しい表情で陸奥が迫り来る宇宙船とコンタクトを取ろうと模索していたその時、茂茂はただジッとモニターに移るロボット兵を見つめる。

 

「間違いない、アレは前に俺達が坂本さんと一緒に海の底で見つけた古代都市と共に眠らされていた幻の自立式半有機体兵器だ」

「坂本と見つけた? てことはアレはおまん等の世界のモンじゃというのか?」

「遥か昔に圧倒的な科学技術とそれらを設計した魔法師達によって創り上げられた古代都市、巨大な権力と力に溺れ贅の限りを尽くしてあっという間に滅びその文明は海の底に沈んでいった。そしてその技術が今目の前で蘇っているという事は……」

「陸奥さん! 巨大宇宙船の映像出ます! 現在我々の艦隊の頭上に動いている模様!!」

 

茂茂の話を聞いていた時船乗員が叫ぶ声が聞こえた。

すぐに陸奥がそのモニターを見るとそこには

 

その宇宙船は街とも城とも要塞とも呼べる見た目をしていた。

 

まるでその物体を支えて浮かしているかのように巨大な球形状の様な物が底に内蔵されており。

城壁のような壁には所々に何百年も育って来たかの様な巨大な苔が付着し、その壁の上にはかつて人が住んでいた事を証明するかのように白い家の様なものが一つの街の様に並んでいる、そしてその街を護るかのように巨大に生い茂った大木が街の上に立っていた。

そしてそれ等全てを包み込むように宇宙船等でよく使われるドーム状の半透明クリアシールドがその巨大な宇宙船の上半分を覆っていた。

 

そう、これはまさに

 

「まんまラピュタじゃろうがぁ! おまん等の世界どうなっとんのじゃあ!!」

「そちらの世界よりはまだまともだと思うが」

 

あの天空に浮かぶ伝説の古代都市が大気圏を突き抜けて宇宙に来てるのも驚きだがそんな物が存在している彼等の世界に声を荒げてツッコむ陸奥と涼しい表情で返す茂茂。

そんな事をしていると後ろからドタドタと足音を立てて廊下を突っ切ってこちらに向かってくる気配が

 

「陸奥さん上の窓眺めてたらとんでもないモン見えたんですけどぉ! 大丈夫なんですかアレ! 色々と!」

「あれ絶対ラピュタアル!! 私達の為にムスカ大佐が助けに来てくれたんだヨ!!」

 

新八と神楽が船頭室のドアから入ってきて慌てて叫んでいるとするとなだれ込むように桂と坂本もやって来て

 

「すみません写メを!! 早くあのラピュタをバックに私を撮ってください!! ロボット兵も一緒でプリーズ!!」

「ちょっとアレどういう事よ、あたしあんなのが出てくるなんて聞いてないんだけど!? 艦長のあたしに意見も通さずにあんなモン用意してるなんてふざけんじゃないわよ暴力女!!」

「黙ってろおまん等! 珍しばモン見かけただけで興奮して騒ぎ立てる修学旅行中の中学生か!!」

 

耳元でギャーギャー喚きだす桂と坂本に陸奥が怒鳴り声を上げているとシレッとした表情で銀時がスタスタと船頭室にやってきた。

 

「深雪、お前は七草会長達と一緒に騒がないのか」

「いいえ私は城は城でも「ハウルの動く城」派なのであそこまで喜びはしません、ラピュタは好きですけど」

「そうか俺も「もののけ姫」派だからあそこまで興奮できないな、ラピュタは好きだが」

「おまん等の好きな作品などどうでもええわ、ジブリ兄妹」

 

二人で勝手にジブリの話してる銀時と茂茂に桂と坂本を押さえつけながら陸奥がジト目でツッコミを入れていると

 

「ラピュタ突然の下降! こちらとみるみる距離を縮めていきます!!」

「このままだと接触して衝突する可能性が!! 回避間に合いません!」

「チッ、敵なのか味方なのか一体どっちなんじゃ……快臨丸の乗組員に告ぐ! 今すぐ衝撃に備えろ!」

 

