次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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おかしい、こんなはずでは・・・(うごごご)


【幕間】俺ではない誰かの視点①

 俺の名前はドン=フリークス。メビウスと呼ばれる超強大な湖の中心部に位置する『人間界』と呼ばれる場所から、その外側に広がる一部の人間には『暗黒大陸』と呼ばれるこの場所へ冒険しにきた探検家だ。

 

 俺の目的は唯1つ。それは、この暗黒大陸と呼ばれる人類にとっては未知の領域となる世界を見て周り、その冒険を本にすることだ。その為に人間界では有力な仲間を募り、俺自身も "念" の修練だけでなく、今まで以上に様々な知識の習得や身体作りに努めてきた。そうして迎えた今日が、その新しい冒険の記念すべき第一歩、そう思っていたんだ。

 

 

 ---メビウス湖沿岸部より南東に広がる密林にて

 

 

「ドン、逃げろ! 此処は、ヤバjさlkhふぁおwrはkl・・・」

 

「ディック!」

 

「ヴァァァァァァァァ・・・!!!」

 

「おい、ディックが率いてた小隊は一体何処に行ったんだ。ディック自身も何かおかしkだshdjdんだksdjなkb」

 

「な、おい! お前ら!!」

 

 突如、何かに侵されたかのように理性を失い、ところかまわずに次々と暴れ始める仲間たち。その動きは俺の知っている者たちのそれよりも遥かに荒々しいもので、そこに込められているチカラは異常なほど大きいものの、半ば狂っているといって良いその状態では動きの精密さは殆どない。俺は何とか、暴風雨のように荒れ狂う攻撃を往なしながら仲間だった者たちから距離を取る。そうすると近くにいた標的を見失ったからか、また別な標的、同じく狂っている者同士で壮絶な殴りあいを始めたのだった。

 

「な、何が?」

 

 半ば呆然となりかかった意識を無理矢理戻しつつ、密林()の奥を凝視した先に、この惨状を作り出した原因だろう魔物(ソイツ)は居た。

 

 太めの枝に身を預けるように巻きつき、低い声で鳴きつつ口の牙と尾から見える針を光らせ、チロチロと舌を動かす。その魔物が巻きつく木の傍を逃げ惑う仲間が通り過ぎようとしたその時、魔物は目にも留まらぬ速さで標的となった仲間に噛み付き、即座のその場から離脱して再び傍に立つ樹に身を隠す。

 その様子を警戒を解かずに眺めていると次第に仲間の様子が、未だ暴れ周り同士討ちを続ける仲間のように、まるで異形と言っても過言ではない表情を浮かべながら叫び声を上げて暴れ始めた。

 

「くそっ すまん皆」

 

 犠牲となった仲間たちを背に俺は来た道を戻るように走り出す。此処は、ダメだ。まだ俺たちでは立ち入る『資格』が無い。

 

 

 ・ ・ ・

 

 

 今にして思えば限界海峡線と呼ばれる人の住む領域と、その外側の領域とで分けられる場所に構えていた魔獣たちの言葉や表情は何かが可笑しかったのだ。俺たちの日常使う「言葉」とは違った「言葉」で何やら互いに耳打ちをしては、気味の悪い笑みを浮かべて此方のことを窺っていたような気さえする。

 

「ここを通っても問題ないか?」

 

 そう探検隊の代表を務める男が聞くと、魔獣たちは、また笑顔を浮かべてコソコソを耳打ちしあう。そして数分の時を過ごし、代表の男や仲間たちに苛立ちが募り始めた頃、1体の魔獣が『門』の中から現れた。

 

「此処から先は、人間の進むべきではない暗黒の領域だ。我らなら、その『案内』を努めることが出来るが如何するかね?」

 

 明らかに何か裏がありそうな物言いに代表を務めていた男も、他の仲間も、何人かいる小隊の体長格(副代表的なポジション)にいる俺にも、その魔獣のした話の意味が分からなかった。

 

「いや、結構だ」

 

 逡巡の後、代表が魔獣の問いに答える。その答えを聞いた魔獣は特に何か言い返すことも無く殊更に深い笑みを浮かべ

 

「そうか、ならば別によい」

 

 とだけ零した。つづけて代表の男が

 

「此処は通っても問題ないのか?」

 

 と聞くと、相対していた魔獣は

 

「通ってもいいし、通らなくても良い。それは自由だ」

 

 とだけ言い返してきたのを良く覚えている。だが、それこそが罠だったのだろう。あそこは『契約』を交わすための『場』であり、「案内人」を務める魔獣との最初で最期の交渉の場でもあったのだ。

 

 

 ・ ・ ・

 

 

 息を切らせながら走る。次々と斃れ、魔物の餌食となっていく仲間たちに背を向け俺はひたすらに来た道を戻っていた。「クソッ」こんな筈では、と思う。

 だが、今更、後悔したところで何も始まらない、チカラが足りなかったのであれば、更なるチカラを身に付けてから、また挑戦すればいい、今回のことは忘れることの無い「戒め」として俺の中に生涯残し続けよう。いつか、また、この世界(暗黒大陸)に戻ってくるために。

 

『シャー』

 

 耳元で鳴り響く魔物の声に反応が遅れる。あと少し、メビウス湖は目と鼻の先ということで何処か安心してしまっていたのかもしれない。脳裏に「しまった」という後悔が滲む。同時に此処までか、とも。まだ諦めるわけには行かない、諦めてたまるか、そんな執念が俺を迫る魔物の牙と尾に持った針から身を守った。

