次元跳躍者の往く、異世界放浪奇譚   作:冷やかし中華

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 いろいろ考えた結果、こんなオチになりました。
 あと更新が遅れたのは、ひっそりと更新している原作沿いと、新しく始めたFate/関連の投稿の方が強かった所為。

 そちらには、八尋の設定というか次元跳躍者の元ネタを多くだそうかなと考えつつも、時系列がひっちゃかめっちゃかなので一覧と検索からは外しっぱなしです……

 なので、見てやっても良いかな、という方は活動報告からどうぞ(番宣)


020:それぞれの道

 集落にいる若い魔獣に先導されて、ドンが寝ていた場所へ足を運ぶ。そこで外傷もなく、()()()()()()()何事も無い目覚めをしているようにしか見えない青年然とした男へ声を掛けて、俺は、この世の不条理を嘆くことになった。

 

「お前、誰だ?」

 

 寝覚めの挨拶に対して返されたのは、疑問。希望を騙る底なしの絶望(不死の病、ゾバエ)から治療という名の荒々しい方法を以て無事に生還した10年に近い月日を過ごしたドン=フリークス(人間)から開口一番、そう言われた時に俺は足元から崩れ落ちそうになる感覚と俺ではない裡に在る者達の抱く底知れぬ怒気ともとれる感情(モノ)を僅かでも表に出さないように必死だった。

 

 あの荒療治(方法)を選んだ時点で、こういう未来も可能性としては頭の中にあった。それしかゾバエに侵されつつあったドン=フリークスという人間と狒々の姿を持った魔獣を救う方法が無いということも。

 

「え? 冗談だよね?」

 

 俺は努めて明るく、そうドン=フリークスへ聞いた。だが――

 

「いや、わりぃが全然、分からねえ………すまん」

 

 ――現実は、どこまでも非情だった。

 

 嘘だ……… 嘘だ……… 嘘だ… 嘘だ… 嘘だ… え、おい、ウソ、だろう………?

 

 周りの魔獣たちの様子をそれとなく伺うもののドッキリという訳でも何でもない、皆、一様に沈痛な面持ちで目を伏せたり、天を仰いだりしている。どうやら忘れさられているのは俺だけではないらしい。

 

「1つ、1つだけ確認させてほしい。キミの名前はドン=フリークス、暗黒大陸(この場所)には旅をした冒険譚を書きに人間界(遠いところ)からやってきた、という理解で良かったかな?」

 

 その俺の問いに僅かに顔を顰め、額に手を当てて考え込む姿が痛ましかった。そして、男は、ドン=フリークスは言った。

 

「………たぶん、そうだと思う。だけど、大事なナニカが思い出せねえ。すまん」

 

「そっか……… うん。それじゃあ、仕方がない。とりあえず、今日のところは休んだ方が良いんじゃないかな?

 まだ目覚めてからそう時間も経っていないのだろう?

 落ち着いたら、何か思い出すこともあるかもしれないしさ」

 

 俺は、そう答えてドンの反応の一切を伺わずに外へ出た。あのバカ野郎がッ!!

 

 そう悪態をついて俺は "漆黒の樹海" と呼ばれるゾバエの支配する領域へ足を踏み入れ、ハードラワンの生態系を崩さない程度には気を払いながらも、その鬱憤を世界に向けて叩きつけたのだった。

 

 

 * * *

 

 

 解っていた事だが、ドン=フリークスという人間が目が醒めてから1週間、その間に()()()()()()()()というのが戻ることは無かった。()()()()()()()()()の間違いであるような気がしないでもないが、それについては今は置いておこう。深くは追及していないし、する意味もなかったからだ。

 

「というわけで、今いるのが、この辺り。ここから東の方へ進むと獣争地帯という巨大な獣たちが日々縄張り争いを繰り広げている広大な平野に出る。メビウス湖(沿岸部)に近いところにガス生命体、アイ(コイツ)の住む巣穴が合って、そこの塒を潜った深部にドンたちを助けるのに大活躍した『全ての液体の源になる得る液体、三原水』がある。

 またアイたちの住む塒付近を通らず、獣争地帯を内陸部の方へ足を向ければ、次第に獣の数は減るけど、その分、凶悪さが増す。たぶん()()ドン程度じゃ近づかない方が良い。それは、ここから更に西側も一緒だね」

