次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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ネタ帳に外枠だけ作って、公開するつもりは無かった。
でも、こんな稚作でも「おもしろいです」と評価を頂いたら、更新するかーっという気になり、今に至る。

設定の捏造楽しい。


021:不思議のダンジョンと険しい山脈

 暗黒大陸(メビウス湖の中心にあるという人間界から見て真東)には、"無限回廊山脈" と総称される不思議な場所がある。

 

 それは遠い昔に、この次元(せかい)とは別の次元(せかい)から来訪したであろう所為『()()()』と呼ばれる者達が残した異界常識による独自の文明が地下に向けて広大に広がり続ける場所とされる。およそ標高にして7~8,000メートル級の山脈の頂上に近い場所に入口があり、そこから、この次元(せかい)の中心に向けて何処までも深く深く無限に連なっていると体感できるほど入り組んだ構造が展開されている。それ故に半端な実力しか持たないものであれば入った瞬間から、その異界常識たる謎の構造、幾何学的な構造に惑わされ、閉じ込められ、その最期は内部に巣食う様々な生物たちによって捕食されるか、餓死に追い込まれるといった悪辣な内容だ。そこに足を踏み入れるたびに内部構造が大きく変化して見えることから、別名『不思議のダンジョン』とも表現されたりする。

 

 しかし、そのリスクに見合うだけの魅力として無限回廊山脈(この場所)にしかない動植物(たべもの)や貴金属、宝石の類を稀にだが見つけることができるという点が挙げられる。そういえば、地下深く(たぶん階層的にはB-40階前後だろうか? 体感でしかないが)で拾った、この()()()()()()も、その戦利品と呼べるものの1つだろう。ご主人曰く『この次元(ほし)由来のものじゃなさそうだな』ということだったので、何処とも知れぬ宙からの贈り物という意味を込めて『ブルー・プラネット』と私は呼ぶことにした。その拳大を遥かに超える大きな原石だ。

 

 ただ、私が今、ご主人から聞いていた説明に一番納得いかない不機嫌な理由が1つだけある。それは――

 

『地下深くのどこかにいるって聞いていた "デブのキンギョ" も "シワアセのタコ" も居なかったじゃないですか!?』

 

 ――ということである。

 

 どんな珍生物なのか非情に興味があったのに!!

 そう、ご主人や姫さんに意識下で猛烈に直談判していたのだが……

 

()が何を言っているのか分からないけど、そもそも論として無限回廊山脈(不思議のダンジョン)に、そんな珍生物がいるだなんて言った覚えないよ?』

 

 え? あ、あれ……?

 

 ご主人の「お前は一体何を言っているんだ?」とでも言いたげな不思議な表情で私を見つめる姿に戸惑いを憶えつつも、私は、それに納得せずに噛みついた。

 

『いいえ。確かに言いました!』

 

 それに対して、ご主人は相変わらずキョトンとした表情を浮かべていたが、それについて的確なフォローをしてくれたのは私たちの様子を肴に爆笑していた姫さんだった。笑い過ぎて目じりに浮かべた涙を白魚を思わせるような指先で拭いながら詳細について改めて説明してくれる。

 

『まぁ、落ち着け。間違いなく、地下10階にあったのは、この無限回廊山脈(不思議のダンジョン)の造り手と思われる異界からの来訪者(多足のモノ)が拵えた異文化財産を収める『()()()()』と呼ばれるものだったし、更に深い場所にあったのは、 "宙" との交信ができる(それを遺した地底人(多足のモノ)たちにとっては)『()()()()』と呼ばれるものではあったがな。まぁ、壊れていて碌に使えず、オルゴール代わりにしかならなかったのは残念だったが』

 

 その分かり易い話を聞いて私は、頭の中を真っ白にしながら口を開くことしかできなかった。なお、姫さんの言った『鉄の金庫』とは、その名前の由来とは違い実際に、この世にある "鉄" で作られたモノではない。『ブルー・プラネット』と同様、この次元(せかい)に由来する金属には当てはまらない材質ものモノだが、普通に見つけることのできる "鉄" とほぼ同質(それよりも少しだけ硬く、鋼よりも少しだけ靱性がある)というものなので、便宜上、その様に表現している。

 

『つまり、単なる私の聞き間違えだったんじゃないのってオチなんですが…………………』

 

『まぁ、そうなるよね。常識的に考えて』

 

 う、そ、そう言われると何だか、そんなような気もしてきました。あれ、一体、どこで勘違いしたんでしょう?