 

 魔物の急襲を地面を転がるようにして避けて体勢を立て直す。もう身体中は深くは無いとはいえ傷だらけで、此処へ着てから余りにもイロイロと起こりすぎた所為で気力も体力も限界だった。そう認識してしまえばこそ、もうダメなのかもしれないという弱気に心が支配されかかったとき、ソレは現れた。

 

「あ、ヘルベル見っけ!」

 

 どこまでも気の抜けた明るい声を通り抜けると同時に現れたソイツは、仲間たちを次々と餌食にしてきた魔物の頭を素手で掴むと、目にも留まらぬ速させ身体が途中から双つに分かれた先にある、それぞれの尻尾を毒針ごと切り落とす。

 次いで、掴んでいた魔物の頭、顎の下に回していた親指の部分にチカラを込めたのか、クイッと捻り込むようにして魔物の頭部をグチャっというグロテスクな音ともに潰し、魔物からだの両端を持ち直して真っ直ぐに伸ばし、地に腰を下ろした。

 一体、何をしているのか、完全に背を向けられていることもあって俺には全く状況が掴めなかったが、1つ言えることは俺は助かったらしい。明らかに迎撃目的での行動にしては常軌を逸しているその行動も意味不明なものだったが、それよりも更におかしなことに、あれだけ騒がしかった密林は気が付けばこの目に背を向けて座る何者か(青年?)が現れた時からシンッと静まり返っていた。

 

「あ、失敗した・・・」

 

 時間にして僅か3分弱だろうか。緊張の度合いから無限にも感じるかのような体感時間は、突如、目の前の存在が発した意味不明な言葉によって解除され、同時に静まり返っていた世界が音を取り戻した瞬間だった。

 

 とはいえ、未だ此方に背を向けて「うー、食べれるかなぁ、でも毒抜き失敗したしなぁ」と云々と唸る全く謎の人間?が1人。明らかなに魔獣の類ではなく、俺たちと同じ人間の容姿をしているそれが「うん、仕方が無い、これは諦めよう」と口にしたのを耳が拾ったところでソイツは俺へと振り向き、開口一番、こう言った。

 

「というわけで、これ(ヘルベル)食うか?」

 

「食えるか!」

 

 先程、明らかに「毒抜きに失敗した」だの何だのと言っていたのに、それを何の躊躇も無く他人に勧めてくるセンスが理解できない。同時に、間髪いれずに反応した俺の言葉に舌打ちをして返すのも完全に俺という存在を小ばかにしているとしか思えない意味不明な行為そのものだった。

 

 その後、互いに様子を窺いながら次にソイツが発した言葉に俺はまた頭を抱えたくなった。

 

「爆発しろ!」

 

「お前が言うな!」

 

 もうコントみたいなノリで次から次へと訳の分からないことを言ってくる俺よりも背は若干高い少年の如き風貌をした男の起こす行動に、俺はただただ困惑するだけだった。

 

 いやまて、本当にコイツは、男なのか?

 

 ふと目の前の存在、その容姿をマジマジと見たことで唐突に思い浮かんだ疑問、だが、それを口に出したが最期、今度こそ俺は本当に死ぬという命の危機を感じた為に口を噤んだが、同時に感じる視線。それに感じた思惑は、まるで飢えた獣が獲物と定めた標的の様子を窺う際に向けるモノであり、そうと分かってしまったが故に背筋が僅かに震え、崩れそうになる上体を叱咤して奮い立たせる。そのまま永遠にも感じる時間が経過し、緊張感がピークに達しそうになった瞬間に目の前のそれは何を思ったのか、今度は唐突に自己紹介を始めやがったのだ! 

 

「俺の名は八尋(やひろ)、この世界には大分前に来て、ずーっとイロイロなところを観て回ってた。ところで、こんな無秩序が秩序みたいな場所にやってきたキミは誰?」

 

 もう、目の前に突如湧いて出てきた謎の存在、八尋と言ったか? が現れてから何度目になるかも分からない困惑の感情を抑え、平静を保ちながら俺も自己紹介を返すのだった。

 

「俺か? 俺の名前はドン。ドン=フリークスだ。メビウス湖の中にある人間界と呼ばれる場所から暗黒大陸って呼ばれているこの場所に冒険しに来た探険家だ!」

 

 この日、これが俺の暗黒大陸冒険にとって大きな転機となるのは、また少し後の話。

 

 とりあえず極度の緊張状態から解放され、積みあがった疲労も相まって「助かった」と一言漏らし、その場にへたり込んでしまったところを目の前のコイツに見られたのは生涯弄られるネタを提供してしまったかのような錯覚に陥り、もの凄い周知に駆られるのだった。




というわけで主人公とドンとの出会いの回をドン側の視点で即稿してみました。

ネテロ会長も、ゼノの父?とリンネと暗黒大陸に踏み入ったことが2度ほどある(おそらく、そのときも許可長の偉い人が付いていたのでしょう)ということで、ドンも当初は1人で探索という訳ではなかったのではないかと思ったためです。

ただし、この部分は完全に原作のジンの説明と矛盾するので、そこは相変わらずの独自設定、捏造ネタということで、余り気にされないようにしていただけたら、と。

本当は最新話として挟みたかったのですが、「閃き」のネタまで入れていくと本当に収集が付かなくなりそうだったので2話の余談として別に作成。

次は7話に入る前に「閃き」を忘れないうちに6話の余談、かな。
さて、どうしたものか。。

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