次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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 日記形式です。
 本編には基本的に関係の無いダイジェスト的なものなので読み飛ばしてもらっても、たぶん大丈夫です。

・16/07/20
 加筆、および、前書き/後書きを編集しました。


【幕間】俺ではない誰かの視点②

Side:ドン=フリークス

 

 今回は、ちょっと外側の世界(暗黒大陸)に着て一息つき始めてから付けていた日記の一部を紹介するぜ。本当は、あんまり他人に見せびらかすようなもんでもねえが、まぁ、箸休めだとでも思って楽しんでくれや。

 

 あ、一応、アイツ・・・ 八尋には絶対に秘密な?

 この日記自体は、基本的にアイツの念能力『どこでも便利な収納鞄(トラベル・バッグ)』に仕舞っておいて貰うんだが、そのときには絶対に中を覗くなよ、恥ずかしいからなって伝えてるんだ。アイツ、基本的にフワっとした性格をしているが、最初に約束事を取り決めておけば、アイツからそれを反故にすることは無いからな。だから、これも見られてないはず、なんだ・・・ たぶん(大丈夫、だよな?)

 

 

 ・ ・ ・

 

 

●H暦1498年/ 6月/20日(曇り)

 八尋と初めて出会ってから約1年。人類にとって暗黒大陸で最初のリターン(希望)となりえる究極の長寿食(ニトロ米)を手に入れるために、滞在中のこの集落を訪れてから7日目。今日も八尋と集落の広場を借りて手合わせ。いつもの様にボコボコにされるが、アイツは何だかんだとイロイロと教えるのが上手い気がする。基本的に物理で身体で覚えろというスパルタなのが玉に瑕だが。

 その復習がてら、今日も1人で試行錯誤していると集落でも若手の魔獣から声を掛けられた。まだ、余り言葉は上手く話せないし、聞き取れないが、それでも此処に来た初日に味わった苦い経験から何となく仕草を見ていると意図は伝わってくる。要するに、手合わせしないか、と誘われたのだ。この誘いは、正直、俺にとっても渡りに船だった。此処に来るまでもそうだったが、基本的に俺に体術を教える(物理)のは、近くに八尋しかおらず、アイツの強さが余りにも俺とは距離が離れ過ぎていてイマイチ自分自身がどれくらい成長しているのか分かりづらかったからだ。

 一応、そういうことで良いのかどうかを八尋を通じて正確に伝言してもらったところ、考えていた通りでよかった。目の前にいる若手の魔獣でも、現時点で俺よりも相当上の存在であることは肌でビンビン伝わってくるが、ここで凹んで入られないからな。もう強さに関するプライドなんてあってないようなもんだし、最初はボコボコにされるだろうが、今はそれでいい。最終的な目標は遥か先の先、影どころか後姿すら見えない遥かな高みにいる化物なんて言葉一番しっくり来るような存在なんだからな。

 

 

●H暦1498年/ 7月/ 7日(雨)

 暗黒大陸にも雨が降る。いや、理屈上は分かっていたし、そうでなければ自然摂理としておかしいのだから当然だが、こんな滝みたいな雨が降るとは思っても見なかった。八尋や仲良くなった魔獣たち曰く、これは『滝雨』と呼ばれているそうだ。この雨は1年を通しても偶にしか降らないが、今日みたいに降り始めたときは()()()()()()()()()()全然問題ないのだが、ピンポイントに居住区やニトロ米が育つ田畑を直撃すると本当に悲惨の一言に尽きるんだと。

 だが、今回は運に恵まれたようだ。集落の内部ではあったが、全然端の方だったので被害も最小限で済んだとのこと。雨が弱まり散発的な、にわか雨程度に落ち着いたら様子を見に行って、降り止んだら復興作業をすれば問題ないらしい。良かった。

 あと知らなかったが、外側の世界(暗黒大陸)では場所によって様々な雨が降る場所があるらしい。俺は勿論、魔獣たちも交流のある他の地区に住む魔獣たちから聞いただけで実際に見たことは無いそうだが、なんでも劇毒の雨ばかりが降る場所があるそうだ。隕石とか、光線とか、正直、想像も出来ないが、そんな場所にはなるべくなら立ち寄りたくは無いな、見てみたい気もするけど、なんて言ったら何故か八尋が額の汗を拭っていた。まさかとは思うが、お前が何かやったのか? なんて怖くて聞けなかったから、忘れることにしよう。いつだって平和が一番だ。