 え、でも、確かに "デブのキンギョ" と "シワアセのタコ" の話は聞いた覚えがあるんですが、あれ?

 

『おかしいな、一体、どこで勘違いしたんでしょう?』

 

『まぁ、そういうことも良くあるよね。良かったじゃん、誤解が解けて。というか、俺ならともかく、"()" で逢えないんだから、きっと、そんな不思議生物はいないと思うよ』

 

 そうカラカラと笑いながら私の頭をポンポンと撫でるご主人の姿に何も言い返せずに「ぐぬぬぬ」となるけれど、それはあとの祭り。でも、良いです、確かに聞き間違いの可能性が多分にあるとはいえ先の珍生物2種が見れなかったのは残念ではありますが、代わりに見つけることのできた『ブルー・プラネット』が手元に残るだけでも満足です。原石で、これくらいのサイズなら上手く研磨すれば大粒のモノが大体6,7個くらいになるでしょうか?

 

 ただ、それにも難点があるとすれば、この原石の研磨(カット)を依頼できる職人を見つけなくてはならないことですが………それは、これら逢うだろう方々にお任せしよう。それにしても、これが『食材』だったなら私一人でも何とかなるのですが、先は長そうです。まぁ、厳密には "()グルメ細胞の悪魔" である()()()に食べれないものなんてないので、これも広義には『食材』と言っても良いのですが……… うん、気にしないことにしよう。きっと、すごく、美味しいと思いますが、我慢の子、ですね。

 

 そういって意識を現実に戻し、周囲を見回してくれていたガス生命体ことアイちゃんにお礼を言って、楽しかった異界常識の総合商社とも言える無限回廊山脈(不思議のダンジョン)を後にする。ドンさんが此処に辿り着いたとき、内部に入ってから外に戻ってこれるかは謎だけれど、あの人の持っている最大のチカラは、おそらく本人も自覚してすらいないであろう "幸運" もしくは『()()()()()()()』という "運命力" にもありそうだから、無限回廊山脈(この場所)に潜ってから脱出するだけなら訳はないかもしれない。そうでなければ、ドン=フリークスという人間が窮地に陥った時に、()()傍を通りかかった私たちについても説明が出来ないし、ゾバエに罹患していながら、そこから見事に()()()()()という辻褄も逢わないからだ。その、おこぼれに肖る形で助かったのが、あの錬金植物(メタリオン)を育成できる技術を持った魔獣の集落にいたパワー氏だったのだろう。私たち風に言い換えれば『ドン=フリークスという人間は、()()()()()()()()()()()()()()()』といったところだろうか。

 

 ま、それはそれとして入る前の注意書きとして貼り紙代わりに、此処での注意書きくらいは壁へ刻んで置いてあげよう。それを見たあとでドンさんが、どのように対応するかは本人の自己責任でどうぞ、といった具合である。ついでに「デブのキンギョも、シワアセのタコもいなかった………」と。そこまで考えながら、私は私の頭の上にちょこんと乗ったままのアイちゃんに語るようにして次の目的地を呟いたのだった。

 

「さて、次は同じような古代遺跡の先に在る "エリ草" こと『万病に効く香草』でも採りに行きましょう。現状は、古代兵器(ブリオン)の頭部にある植生部分です。古代兵器(ブリオン)はタイプによって捕獲レベル差が大きく異なるので、最悪、ご主人たちにも手伝ってもらわなければなりませんね。私も気合を入れていかないと。あ、その前に『無尽石』に方が先ですね。山脈にいるのは "人飼いの獣" と揶揄される物騒な方々がいますが、その先にいる方型に『ブルー・プラネット』の研磨(カット)を依頼しなくてはいけないので」

 

「あい?」

 

 基本的に自分たちの塒から出ることの無いアイちゃんからは「私がまた変なことを言ってるなぁ」程度にしか認識していないだろうが、まぁ、それで良いのだ。どちらも守り手たる "古代兵器" や "人飼いの獣" が厄介ではありますが、ゾバエに比べたら、まだ組しやすいので何とかできますし。一方的に結んだ『契約』を破棄されたとはいえ、やはり、まだまだ日々どころか時短で様変わりしていくことの多い暗黒大陸(この場所)の事情には疎いままのドン=フリークスという人間へ最大限の助力を残すべきというのが私たちの総意だった。まぁ、私たちが通ったルートを必ずしもドンが通るとは限りませんが……… それはそれ、これはこれ、というやつでしょうね。それが一通り済んだら、いよいよ人間界を見ることになります。

 