 

 そんな、これまでの経緯を踏まえたドンと初めて会ってからの10年程度の年月にあったこと、まだ教えてなかったことなどを予備知識として授け、これまでにドン自身がメモしていた『(仮)新大陸紀行』の草稿も手渡して必要なことは全て書き留めさせる。

 

 俺が今していることは、これから()()暗黒大陸(この場所)を巡っていくことになる男への餞別だった。口惜しいとは思う、一緒に回れないことが、とても残念だとも。けれど、これは()()()()()()()()()()()()()()()()だった故に、俺は、その決定に対して一切の口を挟まなかった。

 

「一旦、休憩にしよっか?」

 

「そうだな、ちょっと頭がパンクしそうだ。整理させてもらっていいか?」

 

「当然。無理に詰め込むより時間を掛けてでも暗黒大陸(この場所)について理解を深めないと、あっさりと死ぬことになるよ?

 そう、あっさりと、ね………」

 

 俺の言葉にドンは息を呑み、しばらくの間を置いてから新しい要望と共に俺の忠告に対する回答を出した。

 

「………それは、こえーな。んじゃ、ちょっと整理してみるわ、それが終わったら少し組手に付き合ってくれよ。座学ばかりだと腕が鈍っちまう」

 

 そのドンらしい要望に「良いよ」と返事して俺は部屋から出る。そのタイミングで裡側から声が聞こえた。

 

『良かったのですか………?』

 

『うん?

 うん。これで良いじゃないかな。何を考えてこんな結論に至ったのかは知らないけど、これはアイツが決めたことだ。俺は、それを尊重するよ』

 

『ほう、それは随分と殊勝なことだな。だが遠い昔に自らを偽れないような嘘を吐くなと言われたことがなかったか?』

 

『………さぁ、覚えてないね』

 

『そうか……… ならば好きにするが良い。これは八尋、お前自身の問題だ』

 

 姫さんから告げられた言葉に俺は黙って頷き意識を戻す。見上げた空には雲一つない青空が広がっていた。

 

 

 * * *

 

 

 それから、更に3ヶ月。その間、何度も()()()()()だなぁと思いながらドンの茶番に付き合いながら、暗黒大陸に関する情報の共有と手合せを繰り返した。途中で何に我慢できなくなったのかは知らないが、姫さんが『八尋では埒が明かぬな。私がやろう』と物騒なことを言いながら外へ出てドンをブチのめしたり、もう1人の()が外へ出て世話になっている集落に住む魔獣たちに手料理を振る舞ったり、錬金植物(メタリオン)から様々な金属を採って加工を経験してみたり、とにかくイロイロなことを思い思いにやって過ごしていた。

 

 だが、そんな時間も何れ終わりが来る。いつまでも立ち止まってはいられないのだ。俺も、ドンも。

 

「それじゃ、お世話になりました!」

 

 そう元気よく返事をしたのは俺の代わりに外へ出ている、もう1人の()だ。俺は、それを意識の底で見ながら不貞腐れ気味に姫さんと手合せを繰り返している。

 

『女々しいな。そんなことだから放っておけんのだ』

 

『煩いよ!』

 

 姫さんの爪を躱し、苛立ちながらも叩き込もうとした拳を難なく避けられたところに合わせてエーテルを編み上げた魔力砲を放つ。それも姫さんの作り出した壁の様なもの?に防がれる。

 

 とはいえ、これ自体は俺の意識下で行われているやりとりなので現実に周りには影響など出ない。もちろん魔力(マナ)だって消費しないので本当に問題などないが、それでも強いて挙げるとすれば、この唐突に始まった意識下での模擬戦というには余りにも余りなやり取りに()は気が気でないだろうなと苦笑を浮かべながら俺は姫さんとの熱の入ったやりとりを楽しむことにした。後悔など、してやるものか。

 

 

 * * *

 

 

「なんか胃の辺りが、痛いです……」

 

「だ、大丈夫か?」

 

「はい。ちょっともう一人の私(ご主人)と姫さんが裡側でヒートアップしているだけなので。それ以外は特に問題ないです」

 

「そうか、それは災難だな……」

 