 

 

●H暦1498年/ 7月/31日(晴れ)

 今日は、ちょっと嬉しいニュースがあった。なんと、ここにいる若手の魔獣との手合わせで始めて一本取ることが出来たのだ。これまでは1日に10回くらいはイロイロな奴と手合わせを繰り返してきて、その度にボコボコにされていたわけだが、やはり手合わせとはいえ勝利ってのは嬉しいもんだ。自分の成長が本当に実感できる。まぁ、負けても動きの悪かった部分、良かった部分なんかを検証できるから、それはそれで全然ありなんだが、やはり何であっても勝てるっていうのは大きいな。この初白星の感覚を忘れずに次に繋げていこうと思う。おい、八尋、こっち見んな。お前は、まだ呼んでねえ。

 

 気が付いたら集落の広場、ちょうど日陰になっているところに転がされていた。アイツ・・・ 今はまだ無理だが、いつか、絶対にブッ飛ばしてやる。いつか、な。

 

 

●H暦1498年/ 8月/20日(晴れ)

 時折、妙な視線を感じることが多々ある。別に敵意とか、そういうものは無いんだが、なんていうのかな、そう言うなれば俺のことを見定められている感覚とでも言えばいいのか。振り返ってみても、特に変わった様子は無いし、誰かがいるわけでもない。気のせいではないと思うんだが。

 あぁ、変わったことといえば1つ。八尋が俺と魔獣たちの組手に加わることが増えた位なもんか。アイツ、相変わらず滅茶苦茶だな。若手だけじゃなくて年季の入った老練の魔獣たちまで含めて全員で掛かって行っても無双してやがった。ホント、化物か。

 

 そういえば、八尋の奴、"念" は特に覚えるつもりが無いだの何だの言っていたが、気が付いたら俺や集落の魔獣たちよりも高精度でオーラ操作が出来るようになってやがった。一緒にいるときも、いないときも特に "念" の鍛錬なんかしている様子はこれっぽっちも無かったのに、何時の間に覚えたんだか。っていうか、本来 "念" とは、膨大な時間を掛けて習得していくモノだっていうのに、既に俺や魔獣たちよりも超高度な技術で使いこなせるようになっていたんだが、どうなってるんだ?

 それを本人に聞いたら、ここまで出来るようになるのに大体2,000年くらい時間が掛かったとか言われたときに思いっきり噴出してしまった俺は絶対に悪くない。アイツ、前に聞いたときは自分の年齢も不詳だとか言っていたし、俺と会う以前でも数百年単位で生きていたっぽいから遂にボケたのか? なんて思っていたら何故か本気で殴られて意識がトンだ。ちくしょう、いつか絶対に見返してやるからな。

 

 

●H暦1498年/ 9月/11日(雨)

 今日は『のろま雨』という非常にゆっくりとした雨が降ってくる異常気候を見ることが出来た。のろま雨自体は特に害のあるものではなく、雨自体が特殊な重力の影響を受けた雨の為、大気が変動して雨だけでなく周辺一体の動きが非常にゆったりとした状態になるのだそうだ。かくいう俺も、この雨が降り始めてから動きが非常に鈍く身体全体が綿で締め付けられるように重苦しくなった印象を受けた。それでも手練の魔獣や八尋なんか全然問題なく動けているところを見ると何か上手く動くためのコツみたいなのがあるのだろう。もう、こういう機会は早々ないのかもしれないが、今度機会があれば教えてもらおう。

 

 あぁ、そういえば前に書いた妙な視線については、相変わらず感じることがある。頻繁にというほどでもないが、何だか気味が悪いな。ちょっと相談してみるべきか。

 

 

●H暦1498年/10月/ 2日(曇り)

 今日は前々から積み上げてきていたものの成果が現れ始めたことを実感した。手合わせではない、そう、言葉による意思疎通だ。本来なら習得までにもっと時間が掛かったのだろうが、やはり無理矢理にでも理解してしまったあの苦い経験は俺の中で活きていたのだろうとそう感じることができた。

 