 そして、私は心なしか気分を高揚させながら次の目的地を目指すのだった。

 

 

 * * *

 

 

 はっ はっ はっ ………。

 

 岩肌を剥き出しにしているのに人の背丈を優に超える樹木が乱雑に生い茂ることで視界が利かないところに、この山脈を狩場とする "人飼いの獣" と呼ばれる猿の仲間?のようなモノ達が繰り出してくる攻撃を避け、その中を息を切らせるようにして走る、駆ける、翔けて、跳ぶ。

 

 通り過ぎる道の脇に草木に隠れるようにして目につくのは、この険しい山脈を "人飼いの獣" と呼ばれるものたちが支配していることを知らずに通りかかっただけのものたちか、それとも、この山脈でしか取れないと言われる "場違いな工芸品" とも言い表すことのできる秘石を求めてきたもの達か、それとも先にいる職人に用があったもの達か。いずれにせよ、その身は既にカラカラに乾き、まるで木乃伊(ミイラ)の様な風体で打ち捨てられていた。

 

 その被害者たちに共通するのは、その独特の風体と、そうなるまでに至ったのであろうナニカを吸い出すように頭に開けられた穴。

 

「■■■■■■■!!」

 

 山脈の中を駆ける私の前に突如現れたのは、既に焦点の合っていない眼をカッと見開き、これまで見てきたものと同様に頭に管の様なものを突き刺された魔獣が一匹。それを一体何を瞳に映しているのか、どうして私に向かってくるのか分からないものの、その表情(カオ)は確かに嗤っていた。その口からは、だらしなく涎を垂らし撒き散らしながら私の方へ無防備に走り寄ってきたところをすれ違い様にノッキングして動きを止め、そして魔獣に刺さっていた管を切断する。仕掛けたノッキングは弱いものなので、ものの数分で解けるだろうが、あの様子だと、もう快楽物質漬けになって時間が経っているから、おそらく生存は絶望的だろう。

 

 もちろん、そんな状態でも私たちなら救えないことはないが、それを施している時間も余裕も無い。3人の中で一番弱いことを自覚している私には、今、他に構っている余裕は微塵も無いのだ。

 

「ごめんなさい。私は、まだ "人飼い" たちの餌になるわけには行かないので」

 

 故に、そう一言呟いて駆け抜けた先には、同様に狡猾な人飼い達の手に堕ちて恍惚とした表情を浮かべる複数の哀れな被害者(魔獣)たちが徒党を組むように押し寄せてきた。

 

「とはいえ、この程度であれば大した事は無いのですが」

 

 次々に現れる被害者たちにノッキングを施しては刺さっている管を切断するということを繰り返している内に、大分、山脈の深いところまでやってきていた。その先に見えた洞穴の奥に私たちの求める『無尽石』なる秘石の採掘場があるのだ。

 

「ト、オ、サヌ、!!」

 

 ズシンっとした地響きを立てながら周囲に飛ぶようにして降り立ったのは全身を迷彩模様にも似た毛に覆われた猿型の魔獣。要するに "人飼いの獣" と呼ばれる者たちだった。

 

「これは珍しい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のあなた方が人前に姿を現すなど。そう滅多に見れるものではないですね?」

 

「ダ、マ、レ、!!」

 

 片言の言語を手繰るは獲物に対し『命と快楽の等価交換』を強いるもの、"人飼いの獣 パプ" と呼ばれる類人猿型魔獣の一種だった。

 

 だが、私を取り囲むように現れたパプは多くの言葉を交わすことなく、私の前から迷彩柄の毛に覆われていた巨体を気配諸共消してみせた。

 

ものまね細胞(ミラーニューロン)ですか……… それに確か "絶" って言いましたっけ?

 ここまでの使い手は、暗黒大陸(この場所)でも、そうそういませんからね。素晴らしいことです」

 

(ですが、せめて、その僅かに臭う獣臭さと、1つ1つの動き(こうげき)によって発生する大気の僅かな揺らぎにも、もっと気を配るべきですね)

 

 見えない場所から仕掛けられる攻撃は、パプの持つ独特の獣臭さと僅かな大気の振動を以て全て見切り、息つく暇もなく行われる攻撃を避け続け、同時に、その先へ純粋な "殺意" を向けて威嚇する。食用にする獲物でもないので直接手を下すのも憚れることもあり威嚇のみに終始する。それでも手数はさして変わらない……… 

 

 ――ドサッ

 