 そう言ったドン=フリークスという霊長(ヒト)を張り倒したくなった()は絶対に悪くない。誰の所為で、こんなことになっているのか分かっていない辺りが無性に腹が立って仕方が無かったからだ。否、妙に勘の鋭い霊長(ヒト)のことだ、もしかしたら感付いていているかもしれない。唯、感付いた上でなお自らの行いを撤回するつもりもなさそうなので、どちらにしても変わりなどなかった。

 

「これが、"苛立ち" という感覚なんでしょうか……」

 

「ん? 今、何か言ったか?」

 

 私の小言が聞こえたのか、先を行くドンが反応する。それに何でもないと答えて、この "漆黒の樹海" を抜けるべく身に纏うようにゾバエ避けの香を、遠く離れたところにはゾバエ寄せの香をそれぞれ漂わせるように投けて樹海の外、もう何百年も見ていないかのような錯覚を受ける巨大湖(メビウス)を目指して直走った。この調子なら1日と掛からずに樹海は抜けられるだろう。それで全てが終わるなら、そうした方が良い。私は、これ以上、傷つきたくは無いのだから。

 

 だが、どうやらそうも言ってられないようだ。何を思ったのか、先を進むドンが一際大きく育ったハードラワンの頂上を目指し駆けあがったので私は、それに追随する。そして人ひとり寝るには丁度良さそうな太さの枝まで辿り着くとドンは言った。

 

「今日は、この辺にしとくか?」

 

「はい? どうしてです? あと200kmも無いですよね?」

 

「まぁ、そうなんだがな。お前、いや、アンタ? えっと名前は無いんだっけか?」

 

「えぇ。特に他人に名乗る呼び名は無いので私の事も『八尋』と呼んでくれて構いませんよ」

 

「そうか。じゃあ、今の八尋は他の2人とどう違うんだ?

 せっかくの機会だしよ。今さら急ぐ旅でもねえから別れる前に聞いておきたいと思ったのが立ち止った理由だな」

 

 そう聞いてきたドンに顰め顔を返しつつも、気に食わないからという私の勝手な思いで此処に1人放置して先を進むわけにも行かない。なので私は、私の聞きたかったことも確認するために敢えて話に乗ることにした。

 

「『()()()()()』ということは最初から、そういうつもりだったという理解で合ってますか?」

 

「そうだな。あぁ、それで間違ってねえよ」

 

「それが、もう一人の私を傷つけることだとしても?」

 

「そうだ。俺は八尋を傷つけることになったとしても、俺が俺である為に、俺が目指すべき頂きを、叶えたい願い(ユメ)を叶える為に、八尋とは袂を分かつ決意をしたんだ」

 

 その言葉に私は笑みを浮かべて頷いた。

 

「そうですか。ドンさんの目指すべき頂きというもの、叶えたいユメというものが何かまでは測りかねますが…… まぁ、そうであるなら、あんな茶番など態々しなくても良かったですのに」

 

 そういうと悪戯のバレた子供のように、そっぽを向いて僅かに顔を赤らめるドン。そして、そのすぐ後に「そうだよ、そうだよ。悪かったな」と開き直ったかのように言い切った。

 

 最初から、そういえば誰も傷つきはしなかったでしょうね…… まぁ、私自身(ご主人)は今と大して変わらないかもしれませんが、それでも受け止め方は180度違ったものになったのは間違いない。

 

 とはいえ、ある意味でドン=フリークスという霊長(ヒト)が、その姿勢を崩さずに決めたこと一貫しているというのは、ある意味で良かったのかもしれない。万が一にも、こんな中途半端なところで、この茶番を唐突に止めたとしたら、その後が酷いことになるなど今までの経験上、火を見るよりも明らかだったからだ。

 

『一度決めたなら最期の時までやり遂げる。』

 

 それが私たちの基本的なスタンスですからね。そういってゾバエ避けの香を振り撒きつつ、この日のハードラワンの巨木の頂上付近に寝床を確保して私は目を閉じた。本来であれば睡眠すら必要ない身ではあるが、気持ちの問題というやつだろう。この数か月、本当にイロイロあった。この数年、この世界で初めてであった人間から様々な情報を得た。ドン=フリークス自ら『契約』を破棄したとはいえ、今しばらくは暗黒大陸(こちら側)に留まることになるだろう。いや、もう一人の俺(ご主人)のことだ、そんなものは彼方へ放り投げて人間界というところを見に行くかもしれない。どうなるかは分からないが私は流れるままに身を任せようと意識を手放す直前に思いついたことを実行する。完全に独断ではあるが、きっと、ご主人にも姫さんにも文句は言われないだろう。

