次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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2016/08/04 タイトルを変更。
2016/10/26 統一言語の表記を変更(原作準拠)


005:暗黒大陸 Return.1 『ニトロ米』

 初めての出遭いから1年と少し。たったその程度の時間で目の前に立つ男、ドン=フリークスは、その家名(フリークス)の恥じぬ怪物っぷりを見せつけ急成長していった。これまでの俺の培ってきた経験を余すことなく吸収し、己の糧としていくその姿には、久しく感じていなかった滾りに近いものを俺に与えていた。

 

 とはいえ、

 

「何度言えば分かるんだ、このウスラトンカチ! そんなんじゃ、この先、1人で巨大湖(メビウス)の沿岸部を回ろうなんて夢のまた夢だぞ!!」

 

 そう口にしながら人体の急所という急所を穿つ。だが、目の前に立つ男も然る者。つい数ヶ月前にはフェイントも無い唯の一撃で伸されていたというのに、今では、このコンマレベルで行われる攻防において、急所が穿たれる瞬間に合わせて的確に "念" と呼ばれる個人の生命力を用いたオーラの操作術を用いて器用に防いでいくことで耐える。そのドンの持つ感性には「コイツ、本当に元が付くとはいえ、同じ人間か?」と思わせる異常なセンスに正直、舌を巻く。

 

 そうして数秒後、全身痣だらけになりながらも俺の攻撃を見事に耐え切って見せたドンは笑いながらドヤ顔を晒すのだった。

 

「へっ かなりキツいが、まだまだイケるぜ!」

 

「減らず口を。なら、すぐにその口を閉ざしてあげる」

 

「やってみな! 今度はこっちから行くぜ!!」

 

 そう宣言し、一気呵成に飛び掛ってきたドンを見つめながら俺は自信の持ちうる最強の切り札(統一言語)を開帳した。

 

【ここ」「では」「つかえない】

 

 ドンの拳が俺の顔を目掛けて突き出される、その瞬間にドン自身の身体に突如沸き起こった異変。しかし、ドンは、その異変に途惑うことも、戦慄くことも無く、おそらくは自らの本能が発する危険信号(シグナル)に合わせて攻撃から回避の動作へ。そして一気に俺との距離を取ろうとするが、これまでの攻防で行ってきた動作からみれば、オーラを用いない筋力だけの動きは全くといっていいほど遅い。

 

 俺はドンの対応力の高さに先程までとは違った意味で再度目を見開くが、とはいえ、それで加減してやるほど優しくは無い。故に人間の扱い武術で「震脚」と呼ばれる踏み込みの動作から「縮地」を行い、開きかけた距離を一瞬の間にゼロに、そして間髪いれずに「肘撃」にて鳩尾を穿った。

 

 ズンッ

 

 直撃した瞬間に、まるで人間ミサイルの様な勢いで吹き飛んで宙を舞うドン。そのまま人間水切り石の様な要領で更に数メートルも吹き飛んだあと地に伏せた。相手の訳の分からない急成長の様子に嬉しくなったが故に、ノリで仕出かしてしまった自分の愚行を見て反省の様に独り言を呟く。ま、まずった・・・?

 

「ま、まぁ、きっとドンの事だから大丈夫。大丈夫。大丈夫・・・ うん、大丈夫だ。たぶん」

 

 そう、ドンならきっと大丈夫。大丈夫。本気で打ち込んだわけじゃないし、ほら、生きてた。安心した。大丈夫、大丈夫ったら大丈夫。そんな心配とは裏腹に湧き上がる歓喜の感情、これまで見てきた成長速度もそうだが、いくら事前に説明を受けていたとしても、統一言語によって出せるチカラが極端に制限された後にも関わらず、混乱をきたすことなく取った判断(回避)までの早さに驚きを隠せずに、意識を手放して倒れるドンを回収した。

 

 

 ・ ・ ・

 

 

 数時間後、小さな呻き声と供に目を覚ましたドンに声を掛けると、いつもの八つ当たりよろしく殴られることになったが、まだ先程のダメージが抜け切っていない為か、それは普段とは違い、見る影も無いくらい弱々しいものだった。その拳をペチッと掌で受けてから声を掛ける。

 

「気分は?」

 

「最悪だ。なんだアレ。アレが聞いていた『統一言語(ゴドーワード)』って奴なのか?」

 

「そうだよ」

 

「一瞬で "堅" が解かれるばかりか、"念" を知らなかった頃のようにオーラそのものが知覚できなくなるとは思わなかった」

 

「まぁ、そういう風に世界に対して語りかけたからね」

 

「唯の反則じゃねえか!」

 

 そういうドンに対して「ドヤッ」と胸を張ると、またペチッと叩かれた。普段が普段なだけに、このギャップが実に微笑ましい。愛い奴だなぁ、うりうりとドンの頬を突っつきながら、問いかけられた疑問に然りと頷いた。

 

「正直、舐めてたぜ。あんな反則をバンバン使われたら俺じゃ永遠に勝ち目がねえじゃねえか」

 

「なら冒険を諦めておめおめと人の住む安全な領域に逃げ帰る? 俺はそれでも全然かまわないけど?」

 