 何かが崩れ落ちる反応に僅かに気をやった先にあったのは、私の放った "殺意" に耐えきれなかった個体が地に伏せるようにして倒れていることが確認できた。同時に崩れ落ちた個体が意識を無くしたことで透明になっていたチカラが解除されるが、それで全てではない。むしろ対応を誤ったと内心で舌を打った。

 

(拙った……… ノッキングするつもりでの "威嚇" だったのに、その威嚇による()()()()()()()()()()()()自らの意識を先に断たれるなんて………)

 

 倒れた個体を()()()()()()()()()()()で対応を誤ったと即座に断じた私の意識を次第に焦燥が支配していく。

 

(早く、この場を切り抜けないと……… 下手に()()()()()()()が増えてしまったのは、この場では悪手………)

 

 そう考える刹那の時を突くように私の背後から今まさに自らの意思で己の意識を断ちきり、私の威嚇ノッキングを回避してみせた個体(パプ)からの攻撃が飛んでくるのを感じた。それを私は私の持つ感覚に従い意識を傾け、そして視界の端に僅かに映った影から獲物となる対象の神経を支配する快楽物質を流し込む管のような器官の先端を避ける。

 

「くっ……… 復活が早すぎですよ………」

 

 視界による情報に囚われた所為で発生したコンマ数秒以下の(ロス)を今度はものまね細胞(ミラーニューロン)により広がる景色と完全に同化しつつ、"絶" と呼ばれている自らの気配を絶つ技術を併用した他の個体(パプ)からの攻撃に僅かに反応が遅れ管の先が肌を掠った。

 

「あぅぅ」

 

 痺れる。全身が脳天から爪先に至るまで強制的に悦ばされるような感覚に捕らわれる。拙い、と思いつつも、それに抗うだけの()がない。故に、このままでは私も哀れな獲物に1人に成り下がるだろう。ただし、それは、この場にいるのが『()()()()()()』という前置きが付くが。

 

「アイちゃん、()()()、この付近にいる私たち以外の全生物の()()()()()()!」

 

「あい!」

 

 同時に周囲一帯、この山脈の頂上と中腹を結ぶ間の場所から、その裾野付近に掛けて凄まじい衝撃(体感的なもので、実際には害など殆どないものだが)が辺り一帯を覆うように走り抜けた。そのイメージとしては生物の本能に呼びかける圧倒的な恐怖を齎す()()()()()()()()()()()()()()が、こちらを睥睨し、私たちに向かってくるような感じと言えば良いのだろうか。それにより透明だった個体、私の威嚇に対応して "擬死" をしていた個体、行っていた "擬死" から即座に復活して私へ攻撃の手を向けていた個体、その全てが等しく、その生存本能に従って意識を失うことも出来ずに、その場に縫いとめられるように固められていた。

 

 それは、今、私が行っていた威嚇ノッキングに含まれる重圧を数十倍か、数百倍も濃くすれば、似たようなことが出来るだろうとでも言えば妥当な表現になるだろう。ちょっと自信を無くしそうですが、それを起こす対価も、また膨大であることを考えると割に合っているとは言い難いのが自尊心を保つ精一杯の方法だった。まぁ、()()()()()()()()()()()()()ので、その分、安く済むとは思いますけどね。あ、そう考えたら、やっぱり今、私が頑張ってた行いって………Orz

 

 そう内心で凹みながら周りの生物全ての強烈なノッキングが施されているのを良いことに、私は、八尋(ご主人)が体得しているからこそ使える技術 "猿舞" を用いて体内に入ったパプの快楽物質を全て体外へ押し流すように努めるのだった。あ、ちょっとお花を摘みに行ってきますね。

 

 

 * * *

 

 

『アハハハハ、ハーハッハッハッハ』

 

『ちょっと、姫さん笑い過ぎ! そんなに大声で笑ったら()が可哀想じゃないか!!』

 

 俺は、俺の代わりに外で自由に活動させて、この次元(せかい)を満喫させている "私" が、この地域にある水に沈めるだけで発電するという不思議石こと『無尽石』の収集に向けて連れて歩いている愛玩動物的役割を果たすガス生命体と、この地域の()()たる "人飼いの獣" と奮闘している様子を "姫さん" と一緒に意識下で観戦していた。しかし、その頑張りに対して不覚を取りそうになった "私" が無事に難を凌ぎ切ったところで唐突に "姫さん" が声を上げて笑いはじめたものだから、それを窘める。

 

『これが笑わずにいられるか。今は、この "私" も、本体である "八尋(おまえ)" も共に外へ出て活動しているわけではない、つまり "八尋(あやつ)" は、自身のチカラを100%十全に揮えるのに、かような人飼いごときに後れを取りそうになるなど三文芝居にも劣るのだぞ?』

 

『いや、彼女は、俺たちと違って "戦闘を嗜む者" ではないからね?