スピーカーを通して乗組員に陸奥が急いで伝令を飛ばしていると再び乗組員の一人が騒ぎ立てる。

 

「ラピュタ! 快臨丸との接触寸前の所で停止! どうやら我々の船と接続を試みてる模様!!」

「衝突ではなくわし等の船に乗り込むつもりか……連中の目的は何じゃ、とりあえずこちらも武装準備を」

 

船同士をドッキングして互いにコンタクトを取るという真似は宇宙船を扱うもの同士としてはごくありふれた動きだ。

しかし敵か味方かもわからない輩をそう簡単に迎え入れるのはあまりにも浅はかな考えである。だがあのロボット兵によって快臨丸は春雨の集中砲火から救われたといっても過言ではない。

 

とにかくこちらも隙を見せずに連中とコンタクトを取ってみようと陸奥が動き出そうとしたその時。

 

「!」

 

快臨丸の前方からかつて見たあの雷のような光が……

 

「あの光は坂本とこの馬鹿の体を入れ替えた……! 遂に来おったか蓮蓬!」

「ぐわぁ!!」

 

蓮蓬の母性に設置された入れ替わり装置こと「異空間転心装置」から放たれた光線は瞬く間に船乗員の一人を貫く。座ったままガクっと首を垂れるが彼の体にはなんの損傷もない、しかしほんの間を置いて彼はムクリと起き上がり

 

「……母星を奪った憎き地球人に復讐を……」

「うわー! 大変だ陸奥さん! 敵が俺達の体に入り込んで船の内部に!! うわぁ!」

 

 

白目を剥いてブツブツと呟きながらこちらに手を伸ばしてくる彼にもう一人の船乗員がパニックに。しかしその彼もまた前方から船の壁を通過して飛んでくる光線を受けてしまう。

 

「一発だけでなく連射も出来るんか、このままじゃあ……! おい千葉!」

「だから千葉エリカだって……! え? 今ちゃんと呼んだ?」

 

入れ替わりの光線が次々と飛んでくる中、陸奥は隣にいた坂本の名を呼ぶ。

 

「この船の舵を任せた、連中の攻撃を上手く避けろ。船乗員がやられたら迂闊に自動操縦も出来んばい。ここに手動用の舵があるから、コイツを使え」

「はぁ!? んなの出来るわけないでしょう!」

「おまんが坂本と入れ替わってる間船の技術叩き込んでおったのもこういう時の為じゃ。わしは乗組員と入れ替わった連中を対処する、頼んだだぜよ艦長、この船の命はぬしにかかっておる」

「だぁぁぁぁぁぁ!! 命任せるとかそげな事言われたら無下に断れんじゃなか! 覚えとれよ陸奥!!」

「おい方言移っちょるぞ」

 

手動で操作する為の舵を取りつい土佐弁で叫びながら坂本が快臨丸の舵を掴んで操作し始める。

その間陸奥は船頭室にいる乗組員と入れ替わった蓮蓬達に向かって飛びかかり

 

「無断で船乗り込んではいけませんなお客さん」

 

白目を剥いた乗組員の一人に踵落しを決めながら着地。しかしいつの間にかこの場にいる乗組員は全て

 

「蓮蓬の為に……」

「我々の故郷を……」

「奪った地球人に同じ思いを……!」

「チ、全員やられおったか……」

 

すでに船頭室にいる者は自分達以外既に蓮蓬達によって支配されていることに気付き舌打ちする。

連中は一気に陸奥めがけて襲い掛かってきた、しかし

 

「助太刀しよう」

「!」

 

突如隣に茂茂がフラリと現れたと思った瞬間、前方の蓮蓬と入れ替わった乗組員の胸倉を掴み上げて一気に背負い投げる。

 

「船での戦いはアンタに任せる、だが船の中での戦いなら話は別だ」

「……将軍の体でなんちゅう真似しとるんじゃ」

「そうですお兄様」

 