 それを八尋に伝えたら、きょとんとした顔をしたあと「おめでとう」なんて割りとらしくもないことを言ってきた。まぁ、それに近い言葉はかけて貰えるような気はしていたが、ここまでダイレクトに言われるとは思っても見なくて何だかとてもむず痒い。それに、よく見ると、なんだか八尋自信が普段見せる顔つきと違うような気さえしてくる。妙に艶っぽいというか、なんというか、見ている俺のほうがドキドキしてくるような、背筋が震えるゾクッとするような、そんな不思議な感覚だ。

 だが、そんなに間をおかずに「そんなに見つめられても困るんだけど」と言われハッとする。何をやっていたんだ、俺は。

 

 

●H暦1498年/10月/19日(晴れ)

 相変わらず、妙な視線は消えない。振り切ることも出来ない。仲良くなった魔獣からは「なにやってんだ?」と声を掛けられたが、あいつ等も八尋も特にこういった視線を感じていないそうなので「体力づくりだよ」といって集落の周りを走ったり、1人で集落の管轄内の領域から飛び出さない程度に辺りを走り回ったが、無駄だった。

 声を出して挑発っぽいことを繰り返しても暖簾に腕押しの様な感覚で全く手ごたえが無い。一度、集落の魔獣たちには絶対に迷惑にならない場所で思いっきり地面を "念" を込めた拳で殴りつけて土ぼこりを巻き上げた後、集落に戻る振りをして茂みに身を潜めて様子を窺ったこともあったが、特に何も変化はなかった。その時は、たしかに視線を感じていなかったんだが。一体、この視線の持ち主は誰なのか、目的は何なのか、それが分からないことには警戒は怠れない。最悪、あまり頼りたくは無いが(自分で何とかできないの?とバカにされる決まってる)、八尋に問題の解決を依頼するのもアリだろう。本当にどうしたものか。

 

 

●H暦1498年/11月/20日(晴れ)

 時間があっという間に過ぎていく。今日も魔獣たちの仕事を手伝い、手合わせをして、己の技を磨く日々。たまに魔獣たちとチームを組んで密林の中へ狩猟へ赴き、連携を取って魔物を狩る。まだまだ熟練者組み(老練の魔獣たちが編成する狩猟チーム)の様に殺意を伝染させる魔物(ヘルベル)を狩れるほどではないが、かといって遭遇したとしても遅れを取るほどでもない。誰一人欠けずに集落まで撤退することは出来るし、集落付近に仕掛けてある罠へ誘い込めれば、逆に狩ることも出来るほどだ。これも偏に日々の修練の賜物だろう。だが足りない。もっと、もっと。この程度の強さでは俺の目指すべき目標には遠く及ばないからだ。せめて俺1人でも巨大湖(メビウス)と、この場所(集落)を楽に往復できるくらいの強さを身につけなくちゃな。

 

 

●H暦1498年/12月/21日(晴れ)

 どうやら外側の世界(暗黒大陸)においても、こういった集住地区があるところには1年の終わりを無事に迎えられたことへの感謝と、来年も良き1年が迎えられるようにと祭祀役に扮した長老や集落の有力者たちが中心となって究極の長寿食(ニトロ米)などを中心に形成した供物を捧げて祈るのだという。

 供物を捧げ、祭祀役(長老)と、その従者たちの祈祷が終わると、今度は集落の若い衆たちが一丸となって代々伝わる舞踏を行う。俺も、仲良くなった若手の魔獣たちに連れられて舞踏を倣い、祭りの輪に加わえてもらうこと許してもらえたのは驚きと同時に、言葉には出来ない感動があった。

 だが八尋は、このとき何処かへ行ってしまったらしく、その場には居なかった。後日、そのときの事を暗に問い詰めても言葉を濁されて教えてくれなかったし、まったく何処で何をやってたんだか・・・。

 

 

 ・ ・ ・

 

 

 悪いな、ちょっとオチもなくて申し訳ねえが時間切れだ。

 ちょっとキリが悪いが、この続きは、また今度にしてくれ。とりあえず、その時には日記に書いてた「妙な視線」の正体も分かるはずだ。

 

 っていうか、そういうことだったのかよ。心配して損した。あと、もうちょっと俺を頼って、信頼してくれても良かったんじゃねえか、とも思う。

 

 まぁ、それもこれも俺が不甲斐ないばっかりだから仕方が無かったのかもしれないが。なんだかなぁ。

 




 この続きを書いていたんですが、なんだか非常に重くなりすぎる上に人によっては好き嫌いが凄く分かれそうな話になってしまった・・・。
 書くのが、辛い・・・。


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