 姫さんだって料理しろって素材の山を渡されたら、料理なんかせず、レシピそっちのけで生食に走るでしょ!?(まぁ、必要なら最低限の毒抜きくらいは必要があればするだろうけど)』

 

『…………………………………すまぬ』

 

 そういうと、ものの見事に図星を突くカタチになったのか、完全に沈黙して姫さんは押し黙り、ポツリと謝罪の言葉を口にした。うん、分かればよろしい。

 

『とはいえ、なんで()()()()()のかは俺にも判断できないけれどね。もともと、そういう気質はあったけれど、どういうつもりだろう。まさか、これから来るアイツ向けに間引くことも躊躇ったのかな?』

 

『それこそ、まさか、であろう。私自身もそうであるが、今、表に出ているのは八尋(おまえ)の異なる側面でしかない。その "私" は、たしかに()()()()()()()()()()が、それと()()()()()()()ことには繋がらん。まぁ、何か考えあっての事であるだろうし、今は好きにさせる良いのではないか?』

 

 本来、元の "グルメ細胞の悪魔" とは、その本質は完全に異なって、俺の裡に在るヒトたち。もちろん、"グルメ細胞の悪魔" としての彼女たちも俺の中に確かに息づいてはいるが、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。それは、この次元(せかい)に来るよりも更に幾つか前の次元(せかい)を巡っている時に揃えた俺自身が選りすぐったフルコースを既に食していたが故。そして、その後に『星のフルコース』と呼ばれる8つの食材を食べ、彼女たちが自らの消失(厳密には違うが)を選択し、俺を生かしたが故に完全に俺自身と同化してしまったのだから。

 

 だから、こうして一緒に居られるのは、もっと別の次元(せかい)を巡っている時に出逢った、やたらとノリの良い刀匠?の御業を応用し、その刀匠自身が培ってきた技術、和尚と呼ばれていたひとの知恵など借りて作り上げた■■■(カタナ状のナニカ)を俺が帯びているからに他ならない。まぁ、その■■■(カタナ状のナニカ)それ自体の存在について、より厳密な言い方をするなら普段は何処でも便利な収納鞄(トラベル・バッグ)に厳重に保管されているというべきだが。

 

 その甲斐もあって、新しいカタチで再開が叶うことになったヒトたちの存在に俺は救われている。だから、そのヒトたちには出来る限り人目の無いところであれば自由にさせようと思っているのだ。まぁ、恩返しの様なものである。寝てばかりで一向に起きようとしないこともあるので、そういうのは放っておいたり、出したが最後、無茶ばかりするようなのは基本勝手にはさせないが。その点、"私" は、そうあれかしと俺自身が願って誕生してくれてだけあって、たぶん俺以上に常識人だったりもする……… はずだ……… たぶん、きっと………。

 

 と、そんな会話をしている間に体内に入ったパプの毒を排出し終えたらしい "私" が再び行動を開始した。あ、珍しいことに何を思いついたのか凄く悪い表情(イイかお)を浮かべてる……… と思ったが、それについては特に言及せずに何をするのかと見守ることにした。

 

 

 * * *

 

 

 アイちゃんが、私の "お願い" に応える形で喚んでくれたらしい()()()()()()()()()()()()()()が、この険しい山脈を越えて彼方へ消えたことを確認して私たちは再び行動を再開した。それにしても使っちゃいましたね『お願い』、今のアイちゃんは()()()()()()()()()()()()()()ことと、叶えてもらった内容が重いものではないので、今後、求められるかもしれない対価については然程気にしていないのですが、とりあえず今の内から出来ることは準備しておくべきですねと肚を括る。まぁ、それはそれとして………

 

「とりあえず、あなた方の唾液?を貰っていきますね!」

 

「ナ、ナ、ナニ、ヲ……… グェグェグェ」

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

 

 ・

 

「次は、あなたから貰いますね?」

 

「ヤ、ヤメ、ロォォォ………」

 

「別に命を貰おうとは思っていませんし、これくらい耐えてくださいよ。普段のあなた達が行っている生態活動と比べたら、これくらい大したことじゃないじゃないですか、ね?」

 

「ヤ、ヤ、ヤロォ……… グェグェグェ」

 