幕府において最も大事な体を乱暴に扱う茂茂に陸奥が呆れていると、彼女の隣を突っ切って今度は銀時が手に持った『洞爺湖』と彫られた木刀で船乗員の一人をはっ倒す。

 

「私みたいな粗末で貧乏臭い体と違ってお兄様の体は将軍です。無闇に暴れ回ったりしないで下さい」

「そうはいかない、例えどんな体でもお前は俺の妹だ、それに襲い掛かる火の粉をかき消すのがガーディアンとして、一人の兄としての俺の役目だ」

「体だとか役目だとかどうでもいいアル!」

 

銀時と会話している茂茂の背後に迫り来る船乗員を後ろから神楽が踏みつけて床に沈める。

 

「とにかくコイツ等全員大人しくさせるネ! 間違っても殺すんじゃねーぞ!」

「そんな真似はしませんよ」

 

二人に向かって激を飛ばす神楽の背後で桂が刀で乗組員達を峰打ちで倒していく。

 

「例え入れ替わっていても体はこの船の者達、過剰な損傷は与えてはなりません。彼等もまた私達をここまで連れて来てくれた恩人なのですから」

「……」

 

生徒会長らしいキビキビとした態度で桂がそう言っているのを陸奥は無言で眺めた後すぐに前方へ振り返る。

 

「戦も商人も一人じゃ出来ん……どうやらまだわしはそげな事忘れとったみたいじゃ……」

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

「!」

「新八!!」

 

つい感傷に耽ってしまい油断していた。艦内で響き渡る悲鳴、声の主である新八が数人の乗組員達が壁に追いやって徐々に追い詰めていくのが見えた。

神楽が慌てて駆け寄ろうとするが他の乗組員に阻まれる。

 

「ちょっとマズいんじゃないのアレ! 誰でもいいからあの眼鏡助けなさいよー!」

 

舵取り役として動くに動けない坂本が叫んでいると

 

彼の背後からコツコツと足音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

 

「その依頼、新生万事屋が承った」

「え?」

 

後ろから聞こえたのは少女の様な声。坂本が振り向くと同時にその声の持ち主は二つの人影を連れて横をすり抜ける。

 

(くそ! こんな所でモタついてる場合じゃないのに! 僕等は! 僕等は銀さんを助けに行かなきゃならないんだ!!)

 

5人がかりで襲い掛かられながらも新八は諦めずに木刀を構えなんとか耐えていたその時。

 

「ってうおわぁ!」

 

突然目の前で大きな爆発でも起こったかのように一瞬でぶっ飛ばされていく乗組員達。

その衝撃で思わず後ろに倒れて尻もち付いてしまう新八の前に3人の少女がこちらに背を向けて立っていた。

そして真ん中の少女が右手に持っているものは

 

「洞爺湖」と掘られた木刀

 

(あの木刀は……!)

「この船の乗組員はほとんど壊滅、皆敵に体を奪われている。いっそ船ごと破壊した方がいいかも」

「いやいやそれは駄目だって雫! 坂本さんから船傷つけないようにしてくれって頼まれたでしょ!」

「大丈夫、ほのかが「うっかり自爆ボタン押してしまいました、テヘペロ♪」といって舌を出してコツンと自分の頭を叩けば許してもらえる」

「それどこ情報!? てかさり気なく私に責任押し付けようとしてるよね!?」

「ったくうるせぇんだよテメェ等、耳元でギャーギャー喚くんじゃねぇ。こちとら長旅で疲れてる上に四六時中バカ共に付き合わされてたからイライラしてんだよ」

(このいかにもけだるさ全開の喋り方は!)

 

 

 

両サイドにいる少女達に木刀を肩に掛けた少女がけだるそうに言いながらゆっくりと新八の方へ振り返る。

 

「おい新八、俺が入れ替わったときに買い損ねたジャンプ、ちゃんと買ってきてるよな?」

「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!? もしかして銀さぁぁぁぁぁぁん!?」

 

姿変われど変わらぬ魂

 

二つの世界が強大な敵を前に今交差する。

 

 

 

 

 


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