「はっ ふざけろ。それとこれとは話が別だ。たしかに、その統一言語ってチカラは厄介極まりねえし、勝ち目がねえとは言ったが、例え一瞬でも "念" が使えなくなったとしても、いずれは八尋をブッ飛ばすって目標に変わりはねえ!」

 

 そう不適に笑いながら自身の身体の動きを確かめるドンの決して折れることの無い様子を見て更に嬉しさが込み上げる。そして、たったの1年で此処まで成長したドンならば、後は実地訓練さえ踏ませれば、あれこれと口で言ったり、身体に叩き込んだりするよりも早く必要な動きを身につけていくに違いないと結論を出し、今後の探索方針について説明をすることにした。

 

「なるほど。まずは俺が沿岸部を探検するのに時間的な不自由が出ないように、この先の沼地にあるっていう究極の長寿食(ニトロ米)の収穫と実食をするんだな?」

 

「うむ。ただ沼地に向かうには、ドンの率いていた一団が全滅したヘルベルの棲家となっている密林を抜けていかなくちゃならないのは経験済みだよね」

 

「お、おう・・・」

 

 さすがにトラウマ気味になっているのか、ヘルベルのいる密林を抜けなくてはならないという俺の言葉に覇気の無い返事が返される。まぁ、でも、此処では比較対象が俺だけだったからなぁ。ドンは、たぶん自分がどれくらい成長できているのか実感がないだけなんだろうなと思う。まぁ、それは無視して話を先に進めることにした。

 

 実際には、俺自身は既に永遠を生きることを強制されているため、正直、「寿命()」状態なのだが、それについてはドンの中で "念" の作用と勘違いをしているようなので特に余計なことを言わずに必要なことだけを伝えていく。

 

「問題は密林を抜けた、その後さ。ニトロ米は沼地に自生しているとは言ったが、実際には、それを育てている魔獣たちがいるんだ。そいつらと『交渉』してからでないと、ニトロ米の収穫は難しい」

 

「そうなのか」

 

 俺の言葉に、まさに寝耳に水といった表情を浮かべるドン。まぁ、もしかしたら魔獣の集落に着くもっと手前にある全く手の加わっていないモノについてなら、その限りではないのかもしれないけど、それは確証がないので考えないことにして話を続ける。

 

「ま、『交渉』と言っても必要になる対価は、その集落に着くまでに襲ってくるだろうヘルベルを適当に捕獲(ノッキング)して回収していれば問題はない。あとは取引で決めた分を超えてニトロ米を収穫し過ぎるなんていう無法を働かなければ大丈夫さ」

 

「いやいやいや、後者の収穫し過ぎないはともかく、ヘルベルの捕獲なんて、それは普通に無理だろ。八尋じゃねえんだし、俺にはヘルベルの棲む森を抜けるだけでも難しそうに感じるんだが」

 

 なんとなく察していた不安を口に出すドンを見て、やっぱりと思う。やはり未知の大陸で自分に付いて来た仲間が次々と斃れて先に逝ってしまったというのは、言葉には出来ない不安に直結するものなんだろう。それは仕方が無い。ならばドン自身がどれくらい成長しているのか、俺の私見で教えて不安を払拭することにしてみた。

 

「それには及ばないと思うよ。今のドンであれば、ヘルベルの持つ毒への耐性はともかく、此処に着たばかりの時のようにもう一方的に蹂躙されてヘルベルの餌食になるなんてことは無いはずだよ。そこは自身を持っていいと思う。もちろん慢心はダメだけどね」

 

「へ?」

 

「まだまだ全力には程遠いとはいえ、急所への攻撃を器用に防いで耐えられるなら、ヘルベルや他の生物の棲む密林を抜けるくらい全然問題ないってこと。それに安心してよ、もし万が一にもダメそうな時でも、そこは俺がフォローしていくし、交渉に必要なヘルベルの捕獲と回収は全部やるからさ」

 

 自分の身に付けた力にイマイチ自信を持てていなかったらしい男は、俺の言葉を聞いて当初晒していた間抜け顔を今では真面目なものに戻し、次いで「おう!」と力強く嬉しそうに返事をするのだった。

 

 実際、お世辞でも何でもなく、本当にドンの成長速度は信じられないくらい速い。この驚異的な成長性は絶対に「A+」じゃ利かないとさえ感じさせるほどだ。本当に、この先がとっても楽しみに感じる一時だった。

 




 実際、ドン=フリークスの息子?子孫?であるジン=フリークスが「打撃系の能力は1回くらうと大体マネできちまうんだ」とパリストンへ説明し、それを一言「ま、才能だな」で片付けるくらいだから、きっと本作でも書いたみたいに、ドンもそういうところはあるのかなぁ? と夢想してみました回。

 統一言語は、念よりも万能感はありますが「言葉を発する」という「行為」が必要なので、やはり無敵の能力ではないですよね・・・

 原作(空の境界)では、言葉を発する前に式が皐月の腕を切断している描写もありましたし(アニメの方だったっけ?)、なので本作でもドンが主人公に統一言語を使わせずに立ち回るとしたら、如何にタメを作らせないかが勝負の分かれ目になるんじゃないかなと思います。

 そして東側半分を周りを得る頃には、きっとそれくらい強くなってくれるはず。ドンさん、頑張って!

 ただし、高速神言への対処も纏めてできるとは言っていない模様()

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