 

「そうだ、ドンさん。これ渡しておくので無くさないでくださいね?」

 

「なんだこれ?」

 

 投げ渡した手のひらサイズの小さな袋をキャッチしたドンは、それを陽が沈みはじめ暗くなる視界を物ともせずに受け取ったものをしげしげと見つめ、手渡したものについて確認する。

 

「お守りです。貴方が困った時に、きっと1回だけなら役に立つと思います。だから無くさないでくださいね?」

 

 私には所謂 "魔術" のようなものは使えないが、それに代わって有り余るチカラを自在に扱うことができる。一度に使える量には限りがあるし、使い切ってしまうと暫くは充電期間が必要になること。この世界だと、それがどれくらいの期間、必要になるか分からないというのがネックなのだが。まぁ、別に問題ないだろう。私はともかく、あの2人がどうにかなるとは思えないのだし。

 

 そう割り切って私は、ドン=フリークスという人間に、この世界で作成した命球(偽)(ライフ)を手渡したのだった。かつて廻った世界で作成したものと比べると、その効用は落ちるかもしれないが持っていても損は無い、というやつだ。

 

 

 * * *

 

 

 夜が明け前に起床し、出発の身支度を整える。ドン=フリークスを叩き起こして地平線の彼方から顔を出し始めた陽に向かって漆黒の樹海を翔る。出口に至るまでの道中で何枚かの若葉や果実、花のつぼみなどを鞄に詰めて――駆ける、駈ける、跳ぶ。

 

「ちょっと、早すぎだろ!」

 

「これくらいでへこたれていたら、この先、1人では暗黒大陸(こちら側)を巡るなんて夢のまた夢ですよ?」

 

「わかってるよ! って、危ないなっと!」

 

 私たちを外へは出すまいと迫ってくるゾバエに罹患し、亡者となったものたちの追撃を振り切り、時に反撃して撃退する。1つ1つの技の破壊力や、速度は私たちには劣るものの、その分、正確性は群を抜いており、八尋(ご主人)の施した治療によって彼の中の何かが目覚めているのかもしれないという錯覚すら覚える。

 

(元々、そういう『才』が眠っていたのか、それとも治療による後発的なものなのか…… 否、きっと、両方か)

 

 目覚めの切っ掛けがゾバエに罹患したことによる治療であることは間違いないだろうが、きっと初めから()()()()()のだろう。それが治療という強引な手段を経たことで目覚め、今、この瞬間にも時を追うごとに慣れ親しんでいくようにドン=フリークスという霊長(ヒト)は、その在り方を大きく変えていた。端的に言うと強くなっているということだが、それは腕っぷしということのみに限らない。

 

「世界が止まって見えるぞ。なんだ、これ?」

 

 そう呟きながら迫る亡者たちを正確無比なエネルギーで急所を打ち抜き、動きを止めていくドン。それについて私は最後になるかもしれない講義をすることにした。

 

「私たちは、それを "猿舞" と呼んでいます。先のニトロ米を栽培している魔獣たちの一族も似たような技術を使っていたのを憶えていますか?

 たしか、八尋(ご主人)からも1度だけ本気で殺気を浴びせられたときに似たような感覚を覚えていたかと思いますけど……?」

 

 そういうとドンは「あったな、そんなこと」とでも言いたげな表情を作り、何かを思い出したのか懐かしむような笑みを浮かべた。その表情は、どことなく寂しそうでもある。私は、それらについて追及はしないと決めているので無視して話を続けた。

 

「この "猿舞" と私たちが呼んでいる技術は、前も説明があったかもしれませんが、一個の生命が持つ細胞の1つ1つの意識統一にあります。細胞の意識を統一して、あらゆる事象に対して受け流しのチカラを発揮させる。これが行えると極端な話、超強力な重力ですら受け流せるようになりますし、ごく少数の意識に合わせることで空も飛べるようになったりするヒトも過去にはいたそうです」