 そういって私は、この場に集まっていた "人飼いの獣" たちの持つ僅かに触れるだけで対象を快楽の淵へ落としてしまう謎の物質、有体に言えば媚薬とも麻薬とも言えるソレを大量に瓶詰にしたのだった。

 

「ふぅ。やりきった!」

 

「あーぅ」

 

 辺りに転がるは死屍累々、屍山血河に沈む "人飼いの獣" たち……… ではなく、完全に私に体内で生成できる快楽物質(唾液?)を半ば強制的に抜かれて気を失い身体をピクピクと痙攣させている "人飼いの獣" たちだった。

 

「ご主人や、姫さんならきっと僅かな隙も作らず、排出すらせずに体内に入ったものを解毒してしまうんでしょうけど、なんで同じ身体を使わせてもらっているはずなのに、()()()は上手くいかないのか不思議ですね。本当に、なんで私だけ、こうも中途半端なんでしょうか?」

 

「あい?」

 

 私の弱音とも言い表せそうな独り言に首でも傾げるかのように反応するアイちゃんだけが唯一の和みであると感じながら、私は、改めてゆるりと山脈を闊歩するのだった。パプたちに施されていたノッキングですか? もちろん全部解除しましたよ、たくさん採取させてもらった快楽物質を頂く対価の様なものです。まぁ、そのまま他の生物たちの餌食にされてしまうよりは良いでしょう、ここの生態系を守るためにも必要なことですし。

 

 それはともかく、そろそろ出てきてくれると思うんですけどね。この場所の本当の守主が……… などと考えていると強烈な殺気ともいえそうで、しかし、そこには害意を一切感じない威圧感が私たちへ降り注ぎ、意識を失っていたはずのパプたちも動けるものは全員が平伏するように姿勢を正していた。

 

「ぁぅ………」

 

「大丈夫ですよ、アイちゃん。この方は、私たちの味方ではありませんが、敵でもありません。言わば、通商交渉の相手になる方ですね」

 

 暗黒大陸において一部地域を塒にして勢力を保持するガス生命体に対して恐怖を懐かせるような存在についての説明を簡単に行い、彼女?の緊張を解きながら、その間に考えていたことといえば、このガス生命体ことアイちゃんって性別があるとすれば女性なんでしょうか? という随分と今更な場違いなことだった。

 

なんじゃあ とんでもねー 気配がしたー思って 久々に工房から飛び出てみりゃー あんたらかー。久しいのー

 

「はい。ご無沙汰してました。ヴェルクさん!」

 

 その気配の持ち主にして常人では聞き取れないほど小さい、けれど随分と間延びした声で挨拶をしてきたのは、この険しい山脈にある『無尽石』の採掘を一手に取り仕切る一族の長、山脈の本当の守護するものである逞しい髭を蓄えた(見た目は完全にドワーフの)ヴェルクと名乗る大柄の魔獣(?)だった。石の採掘以外には研ぎなども行っているので、これから『ブルー・プラネット』を原石から宝石へ研磨して貰おうと固く誓うのだった。

 

 

 * * *

 

 

 ――その頃 暗黒大陸にある無限回廊山脈(不思議のダンジョン)内、地下にて

 

「い、いるじゃねえか……… デブのキンギョ!!」

 

 暗黒大陸の真東にある無限回廊山脈に到達し、入口付近に残された謎のメッセージに首を傾げつつも、それを頼りに「暫くは此処で経験値稼ぎでもするか」と意気揚々とダンジョンの中を探索していたらしい探検家は、よく分からない言葉を呟いていたとか。

 

「こりゃあ、きっと、もっと深い場所にいると考えた方が良いんだろうな。シワアセのタコ………」

 

 それは果たして、彼が彼女に別れ際で分け与えて貰った "食運(グルメ・ラック)" の一部があったからこそ起きた奇跡なのか、それとも彼自身が持つ "天運" ともいえる何かが起こした奇跡なのか、それは誰にも判らない。だが彼女が、その呟きを聞いたのなら、きっとこういうだろう。

 

「ドンさんだけ "デブのキンギョ" 見れるなんてズルい! 私も、是非、食べたかった(見たかった)のに!!」っと。

 

 いや、喰うなよ………




あと、今回のサブタイトルと、デブのキンギョ(B-10)、シワアセのタコ(B-27)で元ネタが分かった方は自慢して良いと思う(たぶん、きっと)

ちなみに無限回廊山脈と異界からの来訪者(多足のもの)にも元ネタがあります。楽しいよね、TRPG。

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