 

 まぁ、アレを "猿舞" と応用と呼んでよいのかは異論がありそうですが、似たようなものと言えば、似たようなものですかね。そう考えながら私も、私に迫ってくる亡者たちを寸刻みに解体し、その返り血が飛んでくるよりも早く、その場を駆け去る。気づけば、いつしか "漆黒の樹海" と呼ばれる森の外まで辿り着いていた。

 

「では、私たちはこれで。ドンさんも道中お気をつけて」

 

 そういってペコリと頭を下げ、その場から立ち去ろうとした時に腕を取られた。

 

「? どうしました?」

 

「いや、なんでもねえよ」

 

 ―?―

 

 一体、何なんだろう? まさか自分が決めたことに後悔してるとか? それだけは本気で止めてほしい。下手を踏めば、それで次元(せかい)が割れるなんてことにもなりかねないのだから……

 

 などと考えつつも。掴まれたままの腕は放してもらえず、どうしたものかと考えていると。暫くの間、押し黙っていたドン=フリークスが声を上げた。

 

「また、逢えるか?」

 

「分かりません。それは、貴方次第じゃないでしょうか?

 独りで暗黒大陸(この場所)を最低でも沿岸部だけでも全周するのでしょう? その間に、どんな災難があるのか、私たちは知っていますが、それに貴方が耐えきれるのかまでは分かりません。

 ただ、少なくともドンさん独りで東側をくまなく探検してすらいないのに西側を周るというのは無謀だから止めておいた方が良いかなとは思いますが……」

 

「そっか…… じゃあ、あと200年待っててくれ。とりあえず東側を全部回ったら予定通り本を出すからよ。

 それを見て楽しんでくれたら、また一緒に旅をしようと八尋たちにも伝えてくれや」

 

 ―それじゃあな!―

 

 そう朗らかに、まるで遅刻してきたことを詫びるような気軽さでドン=フリークスは去って行った。

 

「あの言い方は、ちょっと狡くないですか?」

 

「あい!」

 

 私の誰に対してでもない愚痴に頭にちょこんと乗ったままだったアイちゃんが応えてくれた。そういえば、この子、いつか塒へ帰るなんて言っていた気がするけど、どうするつもりなんだろう?

 

 私は、また降ってわいた新しい疑問に首を傾けながら「まぁ、貴女が返りたくなったら、いつでも言ってくださいね? ちゃんと塒まで送り届けますから!」そう声にすると「あい! あい!!」と何だか嬉しさを表現するような音で答えてくれた。

 

「それにしても、まーだ、あの2人は戦ってるんですか…… もういい加減にすればいいのに……」

 

 そう私は誰に対してでもなく呟き、そういえば、この湖の中心にドン=フリークスたち、この次元(せかい)に住む人間達の栄える世界があるんだよなぁと、途中で破棄された『契約』という縛りも無くなったのだから、いっその事、向かってみるかと一考を巡らせるのだった。

 

「その前に、メビウス湖の東側にある無限回廊山脈を見てみますか?

 そこは貴女達ガス生命体と似たような種族が造ったという、入るたびに、その形を変えるという不可思議なダンジョンがあるらしいですよ?」

 

「あい? あい! あい!!」

 

 当初は「本当か?」とでも言いたげな疑問附が付くような声を上げたガス生命体が、やがて「行こう! 今すぐ行こう!!」とでもいう様に声?を弾ませたのを聞き届けて私は、私で、そちらに足を向けるのだった。

 

「私も八尋(ご主人)から聞いただけで実際は言ったことは無いのですが、なんでも地下10階?には "デブのキンギョ" がいるらしいです」

 

「あ…… あい?」

 

「それよりも更に深く、地下27階には、"シワアセのタコ" がいるんだとか! どうです? 考えただけでワクワクしてきませんか!?」

 

「あー…… あぅ??」

 

 私が聞きかじっただけの知識をノリノリで話しては見たものの、頭の上に乗るガス生命体の反応はイマイチ。うーん、何がいけなかったのでしょうか? おかしいですねぇ?

 

 そう思いながら私は今度こそ次の目的に向かって突き進むのだった。

 


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